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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第7章 - 4 シャープは元は祭壇だった石段のところまで戻りました。スペイン兵たちは向き合って整列し、険しい表情で銃剣を構えていました。 ランタンは床に置かれ、その光の中で兵士たちのマスケットの撃鉄が起こされているのが見えました。 発砲できるかどうかは疑問でした。大雨のせいで、どんなに密閉性の高い銃でも、火薬は湿っていると思われました。 「連中が引き金を引いたら」 と、シャープは言いました。 「やり返していい。だがそれまでは待て」 将校は20代で、シャープよりも10歳ほど若く見えました。背が高く、肩幅が広く、知的な顔つきでしっかりしたあごの形をしていました。彼のユニフォームはずぶぬれでしたが、生地と仕立てのよさで、その裕福さがうかがえました。 彼は早口にシャープに質問をしていましたが、シャープは肩をすくめました。 「俺たちは雨宿りをしていただけなんでね、セニョール」 と、シャープは英語で言いました。 将校は他の質問もスペイン語で押し通そうとしていました。 「雨宿りしていただけだ」 と、シャープも言い張りました。 「連中の火薬はダメになっていますよ」 と、ハーパーがそっと言いました。 「わかってる。だが殺しは避けたい」 将校は、シャープたちが武器を携行していることに気づいていました。彼は何か命令を言い放ちました。 「武器を出して床に置け、と言っています」 と、ハリスが言いました。 「そうしろ」 シャープは言いました。 厄介なことになったな、と、シャープは思いました。 どうやらこの先、スペインの刑務所で一生を終えることになりそうでした。今やるべきことは手紙を処分することでしたが、そういう余裕もありませんでした。 彼は剣を床に横たえました。 「雨宿りをしていただけなんだ、セニョール」 「いや、ちがう」 将校はいきなり流暢な英語で話し始めました。 「きみたちはセニョール・ヌニェズの家に火を放った」 その突然の英語にシャープは驚き、返事ができませんでした。彼はまだ腰をかがめたままで、剣は手の中にありました。 「この場所がなんだったか、きみは知っているか?」 と、スペイン将校は尋ねました。 「いや」 と、シャープは用心しながら答えました。 「神の女羊飼いの修道院。ここは病院として使われていた。私の名はガリアーナ。ガリアーナ大尉だ。きみは?」 「シャープだ」 と、シャープは言いました。 「みんなきみに敬語を使っている。階級があるように思うが?」 「シャープ大尉だ」 「ディヴィーニャ・パストーラ。神の女羊飼い。僧侶たちがここに住み、貧しい人々に医療を施していた。クリスチャンの慈善事業だよ、シャープ大尉。そし何が起きたか知っているか?いいや、きみは知るまい」 ガリアーナはシャープの手が届く範囲から、剣を蹴り出しました。 「きみたちの提督のネルソンの仕業だ。1797年だった。彼はこの町を砲撃した。ここは最大の被害を受けた場所だ。一発の砲弾で7人の僧侶が死に、火災が起きた。修道院は閉鎖された。再建しようにも資金がなかったからだ。私の祖父がここを設立し、一族で再建しようとした。しかしわれわれの財産は南米からもたらされていたが、それをきみたちの艦隊が破滅に追いやった。シャープ大尉、それがここで起きたことだ」 「そのころは戦闘中だった」 と、シャープは言いました。 「だが、今はわれわれは戦闘中ではない」 と、ガリアーナは言いました。 「今ではわれわれは同盟国同士だ。そのことをお忘れかな?」 「雨宿りをしていただけだ」 と、シャープは答えました。 「それではラッキーだったというわけだ。きみたちはこの修道院の鍵が開いていることに気づいた」 「実にラッキーだった」 と、シャープは言いました。 「しかしセニョール・ヌニェズの不運さといったらどうだろう?彼は妻に先立たれ、何とか暮らしを立てていたのに、事業すら失おうとしている」 ガリアーナが指差した礼拝堂の入り口から、通りの騒動の様子が聞こえていました。 「セニョール・ヌニェズ?知らないな」 と、シャープは言いました。 「では教えてあげよう」 と、ガリアーノは言いました。 「彼は「エル・コレオ・デ・カディス」という新聞の経営者だ。いや、経営者だった、というほうがいいな。ただの新聞ではない。1年前はアンダルシア一帯で読まれていた。しかし今はどうだ?今はほんのわずかな購読数だ。今までは週に一度発行していたが、今では2週に一度出せればいいほうだ。港に出入りする船と船荷のリストくらいだ。教会での説教も印刷している。コルテスでの協議も。たいした内容じゃない、そうじゃないか?ただ最近の記事は、ちょっと興味深いものだったのだ、シャープ大尉。ラブレターだ。署名はされていなかった。セニョール・ヌニェズは英語から翻訳されたものだとほのめかし、それは街の通りでたまたま拾ったものだといっている。もし実際に書いた人物がいたら、その男はきっと新聞社を訪れるだろう。きみがここにいたのはそのためではないのか、大尉?雨宿りしていただけだなどといわないでもらいたいものだな」 「俺はラブレターなんか書いていない」 と、シャープは言いました。 「誰が書いたか、みんな知っている」 と、ガリアーナは厳しい声で言いました。 「俺は兵隊でね。恋愛とは無縁だ」 ガリアーナは微笑しました。 「それはどうかな、シャープ大尉。疑わしいね」 男が一人礼拝堂に入ってきて、ガリアーナは振り向きました。 一塊の群集が火事を見ようとして集まっていましたが、彼らの一人が中庭を横切り、礼拝堂に入ってきたのでした。ぬれねずみでタバコの脂に染まったヒゲの男でした。 「あいつだ!」 と、彼はスペイン語で叫んでシャープを指差しました。ライターのベニート・シャベスでした。彼はブランデーがもっとないかと捜しているようでした。ほとんど酔っ払っていましたが、それでもシャープを見分けることができました。 「あいつだ!あの頭に包帯をしているやつだ!」 「逮捕しろ」 と、ガリアーナは部下に言いました。 スペイン兵たちは前に踏み出し、銃剣がシャープに迫るかと思われました。 そのとき、ガリアーノはシャベスを指差しました。 「その男を逮捕しろ!」 シャベスはわめき、抵抗しましたが、二人の兵士が彼を壁に押し付けました。 「酔っている」 と、ガリアーナはシャープに説明しました。 「そのうえあの男は、われわれの同盟関係に水を誘うとした。その愚かさを今夜はじっくり留置所で考えてもらう」 「同盟関係?」 と、シャープはシャベスと同じくらい混乱していました。 「われわれは同盟国同士ではないのか?」 と、ガリアーナはそらとぼけた顔で尋ねました。 「前はそう思っていた」 と、シャープは言いました。 「だが時々、違うかもしれないと思ってしまう」 「きみはスペイン人と同じだ。シャープ大尉、きみは混乱している。カディスには政治家や弁護士が大勢いて、彼らが混乱をあおっている。彼らは議論ばかりする。共和制にするべきか?それとも王政のほうがいいか?コルテスは必要なのか?もし必要だとしたら、議長は一人がいいのか二人がいいのか?あるものは英国議会を見習えと言い、他のものは神と国王による支配が正しいと言う。子供のように自分の意見にしがみつき、しかし本当はたった一つのことを議論しているのだ」 シャープには、ガリアーナが自分と言葉遊びをしようとしているのだということがわかってきました。 このスペイン将校は、実際に同盟者なのでした。 「議論というのは」 と、シャープは言いました。 「フランスと戦うべきか否か、ということだ」 「その通り」 と、ガリアーナは言いました。 「そしてあんたは」 と、シャープは注意深く言葉を選びながら言いました。 「スペインはフランスと戦うべきだと信じているんだな?」 「フランス軍がわが国に何をしたか知っているか?」 と、ガリアーナは尋ねました。 「女たちは犯され、子供たちは殺され、教会は汚された。そうだ、私は戦うべきだと信じている。シャープ大尉、そして私はイギリス兵はカディスの街に入ってはならないということも知っている。私はきみたちを連行すべきなのだ。しかしきみたちはたぶん道に迷ったのだな?」 「道に迷った」 と、シャープは同意しました。 「それで、ここで雨宿りしていただけだと?」 「そうだ」 「それではきみたちを大使館にお連れしよう、シャープ大尉」 「なんてこった」 と、シャープは心底安堵しました。 大使館までは30分ほどの道のりでした。門についたころには風もおさまり、雨も弱くなっていました。ガリアーナはシャープを脇に連れて行きました。 「私は新聞社を見張るようにと命令されていた」 と、彼は言いました。 「今回の場合、誰かが破壊しようとするかもしれないと。私は間違ったことをしたとは思っていない。私の義務は、フランスとの戦いのプラスになることをすることだと信じている」 「プラスになった」 と、シャープは言いました。 「そしてシャープ大尉、私はきみに貸しを作ったと思うが?」 「そうだ」 と、シャープは熱をこめて言いました。 「そのうちに返してもらおう。見つけておくからそのつもりでいてくれ。おやすみ、シャープ大尉」 「おやすみ、大尉」 と、シャープは言いました。 大使館の中庭は暗く、窓には明かり一つ見えませんでした。 シャープはコートのポケットの中の手紙に手を触れ、新聞をスラッタリーから受け取り、そして眠りにいきました。
by richard_sharpe
| 2008-09-09 16:02
| Sharpe's Fury
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