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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 5 「昨夜、きみのご友人を見かけた」 と、ガリアーナ大尉がシャープに言いました。 「俺の友人?」 「バチカのダンス・パーティーで」 「ああ、カテリーナか」 と、シャープは言いました。カテリーナは貸し馬車に乗り、金でいっぱいの鞄を持ってカディスに帰ったのでした。 「彼女が未亡人だと、きみは言っていなかったな。セニョリータと呼んでいたじゃないか」 と、ガリアーナはなじるように言いました。 シャープは目を見張りました。 「未亡人?」 「彼女は喪服を着て、黒いベールで顔を覆っていた」 と、ガリアーナは言いました。 「だからもちろんダンスには加わらなかった。ただ見ていた」 ガリアーナとシャープは、カディス湾の板でできた突堤の上にいました。 北風は塩田につながれた囚人船からの悪臭を運んできていました。警備艇が2艘、廃船の脇をゆっくりと漕ぎ進んでいました。 「彼女は踊らなかったって?」 と、シャープは尋ねました。 「未亡人だからな。早すぎるんだ。夫を亡くして3ヶ月だと彼女は言っていた」 と、ガリアーナは言葉を切りました。そして、海岸線で馬を走らせていたカテリーナは、服装も態度も家族を失ったばかりのようには見えなかったことを思い出していました。しかし彼は、そのことについては何も言わないことに決めたようでした。 「彼女は私にとても感じよく接してくれた」 と、彼は代わりに言いました。 「私は彼女が好きだな」 「彼女は人好きがするからな」 と、シャープは言いました。 「きみのところの准将もいたよ」 と、ガリアーナは言いました。 「ムーンか?うちの准将じゃない。それにあいつはダンスはまだできないと思っていた」 「松葉杖をついていたよ」 と、ガリアーナは言いました。 「それで、彼は私に命令をよこした」 「あんたに?彼はあんたに命令することなんかできないはずだぞ!」 シャープは石を水に投げ込みました。波を切ってバウンドさせたいと思ったのですが、すぐに沈んでしまいました。 「やつに地獄に行ってそこにずっといてくれと言っておいてほしかったな」 「命令というのは」 と、ガリアーナはユニフォームのポケットから1枚の紙を取り出し、シャープに渡しました。驚いたことに、その命令の宛名はシャープになっていました。 紙はダンス・カードで、文字は鉛筆でいい加減に殴り書きしてありました。 シャープ大尉とその指揮下にある兵士たちは、次の命令もしくはグレアム中将がイスラ・デ・レオンに無事帰還するまでリオ・サンクティ・ペトリに駐留すること。 シャープはその走り書きを二度読み返しました。 「ムーン准将が俺に命令をする権利があるのかわからない」 と、彼は言いました。 「しかし命令は命令だ。そしてもちろん、私も同行する」 ガリアーナ大尉は言いました。シャープはダンス・カードを彼に返し、何も言わずに二つ目の石を投げましたが、それは1回撥ねただけで草地に消えました。 優秀な砲兵は、砲弾の効果を上げるためにバウンドさせるやり方を心得ています。砲弾は地面をかすり、砂煙を上げ、そして勢いをつけて転がって流血を拡大する。 「警戒中なんだ」 と、ガリアーナはカードを折りたたみながら言いました。 「何に対して?」 ガリアーナは医師を選び、勢いをつけてすばやく投げ、それが10回以上も撥ねていくのを見ていました。 「サンクティ・ペトリを渡る橋は、ザヤス将軍が4大隊で守備している。彼は、街から出てくるものは誰であろうと橋を渡らせないようにという命令を受けている」 「前に聞いた」 と、シャープは言いました。 「だがなぜあんたまで止められるんだ?」 「アフランサドスという輩が街にいる。知っているか?」 「フランス側の連中だな」 ガリアーナはうなずきました。 「嘆かわしいことに、そのうちの何人かは守備隊の将校なんだ。ザヤス将軍はそういう連中が敵に内通しないように阻止する命令を受けているんだ」 「やりたいやつにはさせておけよ」 と、シャープは言いました。 「食い扶持が減る」 「しかし、将軍は英軍を止めることはない」 「前にもそう言っていたな。そして俺はあんたに手を貸すと言った。それでどうして、ムーンのやつからの命令が必要なんだ?」 「わが軍では、命令なしで好き勝手に動くことはできない。命令が必要なんだ。そして、今きみは命令を受けた。だからきみは私を連れて川を渡ることができ、私は軍に合流できる」 「で、あんたは?命令を受けたのか?」 と、シャープは尋ねました。 「私が?」 ガリアーナはその質問に驚いたようでした。そのときフランス軍の迫撃砲がトロカデロから発射され、彼は少しの間黙りました。 その音は鈍く単調に湾を横切り、シャープはどこかに砲弾が落ちるだろうと待っていましたが、爆発音は聞こえませんでした。たぶん海に着弾したのでしょう。 「命令は受けていない」 と、ガリアーナは認めました。 「ではなぜあんたは行こうとするんだ?」 「フランス軍を撃破しなければならないからだ」 ガリアーナはいきなり力をこめました。 「スペインは自由でなければならない!それなのに私はきみの准将やあの未亡人と同じだ。ダンスに加われない。ラペーニャ将軍は私の父を憎んでいて、私のことも毛嫌いして、手柄を立てさせまいとしている。だから私は後方に残されてしまった。だが私は後方にとどまるつもりはない。私はスペインのために戦うのだ」 最後の言葉は情熱で胸を打つほど強いものでした。 シャープは迫撃砲の煙が湿地帯に向かって流れていくのを見ていました。 彼は自分が同じように心から英国のために戦うと言っているところを想像しようとしましたが、できませんでした。 彼は自分が上手くできることのすべては戦いだから戦い、得意だから戦い、部下たちへの義務を負っているから戦っているのでした。 そして、彼はライフルマンたちのことを考えました。 彼らはサン・フェルナンドの酒場から引き離されるこの命令に不満だろう。しかし命令には従わなければならない。 「俺は・・・」 と、彼は言いかけましたがすぐに黙り込みました。 「なんだ?」 「なんでもない」 シャープは言いました。 彼は部下たちに自分たちの任務ではない命令を下すことはできないといおうとしたのでした。 シャープはもしヴァンダールを見つけたら戦いを挑むでしょうが、それは個人的な問題で、ライフルマンたちは腹に一物あるわけではないし、自分たちの連隊ははるか遠くで、しかしそれを全部ガリアーナに説明するのは複雑すぎました。 その上、シャープがガリアーナの部隊と同行するというのも変な話でした。このスペイン人を連れて川を渡るにしても、連合軍と出会えなければ部下を連れて戻ることになるでしょう。 ガリアーナはラペーニャを捜して荒野を馬で行くことができますが、シャープと部下たちには馬などという贅沢品はありませんでした。 「あんたはムーンに全部話したのか?」 と、シャープは尋ねました。 「戦いたいと思っていることを」 「私はラペーニャ将軍に合流したいことと、もし英軍部隊と一緒ならザヤスも私をとめることはできないだろうということを話した」 「で、彼はただで命令を書いてくれたのか?」 「乗り気ではなかった」 と、ガリアーナは認めました。 「しかし彼は私に頼みごとをしたがっていてね。それで私の頼みを受けてくれたんだ」 「やつはあんたに頼みごとがあったと」 シャープは言い、そしてそれが何かということがわかって微笑しました。 「で、あんたはその未亡人を彼に紹介したというわけか?」 「その通り」 「そしてやつは金持ちだ」 と、シャープは言いました。 「すごく金持ちだ」 彼はもうひとつ石を投げました。 カテリーナは准将の身ぐるみをはがしてしまうだろうと考えながら。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-12 15:20
| Sharpe's Fury
ショーン・ビーンの記事を検索していたら、Bradford Telegraph Argus の
Bean films in city という記事にこんな写真が。 ![]() 最近のシャープですよね。 Challenge ではないような。ということはPeril? 記事の内容はブラッドフォードでテレビドラマの撮影をしていて、それにショーン・ビーンが出演している、というものでした。 「Nineteen Eighty-Three 」というドラマじゃないかと思うんですが。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-11 19:10
| Sharpe's Peril
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 4 ラペーニャ将軍の参謀の1人は竜騎兵に気づき、彼は、騎兵たちが土手道の向こうのオリーブの茂みに向かっていくのを見ていました。 ラペーニャは望遠鏡を借り、参謀の馬をそばに立たせ、彼の肩に望遠鏡を乗せて固定しました。 「ドラゴネス」 と、彼は苦々しげに言いました。 「そう大勢ではない」 と、サー・トーマスは無愛想に言いました。 「それにずっと遠くだ。全く、大砲はまだどうにもならないのか?」 まだどうにもなりませんでした。6フィートの長さの砲身を持つ9ポンド砲は、しっかるとはまりこんでいました。ほとんど水につかり、左の車輪と砲の後尾だけが見えていました。馬の1頭は激しく暴れ、砲手はその頭を水につからないように努力していました。 土手道のふちに配備されていたライフルマンたちは他の馬たちを抑えていましたが、馬たちは恐怖に駆られており、パニックを起こした馬はさらに荷車を洪水の中に引きずり込む可能性がありました。 「砲身からはなれろ!」 とサー・トーマスは怒鳴り、しかしその命令の効果はなく、彼は土手道のほうに馬を向けました。 「あと12人必要だ!」 彼は手近の歩兵隊に向かって叫びました。 ポルトガル歩兵の一隊が、動けない大砲の傍らに馬を回したサー・トーマスに従いました。 「どうなってる?」 と、彼はぶっきらぼうに尋ねました。 「この下に溝があるようです」 と、少尉が答えました。彼は沈んだ車輪にしがみついており、その重たい武器が自分の上に倒れこんでくることを怖れていました。 「車輪が溝にはまっています」 少尉は付け加えました。軍曹と、3人の砲兵たちが大砲に取り付き、何とか持ち上げようとしていました。わずかに砲は動き、そしてなんとか車輪の前方を押し上げました。砲身は傾斜しているため、後部はすっかり水につかりってしまいました。 サー・トーマスはベルトをはずして鞘とポーチと一緒にウィリアム卿に投げ渡しました。ウィリアム卿は上官に従って土手道についてきていたのですが、サー・トーマスはさらに帽子も渡しました。白髪が風になびきました。彼は鞍から滑り降りると、胸まで灰色の水につかりました。 「テイ川ほど冷たくはないな」 と、彼は言いました。 「みんな、いくぞ」 サー・トーマスは車輪に肩を押し付けました。 ライフルマンたちやポルトガルの兵卒たちも、笑みを浮かべて彼に従いました。 ウィリアム卿は、将軍が馬たちをなぜ離れさせたのか不思議に思いましたが、やがてそれが大砲が前方に飛んで兵士を押しつぶすことを怖れたためだとわかりました。 ゆっくり、しかし確実にことは進んでいきました。 「背中を使え!」 と、将軍は周りの兵士たちに叫びました。 「持ち上げろ!いまだ!」 大砲は動き、砲身が現れました。そして右側の車輪も水から出てきました。 ライフルマンの一人が足場を失って滑り、背中から倒れて車輪のスポークに引っかかりました。 道の上にいた砲兵たちは皮ひもで綱引きのように車を引きました。 「さあ、出てきたぞ!」 と、サー・トーマスは勝ち誇って叫びました。大砲は縁を上がって道の上に転がりました。 「引っ掛けろ!」 サー・トーマスは言いました。 「よし、動かすぞ!」 彼はびしょぬれのズボンで両手を拭き、馬に乗ろうとしましたが濡れた服の重さに手間取り、ポルトガル軍曹が駆け寄って手を貸しました。 「おかげで助かった。ありがとう」 と、サー・トーマスは鞍にまたがりながら彼に硬貨を手渡しました。 「ざっとこんなものだよ、ウィリー」 「危うく死んでしまうところでしたよ」 ウィリアム卿は心配そうに言いました。 「ああ、そうだな。もしそうなってもホープ少佐が私の遺体をどうすればいいか心得ている」 サー・トーマスは言いました。彼はずぶぬれでしたが、荒っぽく笑いました。 「冷たい水だったぞ、ウィリー!途方もなく冷たかった!歩兵たちに服を着替えさせなければならん」 彼はいきなり笑い出しました。 「ウィリー、私がほんの子供だったころ、テイ川に狐を追い詰めたことがあった。猟犬たちはただ吠え立てるだけでな。だから私が馬を川の中に乗り入れて、素手で狐を捕まえたんだ。自分はヒーローだと思ったものさ!叔父は私に鞭をくれたよ。猟犬のまねをするなといわれた。でもやらなくてはならん時はあるんだ。時によって、やらねばならんことがある」 竜騎兵は堤防の北から近づくことはなく、キングス・ジャーマン・レジオンの軽騎兵たちが駆けていくと、さらに遠ざかりました。スペイン歩兵部隊は相変わらず痛々しいほどゆっくりと道を渡り、全軍が進軍を始める前に日が暮れてしまいました。 街道はベヘールの街の明かりが瞬く方向になだらかに上っており、軍勢は街の北を通ってオリーブの茂みが広がる場所に野営を設置し、サー・トーマスもようやく濡れた服を乾かし、暖を取ることができたのでした。 物資徴発部隊が翌日出かけていき、痩せた子牛や子をはらんでいる雌羊、頑固なヤギを連れて戻ってきました。 サー・トーマスは即刻の出発を望み、やきもきしていました。彼はジャーマン軽騎兵隊とともに丘のほうに偵察に出かけたりしました。北と東には敵の騎兵が活発に活動していました。 スペイン騎兵小隊が川岸を下ってサー・トーマスの部隊に合流しました。 その指揮官は黄色い上下に赤い胸当てのついたブルーのジャケットを着た大尉で、彼はサー・トーマスに挨拶をしました。 「敵はこちらを伺っています」 と、サー・トーマスがスペイン語を話せないと思っていた大尉はフランス語で言いました。 「彼らの任務だ」 と、サー・トーマスはスペイン語で答えました。彼は初めてカディスに配属されたときにスペイン語を学んだのでした。 「サラーサ大尉です」 と、スペイン将校は名乗りました。そしてサドルバッグからタバコを取り出し、部下が火打ち箱でつけた火に身をかがめました。 「命令を受けました。敵に遭遇しないようにと」 と、彼は言いました。 サー・トーマスはその声に陰鬱な調子を聞き取り、サラーサが葛藤を感じていることに気づきました。 彼は丘の上まで部下を率い、フランスの騎馬哨兵に挑戦させたかったのです。 騎馬哨兵は騎兵の中の歩哨を勤める兵士でした。 「命令を受けていると?」 と、サー・トーマスは淡々とした口調で尋ねました。 「ラペーニャ将軍の命令です。われわれは徴発部隊を護衛します。以上です」 「きみはむしろ戦いたいと?」 「そのためにここにいるのではないですか?」 サラーサは荒っぽく問い返しました。 サー・トーマスはサラーサが気に入りました。彼はまだ若く、30にもなっていないようでしたが闘争心を持ち合わせていて、そのことが、スペイン兵もチャンスとよい指揮官を与えられれば悪魔のように勇敢に戦うと信じているサー・トーマスを力づけました。 3年前にはバイレンでスペイン軍はフランスの全軍団と戦って勝利を得、イーグルを奪いさえしたのでした。 サラーサ大尉がある種の代表的人物だとすれば、スペイン兵も戦いたがっているのです。しかし、サー・トーマスはラペーニャに同意している自分に気づいたのでした。 「大尉、丘の向こうには何がある?」 と、彼は尋ねました。 サラーサは、二人のフランス歩哨がいるいちばん近い丘の上を見つめました。 サラーサの剣士たちも加え、サー・トーマスの手中には今60騎以上がありました。 「丘の向こうには何もないだろう」 と、サー・トーマスは言いました。 「もしやつらを追えば、さらに遠くに姿を現し、それを追っていけば5マイルも北上しないうちに徴発部隊はやられてしまうだろう」 サラーサはタバコを引き寄せました。 「腹が立ちます」 と、激しい口調で彼は言いました。 「うんざりする話だ」 サー・トーマスも言いました。 「だがわれわれが選んだ場所か、戦わねばならん場所かで戦わなければならない。戦いたいと思った場所ではならんのだ」 サラーサは、いいことを学んだ、といった表情でかすかに笑いました。彼はタバコの灰を落としました。 「私の部隊の残りの兵士は、コニールへの道の調査に派遣するように命令されています」 彼は無表情に言いました。 「コニール?」 とサー・トーマスは尋ね、サラーサはうなずきました。 サラーサはまだ遠くの竜騎兵を見ていましたが、サー・トーマスがサドルバッグから地図を引っ張り出していることははっきりとわかりました。 できの悪い地図でしたが、ジブラルタルとカディスと、その間のメディナ・シドニアと南の町ベヘールにはしるしがつけてありました。 サー・トーマスはベヘールから西に指を動かし、大西洋にぶつかりました。 「コニール?」 と、彼は地図をたたきながら、もう一度尋ねました。 「コニール・デ・ラ・フロンテラ」 と、サラーサは地図の上を示しながら、正式な名前を言いました。 「海沿いの町コニールです」 彼は怒った声で付け加えました。 海沿い。 サー・トーマスは地図を見つめました。 コニールはまさに海岸にありました。バルロッサという村の北10マイルのところにあり、フランス包囲ラインの前線基地になっているチクラーナへの道が東に伸びていました。しかし、サー・トーマスにはラペーニャ将軍はその道を使うつもりがないことはわかっていました。 バルロッサのすぐ北にはリオ・サンクティ・ペトリ川があり、そこはスペイン軍が船橋を架けているところでした。その橋を渡って軍はイスラ・デ・レオンに帰り、さらに2時間も進軍すればラペーニャはカディスに戻れ、フランス軍から安全な場所にはいれるのでした。 「そうはさせん」 サー・トーマスは怒気を含んだ声で言い、馬に拍車をかけました。 ベヘールからはただひとつ、北への道をとるべきでした。 騎馬哨兵によるフランスの警戒線を突破し、ひたすら進む。 ヴィクトールはチクラーナを防御しなければならない。 フランス元帥に、戦うべき場所を自分で選ばせてはならない。 しかしその代わりにスペイン軍将軍は海辺の散歩を考えているのか? カディスに逃げ込むことを? サー・トーマスにはとてもそんなことは信じられませんでした。しかしバルロッサからチクラーナへの攻撃を主張することが難しいということはわかっていました。 行軍には貧弱な田舎道で軍を迎え撃つことになり、ラペーニャはそのようなリスクを犯さないでしょう。 老婦人はただ家に帰りたいだけで、家に帰るには海岸線を通らなければならず、それはフランス軍が連合軍を海に追い込むために必要なすべてだったのです。 「それはならん」 とサー・トーマスは繰り返し、そして離れた野営地に馬を向けました。 しかし不意に彼はサラーサに向き直りました。 「その命令に、きみは従いたくはないのだな?」 「従わねばなりません、サー・トーマス」 「しかしもちろん、この連中が君を襲えば、きみの義務は敵を撃つことだ。違うか?」 「そうでしょうか、サー・トーマス」 「もちろんそうだ!そしてきみは義務を果たすと確信しているぞ、大尉。しかし追ってはならん。徴発部隊を置き去りにしてはならん。あの稜線よりも遠くには行くな。わかったかね?」 サー・トーマスは馬腹を蹴り、そして今フランス歩哨が手を動かしでもすれば、サラーサは攻撃をかけるだろうと思いました。 そうすれば、老婦人が敵を生かしておこうと思ったにせよ、何人かの敵兵は少なくとも死ぬことになるだろう。 「あの男は」 と、サー・トーマスはひとり、うめくように言いました。 「全く、あの男は」 そして作戦を続行させるために、馬を駆けさせるのでした。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-10 19:16
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 3 カディスが生き延びるか陥落するか、その決定をかけた戦いが予想される、その晩のことでした。 パンフリー伯がサン・フェルナンドのシャープが借りた家にやってきたときに、ある裏切り行為の一幕は終わりました。 彼は暗くなってから、大聖堂の礼拝室に持っていったのと同じ鞄を持ってやってきました。シャープには、閣下はモンセニー神父が暗闇で待つ祭室に向かう階段を下りていったときよりも緊張しているように見えました。 パンフリーは部屋の中を見回し、暖炉のそばにシャープが座っているのに気づき、目を見開きました。 「きみがここにいるだろうと思っていたよ」 と、彼は言いました。そしてカテリーナのほうに何とか微笑して見せ、さらに部屋を見渡しました。 そこは狭く、ただ黒いテーブルと背の高い椅子があるだけでした。壁は白く塗られ、司祭の肖像画と古い十字架がかかっていました。 炉の火と、天井から下がった小さなランタンだけが部屋を照らしていました。 「ここはきみには居心地はよくないだろう、カテリーナ」 と、パンフリー伯は気楽な調子で言いました。 「私が育った家に比べれば天国よ」 「もちろん、そうだろう」 と、パンフリー伯は言いました。 「きみが駐屯基地で育ったことを忘れていた」 彼は心配そうな視線をシャープに向けました。 「彼女は豚の去勢ができるそうだよ、シャープ」 「彼女が人間にも何ができるのか、知っておいたほうがいいぜ」 と、シャープは言いました。 「しかしきみは街に戻ったほうが気分よく暮らせるのではないかな」 パンフリーはシャープのきつい言葉を無視してカテリーナに話しかけました。 「もうモンセニー神父を怖がることはない」 「そうなの?」 「彼は大聖堂の梁が落ちたときに負傷したのだ。もう二度と歩けるようにはならないだろうと聞いている」 パンフリーはシャープに再び目を戻し、反応を待ちました。しかし何の反応もなかったのでカテリーナに笑いかけ、テーブルにバッグを置くと袖口からハンカチを取り出し、椅子のほこりを払って腰掛けました。 「だからきみが街を出る理由はもうなくなったのだよ。カディスは安全だ」 「ここに私がいる理由って何かしら」 と、カテリーナは尋ねました。 パンフリーはシャープをしばらく見つめました。 「理由というのはきみの個人的な事柄だ。ともかくカディスに戻りなさい」 「あんたはヘンリーの女衒か?」 と、シャープは軽蔑したように尋ねました。 「大使閣下は」 と、パンフリーは威厳をつくろいました。 「セニョリータ・ブラズケズがいなくなったことについて、気を取り直そうとしておられる。彼の人生での不運な一幕は今終わろうとしていると、私は考えている。忘れることができることだ。そうではなく、私自身、彼女とご一緒するのが嬉しいので戻ってほしいと考えているのだ。私たちは友達だ。そうじゃないか?」 と、彼はカテリーナに訴えました。 「私たちは友達よ、パンプス」 と、彼女は優しく言いました。 「では友達として言うが、きみの手紙の価値はもうなくなった」 と、彼は彼女に笑いかけました。 「モンセニーが動けなくなった途端に価値を失ったのだ。私は今朝、その不幸な出来事について知った。他の誰も、それは私が保証するが、手紙を出版しようとはしないだろう」 「じゃあどうしてあんたは金を持ってきたんですかね、閣下?」 と、シャープは尋ねました。 「金を集めたのがモンセニー神父の悲報を聞く前だったのでね。大使閣下は手紙を取り戻すためならそれくらいのはした金は払うというおつもりなのだ」 「はした金」 と、シャープは単調に繰り返しました。 「望外のご配慮だ」 と、パンフリー伯は言いました。 「どれくらいはした金なんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「100ギニーほどかな?」 と、パンフリーは提示しました。 「非常に寛大なお心遣いだ」 シャープは立ち上がり、パンフリー伯の手がコートのポケットに動きました。シャープは笑い出しました。 「ピストルか!あんたは本気で俺と闘えると思っているのか?」 パンフリー伯の手は、まだゆっくりと動いていました。シャープは彼の後ろに立ちました。 「大使閣下はこの手紙の件はこれっぽっちもご存じない。そうだろう、閣下。あんたは話していないからな。自分のためにほしいんだ」 「馬鹿なことを言うんじゃない、シャープ」 「価値があるからな。そうじゃないか?ウェルズリー家のちょっとした弱みを握ることになるんじゃないか?ヘンリーのいちばん上の兄貴は何だった?」 「モーニントン侯爵は」 と、パンフリーは固い声で言いました。 「外務大臣だ」 「もちろんそうだ」 と、シャープは言いました。 「あんたとしては、恩を着せるのにいい道具になる。だからこの手紙がほしいんじゃないのか、閣下。それか大使閣下に売りつけようとしているとか?」 「想像力が豊かだな、シャープ大尉」 「いいや。俺の側にはカテリーナがいて、カテリーナは手紙を持っていて、あんたは金を持っている。金はあんたにとっては簡単なことだろう、閣下。なんていったっけ?ゲリラへの助成金?議会への賄賂?だがどちらにしろ、今はカテリーナのための金だ。政治家たちのポケットをいっぱいにするよりはましだってことだな。それともうひとつあるんだが、閣下」 「なんだね?」 と、パンフリー伯は尋ねました。 シャープはパンフリーの肩に手を置きました。伯は身震いしました。 シャープはかがみこむと閣下の耳に乱暴にささやきました。 「彼女に金を渡さなければ、俺はあんたがアストリッドにやらせたのと同じことをあんたにしてやる」 「シャープ!」 「喉を掻き切る」 と、シャープは言いました。 「豚を去勢するよりも難しいが、正当な行為だ」 彼は剣を数インチ、鞘をこすりながら引き出しました。 パンフリー伯の肩が震えるのがわかりました。 「アストリッドのためなら、俺はやるべきなんだ。しかしカテリーナが嫌がるんでね。だから、あんたはカテリーナに金を払うだろう?」 パンフリーは身動きしませんでした。 「きみは私の喉を掻き切るようなまねはしないよ」 と、驚くほど落ち着いた声で彼は言いました。 「そうか?」 「みんな私がここにいることを知っているんだ、シャープ。二人の憲兵に君がどこに寝泊りしているか尋ねた。彼らが私のことを思い出さないと思うか?」 「リスクは承知さ、閣下」 「そこがきみの有能なところだよ、シャープ。だがきみはバカじゃない。国王陛下の外交官の1人を殺せば、きみも死ぬことになる。それに、きみも言うように、カテリーナは私を殺させないだろう」 カテリーナは何もいいませんでした。その代わりに彼女はわずかに頭を振り、しかしそれがパンフリー伯が確信して主張しているような殺害の否認だったのか、彼を殺してほしくないというサインだったのか、シャープにはわかりませんでした。 「カテリーナは金をほしがっている」 と、シャープは言いました。 「動機は私も完全に理解している」 パンフリーは言って鞄をテーブルの真ん中に押しやりました。 「手紙を持っているかね?」 カテリーナはシャープに6通の手紙を渡すと、シャープは伯にそれを見せ、そして暖炉に向かいました。 「やめろ!」 と、パンフリーは言いました。 「やるさ」 とシャープは言って、燃え盛る薪の上に手紙を投げ込みました。 手紙は炎を上げ、急に明るくなり、部屋を光で満たし、パンフリー伯の青ざめた顔を照らし出しました。 「なぜアストリッドを殺した?」 と、シャープは尋ねました。 「英国の機密を保持するためだ」 と、パンフリー伯は荒々しく答えました。 「それが私の仕事だ」 彼は不意に立ち上がり、華奢に見える姿が威厳を帯びました。 「きみと私はよく似ているよ、シャープ大尉。われわれは戦時において、生きることにおいて、たった一つのルールを知っている。勝つために、ということだ。アストリッドには気の毒なことをしたと思っている」 「いや。思っていない」 と、シャープは言いました。 パンフリーは一呼吸しました。 「その通りだ。思っていない」 彼は突然ほほ笑みました。 「いいゲームをしたな、シャープ大尉。おめでとう」 彼はキスをカテリーナに投げ、そのまま何も言わずに立ち去りました。 「私はパンプスが好きよ」 伯が立ち去ってから、カテリーナは言いました。 「だからあなたが彼を殺さないでくれて嬉しいわ」 「殺すべきだった」 「だめよ」 と、彼女は強く言いました。 「彼もあなたと同じ。悪漢よ。悪漢はお互いに忠実であるべきよ」 彼女は金貨をいくつかの山に積み上げ、それをもてあそんでいました。ランプの光が金貨に反射して、彼女の肌を黄色く照らしていました。 「それでカディスに戻るのか?」 と、シャープは尋ねました。彼女はうなずきました。 「たぶんね」 といって、彼女は金貨を回しました。 「男を見つけに?」 「金持ちの男よ」 と彼女は言って、回るコインを見つめていました。 「私にほかに何ができるというの?でも男を見つける前に、私は戦争を見てみたいわ」 「だめだ!」 と、シャープは言いました。 「女が行くような場所じゃない」 「そうでしょうね」 彼女は肩をすくめ、そして微笑しました。 「それでいくらほしいの、リチャード?」 「あんたがくれたいと思うだけ」 彼女は大きな一山を、テーブルの上で押しやりました。 「あなたはバカね、シャープ大尉」 「たぶんそうだな」 南のほうのどこかへ、二つの軍隊が進んでいました。シャープは、そこに合流できるかもしれないと考えていました。 金はそこでは都合のよくないシロモノになることでしょう。それでも、女についての記憶はいつでも彼にとって気分のいいものでした。 「金を2階に持っていこう」 と、シャープはほのめかしました。 そして、二人はそうしました。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-07 15:30
| Sharpe's Fury
まだ放送もされていないTVドラマのシャープ・シリーズの新作
Sharpe's Peril のDVD、発売が予定より早まったようです。 イギリスのアマゾンの こちら。 発売は11月10日。ということは放送は10月中? DVDのジャケットはこんな。 ![]() ちゃんと美人も出てくるようで。 Fury、次はシャープが登場します。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-06 19:40
| Sharpe's Peril
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