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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第12章 - 3 セッロ・デル・プエルコでは、フランス軍が勝利に向けて前進していました。 丘の頂上に隊列を作っていた4大隊がまずやってきて、それに左翼に合流した榴弾兵の2大隊が続きました。 榴弾部隊のルソー将軍のただひとつの心配事は、自分の部下の到着が遅くなり、勝利の瞬間を共有することができないのではないか、ということでした。 英軍はまだ斜面にいて、彼らの隊列はいまだにあしらわれている、といった風情でした。 彼らは曲射砲でしたたかに打ち砕かれていましたが、フランス軍の大砲はこの時点では発射ができなくなっていました。ブルーコートの兵士たちが、ターゲットになっているレッドコートの群れに覆いかぶさるようになっていたのです。 しかしヴィクトールには、大砲はもう必要ないだろうことがわかっていました。 皇帝軍の銃剣は勝利を確実にし、太鼓手たちは「パ・ドゥ・シャージ」のリズムを鳴らし、イーグルは3丘の斜面をぎっしりと覆った3000のフランス兵の上に高々と掲げられ、兵士たちは勝利へと突撃しながら歓声を上げていました。 英軍の歩兵近衛隊とハンプシャー部隊の半数、ライフル隊2中隊とジブラルタルから闘うためにやってきた側面守備部隊へと、彼らは向かってきていました。 赤と緑の上着の兵士たちは2倍の兵士たちに圧倒されており、夜通し歩き続けて敵から丘の斜面で見下ろされているのでした。 「構え!」 サー・トーマス・グレアムは吼えたてました。 奇跡的にも、目の前の隊列で3人のスコットランド兵を倒したすさまじい榴弾砲の炸裂から、彼は生き残っていました。 ウィリアム・ラッセル卿は、サー・トーマスに吹き飛ばされた帽子を手渡しました。サー・トーマスはその帽子を高く掲げ、そして銃剣を向けて突撃してくる乱れた2列の兵士たちに狙いを定め、帽子を振り下ろしました。 「撃て!」 1200のマスケットと200のライフルが火を吹きました。 側面の部隊に対してはもっと距離はありましたがおおむね60ペースを切る程度の距離で、フランス軍前列の300人の兵士たちに命中し、進軍は止まりました。 それはまるで復讐の天使がフランス軍の頭上に巨大な剣を振り下ろしたかのような光景でした。 前列の兵士たちは血まみれになって打ち倒され、2列目の兵士たちもまた倒れており、第3列と第4列の兵士たちは、自分の前で死んでいく兵士たちを目にし、進撃を止めるほどでした。 マスケットが噴き上げた煙に包まれ、レッドコートたちには自分たちの射撃の結果を見ることはできませんでしたが、兵士たちは前方2列が煙を突っ切って銃剣で攻撃してくることを予想し、訓練されたとおりのことを続けていました。 彼らは、再装填をしていました。込め矢で銃身に弾丸をつき入れていました。 整列して進むという命令は丘を登っているうちに乱れ、それでも将校たちは小隊ごとに射撃するようにと中隊に向かって叫んでいました。 ほとんどの兵士たちは、ただ自分が生きるためだけに射撃をしていました。 彼らは射撃を繰り返すについて将校や軍曹の命令を待ってなどおらず、ひたすら再装填し、銃を持ち上げ、引き金を引いて再び装填するのでした。 訓練指導書には、少なくとも10の動作が銃の装填には必要なことが記されていました。 それはカートリッジ取り扱いの最初の動作に始まり、射撃命令で終わっていましたが、いくつかの大隊では訓練担当軍曹が17ほどの細かく異なった動作に分けるようにし、そのすべてを覚え、マスターし、練習しなければならないのでした。 兵士たちの中には、わずかでしたが火器の取り扱いについて知識を持って入隊してくるものもいました。彼らはおおむね鳥撃ち銃の扱い方を知っている地方出身者でしたが、全くの無教育とみなされなければなりませんでした。 新兵は銃の装填の動作に丸々1分、あるいはもっと長くかかることもありましたが、次第に彼らはレッドコートとして一人前に働くようになり、国王のための戦いに赴く頃には、15~20秒で装填を済ませることができるのでした。 これは他のどんなことよりも要求される技術でした。 丘の上の近衛隊は実にかっこよく見え、セント・ジェームズ宮殿やカルトン・ハウスで警備に当たっていたときほどには素敵な歩兵部隊には見えませんでしたが、もし彼らがカートリッジをかむことができず、装填できず20秒以内に射撃ができなかったら、彼らはもはや兵士ではなく、そしてそこにはまだ生きている近衛兵たちが1000人近くいて、生きるために射撃を続けているのでした。 彼らは次々と煙の中に銃弾を放ち、サー・トーマス・グレアムは、彼らの真後ろで馬に乗っていましたが、フランス軍に打撃を与えていると確信できました。 傷つけているだけでなく、彼らを殺しているのだと断言できました。 フランス軍は再び隊列を組みました。彼らは常に隊列になって進むのでした。 このときは横300、楯9列で、このことはほとんどのフランス兵が銃を仕えないということを意味しており、その間、すべてのレッドコートとグリーンジャケットは自分たちの武器で射撃ができるのでした。 銃弾はフランス兵たちに降り注ぎ、彼らを中心に向けて寄せてゆきました。そして近衛部隊の前方とハンプシャー部隊の前方には、低く炎を上げて草地がありました。 サー・トーマスは息を殺していました。 今は命令は何の役にも立たない、ということを彼は知っていました。兵士たちへの激励さえも、いわば呼吸の無駄でした。 彼らは自分たちがなすべきことをわきまえており、それをきちんと果たしていました。それで彼は破滅を迎えようとしているという思いから、勝利を手にすることができるかもしれない、と期待する誘惑に駆られたのでした。しかし一斉射撃の音を聞き、隊列の右翼に向けて馬を進めていくと、煙の向こうからフランス榴弾兵の一糸乱れぬ隊列が丘を下ってくるのが見えたのでした。そしてスコットランド近衛隊が向きを変えて新しい敵に対峙し、海側の斜面に散開していたライフルマンたちも密集しながらフランス軍の新手部隊に向けて射撃を開始したのが見えました。 サー・トーマスはまだ黙っていました。 彼は帽子を握り締め、榴弾兵たちが丘を下ってくるのを見ていました。そしてフランス兵のそれぞれが銃と同じように短いサーベルも持っているのがわかりました。 敵兵の中でもエリートで、いちばんハードな仕事のために選ばれた兵士たちであり、彼らは戦いに疲れていない新たな戦力でした。彼らは再び隊列を組みましたが、サー・トーマスの右翼は命令も受けぬまま、訓練の成果を生かすことができるように90度向きを変えました。 第67連隊の半数は榴弾兵部隊の右前方にいて、最初の4大隊とは異なり、まだ射撃の成果を試していませんでしたが、彼らも進んできていました。 サー・トーマスにはわかっていましたが、これはいかに隊列が闘うべきかを示すものでした。 それは肉弾戦であり、前列は手ひどい打撃を受けることになりますが、その数で圧してくるやり方は敵を圧倒して勝利を得るものでした。 ヨーロッパ全土で繰り広げられた戦場のすべてで、皇帝の軍隊はそのようにして敵に鉄槌を下し、栄光の中で進軍を続けてきたのです。 その上この部隊はすべてにおいて精鋭の部隊で、丘を下って近づきつつあり、レッドコートとグリーンジャケットの手薄な隊列がもし破られるようなことがあれば、彼らは右翼に向きを変え、サー・トーマスの兵士たちをサーベルと銃床で打ち破ることになるはずでした。 まだそれは接近を続けており、サー・トーマスは第67連隊の後方にいて、剣を抜く構えをし、榴弾兵が突撃に成功した暁には兵士たちとともに死ぬ用意をしていました。そのとき、ひとりの将校が射撃を命じて怒鳴りました。 煙がサー・トーマスの前をうねっていきました。そしてさらに煙が。 第67連隊は小隊ごとの連射を始めていました。そしてスウィープス(ライフルマンたち)は右翼で射撃をしていました。彼らはは皮で弾丸を包む暇もないほどの速射を続けていました。この距離ならばはずすわけがなく、そのために彼らは傍らのレッドコートのマスケットと同じほどの速さで撃ち続けているのでした。 サー・トーマスの左側には彼のスコッツマンたちがいて、彼らが敗れるはずはないとサー・トーマスは確信していました。 銃声は乾いた木が轟音を立てて燃えあがるようでした。 空気には腐った卵のようなにおいが立ち込めていました。 どこかでカモメが鳴いており、サー・トーマスのずっと後方のどこかで大砲が繁みの上で炸裂していました。しかし彼は振り返って確認する余裕がありませんでした。 戦いが決定されるのは今ここであり、突然彼は、自分が息を止めていたことに気づいて、息を吐き出しました。ロード・ウィリアムに目を向けると、閣下は目を大きく見開いて硝煙のなかで身じろぎもしませんでした。 「息をしなさい、ウィリー」 「ああ、まったく」 と、ウィリアム卿は息を吐き出しながら言いました。 「スペイン軍の部隊がわれわれの背後にいることをご存知でしたか?」 と、彼はサー・トーマスに尋ねました。 サー・トーマスは振り返って、海岸にいるスペイン歩兵部隊を見渡しました。 彼らは援軍として動く様子は全くなく、もしここで彼らに丘を登るように命じたとしても到着は遅すぎるということがわかっており、彼は首を振りました。 「やつらは放っておけ、ウィリー」 と、彼は言いました。 「もうどうでもいいやつらだ」 ウィリアム・ラッセル卿はピストルを握り、煙を突っ切って出てくる最初の榴弾兵を撃とうと構えました。しかし榴弾兵たちはライフルとマスケットの射撃に動きを阻まれていました。 その前列は戦死し、後方の兵士たちは再装填を試みており、ひとたび動きを止めた隊列は格好の巨大なターゲットとなっているのでした。サー・トーマスの部下たちはその中央部に向けて発砲し、さすがの榴弾兵も精鋭部隊とはいえレッドコートたちと同じくらいに早い射撃はできずにいました。 尻と肩から血を流した馬に乗ったディルクス将軍が、サー・トーマスの傍らにやってきました。 彼は何も言わず、ただ見つめ、ヴィクトール元帥が白い羽飾りのついた帽子を目深にかぶって馬に乗っているあたりの丘の上を見上げていました。 ヴィクトール元帥は3000の部下たちが銃撃で足止めを喰らっているのを見ていました。 彼も何も言いませんでした。 今は兵士たちしだいでした。 英軍左翼、第1近衛歩兵部隊の向こう側で、ブラウン少佐は側衛部隊の生き残りたちと戦っていました。 丘に登ったときの半分足らずの兵士たちがまだマスケットを撃つことができ、彼らはいちばん近いフランス部隊に銃撃を加えていましたが、攻撃に熱が入り、彼らはフランス軍の側面を襲撃するために、丘のより高いところへと向かうのでした。 「かわいいやつらじゃないか?」 サー・トーマスはディルクス将軍に向かって叫びました。ディルクスは高笑いしながらのその言葉に驚いてしまいました。 「そろそろ銃剣の出番だ」 と、サー・トーマスは言いました。 ディルクスはうなずきました。彼はレッドコートたちが強力な射撃を続けているのを見ていましたが、今、自分は部下たちが奇蹟を起こそうとしているのだ、と思っていました。 「連中は走り出すぞ。私が保証する」 とサー・トーマスは言い、自分が正しいことを願っていました。 「銃剣装着!」 とディルクスは声を励ましました。 「かかれ!みんな!」 サー・トーマスは帽子を振り、馬をラインの後ろに走らせました。 「かかれ!やつらをわれらの丘から追い払え!」 レッドコートたちはまるで放たれた猟犬のように銃剣を手に丘を登っていきました。ヴィクトール元帥は頂上付近で刃が戦闘に加わった証拠の金切り声を聞きました。 「頼む、闘え!」 彼は誰に言うでもなく口に出し、しかし彼の6大隊は押し返されていました。 パニックが全部隊に感染していきました。 最後尾の、ほとんど危険のない兵士たちがさらに後退し、前方の隊列はレッドコートに踏みにじられていました。 楽隊は後方にいてまだご禁制の「ラ・マルセイエーズ」を演奏していましたが、悲劇が近づいていることに気づくと音楽は乱れました。 学長は楽隊員たちを集合させようとしましたが、演奏する代わりに彼らは逃げ散っていくのでした。 歩兵部隊が続きました。 「大砲!」 と、ヴィクトール元帥は副官に言いました。 「丘から大砲を下ろせ」 大砲は失うことのできないもののひとつでした。砲兵たちはチームを送って丘の上に放置された大砲のうち4門を引っ張ってきましたが、レッドコートたちの進撃であとの2門を守ることは不可能でした。いずれにしてもレッドコートたちの位置がすでに近すぎ、その2門は役に立たないのでした。そして6大隊は生き延びるために走り出し、丘の頂上を横切って東の斜面に向かいましたが、その背後からレッドコートとグリーンジャケットの兵士たちは銃剣と勝利を引っさげてやってきたのでした。 榴弾兵指揮官のルソー将軍と、打ちのめされた師団を指揮していたルファン将軍は、二人とも負傷して後方に残されました。 サー・トーマスは彼らを捕虜したという報告を受けましたが何も言わず、ただ敵が潰走していくのを見ていた場所から内陸に馬を乗り入れながら、ずっと昔のトゥールーズでフランス兵たちが彼の妻のなきがらを凌辱し、それに抵抗した彼の顔につばを吐きかけたときのことを思い出していました。 それ以前のサー・トーマスはフランスに同情的で、彼らの信条である「自由、平等、博愛」は英国にももたらされるべきだと考えていました。 彼はフランスを愛していたのでした。 しかしそれは19年前のことでした。 この19年間というもの、サー・トーマスは亡き妻にフランス人から与えられた侮辱を決して忘れはしませんでした。そして今、かれは鐙に立ち上がり、両手を口元にあてがいました。 「私を覚えているか!」 と、彼は叫びました。英語で叫んでいました。しかしそれは何の問題でもありませんでした。なぜならフランス兵たちはその声を聞くにはあまりにも速く、あまりにも遠くへと逃げ去っていたからです。 「思い知れ!」 彼は再び叫びました。そして結婚指輪に触ってみるのでした。 彼の北側の松林の向こうで、大砲が火を噴きました。 そしてサー・トーマスは振り返ると、疲れた馬に拍車をくれました。 戦闘はまだ勝利には至っていなかったからでした。 #
by richard_sharpe
| 2009-02-20 22:13
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第12章 - 2 ヴァンダール大佐はシャープの北寄りの方角にいました。大佐はフランス軍の左翼の大隊の中央にいて、ダンカンの大砲の外側にいたシャープは、まだ混雑してフランス軍の守備隊形よりも広がっている英軍右翼側でした。 「こっちだ」 と、彼はライフルマンたちに向かって叫び、ヴァンダールのちょうど対面に行くまでに隊形を広げた47連隊の2中隊と第67連隊の半数の後ろ側を走っていくことになりました。 「厄介な仕事だな!」 と、またシャープの後方で馬に乗ったホイートリー大佐の声がしました。今度は、シャープの左側にいる第87連隊の指揮官であるゴーフ少佐に話しかけていたのでした。 「ドンたちは助けてくれないからな」 と、ホイートリーは続けました。 「きみのところの連中はどうだね、ゴーフ」 「信頼できる連中ですよ」 と、ゴーフは言いました。 「ただ、もっと数が必要です。もっとたくさんの兵士が」 彼は銃声がうるさいために、叫ばなければなりませんでした。 第87連隊は4人の将校と100人以上の兵士たちを失っていました。 負傷兵は松林に後退し、フランス軍の銃撃のたびに、その数は増えていました。 隊列の責任者は、中央によるようにと怒鳴っており、第87連隊の幅は縮まりました。 彼らは銃撃を返していましたが、火薬で駄目になる銃も多く、カートリッジの装填に手間取っていました。 「兵隊はもういないんだ」 と、ホイートリーは言いました。 「スペイン軍が来なければな」 彼は敵の隊列に沿って視線を移しました。 問題は非常にシンプルでした。 フランス軍は多すぎるほどの数の兵士がいて、すぐに死傷者の代替が可能でした。そして、彼にはそれが出来ないのでした。彼に出来るのは、兵士対兵士の戦いで勝つことだけで、しかしフランス軍はスタート地点において、数で圧倒していました。 彼に出来ることは、ラペーニャが援軍を送ってくるかもしれない、との希望を持って待つことでしたが、もし誰も来なければ彼の部隊の隊列は、加速度的に縮小していくことになるのです。 「大佐!」 と副官は叫び、ホイートリーは期待を持って、援軍を依頼に行ったスペイン将校が馬を駆ってくるのを見ていました。 ガリアーナは大きく迂回しながらホイートリーに馬を寄せ、一瞬でしたが話すのを苦しげに躊躇したのでした。 そして、彼はついにその知らせを伝えました。 「ラペーニャ将軍は、動くことを拒否しました」 と、彼は言いました。 「申し訳ありません」 ホイートリーはそのスペイン人を見つめていました。 「なんということだ」 と、彼は驚くほど穏やかな言い方をしました。そしてゴーフを振り返りました。 「ゴーフ、鋼鉄を食らわしてやろう」 ゴーフは煙を通してフランス軍の集団を見ていました。 第87連隊の連隊旗は、大佐のちょうど頭上ではためいていました。 「鉄ですか?」 と、彼は尋ねました。 「何かしなければならんのだ、ゴーフ。ここで立ち止まったまま死ぬわけにはいかない」 シャープはヴァンダールの姿を見失ってしまいました。煙が濃すぎました。 ひとりのフランス兵が倒れたポルトガル突撃隊員の死体にかぶさって、ポケットを探っているのが見えました。 シャープは膝をつき、狙い、撃ちました。ライフルの煙が晴れたとき、フランス兵は四つんばいになって頭を下げていました。 シャープは再装填しました。彼は、膏を塗った皮で弾丸を包まずに撃ちたい、という欲求に駆られました。そのフランス兵はいつ突撃してくるかもしれず、とにかく今は出来るだけ早く彼らを殺すことが必要でした。そのためには包まない弾丸を使えば、ライフルに早く装填することができ、それにこの距離なら正確さは重要ではありませんでした。 しかし、もしヴァンダールをもう一度見つけたら、確実に射撃することを望める状態にしておかなければならず、結局彼は皮をとりだして弾丸を包み、ライフルの銃身に滑り込ませたのでした。 「将校たちを捜せ」 と、彼は部下たちに伝えました。 ピストルの発射音がシャープの傍らで聞こえ、そこではガリアーナ大尉が馬から下りてその小さな武器に再装填していました。 「撃て!」 第87連隊のいちばん手前にいる中隊を指揮する中尉が叫び、煙が巻き起こりました。 前列の兵士がひとり、仰向けに倒れました。その額には黒い穴が開いていました。 「こいつは放って置け!」 と、軍曹が叫びました。 「もう死んでる!再装填!」 「銃剣装着!」 第87連隊の背後から叫び声が聞こえ、その越えは隊列を伝って繰り返され、北に向かってだんだん小さくなっていきました。 「銃剣装着!」 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 と、ハーパーは言いました。 「絶望的ですね」 「選択の余地はないぞ」 と、シャープは言いました。 フランス軍は数で勝っていました。彼らはどんどん前進を続け、ホイートリーはもはや撤退するか突撃するかしかなくなっていました。 撤退することは敗北することであり、しかし突撃することは少なくともフランス軍の実力を試すことができるのでした。 「銃剣ですか?」 と、スラッタリーが尋ねました。 「装着しろ」 シャープは言いました。 この戦いが彼自身のものかどうかなどということを考えている余地はありませんでした。戦いは激化していました。 再びフランス軍の銃撃がレッドコートたちを襲い、次にその銃撃をしたブルーコートの兵士たちを、榴弾砲が切り裂きました。 前列のアイルランド出身の少年兵が、股間を血まみれの手で押さえて恐ろしい金切り声を上げました。 軍曹がその頭蓋をマスケットの銃床で打ちつけ、楽にしてやりました。 「前進だ!前進!」 旅団副官が叫びました。 「第87連隊、突撃!」 ゴーフは怒鳴りました。 「フォー・ア・バラー!」 「フォー・ア・バラー!」 第87連隊の生き残りたちもその叫び声に応じ、前進を始めました。 「落ち着いてやれよ、諸君!」 と、ゴーフは叫びました。 「ゆっくりだ!」 しかし第87連隊はゆっくりなどしていませんでした。彼らの4分の1が死傷し、さっきまで自分たちをこんな目に合わせていたやつらへの怒りを湧き上がらせ、意欲的に彼らは進んでいきました。 少しでも早く敵にたどり着けば、早く敵は斃れることになります。ゴーフは彼らをとめることはできませんでした。 彼らは走り出し、走りながら調子の高い金切り声で叫び、それは恐ろしい光景で、彼らの17インチの銃剣はほとんど中天に達していた太陽の光を受けて輝いていました。 「前進!」 シャープの右側の兵士たちも第87連隊と歩調を合わせました。 ダンカンの砲兵たちはフランス軍のラインの側面に照準を合わせるため、梃子を使っていました。 「もっと殺せ!もっと殺せ!」 キーオ少尉は頭のてっぺんから出ているような声で叫んでいました。彼は細身の剣を片手に持ち、もう一方の手に帽子をつかんでいました。 「フォー・ア・バラー!」 ゴーフは怒鳴りました。 フランス軍のマスケットがすぐ近くで恐ろしい銃声を響かせました。 兵士たちはなぎ倒され、隣にいた兵士たちの血しぶきを浴びながらも、いまやその突撃の勢いをとめることはできませんでした。 隊列全体のレッドコートたちは、銃剣を手に前進していきました。とどまることは死を意味し、撤退は敗北することだったからです。 彼らの総勢はもはや1000人足らずになってしまっており、3倍の数を相手にすることになったのでした。 「突っ込め!突っ込め!」 と、カリフラワーズの将校が叫びました。 「殺せ!やつらを殺せ!」 フランス軍の前列は後ずさりしようとしました。しかし後列が前に押し出してきていて、そこをレッドコートたちは襲撃しました。 第87連隊の軍曹の一人は、まるで兵舎で訓練をしているように、唱え続けていました。 「突け!戻せ!足位置確認!突け!戻せ!足位置確認!肋骨じゃない、馬鹿野郎!腹の真ん中だ!突け!戻せ!足位置確認!腹だ!腹の真ん中を突くんだ!突け!」 アイルランド兵の銃剣がフランス兵の肋骨に引っかかってしまいました。それはなかなか抜けず、ヤケクソで彼は引き金を引いてしまい、驚いたことに銃は装填されていたのでした。圧縮された煙と銃弾の勢いで銃剣はいきなり抜けました。 「腹の真ん中だ!」 と、軍曹は叫んでいました。みぞおちのほうが、肋骨に刺すよりも引き抜きやすいのです。 将校たちはまだ馬上から、兵士たちの帽子越しにピストルを撃ち続けていました。 兵士たちは突き、戻し、さらに突き、そして中には狂ったように闘い続けて自分たちがどんな闘い方をしているのかわからなくなり、銃床で殴られるものたちもいました。 「そいつを抜くんだ!」 と、軍曹は叫びました。 「ただ刺すだけでいい!やっつけろ!突け!戻せ!」 彼らはイングランドやアイルランド、スコットランドやウェールズではあぶれ者たちでした。 彼らは飲んだくれであったり泥棒であったり、溝や刑務所のカスどもでした。 彼らは誰からも必要とされなかったので、あるいは選択の余地のない絶望のあまりレッドコートを着ることになりました。 彼らは英国では屑でしたが、闘うことはできました。彼らは常に闘ってきましたが、軍では訓練によって闘い方が教えられ、そして彼らは、自分たちを評価してくれる軍曹や将校たちを見出すのでした。 彼らはもちろん兵士たちを処罰し、毒づき、罵倒し、血が流れるまで鞭打ってその上さらに罵倒しましたが、兵士たちを評価していました。 彼らは兵士たちを愛していさえしましたし、年俸5000ポンドの将校たちは現に兵士たちに立ち混じってともに闘っているのでした。そしてレッドコートたちは1日手取り1シリングの支払いで、ベストを尽くして闘っているのでした。 彼らは殺し続けていました。 フランス軍の全身は止まりました。今では彼らは前にじりじりと進むこともできなくなっていました。 その前列は瀕死の状態で、後列は血まみれの顔でアクマのように金切り声を上げる野蛮人から逃げようとしていました。 「フォー・ア・バラー!」 ゴーフは部下たちの中を馬を蹴って進み、剣をフランス軍曹に振り下ろしました。 連隊旗の守備隊は彼の背後にいて、連隊旗手たちが2本の旗を掲げ、軍曹たちが長さ9フィートの槍で旗を守っていたのですが、今ではその軍曹たちも攻撃に回っていて、その長く細い穂先をフランス軍に向けて踊りかかっていっていました。 パトリック・マスターソン軍曹はその槍兵の一人でしたが、ハーパーと同じくらいの大男でした。 彼は槍を次々とフランス兵の顔に突っ込み、銃剣の群れが止めをさせるように彼らを倒していっていました。 彼は銃剣でその刃を避けようとしていたフランス軍のいちばん手近の隊列を突破して道を作り、抜き、突き続け、敵の腹部の筋肉と服に引っかかって、ついに槍の穂先が落ちてしまいました。 突きが強すぎて刃が敵兵の死体の腹部に深く入り込んでしまっており、彼は死体を突き上げ、蹴りつけました。レッドコートたちはその間にも彼が作った隙間に切り込んでいっていました。 フランス兵の中には、傷ついてもいないのに地面に伏せ、叫び続ける悪魔たちが通過してくれるように祈りながら頭を抱えているものもいました。 キーオ少尉は髭のフランス兵に剣で切りつけ、両頬を横にざっくり切り割り、思い切り振るった剣は彼の横の兵士に当たるところでした。 キーオは帽子をなくしてしまっていました。 彼は第87連隊の鬨の声を叫んでいました。 「フォー・ア・バラー!」 道を切り開け! 彼らの剣はぎっしりと詰め込まれたフランス軍の隊列を、刈り取っていきました。 どのラインでも同じような状況でした。 銃剣が徴集兵たちに、肝が縮むほどの恐怖に大しては野蛮さが。 戦いが始められたとき、フランス軍は数で圧倒して臨みました。しかしホイートリーは進軍し、数学の法則は、ハードは訓練を施されたハードな男たち、という残酷な法則に取って代わられたのでした。 レッドコートたちは前進しました。圧してくる敵と闘いながら、血にぬれた草に滑り、死体に躓きながらだったので進みはゆっくりでしたが、それでも彼らは前に進み続けていました。 そのとき例の二頭立て馬車が木立の端に現れました。 そして、シャープはヴァンダールの姿を再び見たのでした。 #
by richard_sharpe
| 2009-02-10 18:01
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第12章 - 1 サー・トーマス・グレアムは、自分を責めていました。 もし英軍3大隊をセッロ・デル・プエルコの頂上に配置していれば、フランス軍に陥落されることはなかったでしょう。 今やすでにそこは陥ち、ディルクスの部下たちがサー・トーマスの過ちを修正してくれるまでの間、松林に沿った長い防衛線をホイートリー大佐が持ちこたえてくれることを信じるよりほかありませんでした。 もしここを失えば、そしてもしフランス師団が丘を下って北側に布陣したら、それはホイートリーの後衛を突くことになり、大虐殺の場となることでしょう。 フランス軍を、丘から一掃しなければなりませんでした。 ルファン将軍は丘の尾根に4大隊を配備しており、榴弾兵のスペシャリストたちも2大隊保持していました。 彼らは今では榴弾を装備してはいませんでしたが、その代わり、彼らは歩兵部隊の中でも屈強の大男たちで、野蛮な闘い方をすることで知られていました。 ヴィクトール元帥は、サー・トーマス・グレアムと同じくらいにその丘が勝利のための鍵になっていることを知っていて、ルファン将軍のところまで馬を寄せてきました。頂上からは、廃墟になった礼拝堂の傍らに、ラヴァルの分隊が松林に向けてじりじり血前進していくのを、ヴィクトールは見ることが出来ました。 よろしい、と、彼は思いました。 彼らに独力で戦わせ、ルファンの兵士たちを援軍として率いていこう。 海岸はほとんど空白地帯でした。 スペイン歩兵部隊は村からさほど遠くないところで休息をとっており、どういうわけか、彼らは他のスペイン軍が、望遠鏡で見る限りではその視野に入らないほど遠く北側に離れた場所に居るというのに、戦いには参加しようとしていませんでした。 ルファンの前方の4大隊のラインは、ちょうど2000あまりの兵士たちで構成されていました。 荒野にいるフランス兵たち同様、彼らは分隊ごとに区分され、彼らの眼下には何百ものブラウンの大隊の兵士たちの死体が広がっていました。 その死体を乗り越え、英軍兵士たちは明らかにセッロ・デル・プエルコを再び手中にしようとしてやってこようとしていました。 「連中は1500ほどか?」 と、ヴィクトールは新参者たちを数えて言いました。 「そのようです」 と、ルファンは言いました。彼は6フィートあまりの大男でした。 「英軍近衛隊のようだな」 と、ヴィクトールは言いました。彼は望遠鏡でディルクスの旅団を見つめていました。そして先頭の第1近衛歩兵連隊の青い連隊旗がはっきりと見えていました。 「最高の舞台を犠牲にするわけだ」 と元帥は嬉しげに言い足しました。 「それならば生贄にしてやろうではないか。連中を一掃しよう!」 その連中は丘を登り始めました。 彼らは1400人の、おもに近衛兵たちでしたが、第67歩兵連隊の半数が右翼に、そしてハンプシャー部隊の向こう側の海に近いほうには、ライフルマンたちの2中隊が配置されていました。 彼らはゆっくりと近づいてきました。 丘のふもとに達するのに、1マイルで済むところを2倍もの距離を進まねばならないものたちもいて、夜通し眠らずに歩いた彼らは疲れきっていました。 彼らは頂上までの道筋を、ブラウン少佐の取ったルートはたどらず、より傾斜が急でフランス軍の砲撃が不可能な、少なくとも低いところにいるうちは砲撃しづらい海に近い斜面を登っていました。彼らは1列になり、しかし丘に差し掛かると木立や足場の悪い地面で列が乱れ、英軍兵士たちはばらばらになって無秩序に散在しながら北西4分の1の斜面を這い上がっていきました。 ヴィクトール元帥は、副官の水筒からワインを1杯受け取りました。 「頂上あたりまで来させよう」 と、彼はルファンに指示しました。 「そうすれば、大砲がやつらを粉々に出来る。榴弾砲を食らわせてやれ。それから突撃だ」 ルファンはうなずきました。彼が計画していたことと同じだったのです。 丘は急斜面で、英軍は4分の3も登れば、すっかり息を切らしているはずでした。そうすれば、あとは大砲とマスケットで片をつければいいのです。 砲撃で隊列に穴を開け、その後歩兵4大隊を解き放って銃剣を持って丘を下っていけばいいのです。 英軍は一掃されるはずでした。そして潰走する彼らが丘のふもとに達する頃には混乱を極めていると考えられました。そこへ歩兵と竜騎兵を投入して海岸へと松林を抜けて狩り立てて行けばいいのです。榴弾兵は、と、彼は思いました。そのあとで他の英軍旅団が南に現れたときに投入すればよい。 レッドコートたちは上へ上へとよじ登っていました。軍曹たちは隊列を何とかまっすぐに維持しようと努めていましたが、その足場の悪さでは無理な相談でした。 フランスの前哨兵たちは幅を狭めて下ってきており、攻撃兵たちに射撃を浴びせました。 「撃ち返すな!」 と、サー・トーマスは叫びました。 「弾を無駄遣いするな!頂上に着いたら一斉射撃だ!まだ撃つなよ!」 フランス突撃隊の銃弾がサー・トーマスの帽子をかすめ、白髪には触れることなく帽子を持っていってしまいました。彼は馬腹を蹴りました。 「勇士たちよ!」 と、彼は怒鳴りました。 「登って行くぞ!」 彼は、お気に入りのスコッツメンたちである第3近衛歩兵部隊の最後尾の馬上にありました。 「ここはわれわれの場所だぞ、諸君!邪魔者どもを追い払おうではないか!」 ブラウン少佐の部下たちのうちの生き残りはまだ丘の上にいて、その上に向けて射撃を続けていました。 「近衛隊とみんなが来たぞ!」 と、ブラウンは叫びました。 「諸君全員生き延びるほうに、私は賭けるぞ!」 彼は将校の3分の2と兵士の半数以上を失っていました。しかし彼は生存者たちに、集合して近衛歩兵連隊に合流するようにと叫びました。 「やつらは馬鹿だ」 とヴィクトール元帥は、軽蔑というよりは困惑した様子で言いました。 1500の兵士が、3000の兵と砲兵隊で固められた200フィートの丘を奪取することを望んでいると? とはいえ、敵方の馬鹿さ加減は、味方の好機でした。 「砲撃の直後に一斉射撃だ」 と、彼はルファンに言いました。 「そのあとで銃剣でやつらを下に追い払え」 彼は拍車をかけて砲兵部隊の前を横切りました。 「ピストルの射程半分にまで彼らが接近するまで待て」 彼は砲兵指揮官に伝えました。その距離なら、はずしようがないのです。虐殺になるはずでした。 「何を装填した?」 「榴弾です」 「よろしい」 と、ヴィクトールは言いました。彼は先頭の近衛歩兵連隊の豪華な連隊旗を見つめていました。そして、その2本の旗がパリでのパレードで披露されることを想像しました。 皇帝はお喜びだろう!英国王自身の近衛隊の旗を手に入れれば! 皇帝はその旗をテーブルクロスにお使いになるだろう、と彼は考えました。もしかしたらオーストリアからの新しい花嫁との新床のシーツに使うかもしれない。 彼は声を上げて笑いました。 英軍兵の隊列が近づいてきたために、前哨兵たちは坂の上のほうに這い上がっていました。 もっと近く、と、ヴィクトールは思いました。彼は敵兵をほとんど丘の頂上にまで引き寄せ、ちょうどそれは6門の大砲の前面になっていたのです。 彼はラヴァルの兵士たちのいる北側に目を向け、そして彼らが松林の間際にまで詰めていっているのを確認しました。 1時間半以内に、このちっぽけな英国軍は残骸と化すだろう、と彼は思いました。そしてさらにもう1時間もあれば、歩兵部隊を再編成して海岸の向こう側にいるスペイン軍を襲撃することが出来るだろう。 パリに何本の旗を送ることが出来るだろうか?1ダース?20本?皇帝のベッドを飾るには十分だろう。 「よろしいですか?」 と、砲兵指揮官が尋ねました。 「まだ待て」 とヴィクトールは言い、勝利を確信していましたが、榴弾歩兵部隊2大隊に向かって待機するように手を振って合図しました。 「前進!」 と彼はルッソウ将軍に向かって叫びました。 歩兵を待機させている余裕は、もはやありませんでした。 3000の全兵力を、その半分の敵に向けて投入するときでした。 彼は副官のひじをつつきました。 「楽隊にラ・マルセイエーズを聞きたいといってくれ!」 彼はにやりとしました。 皇帝は「ラ・マルセイエーズ」が革命的心性が強すぎるといって好みませんでしたが、ヴィクトールはこの歌が人気があり、兵士たちを敵兵の虐殺へと駆り立てることを知っていました。 彼は自分で歌いだしました。 「ラ・ジュール・デ・グロワ・エ・アリヴ(栄光の日はやってきた)」 と彼は歌い、声を上げた笑ったので、砲兵指揮官は驚いて彼を見つめました。 「さあ!」 と、ヴィクトールは言いました。 「今だ!」 「撃て!」 大砲が火を噴き、海岸も海も、遠くの白い街も煙で覆われて見えなくなりました。 「撃て!」 ルファンが彼の大隊指揮官たちに叫びました。 マスケットの銃身が反動でフランス兵たちの肩をたたきました。 さらに濃い煙が空を覆いました。 「銃剣装着!」 元帥は叫び、白い羽毛で飾られた帽子を砲撃の煙に向けて打ち振りました。 「前進!勇者たちよ!進め!」 楽隊は演奏し、太鼓手はビートを打ち鳴らし、そしてフランス軍は仕事を終わらせるために進んでいきました。 栄光の日はやってきたのでした。 #
by richard_sharpe
| 2009-02-04 17:09
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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 5 少なくとも30人の将校たちがサン・フェルナンドから南に向けて騎乗していました。 彼らはサー・トーマスの軍勢が出航した時にはイスラ・デ・レオンにとどまり、そしてこの火曜日の朝、彼らは砲声で目を覚まし、彼らは非番だったので馬に鞍をつけるとリオ・サンクティ・ペトリで何が起きているのかを見るために南下したのでした。 彼らはイスラ・デ・レオンの大西洋側の長い海岸線に沿って南に向かいました。そしてそこでカディスから戦闘の様子を見物しようとやってきた騎乗の群れに合流しました。 砂浜に沿って鞭で駆られている馬車さえもがそこにいました。 都市の近くで戦闘が行われることは滅多になく、カディスの町の窓を揺るがす砲声は、地峡に沿って南に向かっている観客たちには刺激的なものでした。 舟橋を守備している無愛想な中尉は、そういった見物人たちが川を渡るのを阻止しようと最善を尽くしましたが、二頭立て二輪馬車が道沿いに鞭を鳴らしながら走ってきたときには通過を許すことになってしまいました。 その御者は英軍将校で、同乗者は女性でした。そしてその将校は中尉に向かってバリケードをどかすようにと鞭を振るったのでした。 鞭が怖かったというよりは、中尉はその将校の立派な銀モールに圧倒されたのでした。 馬車が舟橋を通り過ぎるのを、中尉は苦々しげに眺めていました。彼は脱輪して川に落ちれば良い、と思いましたが、2頭の馬はエキスパートに御されていて、馬車は無事に橋を渡って対岸にたどり着きました。 他にもやってきた馬車は大きすぎ、渡ることはできませんでした。しかし騎馬の男たちは二頭立て馬車の後について渡っていきました。 舟橋を守る急ごしらえのスペイン軍の砦を通り過ぎる時に彼らが見たものは、休息を取る兵士たちでいっぱいの海岸でした。 騎馬隊の馬は杭につながれ、騎手たちは顔に帽子を載せて横になっていました。カードで遊ぶもの、風に漂うタバコの煙。 前方にはバルロッサの丘があって、違った種類の煙が松林の東にむかって固まりながら立ち上っていました。しかし、川に近い海岸では全く静かなものでした。 ラペーニャ将軍が参謀たちと一緒にコールド・ハムの昼食を取っていたベルメハも静かでした。 彼は二頭立て馬車が砂煙を上げて猛スピードで教会と塔の脇を通り過ぎるのを驚いて見ていました。 「英軍将校だ」 と、彼は言いました。 「目的地を間違えておる」 慎ましやかな笑い声が上がりました。それでも、将軍のスタッフの中には英軍が戦っている間に何もしないでいることに落ち着かない気分を味わっているものもおり、とくにヴィラットの部隊を海岸から撤退させたザヤス将軍は、その感情を強く味わっていました。 ザヤスは自分の歩兵部隊を南進させて戦闘に合流させることを提案し、その提案はガリアーナ大尉が汗だくの馬でホイートリー大佐の援軍要請をもたらしたことでさらに強く主張されたのでした。 ラペーニャはそっけなくその提案を退けました。 「わが同盟軍は」 と、彼は居丈高に言い放ちました。 「単にしんがりとしての戦いを進めているだけである。もし彼らが命令に従っていれば、もちろん、必要以上の戦いは行われずに済んだ。しかし現在のところ、われわれは彼らが安全に撤退してくる場所を確保しておかなければならない」 彼はガリアーナに冷たい視線を向けました。 「それに、きみはなぜここにいるのだ?」 彼は怒りを含んだ声で追求しました。 「きみは街の守備隊に任務があるのではなかったか?」 ラペーニャの追求に落ち着きをなくしたガリアーナは、彼の要求に答えが得られることを、もはや期待していませんでした。 彼は軽蔑をこめて将軍を一瞥すると、疲れた馬を松林に向けました。 「やつの父親は生意気な馬鹿者だった」 と、ラペーニャは言い捨てました。 「息子も同じだ。どこかで勉強することが必要だな。黄熱病の流行している南アメリカあたりに配属させるべきだ」 しばらく誰も何も言いませんでした。ラペーニャ付きの牧師がワインを注ぎましたが、ザヤス将軍はグラスを手でふさぎました。 「少なくとも、私に水路を渡らせていただけませんか」 と、彼はラペーニャに提案しました。 「きみが受けている命令は何だったかな、将軍」 「命令を下さるようにお願いしているのです」 と、ザヤスはさらに主張しました。 「きみへの命令は」 と、ラペーニャは言いました。 「橋の守備だ。現時点での任務を遂行するのがきみの義務である」 そんなわけでスペイン歩兵部隊はリオ・サンクティ・ペトリの近くにとどまり、そのそばを二頭立て馬車は南へ向けてスピードを上げて駆け抜けていきました。 その御者はムーン准将で、町の郵便馬車の厩から馬車を借りたのでした。 彼は馬に乗る方が好きだったのですが、折れた足が痛んで無理でした。二頭立て馬車もそれよりはわずかに快適だというだけでした。スプリングは硬く、ダッシュボードに乗せて足を支えていました。蹄が砂を蹴り上げて准将の顔にかかり、治りかけた足はやはりまだ痛みました。 彼は砂浜から松林に続く轍のあとを見てそれをたどることにし、その道の足場がましなことを願いました。 それはいくらかましで、木陰の道を順調に進んでいきました。 准将の腕には、傍らに座った婚約者がしがみついていました。 彼女はサン・アウグスティン侯爵夫人で、未亡人なのだと名乗っていました。 「弾丸が飛んでくるようなところにはきみを連れて行かないよ、マイ・ディア」 と、ムーンは言いました。 「がっかりさせるのね」 と、彼女は言いました。黒い帽子から垂れ下がった薄いベールが、彼女の顔を隠していました。 「戦場は女性向ではないんだ。特に美しい女性には向いていないことは確かだ」 彼女はほほ笑みました。 「私は戦闘を見てみたいのよ」 「そしてきみは見ることができるさ。もちろんだとも。安全地帯からね。私は足を引きずりながらきみの手をとることになるだろうな」 ムーンは松葉杖をぴしゃりと打ちました。 「しかし馬車にはいなくてはいけないよ。安全なところに」 「あなたといれば安全よ」 と、侯爵夫人は言いました。 結婚したら、と、准将は彼女に言いました。レディー・ムーンになるんだ。 「ラ・ドーニャ・ルナ(月の奥方)ね」 と、彼女は彼のひじを握り締めました。 「奥方はいつもあなたとなら安全よ」 准将は彼女の愛情表現に高笑いで答えました。 「なぜ笑うの?」 と、彼女は腹を立てたようでした。 「ヘンリー・ウェルズレイの顔を思い出していたんだ。昨夜きみを紹介した時の」 と、准将は言いました。 「満月みたいにマヌケな顔をしていたじゃないか!」 「彼は立派な人に見えたわ」 と、侯爵夫人は言いました。 「ヤキモチだよ。やつはヤキモチを焼いていたんだ!私にはわかったよ。彼が女好きだとは知らなかった。それで女房が逃げたんだな。彼はきみが好きだったということははっきりわかったよ。たぶん私は悪いことをしたんだな」 「彼はとても丁寧だったわ」 「彼は大使だからね。それは丁寧だろう。そのための男だからな」 准将は黙りがちになりました。轍のあとが松林を抜けて東に枝分かれし、カーブも急だったのです。 それでも彼は腕の良い御者並みに馬を操ることが出来ました。 戦闘の騒音は今では大きく聞こえており、遠くではなくすぐ前方でした。彼はゆっくりと手綱を引き、馬の足を遅めました。 「見ないほうがいい」 と、彼は言いました。 そこにはズボンの脱げた、股間が血まみれの男がいました。 「連れてくるべきではなかった」 と、彼は短く言いました。 「私はあなたの世界を知りたいの」 と、彼女は准将のひじにすがりながら言いました。 「この恐ろしい光景について、きみに許しを請わなければ」 と、彼は鷹揚に言い、そして手綱を再び引きました。木立の中から銃弾に裂かれた旗を掲げた英軍の隊列が現れたのです。前方わずか100ペースのところでした。馬車から兵士たちの間の地面は戦死者たちや負傷兵たち、放棄された武器や焦げた草で埋まっていました。 「距離は十分ある」 と、准将は言いました。 フランス軍は12ポンド砲の車輪を交換しており、元の位置に戻していましたが、砲兵隊の指揮官は敵兵のターゲットになっていることに気づいており、その場にとどまることが出来ませんでした。 彼は曲射砲を放棄することを強いられ、しかしただでは終わらせまいと、最後の砲弾を装填させました。彼は英軍兵に向けて発射することを命じ、そして速やかに撤収しました。導火線の火が達して砲が発射され、そして砲兵隊指揮官は砲を安全な場所に移させました。 砲弾は第67連隊の隊列で炸裂しました。伍長のはらわたを吹き飛ばし、ある兵卒の左腕をもぎとり、そしてハンプシャー部隊の後方20ペースのところに落ちました。 導火線から煙がぶすぶすと立ち上り、砲弾は松林の中を回転していきました。 ムーンはそれが向かってくるのを見て馬を右に急回転させ、ミサイルを避けました。彼は右手に手綱を握りましたがその手はすでに鞭を持っており、左腕は侯爵夫人に回して彼女をかばい、そしてそのとき砲弾が爆発しました。 破片が彼らの頭上を飛び、そのひとつは傍らの馬の腹をえぐりました。 向こう側の馬はパニックに陥り、2頭ともが走り出しました。准将と侯爵夫人はしっかりとつかまっていなければなりませんでした。彼らはくぼ地を駆け抜け、煙と死体野中に突っ込んでいくことになりました。准将は手綱を力いっぱい引っ張りましたが、外側の車輪が死体に乗り上げ、馬車の車体は傾きました。 車両は明らかに事故を起こそうとしていました。 侯爵夫人が、そして続いて准将が地面に投げ出されました。足が車軸にぶつかり、彼は鋭い叫びを上げました。 彼の松葉杖はヒースの茂みに飛んでいって見えなくなり、ムーンと、彼がドーニャ・ルナになることを望んでいる女性とは、フランス軍の隊列の取り残された曲射砲のすぐそばに取り残されてしまったのでした。 そして前方では叫び声が響いていました。 「皇帝万歳!」 遅くなってすみません。 #
by richard_sharpe
| 2009-01-30 18:27
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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 4 「ひどいもんだ」 と、シャープは言いました。 彼は英軍のラインの右手の森から姿を現したのでした。 彼の正面右側には、ダンカンの大砲が砲撃のたびに大きく後ろに跳ね上がっていました。 大砲の傍らにはポルトガル突撃隊の生き残りがまだ射撃を続けており、そしてシャープの左側はレッドコートのラインでした。 シャープはブラウン・コートのポルトガル兵に合流しました。 彼らはやつれ、火薬に汚れた顔で、目が白っぽくなっていました。 彼らは新しい部隊でかつて戦闘に参加したことはありませんでしたが、今は任務を果たし、英軍兵が替わって射撃を続けていました。そしてポルトガル兵は必至で持ちこたえたのでした。シャープからもフランス大隊の前に茶色いユニフォームの死体が多く横たわっているのが見えました。そしてまた、英軍左翼のグリーン・ジャケットもそこに見えました。 フランス軍は彼らの目の前に展開していました。それはあまり上手くいかず、兵士たちはそれぞれ銃を撃ちやすいところを見つけようとしていました。あるいは勇敢な戦友の陰に隠れようとして、軍曹に前に押し出されたりしていました。 散弾がシャープの周りでうなりを上げ、彼は本能的に後ろを見て、部下たちが誰も撃たれなかったことを確かめました。 皆無事でしたが、シャープのすぐそばにいたポルトガル兵が喉を切り裂かれて仰向けに倒れていました。 「きみがいるとは知らなかったよ!」 と声がして、シャープが振り返るとそこには馬上のダンカン少佐がいました。 「来ました」 と、シャープは言いました。 「きみのライフルマンたちは砲兵隊に協力してくれるかな?」 前方にフランス軍の6門の大砲が見えました。 2門はすでに使い物にならなくなっていましたが、残りは英軍左翼に歩兵が最も嫌う散弾を撃ち込んでいました。 大砲を狙うに当たって一番の問題は、砲撃のたびに巻き起こる煙であり、距離がさらにその問題を大きくしていました。 ライフルにとってさえも、遠すぎる距離でした。しかしシャープは部下たちをポルトガル兵のところに引っ張り出し、フランス砲兵を狙撃するように説きました。 「安全な仕事だ、パット」 と、彼はハーパーに言いました。 「戦闘とはいえない」 「砲兵を殺すのはいつでも楽しいですよ」 と、ハーパーは言いました。 「違うか、ハリス?」 ハリスはどんな戦闘にも加わらないことを声高に主張していましたが、ライフルの撃鉄を起こしました。 「いつも楽しいですね、軍曹」 「それじゃあ楽しむんだな。砲兵を殺せ」 シャープは前方のフランス歩兵のほうを凝視しましたが、銃撃で巻き起こった煙のせいでほとんど見えませんでした。 煙を通して見えたのは2本のイーグルと、その傍らにイーグルを守る小旗を擁した突撃兵たちでした。フランス兵たちの進軍は止まっているにもかかわらず、少年太鼓手が「パ・ド・シャージ」のリズムを叩き続けているのも聞こえました。 リアルな音は師団ごとに間を置いて発せられる銃声であり、砲声でした。そしてさまざまな音の中でも、銃弾が肉に食い込む音や負傷者の苦しげな叫び、そして銃弾を受けた馬から放り出された将校たちの悲鳴などはよく聞こえるのでした。 そしていつもながらに彼を驚かせるのは、フランス兵たちの勇気でした。彼らは困難な中でも常に踏みとどまっていました。戦死した兵士たちを積み上げた陰に身を潜ませ、負傷兵を後方へ移動させながら、じりじりと進んでくるのでした。 再装填し、銃撃をし、連射を続けていました。 その敵兵たちに命令がいきわたっているとは、シャープには思えませんでした。隊列は重なりながら列を乱して広がり、兵士たちはそうすることで少しでも射撃できるスペースを見出そうとしていました。しかしそれでもその即席の隊列は英軍よりも重なり合って幅が狭く、一方で英軍・ポルトガル軍はたった2列で闘っていました。 フランス軍は3部隊ごとに闘うことになっていましたが、列は入り乱れ、ひとつの場所に6,7人もの兵士がいる、という有様になっていました。 フランス軍の砲の3番目が破壊されました。砲手がジャンプして砲身を押し下げて発射した砲弾は特異な飛び方をし、車輪を粉砕しました。 「うまいぞ!」 と、ダンカンは叫びました。 「そのクルーにはラム酒を特別配給だ!」 砲撃が終わるころには大損害を与えていると考え、彼は砲手全員にラム酒を与えようと考えていました。 爆風がフランス軍を覆う煙を吹き飛ばし、新しい車輪を砲手が装着しているのがダンカンから見えました。 ポルトガル兵の間に膝をついていたハーグマンは、さらに他の砲手が手前の大砲に砲弾をこめるのを見ました。散弾筒でした。 ハーグマンは引き金を引き、その砲手は砲身の向こう側に姿を消しました。 英軍には自らを鼓舞するような音楽はありませんでした。船には楽器を載せるスペースがなかったのです。しかし楽隊員たちも銃で武装して同行し、今はいつもの戦闘中の任務である負傷兵の救出と銃後の林の中で働いている軍医たちのところへの搬送を行っていました。 他のレッドコートたちは戦闘中でした。 彼らは訓練を受けたとおりに、やるべきことを、マスケットを撃つことを繰り返していました。装填し、発射する。装填し、発射する。 カートリッジを取り出して端を噛み切り、切り口から火薬を注ぎ込んで銃床を一度地面に落としてたたき、さらに火薬を入れて、紙に包んだ弾丸を銃口から落とし込む。 銃をあげ、撃鉄を起こし、ラバみたいに蹴り上げる反動に備えて低く狙うことを心がけ、命令を待ち、引き鉄を引く。 「点火せず!」 と、ひとりの兵士が叫びました。燧石が火花を出さず、銃が発火しなかったのです。 伍長がその銃をひったくると、死んだ兵士の銃を渡しました。そして不点火の銃を後方の草むらに置きました。 他の兵士たちは燧石を交換するときに休むだけで、銃声が途絶えることはありませんでした。 フランス軍は少しずつ秩序を取り戻してきていました。しかし彼らは英軍へいたちのようには射撃をする能力はありませんでした。レッドコートたちはプロフェッショナルであり、一方でフランス兵たちは徴集兵でした。彼らは訓練を受けはしましたが、実弾射撃は許されていませんでした。 英軍兵士が3発発射する間、フランス兵は2発の発射だけでした。 数学の法則は英軍に味方しました。 しかし数の上では、フランス兵が英軍を圧倒していました。数学の神はブルーコートにも恵みをたれ、双方は拮抗していました。 皇帝軍はより多くの兵士たちを投入して銃撃が続き、レッドコートたちはだんだんと松林のほうに押されて後退してゆきました。 英軍左翼は砲兵隊の援護がなく、シルバー・テイルズがひどくやられていました。今では軍曹たちが中隊を指揮していました。 ルヴァル将軍が送り込んだ援軍が加わったことにより、シルバー・テイルズは2倍の敵に立ち向かうことになり、敵の新たな銃撃にさらされていました。 まるで二人のボクサーが血みどろになって素手で打ち合い、両者ともが譲らず、どちらもいかに苦痛に耐えるかを誇示している試合のようでした。 「きみ!そこのきみだ!」 シャープの背後で鋭い声がし、彼は警戒しながら振り返りました。そこには大佐がひとりいて、彼はシャープを見ていたわけではありませんでした。 彼はガリアーナ大尉をにらみつけていました。 「きみの部下たちはいったいどこなんだ?英語を話せるかね?ああ、まったく、誰か彼に兵士たちはどこにいるのか聞いてくれ」 「部下はいません」 と、ガリアーナは英語で早口に言いました。 「なんということだ。なぜラペーニャ将軍は援軍を送ってこないのだ?」 「将軍を捜しに行きましょう」 と、ガリアーナは言うと、何か役に立つことが見つかったと思い、馬を返して林の中に入っていきました。 「部隊を私の左翼にまわすように伝えてくれ」 と、大佐は彼の背中に向かって大声で呼びかけました。 「左翼だ!」 その大佐は旅団指揮官のホイットリーで、彼は第28連隊とダンディーズ、シルバー・テイルズ、スラッシャーズが死人の群れへと変貌している場所に戻っていきました。 持ちこたえようと苦闘しているその部隊は、ベルメハのスペイン歩兵部隊にいちばん誓い位置でしたが、それでもベルメハから戦場までは1マイル以上ありました。 ラペーニャはそこに9000の兵士たちを待機させていました。彼らは砂の上に座り込み、銃を突き立て、糧食の最後のものを食べていました。 スペイン兵のうちの1000人もがフランス軍がアルマンザ・クリークの対岸にいるのを見ていましたが、フランス軍は動きを見せませんでした。 リオ・サンクティ・ペトリ川沿岸での戦いは途絶えて久しく、サギがときおり静寂を破ってえさを探すために戻ってきていました。 シャープは望遠鏡を取り出しました。 ライフルマンたちはフランス砲兵たちを狙って射撃を続けていましたが、まだひとつの大砲が健在でした。 それは曲射砲で、ダンカンは榴弾の爆発でようやくその砲手たちを寸断しました。 「近いやつらを撃ち取れ」 と、シャープは望遠鏡を通して見ながら、フランス軍のラインを指差して部下たちに言いました。見えているのは煙とブルー・コートでした。彼は望遠鏡をおろしました。 戦闘は小休止に入ったことを、彼は感じていました。殺戮が終わったわけではなく、銃声も途絶えたわけではありませんでしたが、膠着状態でした。双方とも考え、待ち、待ちながらも殺し合いを続け、フランス軍は銃火では英軍に劣るにもかかわらず優勢に立ったように、シャープには感じられました。 彼らは数で優勢で、銃撃戦で劣ってもなお余裕がありました。彼らの右翼と中央は、じりじりと前進しつつありました。 それは慎重な動きのではなく、むしろ後列の兵士たちが海に向かって押し出していたことによる動きのようでした。 フランス軍の左翼はダンカンの砲兵隊によって打撃を受けていましたが、右翼と中央は砲弾の影響を受けていませんでした。 彼らはもともと前衛を構成していた精鋭部隊の戦死者たちを踏み越えて進んできていました。その射撃は英国の正規兵たちの基準からすれば非能率的でしたが、確実に打撃を与え提案した。 フランス軍の戦列が展開していくにつれ、数学の法則は再びフランス軍に有利に働くようになっていきました。彼らは英軍から最強の打撃をすでに受けており、そしてそれを生き延び、弱ってきた敵軍にじりじりと迫りつつあるのでした。 シャープは数歩下がって英軍の戦列の後方を見ました。スペイン軍は視界には見えず、英軍には増援がないことを、彼は知りました。 もし兵士たちが荒野での仕事を完遂しなければフランス軍が勝利するに違いなく、軍は烏合の衆に変わってしまうことでしょう。 彼は、フランス軍歩兵部隊を狙い撃ちしている部下たちのところに戻りました。 その上方にイーグルが一本見え、イーグルのそばには騎馬の一群の姿があり、シャープは望遠鏡の照準を再び合わせると、銃の煙幕がさえぎる前に、彼を見たのでした。 ヴァンダール大佐でした。 彼は帽子を振って部下たちの進軍を励ましていました。 シャープには細く黒い口ひげが見え、激怒が最高潮に高まるのを感じました。 「パット!」 と、彼は怒鳴りました。 「大尉?」 ハーパーはシャープの声の調子に驚いていました。 「あいつを見つけたぞ」 と、シャープは言いました。 彼は肩に回していたライフルを手に取りました。 まだ撃ちはしませんでしたが、撃鉄を起こしました。 そして、フランス軍は戦勝の予感の中にいました。 困難な闘いの中での勝利になると思われましたが、太鼓手はあらたな力を見出したようでした。そして、隊列は前進を再開しました。 「皇帝万歳!」 あけましておめでとうございます。 #
by richard_sharpe
| 2009-01-06 14:52
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