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このところのナマケ癖にもかかわらず、いつも見に来てくださる皆様、ありがとうございます。
12月に入ってからのバタバタと通院と相変わらずの発熱で、訳が進みませんでした。 さっきまで続きを訳していたんですが、キリのいいところまでいきません。 そんなわけで続きは年明けにさせていただきたいと思います。ごめんなさい。 あと1章と半分でFuryが終わるというのに・・・(目標は年内完了だったのに)。 今年1年、どうもありがとうございました。 どうか皆様、よいお年をお迎えください。 ![]() #
by richard_sharpe
| 2008-12-27 17:19
| 欄外のお知らせ
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 3 ラヴァル将軍は、同僚のラッフィン将軍が丘を攻撃している一方で、松林のほうに進撃しました。 前方に広がって進む4千人の兵士たちで構成された6大隊でした。ラヴァルは4大隊を前方に、2大隊を後方に配置しました。 フランス軍の各大隊は、それぞれ6中隊で構成されていました。師団の縦列は横に2中隊、奥行き3中隊で並びました。 太鼓手が彼らを鼓舞していました。 ホイートリー大佐にはその4千の軍勢に対して2千の兵士たちが与えられていました。戦いは、混乱の中で始まりました。 司令官が到着した時、部隊は進軍の命令を受けたところでした。そして、松林の中は大混雑でした。 コールドストリーム守備隊の2中隊はホイートリーの部下たちの真ん中を突っ切っており、彼らを本来所属するディルクスの部隊に合流させる命令を出す時間もなく、やむを得ずコールドストリームはホイートリーの指揮下で闘うことになりました。第67ハンプシャー連隊の半数は、迷子になっていました。この5中隊は本当はホイートリーとともにあるはずでしたが、気づいたらディルクスの指揮下に入っていました。 手っ取り早く言うと、それは混沌状態でした。深い松林の中で大隊将校たちは自分の部下たちを見渡すことが出来ず、しかし中隊将校と下士官たちはなんとか仕事をこなしており、レッドコートたちを木々をぬって東に導いていきました。 まず松林から姿を現したのはライフル隊の400人とポルトガルの突撃隊300人でした。 その将校たちの多くが馬に乗っており、フランス軍は林から現れた敵軍に驚き、騎兵隊の攻撃だと思ったのでした。 その印象は、80騎の馬に引かれた砲兵隊10部隊がチクラーナの左の林から砲撃したことによってさらに強められました。そして林から出た歩兵たちは砂や土埃を巻き上げて右側から攻めてきました。 いちばん近くにいたフランス軍の2大隊には砂煙の中の馬だけが見え、騎兵隊に備えて四方陣形を取りました。 砲兵たちは砲車から飛び下り、大砲を持ち上げて狙いをつけ、その間に馬たちは松林に隠されました。 「砲弾を使え!」 ダンカン大佐は叫びました。 砲車から砲弾が運ばれ、将校たちは導火線を短く切りました。フランス軍への距離が短かったのです。 フランス軍もまた、突然の混乱に陥りました。 2大隊が四方陣をとり、空想上の騎兵隊に備えていたのですが、残りの部隊は英軍の大砲が火を噴き始めたのを見てためらいました。 砲弾が荒野の上300ヤードを越え、それぞれ波打つ煙の尾を引いて飛びました。ダンカンは視界のいい馬上から、方陣の真ん中に砲弾が落ちたのを確認しました。 「よし!いいぞ!」 と、彼は怒鳴りました。そしてちょうどそのとき、ライフルマンとカサドールたちの突撃隊が射撃を開始しました。銃声が響き、フランス軍はその猛撃にひるんだようでした。 縦列の前方は銃撃を返しましたが、突撃隊はフランス軍の前列を蹴散らしました。フランス軍のマスケットの銃撃は散発的で不確かでした。一方でフランス兵たちは密集体型を取らされており、近距離にいるライフルの格好の標的でした。 英軍右翼の二つの砲兵中隊は再び砲撃をし、ダンカンはフランス軍の馬の部隊が荒野を駆けてくることに気づきました。 彼は大砲6門に命じました。 「ラウンド・ショットだ!」 と、彼は叫びました。 「上手く転がすんだ!」 兵士たちは弾道を変えるために梃子で砲身を動かしました。 「やつらの大砲に当てろ!」 と、ダンカンは命じました。 フランス軍は、もう立ち直っていました。四方陣形の2つの大隊はミスを悟り、横列に展開しなおしました。 副官たちが大隊の間を馬で駆け抜け、前進、射撃、その射撃に集中して突撃隊を撃破することを命じて回っていました。 太鼓も再び始まり、「パ・ドゥ・シャージ」を打ち鳴らして兵士たちの 「皇帝万歳!」 の叫び声を誘っていました。 最初は弱弱しいものでしたが、将校や軍曹たちが大声で叫ぶことで、兵士たちの間にも雄たけびが広がりました。そして2度目の鬨の声は、しっかりとしたものになっていました。 「皇帝万歳!」 「撃て!」 と将校の一人が叫び、前列から正面のポルトガル突撃隊に向けて発砲が始まりました。 「前へ進め!」 死傷者を収容して突撃隊を撃破する番でした。 英国の砲門は仏軍砲兵隊に向けられたため、砲弾は歩兵の隊列を砕くことはありませんでした。 「皇帝万歳!」 それぞれの隊列の戦闘に続く8列の兵士たちは、死者と死にかけている者たちを踏み越えて進んでいきました。 「撃て!」 さらに射撃が続きました。 4000の兵士たちが700人に向かって行進していました。 フランス砲兵隊は歩兵の隊列前面を横切って砲弾を発射しました。 爆風で草がなびき、ポルトガルのカザドールたちと英軍ライフル隊員は血まみれになって放り上げられ、たたきつけられました。 突撃隊は退却を始めていました。 フランスのマスケット部隊はあまりにも密集しており、6門の敵の大砲が彼らに向かって発射されました。 一瞬の静寂の後、ラウンド・ショットが兵士たちを彼らをなぎ倒し、100ペースあまりも大砲を引きずりました。 射撃が何度も何度も続き、突撃隊は血まみれのぼろに姿を変えました。 フランス軍の前方の4大隊は勝ちを急ぎました。 進軍しながらの装填は難しく、彼らの射撃は次第にまばらになりました。兵士たちの中には、銃剣を装着するものもいました。 英軍突撃隊は後退し、林の間近にまでせまりました。 ダンカンの左翼の大砲2門は危機を察し、砲弾と榴弾をフランス大隊の前面に発射し、前列の兵士たちは巨大なものに踏みにじられたように血煙をあげて倒れました。 そしていきなり、林にそって兵士たちの大群が現れました。 シルバー・テイルズはホイートリーの左翼に並び、その横にはコールドストリームの迷子の2中隊がいました。 ゴーフのアイルランド部隊は近衛隊の右に、そして第67連隊の半分、そして大砲の次には第47連隊カリフラワーの2中隊が並びました。 「止まれ!」 号令が森にそって響きました。 「待て!」 軍曹が怒鳴りました。 兵士たちの中には銃を持ち上げたものもいました。 「命令を待て!」 「右向け、右!」 声と、馬上からの将校の叫びと、木々の間の無秩序な軍勢の中で整列の命令を軍曹による伝令との混乱でした。 「見ろ、みんな!見えるか!朝のお楽しみだ!」 ミーズ郡産の鹿毛の去勢馬に乗ったヒュー・ゴーフ大佐は第87連隊の彼の大体の後ろにいました。 「練習用の的を見つけたぞ、諸君!」 と、彼は叫びました。 「だがもう少し待て。もう少しだ」 新しく到着した大隊は、整列を回復していました。 「前進させろ!」 ホイートリーの参謀たちが叫び、2列の長い隊列は荒野の上を、戦死したり死にかけたりしている突撃隊の兵士たちの体を踏み越えて歩を進めました。 第67連隊をフランス軍の放った砲弾が掠め、一人の兵士を真っ二つにし、12人の兵士たちに血しぶきを浴びせ、後方にいた兵士の片腕をもぎ取りました。 「集結!集結!」 「止まれ!構え!」 「皇帝万歳!」 「撃て!」 冷厳な数学の法則が戦闘の場に応用されていました。 フランス軍はイギリス軍に対して2倍の数で圧倒しており、ただ、フランス4個大隊は分割されていて、各々の大隊が9列になり、1列に平均してだいたい72人の兵士たちが並ぶということになりました。1列に72人が並んだ4大隊は300足らずの銃を前列に構えていました。実際には第2列の兵士たちも前列の戦友の肩越しに射撃をすることも出来ましたが、それでもラヴァルの4千の兵士たちのうち実際に英軍に射撃が出来るのは600丁の銃だけで、それに対して英軍はすべての兵が銃を撃つことができ、ホイートリーの軍勢は、今では1400以上になっていました。 フランス軍の新劇を遅らせる働きをした突撃隊は側面に走りこみました。 そして、ホイートリーの軍勢は射撃を開始しました。 銃弾はフランス軍部隊の先頭に食い込みました。 レッドコートたちは煙に隠され、その陰で銃の再装填をしていました。 「小隊ごとに射撃!」 将校たちは叫び、連射が始まることになりました。中隊の半数がすぐに発砲し、そして次に残りの半数が、というように銃弾が途切れることはありませんでした。 「どんどん撃て!」 将校の一人が怒鳴りました。 散弾筒が煙を切り裂いて破裂しました。 片目を打ち抜かれた兵士がよろめいて倒れ、その顔は血だらけでした。しかしフランス大隊のいたるところで、銃弾によりさらに多くの血が流されていました。 言い訳 #
by richard_sharpe
| 2008-12-12 16:36
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 2 ブラウン少佐は馬を松の幹につなぎ、自分は徒歩で丘を登り始めました。 登りながら、少佐は歌を歌っていました。彼は良い声の持ち主で、ジブラルタル守備隊が暇をもてあましているときなどにその歌唱力は非常に珍重されていました。 「いざ来たれ、わが兵士たち!」 と、彼は歌い始めました。 「栄光への舵取りのときが来た このすばらしい年へと多くを与えん われらは君を名誉へといざなう 奴隷のごとく強いるのではなく 波間の子等より自由な者がいようか?」 それは海軍の軍歌で、ジブラルタルに上陸した艦船の乗組員たちが歌っているものでした。彼はセッロ・デル・プエルコの北側の斜面を攻撃しながら登って行くには似つかわしくない歌であることを知っていましたが、少佐は「ハーツ・オブ・オーク」が好きでした。 「みんなも歌ってくれ!」 と、彼は怒鳴りました。すると、急ごしらえの彼の6中隊による師団は合唱を始めました。 「オークの心、それはわれらが艦 オークの心、それはわれらが兵」 不ぞろいな歌でした。 「われらは常に準備万端 しっかりと、兵士たちよ、踏みとどまれ! われらは闘う われらは征する 幾たびも幾たびも」 コーラスが終わった短い沈黙の間に、少佐は丘の頂上で銃の撃鉄が起こされる音をはっきりと聞き取りました。 上方にはフランス軍の4大隊がいるのが見えました。他にもそこにいるのかどうかはわかりませんが、彼に見える4大隊は銃を構え、殺戮の用意を整えていました。 1門の大砲が兵士たちによって引き出され、砲門を下に向けていました。 楽隊が丘の頂上で演奏していました。 陽気な歌で、殺戮のための音楽でした。そしてブラウンは、自分がフランス軍の音楽に合わせて剣の柄を指でたたいていることに気がつきました。 「汚らわしいフランス軍の雑音なんか気にするな!」 と、彼は叫びました。 長くはかからない。 と、彼は思いました。もう長くはかからない。そして、英軍の正統な音楽を聞かせてやりたいと思いました。しかし楽隊がいるわけでもなく、その代わりに彼は「ハーツ・オブ・オーク」の最後のフレーズを歌いだしました。 「われらは敵をさらに恐怖に突き落とす われらは敵をさらに蹴散らす そして海原では敵を打ち負かし 海原でわれらは敵を打ち負かす だからいざ、兵士たちよ 行かん そしてひとつの心で歌うのだ われらが兵よ 水兵たちよ われらが指揮官 国王よ」 フランス軍は射撃を開始しました。 丘の稜線は見えなくなり、硝煙が灰白色の大きな川のようにたちこめ、戦列が展開している中央の、煙がいちばん濃いところで真っ黒な爆発が起こり、炎とともに炸裂してあたりに破片が飛び散り、砲弾が斜面を転がり落ちました。兵士たちのかかとに接するようにして進んでいたブラウンには、兵士たちの半分が倒れたように見えました。 頭上に血煙が上がり、最初に苦しげな息遣いがきこえました。それがすぐに悲鳴に変わるだろうことを、彼は知っていました。軍曹や伍長たちが兵士たちを集めるために叫んでいました。 「密集隊形!」 「集まれ!みんな!」 と、ブラウンも怒鳴りました。 「敵を蹴散らせ!」 彼には最初は536丁のマスケット銃がありましたが、今では300あまりになっており、そしてフランス軍は少なくとも1000以上でした。ブラウンは痙攣している死体をまたぎながら、煙の中で散発的に発射される銃の火花を見ていました。 奇蹟だ、と、ブラウンは思っていました。 自分はまだ生きている。 軍曹がひとり、彼の脇をよろめきながら追い越しました。その下あごは吹き飛ばされ、血の滴る口髭から舌がだらりと垂れ下がっていました。 「行くぞ、みんな!」 と、ブラウンは叫びました。 「勝利を目指せ!」 再び大砲が火を噴き、3人の兵士たちが後方の列に持っていかれ、たたきつけられて草に濃い血の混じったにおいがしました。 「われらは栄光へと舵を取る!」 ブラウンは怒鳴りました。 フランス軍の射撃が再び始まり、傍らの少年兵が腹をかきむしり、目を見開き、指の間から血が噴出しました。 「進め!」 と、ブラウンは叫びました。 「行け!」 銃弾が一発、彼の帽子を掠め、その向きを変えました。 彼は剣を抜きました。 フランス軍は命令を待たずに装填と同時に銃撃を続け、煙が丘の上から固まりになって流れてきていました。銃弾が肉に打ち込まれる音を聞きながら、ブラウンは自分が義務を果たしており、これ以上のことは出来ないということを理解していました。 生き残った兵士たちは斜面の陰や茂みの後ろに身を隠していました。そして彼らもまた射撃を開始し、突撃隊としての任務を果たしていました。それが、彼らに出来ることのすべてでした。 彼の部下たちの半分は倒れました。丘の上に横たわっている者、よろけて倒れる者、出血多量で死にかかっている者、苦痛にうめいている者たち。それでもまだ銃弾はうなりを上げて襲い掛かり、隊列をなぎ倒していくのでした。 ブラウン少佐は戦列の後ろを上り下りしていました。 戦列といっても、たいしたラインではなくなっていました。下士官も兵もなく、砲弾や銃弾でぶつ切りにされていましたが、それでも生きているものたちは撤退しようとはしませんでした。 彼らは撃ち返していました。 装填し、発砲し、敵からの目を逃れるように、小さな煙の塊を噴いていました。 火薬で口の中は酸っぱくなり、火花で頬は煤けていました。 負傷兵はそれでも這って行って戦列に加わり、やはり射撃を続けていました。 「よくやった、諸君!」 と、ブラウンは怒鳴りました。 「よくやった!」 彼は死ぬつもりでした。 それは悲しいことでしたが、彼の義務はしっかりと立って隊列とともに歩き、兵士たちを励ましながら、銃弾か榴弾が彼の人生を終わらせるのを待つことでした。 「いざ来たれ、わが兵士たち!」 と、彼は歌いました。 「栄光への舵取りのときが来た このすばらしい年へと多くを与えん われらは君を名誉へといざなう 奴隷のごとく強いるのではなく 波間の子等より自由な者がいようか?」 ある伍長は、額から脳漿を吹き上げながら仰向けに倒れました。 おそらく死んでいるに違いありませんでしたが、彼の口はがくがくと動いており、ブラウンは顎をそっと持ち上げて閉じさせました。 副官のブレイクニーもまだ生きており、ブラウン同様、奇跡的に無傷でした。 「われわれの勇敢な同盟軍ですが」 と、ブレイクニーはブラウンの肘に触れながら言い、丘の下のほうを示しました。 ブラウンは振り向いて、丘から逃げ出したスペイン軍団が、4分の1マイルも離れていない砂丘の間で休憩しているのを見ました。 彼は向き直りました。 彼らが来るかどうか、来ないだろうと彼は考えていました。 「引っ立ててきましょうか?」 と、ブレイクニーは砲声の中で怒鳴りました。 「彼らが来ると思うか?」 「いいえ」 「それに私には命令の権限はない」 と、ブラウンは言いました。 「私はその階級にないのだ。それに連中はわれわれが助けを必要としているのが見えているのに動こうとしない。やつらは放っておけ」 彼は歩き続けました。 「敵を捕まえたぞ、諸君!」 と、彼は叫びました。 「捕まえたぞ!」 そしてそれは真実でした。 フランス軍はブラウンの攻撃を破りました。 彼らはレッド・コートのジブラルタル側衛隊を打ち砕きましたが、フランス軍は坂を下りてくることが出来ずにいました。ブラウン隊の生き残りたちが彼らを銃剣の餌食にしようと待ち構えていたからです。 彼らは代わりに射撃を続け、ランカシャー隊やノーフォークのホーリー・ボーイズ、グロウスターシャーのシルバー・テイルズたちが撃ち返している間にも、このバラバラになった旅団に銃弾を撃ち込んでいました。 ブラウン少佐は、彼らが死んでいくのを見ていたのでした。 シルバー・テイルの少年兵が、破裂した榴弾の鋭い殻に左肩をそぎとられるようにして倒れました。折れた肋骨がぐちゃぐちゃになった胸から白く突き出していました。 彼は弱っていき、母の名を呼びました。 ブラウンは膝をつき、少年の手をとりました。 彼は傷口をふさごうとしましたが、あまりに大きすぎました。この死にゆく兵士の苦痛を和らげるすべを他に知らなかったので、ブラウンは彼に歌ってやりました。 そして、松が散在して林が終わっている丘のふもとには、ディルクス将軍の旅団が2列横隊を作っていました。 第1近衛歩兵連隊第2大隊、第3近衛歩兵連隊第2大隊のうち3中隊、ライフル隊の2中隊、他の連隊とともに残されるよりはディルクス将軍の部下たちと一緒に行きたいと言い張った第67歩兵連隊の半数が、そこに集結したのでした。 ディルクス将軍は剣を抜き、その房のついた飾り紐を手首に巻きつけました。 彼が受けた命令は、丘の奪取でした。 彼はブラウン隊の負傷兵が這い回っている丘の斜面を見上げました。 そして、自分の部下たちが圧倒的な敵の数を目にして怯えているのを見て、彼自身もフランス軍にこの丘を明け渡させることが出来るかどうか疑問に思いました。しかし、彼はすでに命令を受けていました。 命令を下したサー・トーマス・グレアムは、第3近衛歩兵連隊、いわゆるスコッツメンの明るい色の隊旗のすぐ後ろにいて、ディルクスによる突撃命令が遅れはしないかと心配するように見守っていました。 「前進させろ!」 と、ディルクスは厳しい口調で言いました。 「旅団、進軍隊形!」 旅団副官が怒鳴りました。 少年太鼓手がタップとロールを繰り返してリズムを取り始めました。 「中央に寄れ!」 と、旅団副官が叫びました。 「前進!」 彼らは丘を登り始めたのでした。 付記:ハーツ・オブ・オークについて #
by richard_sharpe
| 2008-12-05 13:05
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 1 シャープとライフルマンたちは、いまだにガリアーナ大尉と一緒でしたが、海岸で休んでいるようにしか見えないスペイン軍の中を通り抜けるようにして歩いていました。 ガリアーナはベルメハの村に着くと馬を下り、一軒のあばら家に馬を引いていきました。 ラペーニャ将軍と参謀たちはそこにいて、日に干してある魚網を日よけにしていました村には望楼があり、その上は望遠鏡で南を見ているスペイン将校たちでごった返していました。その方向から銃声が聞こえてきていましたが、それはかすかで、スペイン軍の誰もそれを特に気にしているようではありませんでした。 ガリアーナは再び馬にまたがり、彼らは村を後にしました。 「あれがラペーニャ将軍か?」 と、シャープは尋ねました。 「そうだ」 と、ガリアーナはそっけなく答えました。彼は将軍の目を避けるようにして馬を進めていました。 「なんで彼はあんたが嫌いなんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「父のことでね」 「親父さんが、何をしたんだ?」 「私と同様、父は軍にいた。父はラペーニャに決闘を申し込んだのだ」 「それで?」 「ラペーニャは闘わなかった。彼は臆病者だ」 「喧嘩の原因は何だったんだ?」 「母だ」 と、ガリアーナは短く答えました。 ベルメハの南では、海岸は人気がなく、砂浜に漁船が引き揚げてあるだけでした。船は青と黄と赤に塗られ、船首には黒い目が描かれていました。 銃声はまだかすかでしたが、シャープには砂丘の背後に広がる松林の向こう側から煙が上がっているのが見えました。 彼らは村から半マイルほどの間、黙って歩いていましたが、パーキンスがクジラを見たと言い出しました。 「おまえが見たのは」 と、スラッタリーが言いました。 「ラム酒のせいだよ。飲んだから見えたのさ」 「本当だよ。見たんです、大尉!」 と、彼はシャープにも主張しました。しかしシャープはパーキンスが何を見ようが見まいが別に気にしていなかったので、答えませんでした。 「俺は一度クジラを見たことがある」 と、ハーグマンが割って入りました。 「死んだやつだ。臭かったな」 パーキンスはそれがクジラだったとわかるのではないかと思って、再び海に見入りました。 「たぶん」 と、ハリスが口を挟みました。 「そいつはイタチのようにそっくりかえらなかったか?」 兵士たちはみんな彼を見つめました。 「また何かお利口そうなことを言ってるぞ」 と、ハーパーが大声で言いました。 「無視しろ無視しろ」 「シェイクスピアさ、軍曹」 「大天使ガブリエルだろうが俺は気にしない。おまえは自慢したがっているだけだからな」 「第48連隊にシェイクスピア軍曹ってのがいたな」 と、スラッタリーが言いました。 「全くのロクデナシだった。クルミのせいで死んだっけ」 「クルミで死ぬわけないよ!」 と、パーキンスは言いました。 「死んだんだ。真っ青になってた。ま、いいことだ。やつはロクデナシだったからな」 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 というハーパーの言葉は、シェイクスピア軍曹の死に向けたものではありませんでした。騎馬の列が、彼らに向かって海岸沿いを飛ぶように走ってきたのです。 松林の小道ではなく海岸に沿って退却してきた荷駄隊のラバたちでした。 「動くんじゃないぞ」 と、シャープは言いました。 彼らは固まって立ち、ラバの群れが傍らを通り過ぎるのを待っていました。 ガリアーナ大尉は何が起きたのか、ラバ追いたちを呼び止めようとしましたが、彼らはひたすら前進していました。 「ファーガス、おまえが第48連隊にいたとは知らなかったな」 と、ハーグマンは言いました。 「3年いたんだ、ダン。みんなジブラルタルに行ったけど、俺だけは病気で兵舎に残った。本当に死ぬところだったんだ」 ハリスは通り過ぎるラバを捕まえようとしましたが、手をすり抜けられました。 「で、なんでおまえはライフル隊に入ったんだ?」 と、彼は尋ねました。 「マーリー大尉の従者だったんだ」 と、スラッタリーは言いました。 「それで大尉がライフル隊に入隊したとき、俺も一緒に入った」 「第48連隊は、アイルランド人に何の用があったんだ?」 と、ハリスは知りたがりました。 「連中はノーザンプトンシャーじゃないか」 「ウィックローで補充兵を徴兵していたんだ」 と、スラッタリーは言いました。 ガリアーナ大尉はラバ追いのひとりをようやく捕まえ、彼の混乱した話の中からフランス軍の大群による攻撃から逃れてきたことを知りました。 「彼は敵があの丘を奪ったと言っている」 と、ガリアーナはセッロ・デル・プエルコを指差して言いました。 シャープは望遠鏡を取り出し、またパーキンスの肩にそれを固定して、丘の頂上を見つめました。 フランス軍砲兵隊1個中隊と、ブルー・コートの少なくとも4大隊が峰にいるのが見えました。 「連中だ。上にいる」 と、彼は確認しました。 シャープは望遠鏡を丘と海の間の村に向け、そこにスペイン軍騎兵部隊がいるのを見ました。そこには歩兵部隊もいて、それは2~3000あまり、しかし彼らは北進しており、今は海岸の小高いところの砂丘の間で休憩していました。 騎兵だけでなく歩兵部隊も、フランス軍に丘を占領されたことを気にしているようには見えませんでした。戦闘の音はその丘の斜面から聞こえてきてはいませんでしたが、シャープの左手の松林の向こうから聞こえているのでした。 シャープはガリアーナに望遠鏡を差し出しましたが、彼は首を振りました。 「私も持っている」 と、彼は言いました。 「それで彼らは何をしている?」 「彼らって?フランス軍か?」 「なぜ彼らは丘を下って攻撃してこないのだろう?」 「このスペイン軍の連中は何をしているんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「何も」 「ってことは、スペイン軍は必要がないということだ。たぶん山ほどの兵隊がカエルどもが降りてくるのを待っているんだろう。あそこで闘っているんだ」 彼は松林に向かってうなずきました。 「だから、あそこが俺の行く場所だ」 パニックを起こしたラバの群れは、大部分が通り過ぎていました。ラバ追いたちは荷籠から固いパンを取り出してそれを目の前にちらつかせ、ラバを急がせていました。 落ちたパンのひとつをシャープは拾い上げ、半分に割りました。 「俺たちは第8連隊を探しているんですよね?」 と、松林に踏み込みながらハーパーは尋ねました。 「そうだ。でも見つかるとは思えん」 と、シャープは言いました。 ヴァンダール大佐を見つけるという野心を表明するのは、それはそれでひとつのことではありました。しかしこのカオスの中では、それが成功するとは思えませんでした。 フランス第8連隊がいるかどうか、もしいたとしてもどこにいるかもわかりませんでした。 カディスに向かう道がある水路の向こう側にもフランス兵がいることを、彼は知っていました。離れた丘の上にはさらに多くのフランス軍がいて、そして確実に他の兵士たちは松林の向こう側にいるのでした。銃声が聞こえた方角に、シャープは進むつもりでした。彼は砂を跳ね上げながら海岸の一番上に歩いていくと、松林の木陰の中に入りました。 シャープについていく以外、これといって計画のなかったガリアーナ大尉も、低い松の枝を避けるために馬を下りました。 「おまえたちは来る必要はないぞ、パット」 と、シャープは言いました。 「わかってますよ」 「ここにおまえたちがするような仕事はない、と俺は言っているんだ」 と、シャープは言いました。 「ヴァンダール大佐がいますからね」 「見つけられればな」 と、シャープは疑わしげに言いました。 「本当はな、パット、俺がここにいるのはサー・トーマスが好きだからなんだ」 「みんな将軍のことは良く言ってますね」 「それで、これは俺たちの商売なんだ、パット」 と、シャープはやや荒っぽく言いました。 「で、ここには俺たちの仕事があると?」 「もちろんそうだ」 ハーパーは数歩の間、黙って歩きました。 「じゃあ、あなたは俺たちを連れて戻る気はさらさらなかったってことですかね?」 「行ってくれるか?」 「俺はここにいますんでね」 それがハーパーの答えでした。 正面から聞こえてくる銃声は、重たいものに変わっていました。 これまでは軽歩兵部隊による散発的な銃撃のように聞こえていましたが、一斉射撃の音が木々を撃つように聞こえてきていました。そしてその音の背後に、シャープは高々としたトランペットと太鼓のリズムを聞き取ることができました。しかしそれがフランス軍の奏でる音かどうかまでは聞き取れませんでした。 砲撃も始まり、さらに大きな炸裂音が続きました。 砲弾が破裂して木立の中に細かい金属片を撒き散らしました。フランス軍は榴弾を発射し、樹脂のにおいと火薬の煙があたりに満ちました。 砲車のわだちの痕に彼らはやってきました。 何頭かのラバが木につながれ、黄色い徽章のついたレッドコートの3人の兵士たちが番をしていました。 「ハンプシャー部隊か?」 と、シャープは尋ねました。 「そうです」 と、兵士の一人が言いました。 「何が起きているんだ?」 「わかりません。自分たちはラバを守るように言われただけなので」 シャープはさらに進みました。 大砲は規則正しく発射され、一斉射撃も一定のリズムで繰り返され提案した。しかし両軍は接近戦をしているわけではないようでした。音でわかりました。 銃弾と榴弾が木々を抜け、突風のように枝を揺さぶりました。 「やつらは撃つのが高過ぎます」 と、ハーパーが言いました。 「ありがたいことに、いつもそうだ」 と、シャープは言いました。 彼らが林の端に近づくにつれて戦闘の音は次第に大きくなってきました。 ポルトガル軍のライフル兵がひとり、茶色のユニフォームを血で染めて松の切り株に寄りかかって死んでいました。彼はもがいたらしく、そのあたりの松葉が払いのけられていました。左手に十字架を、右手にライフルを持ったままでした。 そこから5歩ほどのところに黄色い胸当てに黒い銃弾の穴を開けたレッドコートの兵士が、身体を震わせて咽ぶように呼吸していました。 そしてシャープは木立を抜けました。 彼はそこに虐殺を見たのでした。 #
by richard_sharpe
| 2008-12-03 18:16
| Sharpe's Fury
佳境に入った「Sharpe's Peril」ですが、すみません、このところちょっとごたごたしています。
今週は訳せるかと思っていたら、インフルエンザワクチンの副作用にやられてしまいました。 インフルエンザも怖いですが、ワクチン接種も一考の余地アリ。 (これで別の型のインフルエンザが流行したら、かなわないですね←怒るかも) 来週には戻れると思います。 皆様もお気をつけください。 #
by richard_sharpe
| 2008-11-29 15:57
| 欄外のお知らせ
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