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皆様、クリスマスをいかがお過ごしですか?
クリスマスプレゼント代わりに、英軍ユニフォーム切手セットから、シャープの写真を。 以前Pinesさんにコメントで教えていただいたものです。 イギリスのRoyalmail.comの こちら で購入したもので、この写真は British Army Uniforms Prestige Stamp Book の中に。 それから、 British Army Uniforms Presentation Pack はライフル隊員の装備が詳しく載っていました。 Pinesさん、ありがとうございました。 年内にもう一回くらいは続きを訳せると思います。 それでは皆様、メリー・クリスマス~。 #
by richard_sharpe
| 2007-12-25 16:11
| 欄外のお知らせ
1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第4章 - 1 シャープは大使館の屋根裏に部屋を与えられました。パンフリー伯はその部屋のことを謝りました。 「カディスでわれわれが使える家は6軒だけなのだ。私も1軒使わせてもらっているが、きみは大使館にいたほうがいいんじゃないかと思ってね」 「そうですね」 と、シャープは大急ぎで答えました。 「そうだろうと思った。では明日の夕方5時に会おう」 「それから、民間人の服装が必要です」 シャープは既に伯に話してありましたが、一組のズボンとシャツとコートがベッド上に置かれていただけでした。 たぶん、不運なプラマーのものだったのだろうと思われました。それらは黒くて大きすぎ、じめじめしていました。 彼は朝6時に大使館を出ました。風に乗ってくる教会の鐘の音で時間がわかりました。 目立ちすぎると思ったので剣もライフルも持たず、大使館からピストルを借りてきていました。 「必要ない」 と、パンフリーは前の夜、彼に言いました。 「丸腰は好きじゃないので」 と、シャープは言い返しました。 「きみが言うのならそうだろう」 と、パンフリーは言いました。 「しかし現地の人間に向けないでくれたまえ。今でさえ、彼らはわれわれを信用していないのだ」 「街を調べてみるだけです」 彼としては、ほかにすることもなかったのでした。 パンフリー伯は脅迫者からのメッセージを待っていました。その正体は誰も知りませんでしたが、新聞に手紙が掲載されたことは、英軍との同盟を壊そうとする政敵の存在を示していました。 「もし交渉が失敗した場合、この新聞がこちらの手がかりです」 と、シャープは言いました。 「私は交渉に失敗したことはない」 「それでも新聞社を見ておくことは必要です」 シャープは主張し、朝早いうちに出かけたのでした。 方角に気をつけるように言われていましたが、たちまちシャープは道に迷ってしまいました。 カディスは狭く暗い小道と高い建物の迷路でした。ここでは馬車を使えるだけの広さのある道はほとんどなく、金持ちでさえ、輿を使うか歩くほかはありませんでした。まだ日は昇らず、街は眠っていました。 しかしシャープは、探していたものを教会の外で見つけました。 乞食が石段の上で眠っていました。彼はその男を起こすとコートと帽子を与え、乞食のコートとつば広の帽子と交換しました。両方とも、汚れきっていました。 彼は日の出の方角と思った方向に歩いていきました。そしてやがて、街の城壁にたどり着きました。外壁は港にそそり立つように面し、階段が道路の高さまで続いていました。黒い大砲が据えられていました。1中隊のスペイン兵が、歩哨についていました。しかし、少なくとも半数は鼾をかいていました。 世界中が、この街と同様に眠っているようでした。しかしそのとき光がはじけ、東の水平線を二つに裂きました。そして大きな煙の塊がフランス軍の砦の一つの下に広がったかと思うと、雷のような轟が湾に響き渡りました。歩哨たちも目を覚まし、砲弾は胸壁を飛び越え、シャープの前方4分の1マイルのところに落ちました。 一瞬の静寂のあと、それは爆発しました。破片はオレンジの繁みに飛び散り、火薬のにおいがしました。 シャープは焦げた草の上に飛び降り、墓地を横切って暗い小道に入り込みました。家々の壁が城っぽくなってきて、東から朝日が射してきました。 彼は道に迷っていましたが、それでも街の北の端にいることはわかり、それは彼が当初から目指していた方向で、小道を探っているうちに、彼は赤く塗られた十字架が壁にかかっている教会を見つけました。 その十字架は、パンフリー伯によればベネズエラから持ってこられたもので、聖ヴィンセントの祝日には赤いペンキは血に変わるのだ、ということでした。 シャープは教会の入り口の階段の下にうずくまりました。汚れたコートが彼をすっぽり包み、帽子の縁が顔を隠しました。 ここの道幅はほんの5歩ほどで、彼の正面はセメントで塗られた4階建ての家でした。狭い小道がその家の脇を通り、家の一階にはドアと二つの窓がついていました。窓は内側から閉められていました。ガラスの外側は、黒く太い鉄格子でした。 上の階にはそれぞれ3つの窓があり、狭いバルコニーがついていました。 これが、パンフリーの言っていた 「エル・コレオ・デ・カディス」 の発行所でした。 「その家はヌニェズという男の持ち物だ。新聞社の社主だ。印刷所の上に住んでいる」 ヌニェズの家に、人影はありませんでした。 シャープはじっとうずくまり、大使館の台所から持ってきた木の鉢を傍らの石段の上に置きました。そして一握りのコインを入れておきました。 彼は子供時代に知っていた乞食たちのことを思い出していました。 なんだか不思議に安らいだ時間でした。シャープはうずくまり、歩行者の姿が見えるとパンフリーに教わったとおり、 「ポル・ファヴォール、マドレ・デ・ディオス」(聖母様のお恵みを) と言いました。何度も何度も繰り返し、そしてときどきコインが鉢に投げ込まれると礼の言葉をつぶやきました。 その間もずっと、彼は例の家を見つめ、正面の大きな扉は使われていないらしく、窓の向こうのよろい戸も開かれたことがないことに気づきました。 6人の男たちがその家を訪れ、わきの小道に面した扉を使っていました。 しばらくしてシャープは立ち上がり、ぶつぶつつぶやきながら場所を移動し、そしてまたうずくまりました。今度は小道の入り口のところでした。男が脇のドアをノックし、ドアの小窓が開いて合言葉を交わした後、扉が開くのが見えました。 その後1時間ほどの間に3人の配達人が木箱を運び込み、洗濯女が洗濯物を一抱え持ってきましたが、必ず小窓で確認した後に扉が開くのでした。 日が高くなってきた頃、一人の僧侶がわき道の扉からでてきました。 彼は背が高く角ばった顎をしていました。 その僧侶はシャープの鉢にコインを投げ入れ、同時に何かを命じました。シャープには何を言われたのかわかりませんでしたが、僧侶が教会を指差しているのを見て小道からはなれるように言っているのだろうと思いました。 シャープは立ち上がって鉢を拾い上げそして教会に向かいましたが、そこにはトラブルが待ち構えていました。 3人の乞食たちがさっきシャープがいた階段にいました。 カディスの男たちの乞食の少なくとも半分は、イギリスとの戦争やフランスとの戦争で不具になったものたちでした。そしてそれぞれ自分が闘った戦闘の名前をプラカードにし、あるいはぼろぼろの軍服を身にまとっていました。 しかしシャープを待ち受けている3人は不具でも軍服でもなく、彼をじっと見つめていました。 シャープは不法侵入してしまったのでした。 ロンドンの乞食たちは連隊のように組織されていました。 誰かが他の乞食のナワバリを侵すと警告を受け、それでも警告を聞かなかった場合、乞食のリーダーたちが招集されました。ある乞食がアガリを二人の水兵に奪われたとき、次の朝には二つの死体が発見されたものでした。 今、3人の男たちはそういう使命を帯びているのでした。彼らは何も言わず、シャープを取り囲み、一人が彼の鉢を取り上げ、残りの二人が両脇から肘をつかみ、回廊の影に引っ張り込みました。 「マードレ・デ・ディオス」 と、シャープはつぶやきました。 鉢を持った男が、シャープに何者かと尋ねました。シャープには彼の訛りの強いスペイン語はわかりませんでしたが、何を知りたがっているのかはわかりました。そして、次に何が起こるのかもわかっていました。 男のマントの下からナイフがシャープの喉笛めがけて伸び、その瞬間乞食は兵士へと変わりました。 シャープはその男の手首をつかんでナイフをかざし、その切っ先を持ち主に向け、そしてシャープは薄笑いを浮かべながらその男の顎の下の柔らかい肉に刃を突っ込みました。 ナイフは男の舌にまで達し、唇から血が噴き出ました。 右腕が自由になったシャープは、今度は左側の男を力いっぱい蹴りつけて振りほどきました。 男のブーツを脚払いすると彼は倒れ、マスケットがあたった瞬間のような鈍い音が頭蓋骨から響きました。 シャープは3人目の男の眉間に肘を突き入れました。 シャープがピストルを引き抜いたのを見た一人は膝をつき、降参しました。その股間にシャープはピストルの狙いを定めて撃鉄を起こしました。いやな音がしました。 ナイフを突き立てられた男は鉢を置き、手を差し出して何か話し始めました。 「行け、馬鹿野郎」 とシャープは英語で言いました。男たちには言葉はわかりませんでしたが、理解してしたがいました。 彼らはゆっくりと後ずさりし、シャープがピストルを下げるのを見ると、一散に駆け出したのでした。 「馬鹿野郎」 とシャープは言いました。ずきずきと頭痛がしていました。 彼は包帯に触れ、痛みを紛らそうとしました。目がかすむような感じがし、動悸が激しくなりました。彼は回廊のアーチのキーストーンに刻まれた十字に、じっと目を凝らし、痛みが薄れるのを待ちました。 彼はピストルを無造作にほうりました。まだ握りしめていたのでした。アーチは彼の姿を隠していました。 彼は回廊の門のところの草が生い茂っていることに気づきました。錠前は侯爵夫人のボートハウスにあったような、古いものでした。それは朽ちていました。 彼はとおりを覗き込み、例の家の窓が閉ざされているのを確認しました。 塔がその家に面してそそり立っていて、その足元にも石のブロックの間にも草が生い茂っていました。 その建物は廃屋で、ヌニェズの家から40歩ほどしか離れていませんでした。 「完璧だ」 と彼は大声で言い、ヤギを引いて通りかかった女は彼のことをキチガイだと思った様子で十字を切りました。 #
by richard_sharpe
| 2007-12-21 17:45
| Sharpe's Fury
1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第3章 - 5 マントルピースの上の時計が、10時を打ちました。ヘンリー・ウェルズレイはため息をつき、 「わが同盟軍のために、妙な装いをしなければならない時間だ」 と言いました。客は椅子から立ち上がりました。 「ポートワインとタバコを楽しんでくれたまえ」 と大使は言い、ドアに向かって歩きかけ、立ち止まりました。 「ミスター・シャープ、ちょっといいかな?」 シャープはヘンリー・ウェルズレイについて廊下を進み、ロウソクに照らされた小さな部屋に入りました。 炉には石炭が終え、壁を書物が埋めており、窓の下に革張りの机がありました。大使は窓を開けました。 「スペイン人の召使は、私をやけに温めたがるのだ」 と、彼は言いました。 「私は冷たい空気のほうが好きなのだと何度も言ったのだが、信じてくれない。あっちではきみに気まずい思いをさせたかな?」 「いいえ、閣下」 「あれはムーン准将の利益にもなることだ。彼が言うには、きみが彼を失敗させたということなんだが、私としてはどこか疑わしい。どうも信頼を寄せるに足らない男のように思う」 大使は戸棚を開けて黒い壜を取り出しました。 「ポートワインだ。テイラーの最高級品だ。注いでもいいかな、シャープ」 「ありがとうございます」 「その銀の箱にタバコもある。とりたまえ」 ヘンリー・ウェルズレイはシャープにグラスを渡すと、机の向こう側に腰を下ろしました。そしてライフルマンを鋭く観察しました。 「私の兄がかつてきみが命を救ったことについて、ちゃんときみに礼を言ったかどうか疑問に思っているのだが」 と言って彼は答えを待ちましたが、シャープは何も言いませんでした。 「やっぱり。アーサーらしい」 「あの方は立派な望遠鏡をくださいました」 と、シャープは言いました。 「本当は貰い物で、自分は欲しくなかったとか?」 と、ヘンリー・ウェルズレイはカマをかけました。 「そのようなことはないと確信しております」 と、シャープは言いました。 ウェルズレイは微笑みました。 「兄は多くの美徳を持っているが、その中に感情をうまく表現する能力はないのだ。それが何らかの記念品だとしたら、彼はきみの資質に対する賞賛の気持ちを精一杯示したのだ」 「ありがとうございます」 と、シャープはおずおずと言いました。 大使はため息をつき、喜ばしい内容の会話はここで終わったことを示唆しました。彼は言葉を捜すかのようにためらい、そして引き出しを開けると小さなものを机越しにほうりました。例の角をかたどったブローチでした。 「これが何か知っているか、シャープ」 「残念ながら、存じています」 「ウィリー・ラッセルが話しておいてくれたと思うんだが。それからこれは?」 彼は新聞を机の上に押しやりました。シャープはそれを手に取り、それが 「エル・コレオ・デ・カディス」というものだとはわかりましたが、光が暗すぎるのと字が小さすぎ、そして印刷状態が良くないのとで読む気になれませんでした。彼は新聞をおきました。 「見たことがあるかね?」 「いいえ」 「今日、街中に出回った。そして私がある夫人に送ったと思しき手紙が刷られている。その手紙の中で、私はカディスに関する英国の思惑について、彼女に語っている。第2のジブラルタルにするというものだ。そして国王陛下の政府はカディスに対し何等かの計画を目論んでいるとは決していえないのだ」 「ではこの手紙は捏造ですか?」 と、シャープは尋ねました。 ヘンリー・ウェルズレイは、間を置いて答えました。 「すっかり、というわけではない」 彼の口調は用心深く、今では彼はシャープを見ていませんでした。彼の目は暗い庭に向けられていました。彼はタバコを引き寄せました。 「ウィリー・ラッセルは、私の最近の状況を話したと思うが?」 「はい」 「それなら話が早い。私は数ヶ月前にここである婦人に会い、上流の生まれだと紹介された。彼女はスペインの植民地の出身で、父親は裕福で尊敬すべき人物だというのだ。しかし偽りだった。真相に気づく前に、私は愚かにも手紙の中で彼女への思いを打ち明けていたのだ」 彼は口を閉ざし、開いた窓の外を見つめたまま、シャープが何か言うのを待っていました。しかしシャープは何も言いませんでした。 「手紙は盗まれた。それは彼女のせいではない」 大使は向きを変えてシャープに挑戦的なまなざしを向けました。シャープが彼を信用していないとでも思っているかのようでした。 「それでその泥棒は、あなたを脅迫しようとしていると?」 「そのとおり」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「卑劣なやつが私に手紙を売ることを持ちかけた。だが私の使いは殺された。彼と護衛二人が。金ももちろん消えていたし、手紙はいまだにわれわれの政敵の手中にある」 ウェルズレイは苦々しげに言い、新聞を振りました。 「理解してもらわねばならないのだが、シャープ、カディスにはナポレオンと講和を結んだほうがスペインには未来があると固く信じている連中がいるのだ。彼らにしてみれば、英国のほうがより恐ろしい敵なのだ。われわれがスペインの植民地を破壊し、大西洋上の貿易を奪ったと彼らは信じている。彼らは私の兄がフランス軍をポルトガルから追い出し、スペインからも引き離すことが出来るとは思ってない。そして彼らの政治的な将来の展望の中には、英国との同盟は含まれていないのだ。私の仕事は彼らをともかくも説得することなのだが、その手紙は私の使命をはなはだしく困難にすることになるだろう。不可能にさえなるかもしれない」 再び彼は言葉を切り、シャープのコメントを待っているようでしたが、今度もこのライフルマンはじっと黙り込んだままでした。 「パンフリー伯はきみが有能な男だといっている」 と、大使は静かに言いました。 「ご親切な方です」 と、シャープはそっけなく言いました。 「彼が言うには、きみは昔は痛快な人物だったと」 「それはどうですか」 ヘンリー・ウェルズレイはちょっと笑いました。 「もし私が間違っていたら許してくれ。そしてきみを責めているわけではないとわかってほしいのだが、きみはかつて泥棒だったそうだな」 「そうです」 と、シャープは認めました。 「ほかには?」 シャープはためらいましたが、大使が彼に正直に打ち明けたことを思い、それに返礼をしなくてはならないと考えました。 「泥棒で、人殺しで、兵隊で、軍曹で、ライフルマンです」 シャープは淡々と並べ立てました。しかしヘンリー・ウェルズレイは、その言葉の中にプライドを感じました。 「シャープ、われわれの敵は手紙を一つだけ印刷し、残りはこちらに売るつもりだといっている。その代価は間違いなく法外なものだが、もし支払えばもう手紙を発行しないと断言した。パンフリー伯は私の代理として交渉に当ってくれている。もし合意に達した場合、きみが彼に付き添い、護衛として手紙と金の交換に力を貸してくれるとありがたい」 シャープは考えました。 「最初の代理人は殺されたとおっしゃいましたね?」 「プラマーという男だった。盗人たちは彼が金を払わずに手紙を奪おうとしたと主張したが、まことしやかないいわけとしか聞こえない。プラマー大尉は勇猛な男だ。連中は彼と2人の連れを大聖堂の中で刺し殺し、彼らの死体を岸壁から投げ捨てたのだ」 「それを再びやるやつらではないと?」 ウェルズレイは肩をすくめました。 「プラマー大尉は抵抗したはずだ。彼は正式の外交官ではなかった。パンフリー伯は公式の身分だ。パンフリー伯を殺せば、間違いなく責任を強行に追及されることになる。そしてきみの存在は、彼らに思いとどまらせるものになるはずだ」 「もう一つお尋ねしたいのですが、閣下は私が泥棒だったことを確認されました。そのことがパンフリー伯の命の補償になると?」 ヘンリー・ウェルズレイは戸惑ったようでした。 「もしパンフリー伯が交渉に失敗した場合、手紙を奪い返さなければならないと考えている」 「それがどこにあるか、ご存知ですか?」 「新聞が印刷された場所だと断定できる」 シャープにとって大きな課題でした。しかし彼はそれを受けることにしました。 「何通の手紙が?」 「彼らが持っているのは15通だ」 「もっとあったのですか?」 「たぶんもっと書いた。しかし盗まれたのは15通だけだ」 「ではその女性がもっと持っていると?」 「彼女は持っていないはずだ。残っていた手紙が15通だった」 シャープには、まだなにか隠していることがあるとわかっていましたが、あまり大使をせっつくのは得策ではないと思いました。 「盗みは能力を要する商売ですが、ゆすりはルール違反です。手が必要です。人殺し相手ですから、私も自分の殺し屋が必要です」 と、シャープは言いました。 「私に思い当たる人物はいない」 と、大使は肩をすくめながら言いました。 「プラマーが死んでしまった以上」 「5人のライフル隊員がいますから、彼らにやらせます。彼らをこの街の中に入れたいので、民間人の服装が必要です。それから閣下からウェリントン公に手紙を書いていただきたい。彼らが任務でここに残るという内容で。私に必要なのは、以上です」 「すべて同意する」 と、ヘンリー・ウェルズレイはほっとした声で言いました。 「それからそのご婦人と話したいのですが。もし他の手紙を持っているとしたら、それが盗まれないようにしないと」 「残念だが彼女がどこにいるか、私にもわからないのだ」 と、大使は言いました。 「もしわかったら、もちろんきみに伝える。彼女は姿を隠したようだ」 「名前を教えていただけますか」 「カテリーナだ」 と、ヘンリー・ウェルズレイはしぶしぶ口にしました。 「カテリーナ・ブラスケスだ」 彼は両手で顔を覆いました。 「あんなことを書くなんて、私が馬鹿だった」 「みんな女のことでは馬鹿になります」 と、シャープは言いました。 「それなのに女なしでは生きていけない」 ウェルズレイはその言葉に苦笑いしました。 「しかしパンフリー伯がうまくやれば、一件落着だ。勉強になった」 「もしうまくいかなかったら、手紙を盗むと」 「そうならないように願う」 と、ウェルズレイは言いました。 彼は立ち上がり、タバコを弾き飛ばし、外の暗い芝生の上に火の粉が散りました。 「本当に身支度をしなければ。盛装して、帯剣だ。だがもうひとつ、シャープ」 「なんですか?」 とシャープは尋ねました。大使のことは常に「閣下」と呼ばなければならないのはわかっていましたが、彼はたびたび忘れていましたし、ウェルズレイも気にしてないようでした。 「われわれはスペインの許可を得て、この街で息を殺して暮らしている。そのことだ。だから何をするにせよ、注意してやってくれ、シャープ。そしてどうかパンフリー伯以外の者たちに気づかれないように。彼だけがこの件に通じているのだ」 これは真実で、他にも手を貸せるはずの人物はいるのですが、ヘンリー・ウェルズレイには信用に足るとは思えませんでした。彼に残されている頼れる人物といえば、この傷跡のある包帯を巻いたロクデナシだけなのでした。 「承知しました」 と、シャープは言いました。 「それではお休み、シャープ」 「失礼します」 かすかにスミレの香りを漂わせながら、パンフリー伯がホールでシャープを待っていました。 「それで、リチャード?」 「ここでの仕事が出来たらしいです」 「それはよかった。ちょっと話せるかな?」 パンフリー伯はロウソクに照らされた回廊にシャープを伴いました。 「本当に5人の男か、リチャード?正直に言ってくれ。5人?」 「7人です」 シャープは言いましたが、正確なところは思い出せず、そしてそれは問題ではありませんでした。 彼は泥棒で、人殺しで、兵士で、そして今、脅迫者退治をすることになったのでした。 #
by richard_sharpe
| 2007-12-18 20:14
| Sharpe's Fury
シャープのお料理本が出ています。
バーナード・コーンウェル氏のオフィシャルサイトの こちら に載っていました。 詳しい内容は こちら。 戦場でこういうものを作っていたとは思えないけど、中身はこんなです。 アマゾンの ここ でも買えます。 この表紙を見てしまうと、欲しくなる。。。 私今、ビンボーなのに。 追記: イギリスのアマゾンで買うよりも、PickardCommunicationで直接購入したほうが、本の価格(-2ポンド)も送料(-3.9ポンド)も安いです。在庫あるし。 ここ のいちばん上の Buy online now のところをクリックすると、お買い物フォームにいけます。 さっき、時差を考えていない出張中の夫からの連絡で起こされました。 シルク・ド・ソレイユのショーのチケットが取れたって・・・。 (ラスベガス) こっちは夜中の2時半、しかも熱があるというのに。 #
by richard_sharpe
| 2007-12-15 15:27
| 欄外のお知らせ
1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第3章- 4 驚いたことに、シャープはヘンリー・ウェルズレイが好きになりました。 彼は30代後半の痩せた男で、兄と同じようにハンサムで、しかし兄ほどには鷲鼻ではなく、顎もとがっていませんでした。 彼にはウェリントン公の冷たい尊大さはなく、むしろ内気で優しそうでした。 シャープが大使館の食堂に入ったとき、彼は立ち上がって嬉しげにライフルマンを迎えました。 「よく来てくれた」 と、彼は言いました。 「ここに座りたまえ。もちろん、准将は知っているね?」 「はい、閣下」 ムーンはシャープに冷たい視線を向け、ちょっとうなずいただけでした。 「それから、サー・トーマス・グレアムを紹介させてくれ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「サー・トーマス・グレアム中将は、イスラ・デ・レオンの師団を指揮している」 「知り合えて光栄だよ、シャープ」 と、サー・トーマスは言いました。彼は背が高く、恰幅のいいスコットランド人で、白髪とよく日に焼けた肌と、鋭い瞳の持ち主でした。 「それからきみはもうウィリアム・パンフリー伯を知っていると思うが」 ウェルズレイはテーブルについているもうひとりを紹介しました。 「ああ、まさか」 シャープは思わずつぶやきました。 彼はパンフリー伯を知っていました。しかしそれでもやはり、彼に会ったことに驚かずに入られませんでした。 パンフリー伯はシャープに向けて指先でキスを投げました。 「パンプス、私のお客を困らせてはいけないよ」 とヘンリー・ウェルズレイは言いましたが、シャープはすでに困惑していました。パンフリー伯は、他の人々にとって影響力のある人物だという以上に、彼にとって影響力のある人物でした。 彼は外務省に所属し、シャープはそれをよく知っていました。シャープは伯にコペンハーゲンで会い、そしてポルトガル北部で会い、そしてパンフリーは、今までよりもさらに高慢に見えました。 この夜、彼は銀の縫いとりで縁取られたライラック色の長上着で装い、細面の頬には、黒のベルベットで出来たつけ黒子をつけていました。 「ウィリアムはここの一等書記官なのだ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは説明しました。 「実際、リチャード、私は現地人を驚かせるためにここに配属されたのだよ」 パンフリー伯は物憂げに言いました。 「それにはまったく効果を上げているな」 と、サー・トーマスは言いました。 「ご親切に、サー・トーマス」 パンフリーは言い、スコットランド人のほうに軽く頭を下げました。 ヘンリー・ウェルズレイは腰を下ろし、皿をシャープのほうに押しやりました。 「このカニの爪を食べてみたまえ」 と、彼は急き立てました。 「ここの名産だ。沼地で取れたものだ。割って、身を吸いだすんだ」 「遅くなって申し訳ありませんでした」 とシャープは言いました。テーブルの上の荒れ具合から見て、ディナーは終わっていたのは明らかで、そして同様に、明らかにヘンリー・ウェルズレイは何も食べていませんでした。 彼はシャープが、彼の使っていない皿を見ているのに気づきました。 「私はこのあと、正式なディナーに呼ばれているのだよ、シャープ。スペイン人のディナーの始まりは、とてつもなく遅いのだ。毎晩ディナーを2回ずつなど、食べていられないからね。それでもこのカニは魅力的だ」 彼は爪をひとつとってクルミ割りで殻をこじ開けました。大使がシャープにどうやって食べるのかわからせようとしてやっているのだということは、シャープにもわかりました。そこで彼はクルミ割を取りました。 「それできみの頭はどうだね?」 と、ヘンリー・ウェルズレイは尋ねました。 「良くなっています。ありがとうございます」 「厄介なものだよ、頭の傷は。インドにいたとき助手がいたんだが、彼の頭はぱっくり割れてしまった。気の毒に、死んでしまったと思ったんだが、彼はすぐに起き上がって1週間で治ってしまった」 「インドにいらしたんですか?」 と、シャープは尋ねました。 「2度ね。もちろん、民間人サイドにいたんだが。あそこは好きだよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「私もです」 と、シャープも言いました。彼は2つ目のカニを割り、溶かしバターの皿に突っ込みました。ありがたいことに、ウィリアム・ラッセル卿も空腹だったらしく、二人はカニを分け合い、他の男たちはタバコを取り出しました。 2月でしたが、窓を開けていても暖かでした。 サー・トーマス・グレアムがスペインの同盟軍について愚痴をこぼしている間、ムーン准将は冷たい目でシャープを睨みつけていました。 「バレアリックからの臨時便の船が、まだ来ないんだ」 と、彼はうなりました。 「連中が約束した地図だって、一枚も見たことがない」 「すぐですよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「船は薪になっている恐れがあるな。それでフランス軍は、船を作っているんだ」 「薪に関しては、あなたとキーツ提督にいい知らせがありますよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイはきっぱりと言い、そして話題を変えてシャープに視線を向けました。 「ムーン准将によれば、きみらはグアディアナ川の橋を破壊したそうだな」 「そうです」 「それは安心だ。全てにおいて、サー・バーナビー」 と、ウェルズレイはムーン准将を見ました。 「作戦はほとんど成功ということですな」 ムーンは椅子の上で身体をずらし、脚の痛みに顔をしかめました。 「もっとうまくいくはずでした。閣下」 「また、どうして?」 「兵士というものを理解いただく必要がありますな」 ムーンはぶっきらぼうに言いました。サー・トーマスは准将の非礼にわずかに顔をしかめましたが、ムーンはまったく譲歩しませんでした。 「よく言っても、欠陥のある成功です」 と、彼は続けました。 「私は第40歩兵隊に所属していたが」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「まあ、私にとってはうまくいった時期とはいえないが、兵士の統制を軽んじたことはない。何が欠陥だったか、言ってみてくれませんかな、サー・バーナビー」 「もっとうまくいくはずだったのです」 とムーンは言い、口をつぐみました。 大使はタバコを召使から受け取り、差し出された火をつけるために身をかがめました。 「それで私は、あなたの勝利を祝うためにお招きしたのですが。私の兄と同じように寡黙ですな、サー・バーナビー」 「ウェリントン公と比べられるとは、お恥ずかしい限りです。閣下」 と、ムーンは堅苦しい言い方をしました。 「聞いていただきたいのだが、アーサーが以前、彼の偉業のひとつについて話してくれた」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「そしてそれは、彼の名声がさらに上がるという話ではないのだ」 大使は煙の塊をクリスタルのシャンデリアに向けて吐きました。 サー・トーマスとパンフリー伯は黙ってじっと座っており、彼らはこれからこの部屋で何が起こるか知っているようでした。シャープは妙な雰囲気になってきたのを感じ、カニを置きました。 「彼はアッセイエで落馬したのだ」 と、大使は続けました。 「そういう名前の場所だったと思う。なんにせよ、彼は敵の真っ只中に落ちて、誰も彼もが彼に向かってきた。アーサーは私に、自分はもう死ぬのだと思ったと言った。彼は敵に囲まれ、みんな恐ろしい盗賊のようで、そしてそのとき、どこからともなく英軍の軍曹が現れたのだ。どこからともなく、と彼はいったものだ!」 ヘンリー・ウェルズレイはまるで手品師のように、そこに誰かが現れたかのようにタバコを持った手を波打たせました。 「続いて起こったことは、アーサーが言うには、彼が今まで見てきた戦闘の中でも、いちばんすばらしいひとこまだったそうだ。その軍曹は、5人を斬って倒したらしい。少なくとも5人だ。その男は、5人を斃したのだ!たったひとりで」 「5人!」 と、パンフリー伯は大げさに驚いて言いました。 「少なくとも5人」 と、大使は言いました。 「戦闘を後から正確に思い返すと、混乱しがちなものです」 と、ムーンは言いました。 「ああ!あなたはアーサーが話を脚色しているとお言いかな?」 ヘンリー・ウェルズレイは、大げさな丁寧さで尋ねました。 「1人が5人相手に?たいへん驚きましたな、閣下」 と、ムーンは指摘しました。 「それではその軍曹に、何人と戦ったのか訊いてみよう」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。罠が仕掛けてあったのでした。 「何人だったか思い出せるかな、シャープ?」 ムーンはまるで蜂に刺されたようでした。シャープは再び困惑して、肩をすくめました。 「それで、シャープ?」 と、サー・トーマス・グレアムが促しました。 「数人いました」 と、シャープは居心地悪げに答えました。 「しかしもちろん、将軍も横で戦っておられました」 「アーサーは私に、自分は呆然としていたと言っていたよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「自分を守ることさえ出来ない役立たずだったと」 「闘っていらっしゃいました」 とシャープは言いましたが、実際にはシャープは目を回したサー・アーサー・ウェルズレイをインド軍の大砲の車輪の下に押し込んで隠したのでした。 本当に5人だったか?彼は思い出せませんでした。 「援軍もすぐに来ました」 と、彼は急いで付け加えました。 「本当に、すぐに」 「しかしサー・バーナビー、あなたが言ったように」 と、ヘンリー・ウェルズレイの声が柔らかく響きました。 「戦闘を後から思い返すと、混乱が生じる。もし良かったら、あなたのジョセフ砦での勝利についての報告を見せてもらえますかな?」 「もちろんです、閣下」 とムーンは言い、そしてシャープにも何がおきたのかわかったのでした。 国王陛下の特命全権大使はシャープの味方であることを表明し、ウェリントン公もシャープの側にいることをムーンにわからせ、准将の報告書の書き換えを暗に促したのでした。 好意でした。そしてそれは大きな好意のひとつであり、しかしシャープは好意には好意を返さなければならないこともわかっていました。 #
by richard_sharpe
| 2007-12-11 18:47
| Sharpe's Fury
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