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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第10章 - 5 後方をセッロ・デル・プエルコに配置した守備隊が上手く守るであろうことを確信していたサー・トーマスですが、彼は海岸沿いに延びる松林の中の道を進む歩兵たちの脇を行き来しながら、彼らを励ましていました。 「みんな、もうすぐだぞ!」 サー・トーマスは隊列の後方に向かって馬を進めながら叫びました。 「もうじき着く!がんばれ!」 彼はしきりに右側に目をやり軽騎兵隊が敵の進軍についての情報を持ってくるのではないか、と半ば期待していました。 ウィッティンガムは松林の内陸側に斥候を出してみましたが、彼らは姿を見せないままでした。サー・トーマスは、フランス軍は連合軍をカディスに向けて不名誉な撤退をさせることだけで満足したのではないかと推測しました。 銃声は止んでいました。フランス軍は確実に海岸線を封鎖していましたが、南からの銃声が止みつつある間に、彼らは姿を消していました。 サー・トーマスは、ただの小競り合いだったのかもしれないと思いました。軽騎兵の斥候部隊がセッロ・デル・プエルコの大スペイン軍団と接触しただけかもしれない。 彼は立ち止まって兵士たちが通り過ぎるのを見ていました。着かれきった兵士たちが、彼の姿を見ると背筋をまっすぐに伸ばすのが心に食い入るようでした。 「もうすぐだぞ、みんな」 彼は、自分がどんなに彼らを愛しているかを思っていました。 「神様がついていてくださる。もうじきだ」 彼は叫びながら、しかしどこがもうすぐなんだろう、と苦々しく感じていました。 この骨までくたくたの兵士たちはすでに一晩中荷物や武器を背負ったままで歩き続け、そしてそれは、今では無駄になってしまったのでした。 ただ、イスラ・デ・レオンに退却していくためだけの徒労だったのでした。 突然、北の方角で叫び声が上がりました。 兵士の一人は奇襲だと叫び、サー・トーマスは道を見下ろしましたが、何も見えず何も聞こえませんでした。 やがてシルバー・テイルズの将校が二人の男を引き連れて、馬で駆けてくるのが見えました。 二人の男たちは民間人で、銃とサーベルとピストルとナイフで武装していました。 パルティザンだ。と、サー・トーマスは思いました。フランス軍に占領されたスペインの地獄を生き延びた男たちでした。 「将軍、彼らはあなたに話したいことがあるそうです」 と、シルバー・テイルの将校は言いました。 二人のパルティザンたちは、いっぺんに話し始めました。早口で、興奮していました。 サー・トーマスは彼らをなだめました。 「私のスペイン語はゆっくり出ないと駄目なんだ」 と、彼は言いました。 「だからゆっくり話してくれ」 「フランス軍です」 と、片方の男が東を指差しました。 「あんたがたはどこから来たんだね?」 と、サー・トーマスは尋ねました。 男のうちの一人が説明するには、彼らは比較的大きいグループのメンバーで、この3日間フランス軍を追跡してきたのだということでした。6人でメディナ・シドニアを出発し、途中、明け方に竜騎兵に見つかり、海岸まで追い立てられて、彼ら二人だけが生き延びて荒野を横切ってきたのでした。 「そこはフランス軍でいっぱいでした」 と、もう一人の男が力をこめて言いました。 「こちらに向かっています」 最初の男が付け加えました。 「どれくらいの規模のフランス軍かね?」 と、サー・トーマスは尋ねました。 「全軍です」 二人の男たちは同時に答えました。 「見に行こう」 サー・トーマスは言い、二人の男と参謀たちを連れて松林に入りました。 彼は枝を避けるために身をかがめなければなりませんでした。森は広く深く、濃い影を落としていました。砂土を覆った松葉が、蹄の音を消しました。 松林は急に終わり、朝日の下で波打つヒースの荒野に変わりました。 その広い視界いっぱいに、ブルー・コートに白のクロス・ベルトをかけた集団が広がっていました。 「セニョール」 と、パルティザンのひとりが手柄でも立てたかのように彼らを示しながら言いました。 「なんということだ」 サー・トーマスは低くつぶやきました。そしてしばらくの間無言で、ただ敵の接近を見つめていました。 パルティザンたちは、将軍はショックのあまり言葉を失ったのだと思いました。 たしかに、彼は災厄が近づきつつあるのを見てしまったのでした。 しかし、サー・トーマスは考えていたのでした。 彼らがマスケットを肩にかけて進んでいることに、サー・トーマスは気づいていました。彼らは前方に敵がいることに気づいていない。したがって、彼らは闘いに向けて進んではいましたが、戦いのさなかに向けて進んでいるわけではないのでした。 そこには大きな違いがありました。 マスケットは装填されてはいても射撃の準備はできておらず、大砲も砲身の重さを考えれば、展開できるまでに時間がかかるはずでした。 フランス軍はまだ戦闘準備ができていない。 サー・トーマスはそのように考えました。 彼らは戦闘があることを予期してはいるが、まだだと考えている。 疑いなく、彼らは自分たちが松林を通り抜ける最初の軍団だと考えていて、その後に殺し合いが始まると思っている。 「ラペーニャ将軍の後に続かなければ」 と、連絡将校が気遣わしげに言いました。 サー・トーマスはその言葉を聞いていませんでした。彼は指先で鞍頭を軽くたたきながら考えていました。 もし北進を続ければ、フランス軍はバルロッサの上方の丘で旅団を分断し、右翼に回り込んで海岸に向けて攻撃をかけることになるでしょう。サー・トーマスは左側面が無防備なまま、防御を強いられることになりかねません。 いいや、ここで連中を迎え撃つほうがいい、と、彼は考えました。 それはたやすいことではなく、ひどい混乱を招くことになるかもしれませんでしたが、北進を続けて彼自身の血であるとも言えるレッド・コートの兵士たちを海に追い込むよりはましでした。 「閣下」 と、サー・トーマスはいつに似合わぬ丁重さでウィリアム・ラッセル卿に目を向けました。 「ウィートリー大佐に私の敬意を伝え、旅団を率いてこの連中に正面対決するように命じていただきたい。先鋒隊を出来る限り早くよこすように言ってくれ!旅団本隊が来る間に、軽歩兵隊に敵を包囲させたい。大砲も持ってくるように。ここにだ!」 彼は馬が立っている彼の真下の地面に向けて片手を突き下げました。 「急げ。時間がない!ジェイムズ」 と、彼はもう一人の参謀に合図をしました。彼は第1近衛歩兵部隊の大尉で、レッド・コートに黄色い胸当てがついたユニフォームを着ていました。 「ディルクス将軍に敬意を。そしてここに彼の旅団を」 彼は右に向かって手を振りました。 「砲兵隊をあの丘の間に陣を取ってもらいたい。まず遊撃隊を送るように!急げ!出来るだけ早く!」 2人の参謀は木立の中に消えていきました。サー・トーマスはしばらくとどまり、半マイルよりも手前のすぐそこに近づいているフランス軍を見ていました。 彼は大きな賭けをしていました。 彼らの準備ができていないうちに叩き潰したかったのです。しかし彼は、自分の旅団に深い木立を抜けさせるには時間がかかることをわきまえていました。だからまず遊撃隊をよこすように命じたのです。彼らなら荒野に攻撃のラインを設け、フランス兵の殺戮を始められるでしょうし、サー・トーマスは遊撃隊だけが残りの部隊が到着して決定的な射撃を開始するまで持ちこたえることが出来るとわかっていたのです。 彼は連絡将校に視線を向けました。 「よろしい」 と、彼は言いました。 「ラペーニャ将軍にこの松林を抜けてご自分の旅団を移動させていただければ光栄だと伝えて欲しい」 彼は注意深く言葉を選んでいました。 将校は馬で去り、サー・トーマスは東に目を戻しました。 フランス軍は巨大な2列横隊で近づきつつありました。 彼の計画はウィートリーの旅団を北側の隊列に向かわせ、その間にディルクス将軍とその親衛隊がセッロ・デル・プエルコに近い隊列に直面させる、というものでした。 そして彼はセッロ・デル・プエルコのスペイン軍のことを思い出しました。 フランス軍はその南側の軍勢を丘に向けて進軍させるかも知れず、それは許されてはならないことで、さもなければ敵軍はサー・トーマスの防御のもろい右側面を急襲することが可能になってしまうのでした。 彼は南に向き直り、残りの参謀たちを率いてセッロ・デル・プエルコに向かいました。 松林を抜けながら、あの丘は地の利を得ている、と彼は考えていました。 頂上にはスペイン軍の大砲があり、フランス軍に向けて砲撃が可能でした。 その丘は彼の軍の弱点である右翼を防御する要塞でした。それにフランス軍が平原で食い止められた場合、その側面を攻撃するために丘の上に配備した旅団を使うことが出来るかもしれないのでした。 彼は木立から馬で抜けながら、神に感謝していました。 しかしそれも、そうだと仮定してのことでした。 セッロ・デル・プエルコはすでに放棄され、サー・トーマスが南に乗り入れようとしたときには、もはやフランス軍の先頭はその丘の東の斜面を登りつつありました。 いまや敵軍はセッロ・デル・プエルコを制圧し、目に入った連合軍はジブラルタル守備隊の500名ほどの兵士たちだけで、彼らは高地を抑える代わりに丘のふもとで更新のための隊列を組んでいるところでした。 「ブラウン!ブラウン!」 サー・トーマスは隊列のほうに馬を寄せながら怒鳴りました。 「なぜここにいるのだ!なぜ!」 「フランス軍全軍の半数があの丘を登ってきたからです、サー・トーマス」 「スペイン軍はどこだ?」 「逃げました」 サー・トーマスは一瞬ブラウンを見つめました。 「そいつは参ったな、ブラウン」 と、彼は言いました。 「だがきみは直ちに向きを変え、攻撃を開始しなければならんのだ」 ブラウン少佐は目を見開きました。 「あの軍勢に攻撃をかけることを、私にお望みですか?」 彼は疑わしそうに尋ねました。 「私が見たのは6大隊と1砲兵隊が向かってくるところだったのであります!わが方はたった536のマスケットしかありません」 スペイン軍に置き去りにされたブラウンは、歩兵と砲兵の大軍勢が丘に接近するのを見て、自殺よりは撤退のほうがましだと考えたのでした。 視界にはほかに英軍の姿はなく、彼には援軍の保証もなく、そこで彼はジブラルタル守備隊を率いて北側から丘を下ったのでした。 今、彼は危地に立っていました。 「もしご命令であれば」 と、彼はストイックに運命を受け入れて言いました。 「遂行いたします」 「命令だ」 と、サー・トーマスは言いました。 「なぜなら、あの丘が私には必要だからだ。許せ、ブラウン。必要なのだ。だがディルクス将軍がやってくる。私が彼を自分でここに連れてくる」 ブラウンは副官を振り返りました。 「ブレイクニー少佐!丘へ戻るぞ!連中を一掃する!」 「サー・トーマス」 と参謀の一人がさえぎり、すでに丘の頂上にフランス軍の戦闘が到着したのを指差しました。ブルー・コートが稜線に並び、斜面を降りる体勢をとっていました。 サー・トーマスはそのフランス軍を見つめていました。 「軽歩兵では食い止められんぞ、ブラウン」 と、彼は言いました。 「一斉射撃だ」 「間合いを詰めろ!」 と、ブラウンは攻撃の命令を待っている兵士たちに叫びました。 「大砲も来ています、サー・トーマス」 と、参謀は静かに言いました。 サー・トーマスはその報告を黙殺しました。 フランス軍が皇帝の大砲全部を丘の頂上に持ってきていたとしても、それは問題ではありませんでした。彼らはすでに攻撃を仕掛けられようとしており、それには歩兵に斜面を登らせて突撃させ、ディルクス将軍の守備隊が援護に駆けつけるまで持ちこたえるよりほかに手はありませんでした。 「神が守ってくださるよ、ブラウン」 サー・トーマスは少佐には聞こえないほど静かな声で言いました。 サー・トーマスはわかっていました。 自分がブラウンの兵士たちを死に追いやろうとしているということを。 しかし彼らは、守備隊が到着するまでの時間を稼ぐために死ななければならないのでした。 彼は参謀の一人をディルクスの兵士たちを招集するために送り出しました。 「彼は私の命令の終わりのほうを無視しているぞ」 と、彼は言いました。 「全速力で部隊を連れて来いと言え。全速力だ!行け!」 サー・トーマスはやるべきことを終えました。バルロッサとベルメハの村の間の海岸線は2マイルほどの間はフランス軍でごった返し、ある大隊は丘に対する松林を占拠していました。 サー・トーマスは、敵が勝利の一歩手前にいることを理解していましたが、兵士たちの戦闘能力のすべてをかけた賭けに打って出なければなりませんでした。 彼の配下の2つの旅団は数で圧倒されていましたが、少なくとも1旅団は坂を上って攻撃をかけねばならず、さもなければ軍のすべてが失われてしまうことになるのでした。 彼の背後には松林の向こうに荒野が広がり、やがて最初の銃声が聞こえてきました。 そしてブラウンは、丘の上へと彼の部下たちを引き返させたのでした。 #
by richard_sharpe
| 2008-11-18 18:49
| Sharpe's Peril
「Sharpe's Peril」DVD見終わりました。
Disk1が各90分弱のドラマ前後編、Disk2は100分のムービー・バージョンとメイキング、フォト・ギャラリー(ロケ地やセットなど)でした。 酷評されていたレビューばかり読んで身構えていたせいか、ひどい出来だとは思いませんでした。(ファンの欲目?) シャープはやっぱり乱暴ながらもフェミニストだし、ちょっとピンチにも陥るし、それに最後にちゃんと振り返る。 ハーパーは尿道結石か腎臓結石かでときどき苦しんでいましたがやっぱり頼もしいし。 オバダイア・ヘイクスウェル軍曹の息子に対しては、あの態度はやりすぎかも。(気持ちはわからないでもないですが) でもそれが後の場面で生きてきたり。 シマーソンが今回は楽しかったです。 それから、若い少尉(名前が聞き取れませんでした)。彼もよかった。 メイキングでは、ロケの大変さが・・・。 特に気候。毎日毎日暑くなっていって、47度くらいにまで上がったそうです。 汗だくになって痩せた、とか。 最後、ショーンにみんながシェフィールド・ユナイテッドの歌を歌ってあげて、ロケの終了を祝っていました。 だから楽しく鑑賞できましたが、もうインドはいいんじゃないかな・・・。 #
by richard_sharpe
| 2008-11-16 19:14
| Sharpe's Peril
ITV の 「Sharpe's Peril」 のオフィシャルサイトの体裁が少し変わっていました。
こちら。 写真も。 ![]() ![]() DVD、まだ見ていないんです。何しろ2枚。 ぶつ切りで見るか、一気に見るかで悩んでいるところです。 訳の続きは週明けに。 #
by richard_sharpe
| 2008-11-14 13:50
| Sharpe's Peril
「Sharpe's Peril」の2枚組みDVDが、今日届きました。
9日に2話目の放送が終わったばかりだというのに、早い・・・。 とりあえずDVDが動くことは確認しましたが、明日は病院なので鑑賞は明後日以降になりそうです。 楽しみ・・・でもあるし、コワくもある。 (何しろ原作なし) #
by richard_sharpe
| 2008-11-12 19:28
| Sharpe's Peril
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第10章 - 4 シャープは一番高い砂丘に登り、リオ・サンクティ・ペトリ川の方向に望遠鏡を向けました。 フランス兵たちの後姿が海岸に見えましたが、彼らの頭の辺りはマスケット銃の煙でかすんでいるようでした。望遠鏡がちゃんと固定できなかったので、像は安定しませんでした。 「パーキンス!肩を貸せ」 パーキンスは望遠鏡の台になってくれました。シャープは接眼鏡に目を当てました。 望遠鏡を固定しても、何が起きているのかよくわかりませんでした。フランス軍は3列に並び、その向こう側は火薬の粉塵で煙って隠されてしまっていました。 彼らは連射を続けていました。 フランス軍の左翼は砂丘に隠れていて隊列全体を見渡すことはできず、しかし少なくとも1000人の兵士たちがいることは見て取れました。 イーグルが2つ見え、砂丘に隠されたところにも少なくとも2大隊はいるように思われました。 「のろまですね、連中」 ハーパーが彼の後ろにやってきました。 「のろまだな」 と、シャープも言いました。 フランス軍は大隊ごとに発砲していましたが、もっとも遅い兵士に銃撃のタイミングを合わせているためでした。たぶん1分間に3発撃つのは無理かもしれない、とシャープは思いました。 しかし彼らは負傷者をほとんど連れていないようだったので、数としては十分なように見えました。 彼は望遠鏡をゆっくりと彼らの隊列に沿って動かし、たった6人の死体が将校たちがいる隊列の背後に引きずってこられているのを見ました。 スペイン軍の銃声が1度か2度聞こえましたが、姿は見えませんでした。やがて煙が薄くなってくるにつれ、スペイン軍のライトブルーのユニフォームが見えてきました。そしてその隊列はフランス軍からたっぷり300歩は離れていることがわかりました。 「もっと近づかないと」 と、シャープはつぶやきました。 「俺も見ていいですか?」 と、ハーパーが尋ねました。 シャープは、これはハーパーの戦いじゃなかったんじゃないのか、とか何とか言い返そうとしましたが、代わりにパーキンスの肩の場所を貸してやりました。 彼は振り返って、古い廃墟に飾られた小島の周りに打ち寄せる波に目を向けました。 10隻あまりの漁船が波打ち際の向こう側で、戦いを見物していました。 銃声に引き寄せられた、サン・フェルナンドからの観客たちの船もありました。 間違いなく、好奇心に駆られてカディスからの観客もすぐにやってくると思われました。 シャープはハーパーから望遠鏡を受け取りました。 彼はそれをしまおうとして、指が小さなプレートに触れました。 1803年9月23日、感謝をこめて、AW プレートにはそう記されていました。 ロンドンのマシュー・バージ製のすばらしい工芸品であるその望遠鏡は、影の薄い印象のヘンリー・ウェルズレイをシャープに思い出させました。その望遠鏡は、ウェリントン公にとってはありがたくない行為の代償としてシャープに与えられたもので、シャープが欲しいと思っていたものではありませんでした。 まあ、それはどうでもいいことでした。 1803年。 と、シャープは思いました。 なんと昔のことだろう! 彼はその日のことを思い出そうとしました。ウェリントン公、当時のサー・アーサー・ウェルズレイをシャープが救った日。 5人の敵兵を殺したと彼は思いましたが、確かではありませんでした。 スペイン軍の工兵隊は舟橋の最後の30フィートにわたって橋板を横に渡し、無許可にカディスに向かって渡るものを阻止しようとしていました。しかしザヤス将軍は今、明らかに橋を渡るこ開くことを望んでいました。そして、スペイン軍3大隊は橋を渡ろうとしているということを、シャープは確認しました。 ザヤスは明らかにフランス軍を後尾から攻撃しようと決意したのでした。 「俺たちもすぐに行くことになるぞ」 と、彼はハーパーに言いました。 「パーキンス、みんなに合流しろ」 と、ハーパーは小言を言いました。 「軍曹、望遠鏡を俺も見ていいですか?」 と、パーキンスは懇願しました。 「おとなになってからな。行け」 3大隊が橋を渡る時間は、長すぎるように感じられました。 その橋は舟橋というよりもむしろ長い艀でできており、狭く不安定でした。 シャープと部下たちがガリアーナ大尉に合流する頃には、好奇心旺盛な見物人たちがサン・フェルナンドやカディスから100人近く集まり、歩兵部隊の後から舟橋を渡ろうとしていました。 砂丘に登ったり、フランス軍に望遠鏡を向けている者たちもいました。 「橋を渡る邪魔をしようとしている」 と、ガリアーナは苛々した様子で言いました。 一般市民を渡らせたらいけないんじゃないのか?」 と、シャープは言いました。 「ところで正直なところ、向こう側であんたは何をしようとしているんだ?」 「何をする勝手」 とガリアーナは言いましたが、実際彼はなんと答えていいかわからなかったのでした。 「私が役に立つ人間だということを証明する」 と、彼は言いました。 「何もしないよりはましではないか?」 最後尾のスペイン師団が渡り終わろうとしており、ガリアーナは前に踏み出しました。 彼は短い橋の上で馬から下り、不安定な橋板を手綱を取って進もうとしましたが、突堤の道に到着する前にスペイン兵たちが間に合わせのバリケードを築きました。 1人の中尉がガリアーナに警告を発しました。 「俺の連れだ」 ガリアーナが口を開く前にシャープが言いました。 がっしりとして背の高い無精ひげの中尉は、胡散臭そうにシャープを見ました。 英語を理解していないようでしたが、引き下がろうともしませんでした。 「彼は俺の連れだといったはずだ」 と、シャープは言いました。 ガリアーナはシャープを手で制して、スペイン語で早口に何か言い、 「命令書を持っているか?」 と、シャープを見ながら英語に切り替えました。 シャープは命令書を持っていませんでした。 ガリアーナは、シャープがサー・トーマス・グレアム中将に向けたメッセージを伝えに行くところだと説明しました。もちろん命令は英語だが、中尉は話せるのか? ガリアーナは自分のことを、シャープの連絡将校だと説明しました。 本当なら今頃は、シャープは5人のライフルマンたちのために、サン・フェルナンドの酒保でビーフとパンとラム酒の配給量を手に入れているはずでした。 彼はその許可証を、気色ばんだライフルマンたちとなだめようとしているガリアーナを怒鳴りつけようとしている中尉に突きつけました。 彼は横木を脇にどけるように命じました。 「きみに頼りっぱなしだったな」 と、ガリアーナは言いました。 彼は手綱を引き寄せ、雌馬の首をなでてゆれる舟橋を怖がらないようになだめていました。 シャープがグアディアナで破壊したものほど頑丈ではない出来の舟橋は振動し、潮の流れにぐらぐらしていました。 そして何とか対岸に渡ると、ガリアーナは再び馬に乗り、舟橋を守備するために作られた臨時の砦のある砂丘を過ぎ、シャープを南に先導しました。 ザヤス将軍は3大隊を海岸に1列に並べ、ゆっくりと前進させていました。 右手から打ち寄せる波が、彼らのブーツを洗っていました。 兵士たちが脱ぎ捨てないように、軍曹たちが叫んでいました。 スペイン軍の制服は青空に対抗するような明るいブルーでした。 遠くから、マスケットの銃声よりも重々しい大砲の音が空気を切り裂いて聞こえてきていました。 それはやがて静かになり、散発的な銃声が近づいてきて、シャープは他の銃声も聞いたように思いましたが、それはまだ遠くでした。 「もう帰れるぞ」 と、彼はハーパーに言いました。 「この連中が最初に何を始めるのか見ましょう」 とハーパーは言って、スペイン軍のほうにうなずきました。 連中 はただそこにいただけでした。 ヴィラット将軍は自軍が後方から攻撃されると見て取ると、アルマンザ・クリークを東に渡って後退しました。負傷者も運ばれました。 スペイン軍は彼らが去るのを見ると歓声を上げ、そして退却するフランス軍から略奪をしようと砂丘を駆け上がりました。彼らはほとんど2倍の数で敵を圧倒していました。 ガリアーナは鐙に立ち上がり、得意げでした。 南北双方から合流したスペイン軍は、確かにこのときはフランス軍を水路の向こうに追い立て、チクラーナに向かう未知の上に遠ざけることが出来ましたが、今度はアルマンザの向こう岸から砲撃が始まりました。 12ポンド砲の砲兵部隊がしっかりと固定した砲から東に向けて一斉射撃し、砲弾は地面に当たって爆発し、爆風で砂が巻き上がりました。 スペイン兵たちは砂丘の後ろに身を隠し、その隠れ場所に向かってスライスするように第2弾が砲撃されました。 フランス歩兵部隊の後列は水路を渡り、上げ潮をはさんで新たにスペイン軍に面したラインを作っていました。 砲撃はやみ、煙が水面を漂っていました。 フランス軍は、じっくり待つことにしたようでした。 連合軍の退却を阻もうとした彼らの兵力は押しのけられましたが、それでも大砲は橋に向かってくる軍勢に砲弾を浴びせることが出来ました。 彼らは第2の砲兵部隊を増援し、海岸から敵軍を退却させて満足しているスペイン軍が砂丘に隠れているうちに、南からの退却が始まるのを待ちました。 アルマンザに徹底的に追撃しなかったことに失望したガリアーナは、スペイン将校たちの一群に馬を向け、そしてシャープのところに戻ってきました。 「グレアム将軍は南にいる」 と、彼は言いました。 「ここに後衛部隊をつれてくるという命令を受けているそうだ」 2,3マイル先の丘から、マスケットの煙が漂ってくるのがシャープには見えました。 「まだ着いていないようだ」 と、彼は言いました。 「それなら俺が会いに行こう。帰っていいぞ、パット」 ハーパーは、ちょっと考え込みました。 「それであなたは何をするんです?」 「俺はただ海岸を散歩するだけだ」 ハーパーは他のライフルマンたちを見渡しました。 「誰か俺とミスター・シャープと一緒に海岸を散歩したいものはいるか?それとも戻ってあのむさくるしい中尉に通してくれるように頼むか?」 南からもう一発の砲声がとどろいてくるまで、ライフルマンたちは何も言いませんでした。そして、ハリスが顔をしかめました。 「あっちで何が起きているんです?」 と、彼は尋ねました。 「俺たちには関係のないことさ」 と、シャープは言いました。 ハリスは兵営つきの弁護士になることもあり、自分たちには関係のないその戦いについて何か言いたげでしたが、ハーパーと目があってしまって彼は何も言わないことにしました。 「俺たちはただ、海岸で散歩するだけだ」 と、ハーパーは言いました。 「それに散歩にはいい日だぞ」 彼はシャープが怪訝な目つきで見ているのを見返しました。 「俺はフォーの連中のことを考えていたんです。みんなあっちにいますからね。ダブリンから来た気の毒なやつらですよ。連中はホンモノのアイルランド人ってやつを見たいんじゃないかと、俺は思うんです」 「でも戦いに行くわけじゃないですよね?」 と、ハリスはこだわりました。 「お前、自分を何だと思っているんだ、ハリス?兵隊じゃないか?」 と、ハーパーは手厳しく言いました。彼はシャープの視線を気にしていませんでした。 「もちろん、俺たちは闘いにいくわけじゃない。ミスター・シャープのおっしゃったことを聞いただろう。海岸を散歩するんだ。俺たちのすることはそれだけだ」 そういうわけで、彼らはそうしました。 海岸の散歩に、彼らは出かけていきました。 #
by richard_sharpe
| 2008-11-12 17:58
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