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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第12章 - 3 セッロ・デル・プエルコでは、フランス軍が勝利に向けて前進していました。 丘の頂上に隊列を作っていた4大隊がまずやってきて、それに左翼に合流した榴弾兵の2大隊が続きました。 榴弾部隊のルソー将軍のただひとつの心配事は、自分の部下の到着が遅くなり、勝利の瞬間を共有することができないのではないか、ということでした。 英軍はまだ斜面にいて、彼らの隊列はいまだにあしらわれている、といった風情でした。 彼らは曲射砲でしたたかに打ち砕かれていましたが、フランス軍の大砲はこの時点では発射ができなくなっていました。ブルーコートの兵士たちが、ターゲットになっているレッドコートの群れに覆いかぶさるようになっていたのです。 しかしヴィクトールには、大砲はもう必要ないだろうことがわかっていました。 皇帝軍の銃剣は勝利を確実にし、太鼓手たちは「パ・ドゥ・シャージ」のリズムを鳴らし、イーグルは3丘の斜面をぎっしりと覆った3000のフランス兵の上に高々と掲げられ、兵士たちは勝利へと突撃しながら歓声を上げていました。 英軍の歩兵近衛隊とハンプシャー部隊の半数、ライフル隊2中隊とジブラルタルから闘うためにやってきた側面守備部隊へと、彼らは向かってきていました。 赤と緑の上着の兵士たちは2倍の兵士たちに圧倒されており、夜通し歩き続けて敵から丘の斜面で見下ろされているのでした。 「構え!」 サー・トーマス・グレアムは吼えたてました。 奇跡的にも、目の前の隊列で3人のスコットランド兵を倒したすさまじい榴弾砲の炸裂から、彼は生き残っていました。 ウィリアム・ラッセル卿は、サー・トーマスに吹き飛ばされた帽子を手渡しました。サー・トーマスはその帽子を高く掲げ、そして銃剣を向けて突撃してくる乱れた2列の兵士たちに狙いを定め、帽子を振り下ろしました。 「撃て!」 1200のマスケットと200のライフルが火を吹きました。 側面の部隊に対してはもっと距離はありましたがおおむね60ペースを切る程度の距離で、フランス軍前列の300人の兵士たちに命中し、進軍は止まりました。 それはまるで復讐の天使がフランス軍の頭上に巨大な剣を振り下ろしたかのような光景でした。 前列の兵士たちは血まみれになって打ち倒され、2列目の兵士たちもまた倒れており、第3列と第4列の兵士たちは、自分の前で死んでいく兵士たちを目にし、進撃を止めるほどでした。 マスケットが噴き上げた煙に包まれ、レッドコートたちには自分たちの射撃の結果を見ることはできませんでしたが、兵士たちは前方2列が煙を突っ切って銃剣で攻撃してくることを予想し、訓練されたとおりのことを続けていました。 彼らは、再装填をしていました。込め矢で銃身に弾丸をつき入れていました。 整列して進むという命令は丘を登っているうちに乱れ、それでも将校たちは小隊ごとに射撃するようにと中隊に向かって叫んでいました。 ほとんどの兵士たちは、ただ自分が生きるためだけに射撃をしていました。 彼らは射撃を繰り返すについて将校や軍曹の命令を待ってなどおらず、ひたすら再装填し、銃を持ち上げ、引き金を引いて再び装填するのでした。 訓練指導書には、少なくとも10の動作が銃の装填には必要なことが記されていました。 それはカートリッジ取り扱いの最初の動作に始まり、射撃命令で終わっていましたが、いくつかの大隊では訓練担当軍曹が17ほどの細かく異なった動作に分けるようにし、そのすべてを覚え、マスターし、練習しなければならないのでした。 兵士たちの中には、わずかでしたが火器の取り扱いについて知識を持って入隊してくるものもいました。彼らはおおむね鳥撃ち銃の扱い方を知っている地方出身者でしたが、全くの無教育とみなされなければなりませんでした。 新兵は銃の装填の動作に丸々1分、あるいはもっと長くかかることもありましたが、次第に彼らはレッドコートとして一人前に働くようになり、国王のための戦いに赴く頃には、15~20秒で装填を済ませることができるのでした。 これは他のどんなことよりも要求される技術でした。 丘の上の近衛隊は実にかっこよく見え、セント・ジェームズ宮殿やカルトン・ハウスで警備に当たっていたときほどには素敵な歩兵部隊には見えませんでしたが、もし彼らがカートリッジをかむことができず、装填できず20秒以内に射撃ができなかったら、彼らはもはや兵士ではなく、そしてそこにはまだ生きている近衛兵たちが1000人近くいて、生きるために射撃を続けているのでした。 彼らは次々と煙の中に銃弾を放ち、サー・トーマス・グレアムは、彼らの真後ろで馬に乗っていましたが、フランス軍に打撃を与えていると確信できました。 傷つけているだけでなく、彼らを殺しているのだと断言できました。 フランス軍は再び隊列を組みました。彼らは常に隊列になって進むのでした。 このときは横300、楯9列で、このことはほとんどのフランス兵が銃を仕えないということを意味しており、その間、すべてのレッドコートとグリーンジャケットは自分たちの武器で射撃ができるのでした。 銃弾はフランス兵たちに降り注ぎ、彼らを中心に向けて寄せてゆきました。そして近衛部隊の前方とハンプシャー部隊の前方には、低く炎を上げて草地がありました。 サー・トーマスは息を殺していました。 今は命令は何の役にも立たない、ということを彼は知っていました。兵士たちへの激励さえも、いわば呼吸の無駄でした。 彼らは自分たちがなすべきことをわきまえており、それをきちんと果たしていました。それで彼は破滅を迎えようとしているという思いから、勝利を手にすることができるかもしれない、と期待する誘惑に駆られたのでした。しかし一斉射撃の音を聞き、隊列の右翼に向けて馬を進めていくと、煙の向こうからフランス榴弾兵の一糸乱れぬ隊列が丘を下ってくるのが見えたのでした。そしてスコットランド近衛隊が向きを変えて新しい敵に対峙し、海側の斜面に散開していたライフルマンたちも密集しながらフランス軍の新手部隊に向けて射撃を開始したのが見えました。 サー・トーマスはまだ黙っていました。 彼は帽子を握り締め、榴弾兵たちが丘を下ってくるのを見ていました。そしてフランス兵のそれぞれが銃と同じように短いサーベルも持っているのがわかりました。 敵兵の中でもエリートで、いちばんハードな仕事のために選ばれた兵士たちであり、彼らは戦いに疲れていない新たな戦力でした。彼らは再び隊列を組みましたが、サー・トーマスの右翼は命令も受けぬまま、訓練の成果を生かすことができるように90度向きを変えました。 第67連隊の半数は榴弾兵部隊の右前方にいて、最初の4大隊とは異なり、まだ射撃の成果を試していませんでしたが、彼らも進んできていました。 サー・トーマスにはわかっていましたが、これはいかに隊列が闘うべきかを示すものでした。 それは肉弾戦であり、前列は手ひどい打撃を受けることになりますが、その数で圧してくるやり方は敵を圧倒して勝利を得るものでした。 ヨーロッパ全土で繰り広げられた戦場のすべてで、皇帝の軍隊はそのようにして敵に鉄槌を下し、栄光の中で進軍を続けてきたのです。 その上この部隊はすべてにおいて精鋭の部隊で、丘を下って近づきつつあり、レッドコートとグリーンジャケットの手薄な隊列がもし破られるようなことがあれば、彼らは右翼に向きを変え、サー・トーマスの兵士たちをサーベルと銃床で打ち破ることになるはずでした。 まだそれは接近を続けており、サー・トーマスは第67連隊の後方にいて、剣を抜く構えをし、榴弾兵が突撃に成功した暁には兵士たちとともに死ぬ用意をしていました。そのとき、ひとりの将校が射撃を命じて怒鳴りました。 煙がサー・トーマスの前をうねっていきました。そしてさらに煙が。 第67連隊は小隊ごとの連射を始めていました。そしてスウィープス(ライフルマンたち)は右翼で射撃をしていました。彼らはは皮で弾丸を包む暇もないほどの速射を続けていました。この距離ならばはずすわけがなく、そのために彼らは傍らのレッドコートのマスケットと同じほどの速さで撃ち続けているのでした。 サー・トーマスの左側には彼のスコッツマンたちがいて、彼らが敗れるはずはないとサー・トーマスは確信していました。 銃声は乾いた木が轟音を立てて燃えあがるようでした。 空気には腐った卵のようなにおいが立ち込めていました。 どこかでカモメが鳴いており、サー・トーマスのずっと後方のどこかで大砲が繁みの上で炸裂していました。しかし彼は振り返って確認する余裕がありませんでした。 戦いが決定されるのは今ここであり、突然彼は、自分が息を止めていたことに気づいて、息を吐き出しました。ロード・ウィリアムに目を向けると、閣下は目を大きく見開いて硝煙のなかで身じろぎもしませんでした。 「息をしなさい、ウィリー」 「ああ、まったく」 と、ウィリアム卿は息を吐き出しながら言いました。 「スペイン軍の部隊がわれわれの背後にいることをご存知でしたか?」 と、彼はサー・トーマスに尋ねました。 サー・トーマスは振り返って、海岸にいるスペイン歩兵部隊を見渡しました。 彼らは援軍として動く様子は全くなく、もしここで彼らに丘を登るように命じたとしても到着は遅すぎるということがわかっており、彼は首を振りました。 「やつらは放っておけ、ウィリー」 と、彼は言いました。 「もうどうでもいいやつらだ」 ウィリアム・ラッセル卿はピストルを握り、煙を突っ切って出てくる最初の榴弾兵を撃とうと構えました。しかし榴弾兵たちはライフルとマスケットの射撃に動きを阻まれていました。 その前列は戦死し、後方の兵士たちは再装填を試みており、ひとたび動きを止めた隊列は格好の巨大なターゲットとなっているのでした。サー・トーマスの部下たちはその中央部に向けて発砲し、さすがの榴弾兵も精鋭部隊とはいえレッドコートたちと同じくらいに早い射撃はできずにいました。 尻と肩から血を流した馬に乗ったディルクス将軍が、サー・トーマスの傍らにやってきました。 彼は何も言わず、ただ見つめ、ヴィクトール元帥が白い羽飾りのついた帽子を目深にかぶって馬に乗っているあたりの丘の上を見上げていました。 ヴィクトール元帥は3000の部下たちが銃撃で足止めを喰らっているのを見ていました。 彼も何も言いませんでした。 今は兵士たちしだいでした。 英軍左翼、第1近衛歩兵部隊の向こう側で、ブラウン少佐は側衛部隊の生き残りたちと戦っていました。 丘に登ったときの半分足らずの兵士たちがまだマスケットを撃つことができ、彼らはいちばん近いフランス部隊に銃撃を加えていましたが、攻撃に熱が入り、彼らはフランス軍の側面を襲撃するために、丘のより高いところへと向かうのでした。 「かわいいやつらじゃないか?」 サー・トーマスはディルクス将軍に向かって叫びました。ディルクスは高笑いしながらのその言葉に驚いてしまいました。 「そろそろ銃剣の出番だ」 と、サー・トーマスは言いました。 ディルクスはうなずきました。彼はレッドコートたちが強力な射撃を続けているのを見ていましたが、今、自分は部下たちが奇蹟を起こそうとしているのだ、と思っていました。 「連中は走り出すぞ。私が保証する」 とサー・トーマスは言い、自分が正しいことを願っていました。 「銃剣装着!」 とディルクスは声を励ましました。 「かかれ!みんな!」 サー・トーマスは帽子を振り、馬をラインの後ろに走らせました。 「かかれ!やつらをわれらの丘から追い払え!」 レッドコートたちはまるで放たれた猟犬のように銃剣を手に丘を登っていきました。ヴィクトール元帥は頂上付近で刃が戦闘に加わった証拠の金切り声を聞きました。 「頼む、闘え!」 彼は誰に言うでもなく口に出し、しかし彼の6大隊は押し返されていました。 パニックが全部隊に感染していきました。 最後尾の、ほとんど危険のない兵士たちがさらに後退し、前方の隊列はレッドコートに踏みにじられていました。 楽隊は後方にいてまだご禁制の「ラ・マルセイエーズ」を演奏していましたが、悲劇が近づいていることに気づくと音楽は乱れました。 学長は楽隊員たちを集合させようとしましたが、演奏する代わりに彼らは逃げ散っていくのでした。 歩兵部隊が続きました。 「大砲!」 と、ヴィクトール元帥は副官に言いました。 「丘から大砲を下ろせ」 大砲は失うことのできないもののひとつでした。砲兵たちはチームを送って丘の上に放置された大砲のうち4門を引っ張ってきましたが、レッドコートたちの進撃であとの2門を守ることは不可能でした。いずれにしてもレッドコートたちの位置がすでに近すぎ、その2門は役に立たないのでした。そして6大隊は生き延びるために走り出し、丘の頂上を横切って東の斜面に向かいましたが、その背後からレッドコートとグリーンジャケットの兵士たちは銃剣と勝利を引っさげてやってきたのでした。 榴弾兵指揮官のルソー将軍と、打ちのめされた師団を指揮していたルファン将軍は、二人とも負傷して後方に残されました。 サー・トーマスは彼らを捕虜したという報告を受けましたが何も言わず、ただ敵が潰走していくのを見ていた場所から内陸に馬を乗り入れながら、ずっと昔のトゥールーズでフランス兵たちが彼の妻のなきがらを凌辱し、それに抵抗した彼の顔につばを吐きかけたときのことを思い出していました。 それ以前のサー・トーマスはフランスに同情的で、彼らの信条である「自由、平等、博愛」は英国にももたらされるべきだと考えていました。 彼はフランスを愛していたのでした。 しかしそれは19年前のことでした。 この19年間というもの、サー・トーマスは亡き妻にフランス人から与えられた侮辱を決して忘れはしませんでした。そして今、かれは鐙に立ち上がり、両手を口元にあてがいました。 「私を覚えているか!」 と、彼は叫びました。英語で叫んでいました。しかしそれは何の問題でもありませんでした。なぜならフランス兵たちはその声を聞くにはあまりにも速く、あまりにも遠くへと逃げ去っていたからです。 「思い知れ!」 彼は再び叫びました。そして結婚指輪に触ってみるのでした。 彼の北側の松林の向こうで、大砲が火を噴きました。 そしてサー・トーマスは振り返ると、疲れた馬に拍車をくれました。 戦闘はまだ勝利には至っていなかったからでした。
by richard_sharpe
| 2009-02-20 22:13
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