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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 4 「ひどいもんだ」 と、シャープは言いました。 彼は英軍のラインの右手の森から姿を現したのでした。 彼の正面右側には、ダンカンの大砲が砲撃のたびに大きく後ろに跳ね上がっていました。 大砲の傍らにはポルトガル突撃隊の生き残りがまだ射撃を続けており、そしてシャープの左側はレッドコートのラインでした。 シャープはブラウン・コートのポルトガル兵に合流しました。 彼らはやつれ、火薬に汚れた顔で、目が白っぽくなっていました。 彼らは新しい部隊でかつて戦闘に参加したことはありませんでしたが、今は任務を果たし、英軍兵が替わって射撃を続けていました。そしてポルトガル兵は必至で持ちこたえたのでした。シャープからもフランス大隊の前に茶色いユニフォームの死体が多く横たわっているのが見えました。そしてまた、英軍左翼のグリーン・ジャケットもそこに見えました。 フランス軍は彼らの目の前に展開していました。それはあまり上手くいかず、兵士たちはそれぞれ銃を撃ちやすいところを見つけようとしていました。あるいは勇敢な戦友の陰に隠れようとして、軍曹に前に押し出されたりしていました。 散弾がシャープの周りでうなりを上げ、彼は本能的に後ろを見て、部下たちが誰も撃たれなかったことを確かめました。 皆無事でしたが、シャープのすぐそばにいたポルトガル兵が喉を切り裂かれて仰向けに倒れていました。 「きみがいるとは知らなかったよ!」 と声がして、シャープが振り返るとそこには馬上のダンカン少佐がいました。 「来ました」 と、シャープは言いました。 「きみのライフルマンたちは砲兵隊に協力してくれるかな?」 前方にフランス軍の6門の大砲が見えました。 2門はすでに使い物にならなくなっていましたが、残りは英軍左翼に歩兵が最も嫌う散弾を撃ち込んでいました。 大砲を狙うに当たって一番の問題は、砲撃のたびに巻き起こる煙であり、距離がさらにその問題を大きくしていました。 ライフルにとってさえも、遠すぎる距離でした。しかしシャープは部下たちをポルトガル兵のところに引っ張り出し、フランス砲兵を狙撃するように説きました。 「安全な仕事だ、パット」 と、彼はハーパーに言いました。 「戦闘とはいえない」 「砲兵を殺すのはいつでも楽しいですよ」 と、ハーパーは言いました。 「違うか、ハリス?」 ハリスはどんな戦闘にも加わらないことを声高に主張していましたが、ライフルの撃鉄を起こしました。 「いつも楽しいですね、軍曹」 「それじゃあ楽しむんだな。砲兵を殺せ」 シャープは前方のフランス歩兵のほうを凝視しましたが、銃撃で巻き起こった煙のせいでほとんど見えませんでした。 煙を通して見えたのは2本のイーグルと、その傍らにイーグルを守る小旗を擁した突撃兵たちでした。フランス兵たちの進軍は止まっているにもかかわらず、少年太鼓手が「パ・ド・シャージ」のリズムを叩き続けているのも聞こえました。 リアルな音は師団ごとに間を置いて発せられる銃声であり、砲声でした。そしてさまざまな音の中でも、銃弾が肉に食い込む音や負傷者の苦しげな叫び、そして銃弾を受けた馬から放り出された将校たちの悲鳴などはよく聞こえるのでした。 そしていつもながらに彼を驚かせるのは、フランス兵たちの勇気でした。彼らは困難な中でも常に踏みとどまっていました。戦死した兵士たちを積み上げた陰に身を潜ませ、負傷兵を後方へ移動させながら、じりじりと進んでくるのでした。 再装填し、銃撃をし、連射を続けていました。 その敵兵たちに命令がいきわたっているとは、シャープには思えませんでした。隊列は重なりながら列を乱して広がり、兵士たちはそうすることで少しでも射撃できるスペースを見出そうとしていました。しかしそれでもその即席の隊列は英軍よりも重なり合って幅が狭く、一方で英軍・ポルトガル軍はたった2列で闘っていました。 フランス軍は3部隊ごとに闘うことになっていましたが、列は入り乱れ、ひとつの場所に6,7人もの兵士がいる、という有様になっていました。 フランス軍の砲の3番目が破壊されました。砲手がジャンプして砲身を押し下げて発射した砲弾は特異な飛び方をし、車輪を粉砕しました。 「うまいぞ!」 と、ダンカンは叫びました。 「そのクルーにはラム酒を特別配給だ!」 砲撃が終わるころには大損害を与えていると考え、彼は砲手全員にラム酒を与えようと考えていました。 爆風がフランス軍を覆う煙を吹き飛ばし、新しい車輪を砲手が装着しているのがダンカンから見えました。 ポルトガル兵の間に膝をついていたハーグマンは、さらに他の砲手が手前の大砲に砲弾をこめるのを見ました。散弾筒でした。 ハーグマンは引き金を引き、その砲手は砲身の向こう側に姿を消しました。 英軍には自らを鼓舞するような音楽はありませんでした。船には楽器を載せるスペースがなかったのです。しかし楽隊員たちも銃で武装して同行し、今はいつもの戦闘中の任務である負傷兵の救出と銃後の林の中で働いている軍医たちのところへの搬送を行っていました。 他のレッドコートたちは戦闘中でした。 彼らは訓練を受けたとおりに、やるべきことを、マスケットを撃つことを繰り返していました。装填し、発射する。装填し、発射する。 カートリッジを取り出して端を噛み切り、切り口から火薬を注ぎ込んで銃床を一度地面に落としてたたき、さらに火薬を入れて、紙に包んだ弾丸を銃口から落とし込む。 銃をあげ、撃鉄を起こし、ラバみたいに蹴り上げる反動に備えて低く狙うことを心がけ、命令を待ち、引き鉄を引く。 「点火せず!」 と、ひとりの兵士が叫びました。燧石が火花を出さず、銃が発火しなかったのです。 伍長がその銃をひったくると、死んだ兵士の銃を渡しました。そして不点火の銃を後方の草むらに置きました。 他の兵士たちは燧石を交換するときに休むだけで、銃声が途絶えることはありませんでした。 フランス軍は少しずつ秩序を取り戻してきていました。しかし彼らは英軍へいたちのようには射撃をする能力はありませんでした。レッドコートたちはプロフェッショナルであり、一方でフランス兵たちは徴集兵でした。彼らは訓練を受けはしましたが、実弾射撃は許されていませんでした。 英軍兵士が3発発射する間、フランス兵は2発の発射だけでした。 数学の法則は英軍に味方しました。 しかし数の上では、フランス兵が英軍を圧倒していました。数学の神はブルーコートにも恵みをたれ、双方は拮抗していました。 皇帝軍はより多くの兵士たちを投入して銃撃が続き、レッドコートたちはだんだんと松林のほうに押されて後退してゆきました。 英軍左翼は砲兵隊の援護がなく、シルバー・テイルズがひどくやられていました。今では軍曹たちが中隊を指揮していました。 ルヴァル将軍が送り込んだ援軍が加わったことにより、シルバー・テイルズは2倍の敵に立ち向かうことになり、敵の新たな銃撃にさらされていました。 まるで二人のボクサーが血みどろになって素手で打ち合い、両者ともが譲らず、どちらもいかに苦痛に耐えるかを誇示している試合のようでした。 「きみ!そこのきみだ!」 シャープの背後で鋭い声がし、彼は警戒しながら振り返りました。そこには大佐がひとりいて、彼はシャープを見ていたわけではありませんでした。 彼はガリアーナ大尉をにらみつけていました。 「きみの部下たちはいったいどこなんだ?英語を話せるかね?ああ、まったく、誰か彼に兵士たちはどこにいるのか聞いてくれ」 「部下はいません」 と、ガリアーナは英語で早口に言いました。 「なんということだ。なぜラペーニャ将軍は援軍を送ってこないのだ?」 「将軍を捜しに行きましょう」 と、ガリアーナは言うと、何か役に立つことが見つかったと思い、馬を返して林の中に入っていきました。 「部隊を私の左翼にまわすように伝えてくれ」 と、大佐は彼の背中に向かって大声で呼びかけました。 「左翼だ!」 その大佐は旅団指揮官のホイットリーで、彼は第28連隊とダンディーズ、シルバー・テイルズ、スラッシャーズが死人の群れへと変貌している場所に戻っていきました。 持ちこたえようと苦闘しているその部隊は、ベルメハのスペイン歩兵部隊にいちばん誓い位置でしたが、それでもベルメハから戦場までは1マイル以上ありました。 ラペーニャはそこに9000の兵士たちを待機させていました。彼らは砂の上に座り込み、銃を突き立て、糧食の最後のものを食べていました。 スペイン兵のうちの1000人もがフランス軍がアルマンザ・クリークの対岸にいるのを見ていましたが、フランス軍は動きを見せませんでした。 リオ・サンクティ・ペトリ川沿岸での戦いは途絶えて久しく、サギがときおり静寂を破ってえさを探すために戻ってきていました。 シャープは望遠鏡を取り出しました。 ライフルマンたちはフランス砲兵たちを狙って射撃を続けていましたが、まだひとつの大砲が健在でした。 それは曲射砲で、ダンカンは榴弾の爆発でようやくその砲手たちを寸断しました。 「近いやつらを撃ち取れ」 と、シャープは望遠鏡を通して見ながら、フランス軍のラインを指差して部下たちに言いました。見えているのは煙とブルー・コートでした。彼は望遠鏡をおろしました。 戦闘は小休止に入ったことを、彼は感じていました。殺戮が終わったわけではなく、銃声も途絶えたわけではありませんでしたが、膠着状態でした。双方とも考え、待ち、待ちながらも殺し合いを続け、フランス軍は銃火では英軍に劣るにもかかわらず優勢に立ったように、シャープには感じられました。 彼らは数で優勢で、銃撃戦で劣ってもなお余裕がありました。彼らの右翼と中央は、じりじりと前進しつつありました。 それは慎重な動きのではなく、むしろ後列の兵士たちが海に向かって押し出していたことによる動きのようでした。 フランス軍の左翼はダンカンの砲兵隊によって打撃を受けていましたが、右翼と中央は砲弾の影響を受けていませんでした。 彼らはもともと前衛を構成していた精鋭部隊の戦死者たちを踏み越えて進んできていました。その射撃は英国の正規兵たちの基準からすれば非能率的でしたが、確実に打撃を与え提案した。 フランス軍の戦列が展開していくにつれ、数学の法則は再びフランス軍に有利に働くようになっていきました。彼らは英軍から最強の打撃をすでに受けており、そしてそれを生き延び、弱ってきた敵軍にじりじりと迫りつつあるのでした。 シャープは数歩下がって英軍の戦列の後方を見ました。スペイン軍は視界には見えず、英軍には増援がないことを、彼は知りました。 もし兵士たちが荒野での仕事を完遂しなければフランス軍が勝利するに違いなく、軍は烏合の衆に変わってしまうことでしょう。 彼は、フランス軍歩兵部隊を狙い撃ちしている部下たちのところに戻りました。 その上方にイーグルが一本見え、イーグルのそばには騎馬の一群の姿があり、シャープは望遠鏡の照準を再び合わせると、銃の煙幕がさえぎる前に、彼を見たのでした。 ヴァンダール大佐でした。 彼は帽子を振って部下たちの進軍を励ましていました。 シャープには細く黒い口ひげが見え、激怒が最高潮に高まるのを感じました。 「パット!」 と、彼は怒鳴りました。 「大尉?」 ハーパーはシャープの声の調子に驚いていました。 「あいつを見つけたぞ」 と、シャープは言いました。 彼は肩に回していたライフルを手に取りました。 まだ撃ちはしませんでしたが、撃鉄を起こしました。 そして、フランス軍は戦勝の予感の中にいました。 困難な闘いの中での勝利になると思われましたが、太鼓手はあらたな力を見出したようでした。そして、隊列は前進を再開しました。 「皇帝万歳!」 やっと。 の、再開です。 今年もシャープとこのブログをよろしくお願いいたします。 あと1節で第11章が終わり、Furyは第12章までですからもうすぐ終わり・・・たいです。
by richard_sharpe
| 2009-01-06 14:52
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