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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第7章 - 2 シャープはライフルマン一人ひとりに1ギニーずつ渡しました。 「誰か酒を飲んだものは?」と、彼は尋ねました。誰も答えるものはいませんでした。「かまわん。ただ知りたいだけだ」 「俺は少し」 と、スラッタリーが言いました。 「酔っているか?」 「いいえ」 「ハリスは?」 「赤ワインを少し。本当に少しです」 パーキンスは生まれてはじめてのギニー金貨に眉をひそめていました。 「みんなコートを着て帽子をかぶれ」 と、シャープは彼らに言いました。 「なんですって」 と、ハリスは言いました。 「この嵐の中を出かけるんですか?」 「12ポンド砲の砲弾がいる。それから煙玉の残りの2個も持っていく。背嚢に入れておけ。ブランデーとオイルを混ぜたものをビンに入れたか?」 と、シャープは言いました。 「入れました」 「それも必要だ。そうだ、これから出かける」 本当は出かけたくありませんでした。眠っていたかったのですが、敵がバランスを崩したときにこそ、撃ちたたかなければなりませんでした。 モンセニーは少なくとも6人かそれ以上の男たちを大聖堂に連れて行っており、おそらくまだ足場の瓦礫の中に埋もれているはずで、それを誰が見つけ出すのか、ちょっと気にはなりました。 それはあの新聞社が丸裸になっているということではないか? 護衛がいるにしても、嵐はこちらの味方でした。 「出かけるぞ」 と、シャープは再び言いました。 「大尉、これを」 と、ハーグマンが石のボトルを差し出しました。 「なんだ?」 「酢ですよ。頭に。帽子を脱いでください」 ハーグマンは有無を言わさず包帯を酢で濡らしました。 「効きますよ」 「臭うな」 「みんな臭います。俺たちは国王陛下の兵隊ですからね」 嵐はひどくなっていました。 雨が再び降り始め、さっきよりも強く、風が大波を市壁にたたきつけていました。 雷は砲撃のように響き、稲妻が艦隊の待つ湾の上を切り裂いていました。 午前2時を回ったところだな、と、シャープは思いました。ヌニェズの家のそばの廃墟にたどり着いたところでした。 シャープは錠前をあけ、ドアを押し開きました。そして内側から鍵を閉め、 「ランタンはあるか?」 と、パーキンスに尋ねました。 「あります」 「建物の中に入るまで点けるな」 シャープはハーパーにいくつか指示を与え、ハーグマンを塔の上から見張りにつけました。 彼らは手探りで闇の中を階段を上っていき、ようやく屋上に到着しましたが、闇が深くほとんど何も見えませんでした。 シャープはヌニェズの家の屋根の上に見張りがいるかどうか目を凝らしましたが、何も見えませんでした。 彼はライフマンたちの中でいちばん目のいい老密猟者のハーグマンを連れてきました。 「あそこにいたとしても、そいつも雨風を避けているはずですよ」 「そうかもしれん」 稲妻の閃光が塔の内部を照らし出し、雷鳴が市街にこだましました。 雨はたたきつけるように降って眼下の屋根で音を立てていました。 「新聞屋の上の階に誰か住んでいるんで?」 と、ハーグマンは尋ねました。 「そう思う」 と、シャープは答えました。たいていの町家では店の上は居住区になっているのでした。 「女子供もいるかもしれませんね?」 「だから煙玉を持ってきたんだ」 ハーグマンはちょっと考え込みました。 「煙で燻し出すんですか?」 「そういう考えもあるということさ、ダン」 「俺はちっこいのを殺したくないんで」 「殺さなくていい」 と、シャープはそうであって欲しいと願いながら答えました。 また稲妻が光りました。 「屋根の上には誰もいませんよ」 と、ハーグマンは言いました。 「みんな大聖堂に行ったのかな?」 「そうなんですか?」 「独り言だよ、ダン」 とシャープはいい、風雨の中に目を凝らしました。 昼間は見張りが一人いたし、夜もいると思われました。しかしまだ大聖堂にいるのか、それとも家の中で快適に過ごしているのか。 シャープは煙玉を煙突から放り込むことを計画していました。そうすれば内部の人間は表に出るだろうし、そのあとで砲弾を落としてダメージを与えればいいと思っていました。しかし、ヌニェズの家の中に入るべきなのでは? 「これが終わったら」 と、ハーグマンが尋ねました。 「連隊に戻るんですか?」 「そのつもりだ」 と、シャープは言いました。 「あの気の毒なミスター・ブレンの代わりに小隊の指揮をするのは誰なんでしょうかね」 「たぶんノウルズ中尉だ」 「あの人は戻れたら喜ぶでしょうね」 「俺も会えたらうれしいよ。もうじきだ。ダン。おい、あそこだ!」 シャープは塔の下で、かすかな明かりが光るのを見たのでした。 それは一瞬で消えましたが、ハーパーが何か見つけたという合図でした。 「行くぞ」 「頭の具合はどうですか?」 「死なずに済みそうだよ、ダン」 シャープにしてみれば、この街の平らな屋根は盗人にとっては夢のような世界でした。 道を歩かずにその上の4階の位置で、カディスの街をぐるりと一周できました。何本かの広い通りも、ジャンプすれば越えることができました。 雨音が他の音を隠しましたが、一応ブーツを脱ぐようにとシャープは隊員たちに言いました。屋根の上ではたとえ嵐といえども、ブーツは不必要に大きい音を立てると思われたからです。 ヌニェズの家に見張りはいませんでした。 屋根には引き上げ扉があり、それは内側から硬く閉ざされていましたが、バルコニーから梯子が通じていることを、シャープは最初にきたときに見て知っていました。 彼はパーキンスにブーツとライフルを渡して梯子を降りました。 梯子は部屋に続く大きなよろい戸の横にありました。 それは閉じられていましたが、シャープはナイフを継ぎ目に差し込みました。板は朽ちており、ナイフの刃はたやすく入り込みました。掛け金を見つけ、それを跳ね上げると、風が乱暴に1枚の扉を開き、扉は壁にたたきつけられました。その向こうにすりガラスの扉があり、風にたたかれていました。 シャープは扉の間にナイフを差し込みましたが、こちらの木は頑丈でした。 よろい戸はばたばたとあおられていました。 ガラスを割るか。そのほうが早い。と、彼は思いました。 だが、ドアの下にボルトがあるのでは? ドアの下を押してみると、内側で何かが光りました。 一瞬気のせいかとも思いましたが、もう一度光りました。それはガラスに何かが反射しているもののようでした。 またそれは消え、再び現れました。 誰か中で眠っていたのかもしれない。よろい戸の音で目を覚まし、火打ち箱を使ってろうそくに火をつけようとしているのだ。 炎が大きくなり、ろうそくがつきました。 シャープはナイフを手にして待っていました。 ボルトを引く音が聞こえました。ボルトは3つでした。 そしてドアが開き、寝巻き姿の男が現れました。 40代か50代の中年の男で、髪は乱れ、不機嫌な顔をしていました。 彼はよろい戸を閉めようとして、シャープに気づきました。 叫ぼうと口をあけた男ののど下に刃をつきつけ、シャープは 「静かにしろ」 とささやきました。 そして彼は男を部屋に圧し戻しました。 「パット!下に行け!」 ライフルマンたちで部屋はいっぱいでした。 彼らは黒っぽい姿で雨に濡れており、ブーツを履きました。 シャープはよろい戸を閉め、掛け金をかけました。 いちばんスペイン語のうまいハリスが、大きな身振りで話をする捕虜と話していました。 「ヌニェズという名だそうです」 と、ハリスは言いました。 「下に男が二人いるそうです」 「他の連中はどこだ?」 シャープはもっとたくさんの男たちがいたのを知っていたのでした。 あわただしくスペイン語の会話が交わされました。 「出かけているそうです」 と、ハリスは言いました。 ではモンセニーは金のためにここを丸裸にして出かけたわけだ。 「手紙はどこか聞け」 「手紙ですか?」 「聞けばわかる。彼は知っている」 ずるそうな表情がヌニェズの顔に浮かびましたが、シャープがナイフを突きつけると、それは怯えた表情に変わりました。彼は早口でしゃべりました。 「下の階にあるそうです」 と、ハリスが訳しました。 「物書きのところだそうです。通じますか?」 「通じる。黙っていろと言え。パーキンス、ここでこいつを見張っていろ」 「縛りますか?」 と、ハリスが尋ねました。 「猿轡もしておけ」 シャープはろうそくをもう一本ともし、それを持って隣の部屋に行きました。そこには屋根の引き上げ扉に続く階段と、もうひとつ、階下の2階に通じる階段がありました。 2階は小さい台所と居間でした。扉が次の大きな部屋に向かって開いており、そこは倉庫になっていて、紙が山のように積まれていました。 1階から光が漏れてきて、シャープは階段の上にろうそくをおき、下の暗闇に下りていきました。 一人の男が床で眠っており、もう一人は膝の上にマスケットをおいて椅子にもたれかかっていました。 壁際には印刷済みの新聞がうずたかく積まれていました。 ヘンリー・ウェルズレイはシャープに、スペイン人と事を構えないようにと念を押していました。大使は暴力沙汰を固く差し止めていました。 「それがなんだ」 とシャープは声に出して言い、ライフルの撃鉄を起こし、その音で椅子の男が目を覚ましたのでした。
by richard_sharpe
| 2008-03-06 18:32
| Sharpe's Fury
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