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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第8章 - 4 艦隊は去り、大波に弱く湾に戻ってきたスペイン船のフェルッカだけが残っていました。彼らはフランス軍の迫撃砲に追い立てられていました。 大型の英軍の艦船は南に向かい、トラファルガー岬の果てに消えようとしていました。 風は西風で、翌日には凪いだ海をスペイン船も出航するはずでした。 サン・フェルナンドは軍のほとんどが出発したため、空に近い状態でした。 まだイスラ・デ・レオンに連隊が残っていましたが、ヴィクトール元帥から街を守るための守備隊で、しかも彼らも2日のうちにはスペインのフェルッカ船が出航した後に戦線を去ることになっていました。 ラペーニャ将軍とグレアム将軍は歩兵部隊を船で南に向かわせ、ジブラルタルに近いところで上陸した後、北に進撃してフランス軍の戦線を攻撃することになっており、ヴィクトールは後衛から撤退するのを余儀なくされるだろうという作戦でした。 彼はほとんどの軍を南に布陣し、英国スペイン連合軍をさえぎる場所を探していました。 彼はフランス軍のラインに守備隊をいくつか残しました。英軍が自分たちの守備隊を残しているのと同様に。 カディスの街は、待っていました。 風が北風に変わり、冷たくなりました。 カディス湾には船の姿もなく、ただ小さな漁船と監獄船があるだけでした。 トロカデロのフランス軍の砦は時々迫撃砲での攻撃を行っていましたが、ヴィクトール元帥が去ってからはさほど熱心でもありませんでした。 最後の艦隊が出発してから1週間がたち、シャープはサー・トーマス・グレアムの厩から馬を2頭借りて、海に突き出してどこまでも続く白い砂浜の南に向かって駆けていました。 彼は岬の突端に呼び出されており、カテリーナが一緒でした。 「かかとを下ろして」 と、彼女はシャープに言いました。 「かかとを下ろして背中をまっすぐに。あなた、山賊みたいな乗り方ね」 「山賊さ。俺は馬が嫌いなんだ」 「私は好きよ」 と、彼女は言いました。 彼女は男のように馬にまたがって乗っていました。スペイン領アメリカで彼女が教わったやり方でした。 「片鞍で乗るのは嫌いよ」 と、彼女はシャープに言いました。彼女はズボンをはいて上着を着、広いつばの帽子をかぶり、スカーフでそれを固定していました。 「日光が苦手なの」 と、彼女は言いました。 「肌が皮みたいになってしまうわ。フロリダの女たちを見せたいわよ!ワニみたいなんだから。帽子をかぶらなかったら、私もあなたみたいな顔になってしまうわ」 「俺の顔がひどいってことか?」 彼女は笑い出し、拍車をかけて汀に走りこみました。ひづめが浜に打ち寄せる波を白く蹴立てました。 彼女はぐるっとまわってシャープの元に戻りました。彼女は目を輝かせていました。 カテリーナは2日前にサン・フェルナンドにやってきました。街のすぐ外側で馬車を借り、後ろに衣装や化粧品やカツラを満載していました。 カテリーナはシャープに再会のキスをし、御者たちのほうに手を振りました。 「払ってやって」 と、彼女は馬車から降りてシャープが借りた家に入る前にささやきました。 軍が去って、空き家がたくさんありました。 シャープは男たちに支払いをし、わずかに残ったコインを見てむすっとしていました。 「大使はがっかりしていたか?」 家に入ると、シャープはカテリーナに尋ねました。 「ヘンリーは黙っていたわ。彼は機嫌が悪いといつも黙り込むの。でも、私はカディスにいるのが怖いといったのよ。なんて素敵な家でしょう!」 「ヘンリーはとどまるように言った?」 「もちろんヘンリーは一緒にいてほしがっていたわ。でも私が言い張ったの」 「パンフリー伯は?」 「彼はお金を運ぶといっていたわ」 と、彼女はわずかにほほ笑みました。 「1200ギニーよ!」 ハーパー軍曹は無表情にカテリーナの到着を見守っていました。 「今度は彼女の側ですか?」 「しばらくいるだけだ」 「驚きませんよ」 「あのクソ坊主が顔を見せたら、殺せ」 シャープはモンセニーがイスラ・デ・レオンに近づくかどうかは疑問だと思っていました。神父は打ちのめされたし、もし良識を持っているなら、戦いを諦めるでしょう。 今の彼のいちばんの希望は、ヴィクトール元帥が連合軍を撃破し、カディスが陥落寸前になって城壁内の政治家たちが、悲劇的結末の前にフランス軍と講和を結ぶ、ということだけのはずでした。 まあ、それは他の連中の仕事だ。 シャープは波に洗われている長い砂浜を、馬で進んでいきました。 東は砂丘で、その向こう側は湿地帯でした。西は大西洋、そして南は河口で砂浜が終わり、スペイン兵たちの空色のユニフォームが見えていました。 湿地帯を横切り、遠くから大砲の砲声が聞こえていました。その音はかすかで、遠くの雷鳴のようでした。 「あなたは嬉しそうね」 と、カテリーナは言いました。 「そうだな」 「なぜ?」 「ここは清潔だからな」 と、シャープは言いました。 「俺はカディスが嫌いだ。ごちゃごちゃと小道があって、暗がりがあって、山ほどの裏切りがある」 「かわいそうなシャープ大尉」 と、カテリーナは笑いました。 「都会が嫌いなのね」 「政治家ってやつが嫌いだ。弁護士は嘘をつくし無駄な演説ばかりする。そんなことで戦争に勝てるもんか」 シャープは空色のユニフォームの兵士たちが働いている渚のほうにうなずきかけました。2隻のフェルッカが河口に停泊し、ボートが兵士たちを対岸に運んでいました。 船橋を架けようとしているのでした。 本格的なものではありませんでしたが、狭くても碇を下ろしたボートが十分役に立つのでした。 ガリアーナ大尉が、将校たちの間に立ち混じっていました。 砂浜の突端にシャープを呼び出したのはガリアーナ大尉で、彼は馬上でシャープを迎えました。 「頭の具合はどうだ、大尉」 「よくなっている。前ほど痛くはない。酢が効いたんだな。セニョリータ・カテリーナ・ブラスケスを紹介させてくれ。こちらはフェルナンド・ガリアーナ大尉だ」 目付け役のいない若い婦人にガリアーナが驚いたとしても彼はそれを隠しおおせ、お辞儀をして歓迎の微笑をカテリーナに投げかけました。 「われわれがやっているのは」 と、彼はカテリーナがたずねたことに答えて言いました。 「橋を架けることと、対岸に橋を守るための砦を築くことです」 「なぜですの?」 「もしラペーニャ将軍とサー・トーマスがフランスの攻撃ラインに達するのが失敗したら、セニョリータ、彼らには街に戻るための橋が必要なのです。私は橋の必要はないと信じていますが、ラペーニャ将軍は用心のために作らせているのです」 ガリアーナはそういう敗北主義を嘆くような目で、シャープをちらりと見ました。 カテリーナはガリアーナの答えについて考え込んでいました。 「でももし橋をかけることができるのでしたら、大尉」 と、彼女は尋ねました。 「どうして軍をボートで南に進めるのですか?なぜここを渡ってフランス軍を攻撃しないんでしょう?」 「それはですね、セニョリータ。ここは戦いに向かない場所だからです。ここで橋を渡っても、あちらには崖と砂浜しかない。ここを渡ればフランス軍はわれわれを砂浜に追い詰めるでしょう。虐殺です」 「軍が南に向かったのは」 と、シャープが続けました。 「内陸を進むことができるし、後衛からフランス軍を攻めることができるからだ」 「そしてあなたはそこにいたかったのではなくて?大尉」 と、カテリーナはシャープに尋ねました。彼女はシャープの声の中に、羨望の響きを聞き取ったのでした。 「いたかった」 と、シャープは言いました。 「私もだ」 と、ガリアーナが割り込みました。 「あそこにはフランス軍のある連隊がいる。俺は連中とやりあったんだ。第8連隊だ。連中ともう一度戦いたい」 と、シャープは言いました。 「できるとも」 と、ガリアーナは言いました。 「いや。俺はいるべきじゃない場所にいる」 と、シャープは苦々しげに言いました。 「だが軍はあそこから攻撃を仕掛けるだろう」 と、ガリアーナは内陸を指差しました。 「そしてフランス軍は迎え撃つために前進する。勇敢な男ならフランス軍を回りこんでわが軍に合流することができるだろう。勇敢で、この土地を知っていれば」 「あんたのことだ」 と、シャープは言いました。 「俺じゃない」 「私はこの土地を知っている」 と、ガリアーナは言いました。 「だが、ここを指揮するものが誰であれ、スペイン軍の歩兵はこの橋を渡らないようにという命令が出されている」 彼は言葉を切り、シャープを見つめました。 「だが、英軍兵士を通行させるなという命令は出ていない」 「俺はリスボンに船で向かうようにとの命令の下にある」 「今ではリスボンに向かう船はない」 と、ガリアーナは確信を持って言いました。 「風は変わるさ」 と、シャープは言いました。 「風じゃない。ラペーニャ将軍が敗北するだろうという可能性だ」 シャープが皆から聞いていたことからも、ラペーニャ将軍、"老婦人"はヴィクトールに突破されるだろうということが推測できました。 「もし彼が撃破されたら?」 と、彼は淡々と尋ねました。 「使える船はすべて、街を脱出するために準備されている。ことが決まるまで、出航できる船はないのだ」 「で、あんたはやられると思っているんだな」 と、シャープはぶっきらぼうに言いました。 「私が期待しているのは」 と、ガリアーナは言いました。 「きみが私への借りを返してくれるということだ」 「あんたに橋を渡らせると?」 ガリアーナは微笑しました。 「それが好意だよ、シャープ大尉。橋を渡らせてくれ」 そしてシャープはヴァンダール大佐に出会えるかもしれない、ということを考えていたのでした。
by richard_sharpe
| 2008-09-17 17:20
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