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1811年3月、バルロッサの戦い。
第3部 戦闘 第11章 - 1 シャープとライフルマンたちは、いまだにガリアーナ大尉と一緒でしたが、海岸で休んでいるようにしか見えないスペイン軍の中を通り抜けるようにして歩いていました。 ガリアーナはベルメハの村に着くと馬を下り、一軒のあばら家に馬を引いていきました。 ラペーニャ将軍と参謀たちはそこにいて、日に干してある魚網を日よけにしていました村には望楼があり、その上は望遠鏡で南を見ているスペイン将校たちでごった返していました。その方向から銃声が聞こえてきていましたが、それはかすかで、スペイン軍の誰もそれを特に気にしているようではありませんでした。 ガリアーナは再び馬にまたがり、彼らは村を後にしました。 「あれがラペーニャ将軍か?」 と、シャープは尋ねました。 「そうだ」 と、ガリアーナはそっけなく答えました。彼は将軍の目を避けるようにして馬を進めていました。 「なんで彼はあんたが嫌いなんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「父のことでね」 「親父さんが、何をしたんだ?」 「私と同様、父は軍にいた。父はラペーニャに決闘を申し込んだのだ」 「それで?」 「ラペーニャは闘わなかった。彼は臆病者だ」 「喧嘩の原因は何だったんだ?」 「母だ」 と、ガリアーナは短く答えました。 ベルメハの南では、海岸は人気がなく、砂浜に漁船が引き揚げてあるだけでした。船は青と黄と赤に塗られ、船首には黒い目が描かれていました。 銃声はまだかすかでしたが、シャープには砂丘の背後に広がる松林の向こう側から煙が上がっているのが見えました。 彼らは村から半マイルほどの間、黙って歩いていましたが、パーキンスがクジラを見たと言い出しました。 「おまえが見たのは」 と、スラッタリーが言いました。 「ラム酒のせいだよ。飲んだから見えたのさ」 「本当だよ。見たんです、大尉!」 と、彼はシャープにも主張しました。しかしシャープはパーキンスが何を見ようが見まいが別に気にしていなかったので、答えませんでした。 「俺は一度クジラを見たことがある」 と、ハーグマンが割って入りました。 「死んだやつだ。臭かったな」 パーキンスはそれがクジラだったとわかるのではないかと思って、再び海に見入りました。 「たぶん」 と、ハリスが口を挟みました。 「そいつはイタチのようにそっくりかえらなかったか?」 兵士たちはみんな彼を見つめました。 「また何かお利口そうなことを言ってるぞ」 と、ハーパーが大声で言いました。 「無視しろ無視しろ」 「シェイクスピアさ、軍曹」 「大天使ガブリエルだろうが俺は気にしない。おまえは自慢したがっているだけだからな」 「第48連隊にシェイクスピア軍曹ってのがいたな」 と、スラッタリーが言いました。 「全くのロクデナシだった。クルミのせいで死んだっけ」 「クルミで死ぬわけないよ!」 と、パーキンスは言いました。 「死んだんだ。真っ青になってた。ま、いいことだ。やつはロクデナシだったからな」 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 というハーパーの言葉は、シェイクスピア軍曹の死に向けたものではありませんでした。騎馬の列が、彼らに向かって海岸沿いを飛ぶように走ってきたのです。 松林の小道ではなく海岸に沿って退却してきた荷駄隊のラバたちでした。 「動くんじゃないぞ」 と、シャープは言いました。 彼らは固まって立ち、ラバの群れが傍らを通り過ぎるのを待っていました。 ガリアーナ大尉は何が起きたのか、ラバ追いたちを呼び止めようとしましたが、彼らはひたすら前進していました。 「ファーガス、おまえが第48連隊にいたとは知らなかったな」 と、ハーグマンは言いました。 「3年いたんだ、ダン。みんなジブラルタルに行ったけど、俺だけは病気で兵舎に残った。本当に死ぬところだったんだ」 ハリスは通り過ぎるラバを捕まえようとしましたが、手をすり抜けられました。 「で、なんでおまえはライフル隊に入ったんだ?」 と、彼は尋ねました。 「マーリー大尉の従者だったんだ」 と、スラッタリーは言いました。 「それで大尉がライフル隊に入隊したとき、俺も一緒に入った」 「第48連隊は、アイルランド人に何の用があったんだ?」 と、ハリスは知りたがりました。 「連中はノーザンプトンシャーじゃないか」 「ウィックローで補充兵を徴兵していたんだ」 と、スラッタリーは言いました。 ガリアーナ大尉はラバ追いのひとりをようやく捕まえ、彼の混乱した話の中からフランス軍の大群による攻撃から逃れてきたことを知りました。 「彼は敵があの丘を奪ったと言っている」 と、ガリアーナはセッロ・デル・プエルコを指差して言いました。 シャープは望遠鏡を取り出し、またパーキンスの肩にそれを固定して、丘の頂上を見つめました。 フランス軍砲兵隊1個中隊と、ブルー・コートの少なくとも4大隊が峰にいるのが見えました。 「連中だ。上にいる」 と、彼は確認しました。 シャープは望遠鏡を丘と海の間の村に向け、そこにスペイン軍騎兵部隊がいるのを見ました。そこには歩兵部隊もいて、それは2~3000あまり、しかし彼らは北進しており、今は海岸の小高いところの砂丘の間で休憩していました。 騎兵だけでなく歩兵部隊も、フランス軍に丘を占領されたことを気にしているようには見えませんでした。戦闘の音はその丘の斜面から聞こえてきてはいませんでしたが、シャープの左手の松林の向こうから聞こえているのでした。 シャープはガリアーナに望遠鏡を差し出しましたが、彼は首を振りました。 「私も持っている」 と、彼は言いました。 「それで彼らは何をしている?」 「彼らって?フランス軍か?」 「なぜ彼らは丘を下って攻撃してこないのだろう?」 「このスペイン軍の連中は何をしているんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「何も」 「ってことは、スペイン軍は必要がないということだ。たぶん山ほどの兵隊がカエルどもが降りてくるのを待っているんだろう。あそこで闘っているんだ」 彼は松林に向かってうなずきました。 「だから、あそこが俺の行く場所だ」 パニックを起こしたラバの群れは、大部分が通り過ぎていました。ラバ追いたちは荷籠から固いパンを取り出してそれを目の前にちらつかせ、ラバを急がせていました。 落ちたパンのひとつをシャープは拾い上げ、半分に割りました。 「俺たちは第8連隊を探しているんですよね?」 と、松林に踏み込みながらハーパーは尋ねました。 「そうだ。でも見つかるとは思えん」 と、シャープは言いました。 ヴァンダール大佐を見つけるという野心を表明するのは、それはそれでひとつのことではありました。しかしこのカオスの中では、それが成功するとは思えませんでした。 フランス第8連隊がいるかどうか、もしいたとしてもどこにいるかもわかりませんでした。 カディスに向かう道がある水路の向こう側にもフランス兵がいることを、彼は知っていました。離れた丘の上にはさらに多くのフランス軍がいて、そして確実に他の兵士たちは松林の向こう側にいるのでした。銃声が聞こえた方角に、シャープは進むつもりでした。彼は砂を跳ね上げながら海岸の一番上に歩いていくと、松林の木陰の中に入りました。 シャープについていく以外、これといって計画のなかったガリアーナ大尉も、低い松の枝を避けるために馬を下りました。 「おまえたちは来る必要はないぞ、パット」 と、シャープは言いました。 「わかってますよ」 「ここにおまえたちがするような仕事はない、と俺は言っているんだ」 と、シャープは言いました。 「ヴァンダール大佐がいますからね」 「見つけられればな」 と、シャープは疑わしげに言いました。 「本当はな、パット、俺がここにいるのはサー・トーマスが好きだからなんだ」 「みんな将軍のことは良く言ってますね」 「それで、これは俺たちの商売なんだ、パット」 と、シャープはやや荒っぽく言いました。 「で、ここには俺たちの仕事があると?」 「もちろんそうだ」 ハーパーは数歩の間、黙って歩きました。 「じゃあ、あなたは俺たちを連れて戻る気はさらさらなかったってことですかね?」 「行ってくれるか?」 「俺はここにいますんでね」 それがハーパーの答えでした。 正面から聞こえてくる銃声は、重たいものに変わっていました。 これまでは軽歩兵部隊による散発的な銃撃のように聞こえていましたが、一斉射撃の音が木々を撃つように聞こえてきていました。そしてその音の背後に、シャープは高々としたトランペットと太鼓のリズムを聞き取ることができました。しかしそれがフランス軍の奏でる音かどうかまでは聞き取れませんでした。 砲撃も始まり、さらに大きな炸裂音が続きました。 砲弾が破裂して木立の中に細かい金属片を撒き散らしました。フランス軍は榴弾を発射し、樹脂のにおいと火薬の煙があたりに満ちました。 砲車のわだちの痕に彼らはやってきました。 何頭かのラバが木につながれ、黄色い徽章のついたレッドコートの3人の兵士たちが番をしていました。 「ハンプシャー部隊か?」 と、シャープは尋ねました。 「そうです」 と、兵士の一人が言いました。 「何が起きているんだ?」 「わかりません。自分たちはラバを守るように言われただけなので」 シャープはさらに進みました。 大砲は規則正しく発射され、一斉射撃も一定のリズムで繰り返され提案した。しかし両軍は接近戦をしているわけではないようでした。音でわかりました。 銃弾と榴弾が木々を抜け、突風のように枝を揺さぶりました。 「やつらは撃つのが高過ぎます」 と、ハーパーが言いました。 「ありがたいことに、いつもそうだ」 と、シャープは言いました。 彼らが林の端に近づくにつれて戦闘の音は次第に大きくなってきました。 ポルトガル軍のライフル兵がひとり、茶色のユニフォームを血で染めて松の切り株に寄りかかって死んでいました。彼はもがいたらしく、そのあたりの松葉が払いのけられていました。左手に十字架を、右手にライフルを持ったままでした。 そこから5歩ほどのところに黄色い胸当てに黒い銃弾の穴を開けたレッドコートの兵士が、身体を震わせて咽ぶように呼吸していました。 そしてシャープは木立を抜けました。 彼はそこに虐殺を見たのでした。
by richard_sharpe
| 2008-12-03 18:16
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