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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第12章 - 2 ヴァンダール大佐はシャープの北寄りの方角にいました。大佐はフランス軍の左翼の大隊の中央にいて、ダンカンの大砲の外側にいたシャープは、まだ混雑してフランス軍の守備隊形よりも広がっている英軍右翼側でした。 「こっちだ」 と、彼はライフルマンたちに向かって叫び、ヴァンダールのちょうど対面に行くまでに隊形を広げた47連隊の2中隊と第67連隊の半数の後ろ側を走っていくことになりました。 「厄介な仕事だな!」 と、またシャープの後方で馬に乗ったホイートリー大佐の声がしました。今度は、シャープの左側にいる第87連隊の指揮官であるゴーフ少佐に話しかけていたのでした。 「ドンたちは助けてくれないからな」 と、ホイートリーは続けました。 「きみのところの連中はどうだね、ゴーフ」 「信頼できる連中ですよ」 と、ゴーフは言いました。 「ただ、もっと数が必要です。もっとたくさんの兵士が」 彼は銃声がうるさいために、叫ばなければなりませんでした。 第87連隊は4人の将校と100人以上の兵士たちを失っていました。 負傷兵は松林に後退し、フランス軍の銃撃のたびに、その数は増えていました。 隊列の責任者は、中央によるようにと怒鳴っており、第87連隊の幅は縮まりました。 彼らは銃撃を返していましたが、火薬で駄目になる銃も多く、カートリッジの装填に手間取っていました。 「兵隊はもういないんだ」 と、ホイートリーは言いました。 「スペイン軍が来なければな」 彼は敵の隊列に沿って視線を移しました。 問題は非常にシンプルでした。 フランス軍は多すぎるほどの数の兵士がいて、すぐに死傷者の代替が可能でした。そして、彼にはそれが出来ないのでした。彼に出来るのは、兵士対兵士の戦いで勝つことだけで、しかしフランス軍はスタート地点において、数で圧倒していました。 彼に出来ることは、ラペーニャが援軍を送ってくるかもしれない、との希望を持って待つことでしたが、もし誰も来なければ彼の部隊の隊列は、加速度的に縮小していくことになるのです。 「大佐!」 と副官は叫び、ホイートリーは期待を持って、援軍を依頼に行ったスペイン将校が馬を駆ってくるのを見ていました。 ガリアーナは大きく迂回しながらホイートリーに馬を寄せ、一瞬でしたが話すのを苦しげに躊躇したのでした。 そして、彼はついにその知らせを伝えました。 「ラペーニャ将軍は、動くことを拒否しました」 と、彼は言いました。 「申し訳ありません」 ホイートリーはそのスペイン人を見つめていました。 「なんということだ」 と、彼は驚くほど穏やかな言い方をしました。そしてゴーフを振り返りました。 「ゴーフ、鋼鉄を食らわしてやろう」 ゴーフは煙を通してフランス軍の集団を見ていました。 第87連隊の連隊旗は、大佐のちょうど頭上ではためいていました。 「鉄ですか?」 と、彼は尋ねました。 「何かしなければならんのだ、ゴーフ。ここで立ち止まったまま死ぬわけにはいかない」 シャープはヴァンダールの姿を見失ってしまいました。煙が濃すぎました。 ひとりのフランス兵が倒れたポルトガル突撃隊員の死体にかぶさって、ポケットを探っているのが見えました。 シャープは膝をつき、狙い、撃ちました。ライフルの煙が晴れたとき、フランス兵は四つんばいになって頭を下げていました。 シャープは再装填しました。彼は、膏を塗った皮で弾丸を包まずに撃ちたい、という欲求に駆られました。そのフランス兵はいつ突撃してくるかもしれず、とにかく今は出来るだけ早く彼らを殺すことが必要でした。そのためには包まない弾丸を使えば、ライフルに早く装填することができ、それにこの距離なら正確さは重要ではありませんでした。 しかし、もしヴァンダールをもう一度見つけたら、確実に射撃することを望める状態にしておかなければならず、結局彼は皮をとりだして弾丸を包み、ライフルの銃身に滑り込ませたのでした。 「将校たちを捜せ」 と、彼は部下たちに伝えました。 ピストルの発射音がシャープの傍らで聞こえ、そこではガリアーナ大尉が馬から下りてその小さな武器に再装填していました。 「撃て!」 第87連隊のいちばん手前にいる中隊を指揮する中尉が叫び、煙が巻き起こりました。 前列の兵士がひとり、仰向けに倒れました。その額には黒い穴が開いていました。 「こいつは放って置け!」 と、軍曹が叫びました。 「もう死んでる!再装填!」 「銃剣装着!」 第87連隊の背後から叫び声が聞こえ、その越えは隊列を伝って繰り返され、北に向かってだんだん小さくなっていきました。 「銃剣装着!」 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 と、ハーパーは言いました。 「絶望的ですね」 「選択の余地はないぞ」 と、シャープは言いました。 フランス軍は数で勝っていました。彼らはどんどん前進を続け、ホイートリーはもはや撤退するか突撃するかしかなくなっていました。 撤退することは敗北することであり、しかし突撃することは少なくともフランス軍の実力を試すことができるのでした。 「銃剣ですか?」 と、スラッタリーが尋ねました。 「装着しろ」 シャープは言いました。 この戦いが彼自身のものかどうかなどということを考えている余地はありませんでした。戦いは激化していました。 再びフランス軍の銃撃がレッドコートたちを襲い、次にその銃撃をしたブルーコートの兵士たちを、榴弾砲が切り裂きました。 前列のアイルランド出身の少年兵が、股間を血まみれの手で押さえて恐ろしい金切り声を上げました。 軍曹がその頭蓋をマスケットの銃床で打ちつけ、楽にしてやりました。 「前進だ!前進!」 旅団副官が叫びました。 「第87連隊、突撃!」 ゴーフは怒鳴りました。 「フォー・ア・バラー!」 「フォー・ア・バラー!」 第87連隊の生き残りたちもその叫び声に応じ、前進を始めました。 「落ち着いてやれよ、諸君!」 と、ゴーフは叫びました。 「ゆっくりだ!」 しかし第87連隊はゆっくりなどしていませんでした。彼らの4分の1が死傷し、さっきまで自分たちをこんな目に合わせていたやつらへの怒りを湧き上がらせ、意欲的に彼らは進んでいきました。 少しでも早く敵にたどり着けば、早く敵は斃れることになります。ゴーフは彼らをとめることはできませんでした。 彼らは走り出し、走りながら調子の高い金切り声で叫び、それは恐ろしい光景で、彼らの17インチの銃剣はほとんど中天に達していた太陽の光を受けて輝いていました。 「前進!」 シャープの右側の兵士たちも第87連隊と歩調を合わせました。 ダンカンの砲兵たちはフランス軍のラインの側面に照準を合わせるため、梃子を使っていました。 「もっと殺せ!もっと殺せ!」 キーオ少尉は頭のてっぺんから出ているような声で叫んでいました。彼は細身の剣を片手に持ち、もう一方の手に帽子をつかんでいました。 「フォー・ア・バラー!」 ゴーフは怒鳴りました。 フランス軍のマスケットがすぐ近くで恐ろしい銃声を響かせました。 兵士たちはなぎ倒され、隣にいた兵士たちの血しぶきを浴びながらも、いまやその突撃の勢いをとめることはできませんでした。 隊列全体のレッドコートたちは、銃剣を手に前進していきました。とどまることは死を意味し、撤退は敗北することだったからです。 彼らの総勢はもはや1000人足らずになってしまっており、3倍の数を相手にすることになったのでした。 「突っ込め!突っ込め!」 と、カリフラワーズの将校が叫びました。 「殺せ!やつらを殺せ!」 フランス軍の前列は後ずさりしようとしました。しかし後列が前に押し出してきていて、そこをレッドコートたちは襲撃しました。 第87連隊の軍曹の一人は、まるで兵舎で訓練をしているように、唱え続けていました。 「突け!戻せ!足位置確認!突け!戻せ!足位置確認!肋骨じゃない、馬鹿野郎!腹の真ん中だ!突け!戻せ!足位置確認!腹だ!腹の真ん中を突くんだ!突け!」 アイルランド兵の銃剣がフランス兵の肋骨に引っかかってしまいました。それはなかなか抜けず、ヤケクソで彼は引き金を引いてしまい、驚いたことに銃は装填されていたのでした。圧縮された煙と銃弾の勢いで銃剣はいきなり抜けました。 「腹の真ん中だ!」 と、軍曹は叫んでいました。みぞおちのほうが、肋骨に刺すよりも引き抜きやすいのです。 将校たちはまだ馬上から、兵士たちの帽子越しにピストルを撃ち続けていました。 兵士たちは突き、戻し、さらに突き、そして中には狂ったように闘い続けて自分たちがどんな闘い方をしているのかわからなくなり、銃床で殴られるものたちもいました。 「そいつを抜くんだ!」 と、軍曹は叫びました。 「ただ刺すだけでいい!やっつけろ!突け!戻せ!」 彼らはイングランドやアイルランド、スコットランドやウェールズではあぶれ者たちでした。 彼らは飲んだくれであったり泥棒であったり、溝や刑務所のカスどもでした。 彼らは誰からも必要とされなかったので、あるいは選択の余地のない絶望のあまりレッドコートを着ることになりました。 彼らは英国では屑でしたが、闘うことはできました。彼らは常に闘ってきましたが、軍では訓練によって闘い方が教えられ、そして彼らは、自分たちを評価してくれる軍曹や将校たちを見出すのでした。 彼らはもちろん兵士たちを処罰し、毒づき、罵倒し、血が流れるまで鞭打ってその上さらに罵倒しましたが、兵士たちを評価していました。 彼らは兵士たちを愛していさえしましたし、年俸5000ポンドの将校たちは現に兵士たちに立ち混じってともに闘っているのでした。そしてレッドコートたちは1日手取り1シリングの支払いで、ベストを尽くして闘っているのでした。 彼らは殺し続けていました。 フランス軍の全身は止まりました。今では彼らは前にじりじりと進むこともできなくなっていました。 その前列は瀕死の状態で、後列は血まみれの顔でアクマのように金切り声を上げる野蛮人から逃げようとしていました。 「フォー・ア・バラー!」 ゴーフは部下たちの中を馬を蹴って進み、剣をフランス軍曹に振り下ろしました。 連隊旗の守備隊は彼の背後にいて、連隊旗手たちが2本の旗を掲げ、軍曹たちが長さ9フィートの槍で旗を守っていたのですが、今ではその軍曹たちも攻撃に回っていて、その長く細い穂先をフランス軍に向けて踊りかかっていっていました。 パトリック・マスターソン軍曹はその槍兵の一人でしたが、ハーパーと同じくらいの大男でした。 彼は槍を次々とフランス兵の顔に突っ込み、銃剣の群れが止めをさせるように彼らを倒していっていました。 彼は銃剣でその刃を避けようとしていたフランス軍のいちばん手近の隊列を突破して道を作り、抜き、突き続け、敵の腹部の筋肉と服に引っかかって、ついに槍の穂先が落ちてしまいました。 突きが強すぎて刃が敵兵の死体の腹部に深く入り込んでしまっており、彼は死体を突き上げ、蹴りつけました。レッドコートたちはその間にも彼が作った隙間に切り込んでいっていました。 フランス兵の中には、傷ついてもいないのに地面に伏せ、叫び続ける悪魔たちが通過してくれるように祈りながら頭を抱えているものもいました。 キーオ少尉は髭のフランス兵に剣で切りつけ、両頬を横にざっくり切り割り、思い切り振るった剣は彼の横の兵士に当たるところでした。 キーオは帽子をなくしてしまっていました。 彼は第87連隊の鬨の声を叫んでいました。 「フォー・ア・バラー!」 道を切り開け! 彼らの剣はぎっしりと詰め込まれたフランス軍の隊列を、刈り取っていきました。 どのラインでも同じような状況でした。 銃剣が徴集兵たちに、肝が縮むほどの恐怖に大しては野蛮さが。 戦いが始められたとき、フランス軍は数で圧倒して臨みました。しかしホイートリーは進軍し、数学の法則は、ハードは訓練を施されたハードな男たち、という残酷な法則に取って代わられたのでした。 レッドコートたちは前進しました。圧してくる敵と闘いながら、血にぬれた草に滑り、死体に躓きながらだったので進みはゆっくりでしたが、それでも彼らは前に進み続けていました。 そのとき例の二頭立て馬車が木立の端に現れました。 そして、シャープはヴァンダールの姿を再び見たのでした。
by richard_sharpe
| 2009-02-10 18:01
| Sharpe's Fury
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