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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第10章 - 1 「こいつは俺たちの闘いじゃありませんよ」 「わかってるさ」 シャープが認めたことは、そんなにすぐに同意が得られるとは思っていなかったアイルランドの大男を驚かせました。 「俺たちはリスボンにいるはずなんですから」 「ああ、そのはずだった。それに、そのうち行くことになるだろう。だが今はリスボンに向かう船はないし、しばらくはないんだ。こいつが終わるまではな」 シャープはサンクティ・ペトリ川の向こう岸に向かってうなずきました。 yogaaketekara1時間ほどたっていて、川の向こう側を1マイルばかり進んだあたりには、ブルーのユニフォームの兵士たちがいました。スペインのライトブルーのユニフォームではなく、濃い色のフランス軍のものでした。敵はすでに内陸の荒野からやってきていて、その突然の登場に、ザヤス将軍揮下の歩兵部隊は戦闘態勢をとり、川の北側で待ち構えていました。 おかしなことに、フランス軍は対岸の船橋をかけているところを攻撃しようとはせず、南側の、砦から離れたところに向かっていました。 砦の大砲はフランス軍を狙いましたが、砲弾は手前の砂の上に落ち、弾薬の無駄だと悟らせました。 「つまりですね」 と、ハーパーは続けました。 「ただミスター・ガリアーナが闘いたがっているだけで・・・」 「わかっているさ、お前の言いたいことは」 シャープは荒っぽくさえぎりました。 「じゃあ俺たちはいったい全体なんでここにいるんです?」 シャープはハーパーのバカみたいな勇敢さに疑いを持ってはいませんでした。このアイルランドの大男は、臆病さから抗議しているわけではなく、不平を言っているのでした。 フランス軍は川を背にしていて連合軍は南側の遠くにあり、そこにラペーニャ将軍の部隊がいるわけで、内陸からは遠くはなれ、フランス軍は海岸線に沿って攻撃をかける代わりに東から攻撃をかけていました。 つまり現在は軍はフランス歩兵の4個か5個師団に向き合っているように、シャープには思われました。 そして、それはラペーニャの戦いでした。 老婦人の揮下といえども1万5千の兵が、海岸でより少ない敵に打ち破られるはずはなく、ですからシャープと5人のライフルマンたちにはやることはないはずでした。 さらに、シャープが5人のライフルマンたちの命を危険にさらすということは無責任なことでもありました。つまりそれがハーパーの言っていることで、シャープも同意しました。 「俺たちがここで何をしようとしているのか話しておこう」 と、シャープは言いました。 「俺はガリアーナ大尉に借りがある。だからここにいる。われわれみんな、彼に借りがある。もしあの時ガリアーナがいなければ、われわれはみんなカディスの刑務所行きだった。だからわれわれはお返しに、彼に川を渡らせる。そしてそれが終われば、全部終わりだ」 「川を渡る?それだけですか? 「それだけだ。邪魔するスペイン野郎に彼を渡らせるように言ってやる。それで終わりだ」 「なぜ渡り終わるまで見ていなくちゃならないんです?」 「彼が頼んだからだ。もし俺たちがいなければ、邪魔をされると彼は思っているからだ。それが彼がわれわれに望んだ好意だからだ」 ハーパーは胡散臭そうな顔をしました。 「それでもし彼が渡り終わるのを見終わったら、俺たちは町に帰れるんですね?」 「酒場が恋しいか?」 と、シャープは尋ねました。 彼の部下たちは海岸の端に露営して今日で二日でした。ガリアーナが用意したスペイン軍の糧食に2日間不平を言い、サン・フェルナンドの快適さを2日間恋しがっていました。 シャープは同情はしましたが、彼らを快適でない場所に置くことを、ひそかに喜んでいました。 暇な兵士たちというのは問題を起こし、酔っ払い、それなら不平を言わせているほうがましでした。 「だから彼が無事に渡るのを見届けたら」 と、シャープは言いました。 「お前と連中は戻っていい。俺が命令書を書いてやる。ヴィーノ・チントのワインボトルを俺のために1本用意して、待っていてくれ」 ハーパーは望みどおりの答えを得たのに、困ったような顔をしました。 「あなたを待つんですか?」 と、彼はぶっきらぼうに尋ねました。 「長くはかからん。夜までには終わるだろう。だから行って、連中にガリアーナ大尉が橋を渡ったらすぐに帰れると伝えてやれ」 ハーパーは動きませんでした。 「それであなたは何をするつもりなんですか?」 「公式には」 と、シャープはハーパーの質問を無視して続けました。 「われわれは全員ムーン准将の次の命令が下るまでとどまることを命じられている。しかし彼はお前たちが戻っても気にしないと俺は思う。やつにはわからないだろう?」 「でもなぜあなたは残るんですか?」 と、ハーパーはこだわりました。 シャープは帽子の下からのぞいている包帯の端に触りました。 頭の痛みは治まっていて、包帯をとってもいいのではないかという気がしてはいましたが、まだ頭蓋骨が気になって、おまじないのように毎日包帯を酢で湿らせていました。 「礼の第8連隊なんだ、パット」 と、彼は言いました。 「それが理由だ」 ハーパーはフランス軍が駐留している海岸線を見下ろしました。 「やつらはあそこに?」 「あいつがあそこにいるかどうかはわからん。俺にわかっているのはやつらは北に送られ、しかし俺たちが橋を爆破したから北にはいけなかったということだ。だからここに戻ってきたという見込みがあるわけだ。青してもしやつらがここにいるとすれば、パッと、俺はヴァンダール大佐に挨拶をしてやらないとな。こいつで」 彼はライフルをたたきました。 「それであなたは・・・」 「それで俺は海岸をぶらぶら行くつもりなんだ」 と、シャープはさえぎりました。 「俺はやつを捜しに行く。見つけたら撃つ。それだけだ。それ以上じゃないんだ、パット。それだけなんだ。俺たちの闘いじゃないからな。違うか?」 「俺たちの闘いじゃありません」 「だから俺がやるのはそれだけだ。やつが見つからなかったら、俺は戻ってくる。ワインを1本用意しておいてくれればいい」 シャープはハーパーの肩をたたきました。そして馬上のガリアーナ大尉のところへ歩いていきました。 「大尉、何かあったか?」 ガリアーナは小型の望遠鏡で南を見ていました。 「わからないことがある」 と、彼は言いました。 「何がわからない?」 「フランス軍の向こうにスペイン軍がいるんだ」 「ラペーニャ将軍の部隊だろう?」 「なぜあそこにいる?」 と、ガリアーナは尋ねました。 「彼らはチクラーナに向かっているはずなんだ!」 シャープは川を見、そして海岸を見下ろしました。フランス軍は3列に並んでいて、将校は馬上にあり、イーグルは朝日に輝き、そしていきなり、空を背景に浮き上がっていたイーグルが煙で隠されました。 シャープはマスケット銃の分厚い煙が湧き上がり、一瞬の静寂のあと銃声が彼を包みました。 そして最初の銃撃の後、世界は静寂を取り戻し、ただかもめの声と波音が聞こえているだけでした。 「なぜ彼らはここに?」 ガリアーナは再び尋ね、そして2度目の銃撃がありました。今度は1回目よりも激しく、朝の景色は戦いの音に満たされたのでした。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-22 18:02
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 7 議論はその午後にももう一度繰り返されました。 ラペーニャは夜の行軍を望みましたが、サー・トーマスはすでに敵に近づきすぎており、疲れきった兵士たちが不慣れな土地で手探りに進み、戦力を蓄えた敵に不意打ちをかけられることになると抗議しました。 「それでは夕方に進軍することにしよう」 と、ラペーニャは寛大なところを見せました。 「そして真夜中には露営する。サー・トーマス、夜明けには十分休みを取れているだろう。準備もできているだろう」 しかし夜半を過ぎ、夜はさらに更けてゆき、夜明けになってもまだ彼らは行進を続けていました。再び、道を見失ってました。 軍勢は停止し、休み、目覚め、進み、さらに停止し、進み、方向転換し、数分間だけ快適でない休憩を取り、目を覚ましてさらに自分の足跡を逆にたどりながら進みました。 兵士たちは背嚢や雑嚢、カートリッジボックス、武器で山盛りになり、急がなくてはならなくても、どんなときでも立ち止まったときにその荷物をはずそうとはしませんでした。誰もきちんと休んでいなかったので、夜明けにはみんなくたくたに疲れていました。 サー・トーマスは部下たちの脇を砂埃を上げながら馬で駆けて行き、ラペーニャ将軍を捜していました。 行軍は再び止まっていました。 レッドコートの兵士たちは道端に座り込み、休みを取れないのはラペーニャ将軍の制だというような憤慨した目で彼を見ていました。 ラペーニャ将軍とその参謀たちは茂みのある小さな丘の上にいて、そこでは10人あまりの民間人が口論をしていました。 「彼らは?」 「もちろん、われわれのガイドだ」 「それで彼らは道がわからないと?」 「わかっている」 と、ラペーニャは言いました。 「ただ彼らは違う道を知っているのだ」 ラペーニャは微笑し、仕方ないというように肩をすくめました。 「海は?」 と、サー・トーマスは問いただしました。 気難しい顔つきでガイドたちはサー・トーマスを見て、彼らは皆いっせいに西を指差し、そちらに海があることに同意しました。 「それならわかるはずだ」 サー・トーマスは曙の光に満たされた東の空に向かってうなずきながら、苦々しげに言いました。 「太陽は東から昇ると決まっているし、海は西にある。ということはバルロッサに向かうわれわれの道は、あっちにある」 彼は北を指差しました。 ラペーニャは立腹したようでした。 「サー・トーマス、夜には太陽は導いてくれない」 「夜に進軍しようなどというからこういうことになるのだ!' サー・トーマスは突っかかりました。 「道に迷ったのだ」 再び進軍が始まり、ヒースの茂みが松林と一緒に散らばっている荒地を横切っている小道をたどり始めました。 太陽が昇ると、すぐに海が見えてきました。 小道は長く続く砂浜の上を北に向かっていました。海のはるか遠くに一隻の船が南に向かっており、その帆柱の上の部分だけが見えていました。 サー・トーマスは先を行く自分の旅団の内陸側で馬を進めていましたが、砂まみれの丘を登り、海岸に沿って3つの望楼が並んでいるのを見ました。それはムーア人の海賊たちがジブラルタルから殺人、略奪、奴隷調達のためにやってきていた時代の遺物でした。 「サー・トーマス、いちばん近いのがプエルコの塔です」 と、連絡将校が言いました。 「その次がバルロッサの塔で、いちばん遠いのがベルメハです」 「コニールはどこだ?」 「ああ、われわれは夜のうちにコニールを迂回しました」 と、連絡将校は言いました。 「今ではわれわれの背後にあります」 サー・トーマスは首をたれ、黙って行進している疲れきった部下たちに目をやりました。そしてもう一度北に目を向け、ベルメハの塔の向こうのカディスに通じる長い海峡の白くかすむ水平線を見ました。 「われわれは時間を無駄に使ったのだな?」 と、彼は言いました。 「いいえ、そんなことはありません、サー・トーマス。ラペーニャ将軍は攻撃を意図しておられると確信しています」 「彼は家に帰ろうとしているのだ」 と、サー・トーマスは疲れたように言いました。 「きみもそれを知っている」 彼は鞍頭に寄りかかりました。63年のこれまでの人生が、一時に感じられました。 彼は、ラペーニャが家路を急いでいることをいまやはっきりと理解しました。 老婦人はフランス軍を攻撃するために東に進路を変えるつもりはない。彼はただカディスに帰りたかっただけだ。そしてそこで、ヴィクトール元帥と対抗してアンダルシアを横切ってきたことを自慢するでしょう。 「サー・トーマス!」 ウィリアム・ラッセル卿が将軍に向かって馬を駆けさせてきました。 「あそこです」 ウィリアム卿は北と東を指差しました。彼は望遠鏡をサー・トーマスに渡し、将軍はウィリアム卿の肩を借りて不安定な望遠鏡から敵の姿を見ました。 竜騎兵ではなく、歩兵部隊でした。木立に半分隠されていましたが、大部隊でした。 「チクラーナの守備隊ですね」 と、連絡将校が確認しました。 「あるいはわれわれを阻むために進撃してきた軍かも知れん」 と、サー・トーマスは示唆しました。 「チクラーナに彼らの歩兵部隊がいるのはわかっています」 と、連絡将校は言いました。 サー・トーマスには歩兵部隊との間のどれくらいの距離があるのか、彼らが進んできているのかどうかもわかりませんでした。彼は望遠鏡を縮めました。 「ラペーニャ将軍のところに行ってくれ」 と、彼は連絡将校に言いました。 「私からの敬意を伝え、そしてわれわれの右翼にフランス歩兵がいると言ってくれ」 連絡将校は馬の向きを変えました。しかしサー・トーマスは彼を止めました。 このスコットランド人は前方を見ていて、内陸にはバルロッサの遺跡がある丘がある場所に軍を配置すべき場所があることを知りました。 それは明らかに、フランス軍が攻撃を計画しているとしたら兵士を配置するであろうという場所でした。 ヴィクトールの主力を丘で戦わせ、彼らを斜面で迎え撃ち、そして彼らを撃破して、チクラーナに進む。 「将軍にこう言ってくれ」 と、彼は連絡将校に言いました。 「われわれは彼の命令があれば直ちに方向転換し攻撃をかける準備ができていると。行け!」 連絡将校は全力で駆け出しました。 サー・トーマスは再びバルロッサの丘に目を向け、つかの間だが遠かったこの惨めな作戦も、まだ何とかなるかもしれないと思っていました。 しかしそのとき、前方遠くから銃声が聞こえました。 その音は風の中で上がっては消え、時折波音と聞き間違えるようでしたが、間違いなくマスケット銃のとがったはじけるような音でした。 サー・トーマスは鐙に立ち上がり、目を凝らしました。 彼はどこか戦いが始まった場所で煙が上がるのを待っていました。そして、やっとそれを見つけました。 それは3番目の塔の向こう側の海岸でしたが、街に戻る船橋の近くでした。 それは、フランス軍がすでに彼らとカディスを結ぶ道筋を占拠し、そしてさらに悪いことに、内陸側から攻撃してくるに違いないということでした。 ヴィクトール元帥は連合軍を彼が望んだとおりの場所に持ってきたのでした。彼の軍勢と海岸との間に。 彼はスペイン軍と英軍を、掌中にしたのでした。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-17 20:22
| Sharpe's Fury
![]() こちら。 予告編も見られます。 The Images のところに写真がたくさん上がっています。 シャープ、「Challenge」のときより少しスリムになったような気がしますが。 ![]() 放送日はまだ掲載されていません。 わりとのんきですね。そんなものなんでしょうか。 ![]() #
by richard_sharpe
| 2008-10-17 12:42
| Sharpe's Peril
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第9章 - 6 サー・トーマス・グレアムは、いつになく明るい様子のラペーニャ将軍を見つけました。 このスペイン軍指揮官は、日当たりがよく北風を防ぐ農家を本部とし、屋外で昼食のテーブルについていました。 3人の参謀とベヘールへの途上で捕虜にされたフランス人大尉が同席していました。 5人はパンと豆、チーズとハム、そして石製の瓶に入ったワインをとっていました。 「サー・トーマス!」 ラペーニャは彼に会えて嬉しいように見えました。 「ご一緒にどうです?」 彼はフランス語を話していました。サー・トーマスがスペイン語を話せることはわかっていましたが、彼はフランス語を話すことを好みました。つまり、それはヨーロッパの上流階級がコミュニケーションをとる場合の言語だからなのでした。 「コニール!」 サー・トーマスは礼儀作法に煩わされる余裕がないほど腹を立てていました。彼は鞍から滑り降りると手綱を当番兵に投げ渡しました。 「コニールへ進軍するおつもりか?」 と、彼は非難がましく言いました。 「ああ、コニール!」 ラペーニャは指を鳴らして召使にもう一脚椅子を農家の中から持ってくるように合図しました。 「コニール出身の軍曹がいまして」 と、彼は言いました。 「イワシ漁のことを話してくれたものだ。自然の恵みだ!」 「なぜコニールに?そんなにイワシが食べたいと?」 ラペーニャは悲しげな目でサー・トーマスを見ました。 「ブルール大尉に逢っておられなかったかな?もちろん彼は(逃亡しないという)宣誓の上でここにいるのだが」 フランス軍のブルーのユニフォームを着て帯剣したその大尉は、痩せて背の高い男で、知的な顔つきをしていました。 彼は厚いまぶたに半分隠れた、潤んだ瞳の持ち主でした。 彼は立ち上がり、紹介されるとサー・トーマスにお辞儀をしました。 サー・トーマスは彼を無視しました。 「コニールに進軍する目的は何ですかな?」 彼は尋ね、テーブルに手をついたのでラペーニャを見下ろす形になりました。 「ああ、チキンだ」 ラペーニャは農家の中からロースト・チキンを持ってきてテーブルに置いた女を見てほほ笑みました。 「きみが切り分けるかね?」 「光栄です、閣下」 ブルールは申し出ました。 「こちらこそ光栄だよ、大尉」 ラペーニャは言って、肉切りナイフと長いフォークを儀式ばったやり方でフランス人に渡しました。 「われわれは船を雇った」 と、サー・トーマスはラペーニャの隣に持ってこられた椅子を無視してうなりました。 「そして、 艦隊が集まるのを待った。風が変わるのを待った。南に進路をとり、フランス軍の後衛に攻め込むためにタリファに上陸した。そして今、コニールに向かうと?まったく、何のために艦隊に悩まされたのだ?コニールに向かうなら、なぜサンクティ・ペトリ川を渡ってまっすぐ向かわなかった?それなら一日は行程が短くなり、船など必要なかったのだ!」 ラペーニャの参謀たちは怒ったようにサー・トーマスを見つめていました。ブルールは肉を切っていることに集中してその会話を無視しているふりをしていました。彼は完璧にその作業をこなしていました。次々と美しく肉が切り落とされていきました。 「事情は変わる」 と、ラペーニャはあいまいな言い方をしました。 「何が変わったと?」 サー・トーマスは詰問しました。 ラペーニャはため息をつきました。 彼は参謀の1人に指を向け、参謀はようやく上官が地図を見たがっているということに気づきました。 皿が片付けられて地図が広げられ、サー・トーマスはその地図が自分に渡されたものよりもずっと出来がいいことに気づきました。 「私たちはここにいる」 とラペーニャは言って豆をひとつベヘールのすぐ北に置きました。 「そして敵はここだ」 彼は豆をもうひとつ、チクラーナの上に置きました。 「そして敵にアプローチするに3つの道がある。一つ目の、もっとも長いのが東に向かうもので、メディナ・シドニアを通っている」 さらにもうひとつの豆がその町を示すために置かれました。 「しかしご存知のようにそこにはフランス軍が守備隊を置いている。違ったかな、ムッシュー?」 彼はブルールに問いかけました。 「強力な守備隊です」 と、ブルールは外科医のような手さばきで鳥の足をはずしながら言いました。 「したがって、われわれはここにいるビクトール元帥の軍勢と 」 とラペーニャはチクラーナの豆に触れ、 「ここの守備隊の間にいることになる」 と、メディナ・シドニアを示しました。 「サー・トーマス、第2の道をとれば、われわれは守備隊を避けることができる。ここから北に向かい、チクラーナへは南から接近する。状態の悪い道で、まっすぐには向かわない。この丘の間を上っていく」 彼は人差し指で地図の上のしるしをたたきました。 「そしてフランス軍は歩哨を置いているだろう。違うかな、ムッシュー?」 「たくさんの歩哨を」 ブルールは言い、鎖骨をはずしました。 「将軍閣下、あなたのシェフに鳥は料理する前に鎖骨をはずしておいたほうが切り分けやすいとお伝えになったほうがいいかと」 「それはいいことを聞いた」 ラペーニャは言い、それからサー・トーマスを振り返りました。 「歩哨はわれわれの接近をヴィクトール元帥に知らせるだろうし、そうすると彼はわれわれに備えて準備することになる。彼はわれわれよりも数において勝っている軍をこちらに向けるだろう。すべてのことを考え合わせると、サー・トーマス、私はこの道を使うことはできない。祈りにすべてを任せるほかないからだ。しかし幸いなことに、3番目の道がある。海沿いに進む道だ。ここは」 ラペーニャは言葉を切り、4つ目の豆を海岸に置こうとして 「この場所は・・・」 と、ためらいました。どこに豆を置けばいいか、地図上の場所がわからなかったのです。 「バルロッサです」 と、参謀の1人が言いました。 「バルロッサ!そう、そこはバルロッサと呼ばれている。サー・トーマス、ここから荒地を横切ってチクラーナに向かう道がある」 「そしてフランス軍は、われわれがその道を使うことを知るだろう」 サー・トーマスは言いました。 「そしてわれわれに備えるだろう」 「その通り!」 ラペーニャはサー・トーマスの初歩的なポイントへの理解を喜んだようでした。 「しかしここは、サー・トーマス」 彼の指はサンクティ・ペトリ川の河口に向かって動きました。 「ザヤス将軍が全軍を率いて駐留している。もしわれわれが・・・」 と、彼は再びためらいました。 「バルロッサです」 と、参謀が言いました。 「バルロッサへ進軍すれば」 ラペーニャは力をこめて言いました。 「ザヤス将軍と合流できる。両軍がそろえばフランス軍を圧倒できる!チクラーナには守備隊は何師団いるんだったかな?2師団?」 彼はブルールに問いかけました。 「3師団です」 「3師団!」 ラペーニャは驚いたようでしたが、手を振ってその知らせを払いのけるようにしました。 「2師団?3師団?そんなことはどうでもいいではないか。われわれは側面から彼らに攻撃を仕掛けるのだ!」 と、ラペーニャは言いました。 「われわれは敵に西側から接近し、彼らを撃破して勝利を収める。私の熱意を許してくれ、大尉」 と、彼はブルールに向かって付け加えました。 「彼を信用しているのか?」 サー・トーマスはフランス人のほうに頭を向けながらラペーニャに尋ねました。 「彼は紳士だ!」 「ポンティウス・ピラトもそうだった」 サー・トーマスは言いました。彼は大きな指を海岸線に沿って滑らせました。 「この道を使い、わが軍をフランス軍と海の間に置く。兵士たちが波に溺れるのを見たいのか?」 「それではあなたの提案は?」 ラペーニャは冷ややかに尋ねました。 「メディナ・シドニアに進軍する。そして守備隊をたたく」 彼はその町の上に置かれた豆を食べるために言葉を切りました。 「あるいは、彼らを壁の背後に追い込む。包囲ラインを攻撃するのだ。われわれがヴィクトールに向かって進むのではなく、彼にこちらに向かって進ませる」 ラペーニャは不思議そうにサー・トーマスを見ました。 「私はあなたを賞賛している」 彼はちょっと黙った後に言いました。 「本当だ。あなたの熱意、インスピレーション、われわれ皆そうだ、サー・トーマス」 参謀たちは厳粛に合意を示しました。ブルール大尉でさえ、丁寧に頭を下げました。 「しかし説明させていただければ」 と、ラペーニャは続けました。 「フランス軍は、これには同意なさるだろうが、ここにいる」 彼は片手にいっぱいの豆を、カディス湾の三日月形に沿って、南のチクラーナからトロカディロ湿原の3つの砦にいたるまで、並べました。 「もしわれわれがここから攻撃すれば」 ラペーニャはメディナ・シドニアからの道を指でたたきました。 「されされは彼らの包囲線の中央を襲うことになる。確かにわれわれはよい戦果を挙げるだろうが、敵は両側からわれわれに集中するだろう。包囲される危険を冒すことになる」 彼は片手を上げ、サー・トーマスの抗議を押しとどめました。 「もしわれわれがここから向かえば」 ラペーニャは今度はベヘールからの道を示しながら続けました。 「われわれはチクラーナをめざすことになるが、そこには何もないだろう。全く何もない。フランス軍はわれわれの右翼から進軍してくる。しかし東からなら、この・・・」 「バルロッサです、セニョール」 「バルロッサからなら、彼らの側面から突ける。打ちのめすことができる!」 と、ラペーニャは続けました。 彼は攻撃の力を現そうとして、両手を強く打ち鳴らしました。 「彼らはそれでもわれわれに向けて進軍を続けるだろう。もちろんそうだ。しかし彼らは街を通り抜けなければならない!それが困難なことを彼らは気づくだろうし、街路をうろうろしているうちにヴィクトールを撃破することができる。ここだ!わかっていただけたかな?」 彼は微笑しましたが、サー・トーマスは何も言いませんでした。何もいうことがなかったのではなく、礼儀を考えて迷っていたのでした。 「それに加え」 と、ラペーニャは続けました。 「私はここで指揮を執るが、というのもわれわれが望んでいる勝利を得るためには、海岸線を進むことが最良だと信じるからだ。われわれが艦隊に合流したときには、そのことはわかっていなかった。しかし指揮官の義務として、常に事態にあわせられなければならない。そうではないかな?」 彼は答えを待ってはいませんでした。その代わりに空いたままの椅子をたたきました。 「さあ、一緒にチキンをどうかな、サー・トーマス。水曜日からここを借りているが、これが最後の肉なのだ」 「肉がどうした」 と、サー・トーマスは英語で言い、馬で戻っていきました。 ラペーニャはその後姿を追っていましたが、黙って首を振りました。 その時、ブルール大尉はバルロッサの上の豆を親指でつぶし、そのまま海岸に向かって赤い染みを擦り付け、まるで地図が血で汚れたかのように見えました。 「ああ、私はなんて不器用なんだ」 と、ブルールは訴えました。 「ただどけようと思っただけだったのですが」 ラペーニャは損な小さな出来事に混乱させられたりはしませんでした。 「悲しいことだ」 と、彼は言いました。 「全能の神はわれわれに同盟国として英国をお与えになった。彼らは」 と、彼は言葉を切りました。 「全く不愉快だ」 「鈍い生き物ですよ」 と、ブルール大尉は共感しました。 「フランスやスペインの民族に共通する繊細さが欠けているのです。チキンをお取りしましょうか?胸肉はお好きですか?」 「きみの言うとおりだ!」 と、ラペーニャ将軍はフランス人の洞察力に喜んで言いました。 「繊細さがないのだ、大尉、器用さがない」 彼は黙って言葉を捜しました。 「優雅さがない。胸肉ですと?なんときみは気が利くのだ。ありがとう」 そして彼は決意を固めていました。 カディスへ戻る海岸への道をとる。コニールへ進軍する。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-15 18:06
| Sharpe's Fury
Sharpe's Peril のトレイラーがYoutubeに出ていることを、taipuuさんが教えてくださいました。
ちょっと縦長。 物語の詳細はよくわかりませんが、シャープがんばってます。 ショーン・ビーンはシャープの格好をすると若々しくなりますね。やっぱりハマリ役。 taipuuさん、ありがとうございました。 それから昨日アップした画像、Challengeのときのものだそうです。これもおしえていただきました。ありがとうございました。 #
by richard_sharpe
| 2008-10-12 15:31
| Sharpe's Peril
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