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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 2 ブラウン少佐は馬を松の幹につなぎ、自分は徒歩で丘を登り始めました。 登りながら、少佐は歌を歌っていました。彼は良い声の持ち主で、ジブラルタル守備隊が暇をもてあましているときなどにその歌唱力は非常に珍重されていました。 「いざ来たれ、わが兵士たち!」 と、彼は歌い始めました。 「栄光への舵取りのときが来た このすばらしい年へと多くを与えん われらは君を名誉へといざなう 奴隷のごとく強いるのではなく 波間の子等より自由な者がいようか?」 それは海軍の軍歌で、ジブラルタルに上陸した艦船の乗組員たちが歌っているものでした。彼はセッロ・デル・プエルコの北側の斜面を攻撃しながら登って行くには似つかわしくない歌であることを知っていましたが、少佐は「ハーツ・オブ・オーク」が好きでした。 「みんなも歌ってくれ!」 と、彼は怒鳴りました。すると、急ごしらえの彼の6中隊による師団は合唱を始めました。 「オークの心、それはわれらが艦 オークの心、それはわれらが兵」 不ぞろいな歌でした。 「われらは常に準備万端 しっかりと、兵士たちよ、踏みとどまれ! われらは闘う われらは征する 幾たびも幾たびも」 コーラスが終わった短い沈黙の間に、少佐は丘の頂上で銃の撃鉄が起こされる音をはっきりと聞き取りました。 上方にはフランス軍の4大隊がいるのが見えました。他にもそこにいるのかどうかはわかりませんが、彼に見える4大隊は銃を構え、殺戮の用意を整えていました。 1門の大砲が兵士たちによって引き出され、砲門を下に向けていました。 楽隊が丘の頂上で演奏していました。 陽気な歌で、殺戮のための音楽でした。そしてブラウンは、自分がフランス軍の音楽に合わせて剣の柄を指でたたいていることに気がつきました。 「汚らわしいフランス軍の雑音なんか気にするな!」 と、彼は叫びました。 長くはかからない。 と、彼は思いました。もう長くはかからない。そして、英軍の正統な音楽を聞かせてやりたいと思いました。しかし楽隊がいるわけでもなく、その代わりに彼は「ハーツ・オブ・オーク」の最後のフレーズを歌いだしました。 「われらは敵をさらに恐怖に突き落とす われらは敵をさらに蹴散らす そして海原では敵を打ち負かし 海原でわれらは敵を打ち負かす だからいざ、兵士たちよ 行かん そしてひとつの心で歌うのだ われらが兵よ 水兵たちよ われらが指揮官 国王よ」 フランス軍は射撃を開始しました。 丘の稜線は見えなくなり、硝煙が灰白色の大きな川のようにたちこめ、戦列が展開している中央の、煙がいちばん濃いところで真っ黒な爆発が起こり、炎とともに炸裂してあたりに破片が飛び散り、砲弾が斜面を転がり落ちました。兵士たちのかかとに接するようにして進んでいたブラウンには、兵士たちの半分が倒れたように見えました。 頭上に血煙が上がり、最初に苦しげな息遣いがきこえました。それがすぐに悲鳴に変わるだろうことを、彼は知っていました。軍曹や伍長たちが兵士たちを集めるために叫んでいました。 「密集隊形!」 「集まれ!みんな!」 と、ブラウンも怒鳴りました。 「敵を蹴散らせ!」 彼には最初は536丁のマスケット銃がありましたが、今では300あまりになっており、そしてフランス軍は少なくとも1000以上でした。ブラウンは痙攣している死体をまたぎながら、煙の中で散発的に発射される銃の火花を見ていました。 奇蹟だ、と、ブラウンは思っていました。 自分はまだ生きている。 軍曹がひとり、彼の脇をよろめきながら追い越しました。その下あごは吹き飛ばされ、血の滴る口髭から舌がだらりと垂れ下がっていました。 「行くぞ、みんな!」 と、ブラウンは叫びました。 「勝利を目指せ!」 再び大砲が火を噴き、3人の兵士たちが後方の列に持っていかれ、たたきつけられて草に濃い血の混じったにおいがしました。 「われらは栄光へと舵を取る!」 ブラウンは怒鳴りました。 フランス軍の射撃が再び始まり、傍らの少年兵が腹をかきむしり、目を見開き、指の間から血が噴出しました。 「進め!」 と、ブラウンは叫びました。 「行け!」 銃弾が一発、彼の帽子を掠め、その向きを変えました。 彼は剣を抜きました。 フランス軍は命令を待たずに装填と同時に銃撃を続け、煙が丘の上から固まりになって流れてきていました。銃弾が肉に打ち込まれる音を聞きながら、ブラウンは自分が義務を果たしており、これ以上のことは出来ないということを理解していました。 生き残った兵士たちは斜面の陰や茂みの後ろに身を隠していました。そして彼らもまた射撃を開始し、突撃隊としての任務を果たしていました。それが、彼らに出来ることのすべてでした。 彼の部下たちの半分は倒れました。丘の上に横たわっている者、よろけて倒れる者、出血多量で死にかかっている者、苦痛にうめいている者たち。それでもまだ銃弾はうなりを上げて襲い掛かり、隊列をなぎ倒していくのでした。 ブラウン少佐は戦列の後ろを上り下りしていました。 戦列といっても、たいしたラインではなくなっていました。下士官も兵もなく、砲弾や銃弾でぶつ切りにされていましたが、それでも生きているものたちは撤退しようとはしませんでした。 彼らは撃ち返していました。 装填し、発砲し、敵からの目を逃れるように、小さな煙の塊を噴いていました。 火薬で口の中は酸っぱくなり、火花で頬は煤けていました。 負傷兵はそれでも這って行って戦列に加わり、やはり射撃を続けていました。 「よくやった、諸君!」 と、ブラウンは怒鳴りました。 「よくやった!」 彼は死ぬつもりでした。 それは悲しいことでしたが、彼の義務はしっかりと立って隊列とともに歩き、兵士たちを励ましながら、銃弾か榴弾が彼の人生を終わらせるのを待つことでした。 「いざ来たれ、わが兵士たち!」 と、彼は歌いました。 「栄光への舵取りのときが来た このすばらしい年へと多くを与えん われらは君を名誉へといざなう 奴隷のごとく強いるのではなく 波間の子等より自由な者がいようか?」 ある伍長は、額から脳漿を吹き上げながら仰向けに倒れました。 おそらく死んでいるに違いありませんでしたが、彼の口はがくがくと動いており、ブラウンは顎をそっと持ち上げて閉じさせました。 副官のブレイクニーもまだ生きており、ブラウン同様、奇跡的に無傷でした。 「われわれの勇敢な同盟軍ですが」 と、ブレイクニーはブラウンの肘に触れながら言い、丘の下のほうを示しました。 ブラウンは振り向いて、丘から逃げ出したスペイン軍団が、4分の1マイルも離れていない砂丘の間で休憩しているのを見ました。 彼は向き直りました。 彼らが来るかどうか、来ないだろうと彼は考えていました。 「引っ立ててきましょうか?」 と、ブレイクニーは砲声の中で怒鳴りました。 「彼らが来ると思うか?」 「いいえ」 「それに私には命令の権限はない」 と、ブラウンは言いました。 「私はその階級にないのだ。それに連中はわれわれが助けを必要としているのが見えているのに動こうとしない。やつらは放っておけ」 彼は歩き続けました。 「敵を捕まえたぞ、諸君!」 と、彼は叫びました。 「捕まえたぞ!」 そしてそれは真実でした。 フランス軍はブラウンの攻撃を破りました。 彼らはレッド・コートのジブラルタル側衛隊を打ち砕きましたが、フランス軍は坂を下りてくることが出来ずにいました。ブラウン隊の生き残りたちが彼らを銃剣の餌食にしようと待ち構えていたからです。 彼らは代わりに射撃を続け、ランカシャー隊やノーフォークのホーリー・ボーイズ、グロウスターシャーのシルバー・テイルズたちが撃ち返している間にも、このバラバラになった旅団に銃弾を撃ち込んでいました。 ブラウン少佐は、彼らが死んでいくのを見ていたのでした。 シルバー・テイルの少年兵が、破裂した榴弾の鋭い殻に左肩をそぎとられるようにして倒れました。折れた肋骨がぐちゃぐちゃになった胸から白く突き出していました。 彼は弱っていき、母の名を呼びました。 ブラウンは膝をつき、少年の手をとりました。 彼は傷口をふさごうとしましたが、あまりに大きすぎました。この死にゆく兵士の苦痛を和らげるすべを他に知らなかったので、ブラウンは彼に歌ってやりました。 そして、松が散在して林が終わっている丘のふもとには、ディルクス将軍の旅団が2列横隊を作っていました。 第1近衛歩兵連隊第2大隊、第3近衛歩兵連隊第2大隊のうち3中隊、ライフル隊の2中隊、他の連隊とともに残されるよりはディルクス将軍の部下たちと一緒に行きたいと言い張った第67歩兵連隊の半数が、そこに集結したのでした。 ディルクス将軍は剣を抜き、その房のついた飾り紐を手首に巻きつけました。 彼が受けた命令は、丘の奪取でした。 彼はブラウン隊の負傷兵が這い回っている丘の斜面を見上げました。 そして、自分の部下たちが圧倒的な敵の数を目にして怯えているのを見て、彼自身もフランス軍にこの丘を明け渡させることが出来るかどうか疑問に思いました。しかし、彼はすでに命令を受けていました。 命令を下したサー・トーマス・グレアムは、第3近衛歩兵連隊、いわゆるスコッツメンの明るい色の隊旗のすぐ後ろにいて、ディルクスによる突撃命令が遅れはしないかと心配するように見守っていました。 「前進させろ!」 と、ディルクスは厳しい口調で言いました。 「旅団、進軍隊形!」 旅団副官が怒鳴りました。 少年太鼓手がタップとロールを繰り返してリズムを取り始めました。 「中央に寄れ!」 と、旅団副官が叫びました。 「前進!」 彼らは丘を登り始めたのでした。 ブラウン少佐が歌う 「Hearts of Oak」 ですが、ドラマ「Sharpe's Challenge」のなかで出撃前に隊長さん(?)が歌っている場面がありました。 捜してみたら、Youtubeにありました。 歌詞はWikipediaの こちら にありますが、ブラウン少佐(と兵隊たち)が歌っている部分だけを抜き出すと Come, cheer up, my lads, 'tis to glory we steer, To add something more to this wonderful year; To honour we call you, as freemen not slaves, For who are as free as the sons of the waves? Heart of oak are our ships, hearts of oak are our men, we always are ready; Steady, boys, steady! We'll fight and we'll conquer again and again. ・ ・ ・ Then cheer up, my lads, with one heart let us sing, Our soldiers, our sailors, our leaders, our king. もっと長い歌なんですが。 (訳すのが難しかったです)
by richard_sharpe
| 2008-12-05 13:05
| Sharpe's Fury
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