カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第7章 - 1 シャープは梯子を大急ぎでよじ登りました。身廊からまた銃声がして、堂内に大きくこだましました。銃弾は壁にぶつかって石を砕き、背後から追っ手の叫び声が聞こえました。ハーパーはブロックをクロッシングに向かって投げ落とし、そこでも床に当たって石が砕ける音がしました。 「まだ梯子があります!」 と、ハーパーが頭上から叫びました。シャープにも次の梯子が暗がりに延びていっているのが見えました。 さらに銃声が聞こえました。弾丸は板に食い込み、シャープが上り始めた2番目の梯子が危なっかしく揺れました。 「こっちです!」 と、ハーパーが手を差し出しました。 軍曹とパンフリー伯は、袖廊の真ん中をぐるりと取り巻いて飾りを作っている石造りの広い枠の上にいました。 大聖堂の床から大体40フィート上った、と、シャープは見当をつけました。そしてドームの下に位置する礼拝堂を、さらに上まで上らなければならない。高みの暗がりに、窓があるはずでした。見えませんでしたが、シャープは記憶していました。 「なんということをしてくれたのだ」 と、パンフリー伯は怒気を含んだ声で言いました。 「交渉をしていたのだぞ!まだ手紙も見ていない」 「これです」 と、シャープはパンフリーの手に包みを押し付けました。 「スペイン人からなんと言われるかわかっているのか?大聖堂の中だぞ!兵士はここには入れないことになっているんだ」 シャープは下を見つめながらライフルを再装填していました。風が激しく吹く音が聞こえ、すさまじい雷鳴が響きました。 大聖堂の中の銃声や騒ぎの音は、嵐の音の中にかき消されていました。 そして、モンセニーはドアに錠を下ろしました。彼は金を欲していました。 一斉射撃の音が響き、あちこちの壁に銃弾が跳ね返り、その音がこだまして大音響になりました。 誰かが梯子を上り始めた、援護射撃かもしれない。と、シャープは思いました。 礼拝堂の反対側の張り出しに彼は目を凝らし、ライフルで狙いをつけて引き金を引きました。 男が転げ落ち、視界から消えました。 「ナイフはあるか?」 とパンフリー伯が尋ね、シャープはポケットナイフを渡しました。紐が切れ、紙が開く音がしました。 「ハーパー軍曹に火をつけさせますか?」 と、シャープは尋ねました。 「必要ない」 と、パンフリーは悲しげに答えました。広げた紙の包みの中には手紙などはなく、新聞が入っているのが暗がりでもわかりました。おそらく「エル・コレオ・デ・カディス」でした。 「きみは正しかった」 と、パンフリーは言いました。 「1500ギニーといえば、一生楽に暮らせる金だ。パット、俺とお前で山分けするか」 シャープはカートリッジを取り出して食いちぎりました。 「アメリカに渡って酒場を開いて、楽しくやろうぜ」 「1500ギニーあれば、酒場なんか要らないですよ」 「でも面白そうだと思わないか?」 と、シャープは言いました。 「海のそばの町の酒場だぜ?店の名前は パンフリー伯爵 だ」 彼は皮で銃弾を包み、ライフルに込めました。 「でもアメリカには貴族はいないんだったな」 「いない」 と、パンフリー伯は言いました。 「じゃあ 大使と娼婦 にしよう」 シャープは撃鉄を起こしました。 動くものは何も見えませんでした。しかし、1500英国ギニーをあきらめたはずはありませんでした。 「まさかするはずがない。シャープ、きみは本気で金を?」 と、パンフリーは声を尖らせました。 「まずいことに、閣下、私は国王陛下の軍人でしてね。まったくどうしてそんなことになったんだか。ただ、ハーパー軍曹はアイルランド人なので、英国を嫌う理由は山ほどあるんです。こいつの連発銃であっという間に私も閣下もミンチですよ。パット、1500ギニーだぞ。やればできる」 「やればできますね」 「しかしそれもここから出られれば、の話だ」 と、シャープは言いました。 「あの窓まで上る」 シャープは指差しました。闇になれた彼の目には、ドームの下の細い窓が見えていました。 「そしてそこを突破して、外の足場を伝って降りる。その後は一目散に街に紛れ込む」 彼らは梁の上の足場を伝って反対側に渡り、さらに梯子を上って窓の下までたどり着かなければなりませんでした。さらに30フィートは上で、その間は敵の目に身をさらすことになるかもしれませんでした。 「やつらの目をそらせなければならない。残念だが、煙玉は使い切ってしまった。パット、ブロックはまだあるか?」 と、シャープは言いました。 「ここに1ダースはありますよ」 「全部落とせ。連中を喜ばせてやれ」 「連発銃を使いましょうか?」 「2、3人しかいなければそれでもいいが」 7連発銃は威力のある兵器ですが、装填に時間がかかるので、一度使うとあとがありませんでした。 「あなたはどうします?」 と、ハーパーは尋ねました。 「思いついたことがあるんだ」 それは窮余の一策でした。 暗がりから下がった長いロープが、反対側に結び付けてあるのが見えました。それはドームのどこかに消え、そしてもう一方の端が下がっているのが見えていました。 その端には大きな鉄の鉤がついており、その鉤は右側の足場に縛り付けられ、つぎの足場に下がっていました。 パンフリー伯からポケットナイフを返してもらうと、シャープは 「パット、いまだ!」 と言いました。ハーパーは石のブロックを持ち上げると投げ落とし、床に砕けた音が聞こえると、シャープは梯子を降り始めました。水夫たちがやるように滑り降りるのは初めてでした。 右手で反動をつけて足場に飛び降り、2番目の石が床に大きな音を立てて砕ける音を聞きました。 モンセニーは大攻勢を受けたと思ったらしく、何人かは援軍を求めて走り出て、モンセニーと他の3人がマスケットを持って踏み出しました。 「神のご加護を」 とハーパーは言い、7連発銃の引き鉄を引きました。 その銃声は耳を聾せんばかりで、狭い空間でこだましたものが大聖堂全体を揺るがすまでに響きました。 シャープは鉤にたどり着きました。そのとき一人が彼の下からマスケットを撃ち、弾丸は1ヤードほどそれました。シャープは重い鉤に飛び掛るとロープを巻きつけて鉤を持ち上げ、梯子に戻って足場に上りました。さらに2発の銃弾がすぐ下に撃ち込まれました。 彼は鉤をハーパーに渡しました。 「引っ張れ。振り回すなよ。思いっきり引っ張るんだ」 ロープはぴんと張りつめ、ハーパーはうめき声を立てました。 眼下で影が動き、シャープはライフルをひったくるとすばやく狙い、撃ちました。 影は消えました。 ハーパーはその怪力のすべてを出して引っ張っていました。シャープはカートリッジを取り出しました。 「動きません」 と、ハーパーは言いました。 シャープはライフルの装填を終えると、ライフルとピストルをパンフリー伯に渡しました。 「やつらをからかってやってください」 と彼は言い、ハーパーと二人でロープを引っ張り始めました。しかしそれはびくともしませんでした。ロープの端は太い棒に括り付けられ、よほど頑丈に縛り付けられているようでした。 パンフリー伯は自分の決闘用のピストルを立て続けに撃ち、身廊から叫び声が聞こえてきました。 「ひねるぞ!」 と、シャープはハーパーに言い、二人はロープを強くねじりました。 棒が少し動いたようでした。 下にいた男たちも彼らが何をしようとしているのか気づいたらしく、一人がナイフを手に梯子を上がってきました。 パンフリー伯はシャープのピストルを撃ちましたが、銃弾は床にあたりました。 男は足場に上るとナイフでロープを切ろうとしました。 「引っ張れ!」 とシャープは叫び、ハーパーと一緒にすさまじい力で引っ張りました。棒が外側に向かって傾きました。 その木材は古く、20年以上も放置されたままで、ばらばらと木片が散りました。 足場に積まれたブロックのいくつかが彼らに向かって落ちてきました。 一度動き始めるともう止まりませんでした。 石のブロックは崩れ落ち始め、ナイフの男は命がけでロープに飛び移ろうとしましたが、クロッシングの反対側の巻き上がるほこりの中にに落ちました。 「今だ!」 と、シャープは言いました。 すさまじい大音響がとどろきました。 倒れる棒と落ちる足場、そして石材が、100フィート下のクロッシングに残骸となって崩れ落ちていきました。 ブロックは砕けて砂煙となり、大聖堂の礼拝堂から灰色の煙のように噴出すのが、ろうそくのほのかな明かりの中でも見えました。 破壊が広がるにつれてシャープが渡っていた足場も揺れ始め、彼はパンフリーを梯子に押し上げ、すでに登りきっていたハーパーは銃床で窓を叩き壊していました。 「コートを使え!」 とシャープは叫びました。下のほうで誰かの悲鳴が聞こえました。 ハーパーは窓の下側の割れたガラスの上にコートをかけて覆い、パンフリーを遠慮会釈なく引きずりあげました。 「大尉!」 と彼は手を伸ばしてシャープの腕をつかみ、そのとたんにシャープの足元が崩れました。 3人は窓の枠にバランスを保ちながらうずくまり、彼らの背後ではクロッシングが沸き立つような砂煙を上げていました。ろうそくは消え、大聖堂の中は真っ暗でした。 「降りますか」 と、ハーパーが促しました。 シャープはジャンプし、どこまでも落ちていくのかと思ったところで平たい屋根の上に大の字になりました。 パンフリーが飛び降り、着地したときの痛みにかすかな声を上げました。そしてハーパーが続きました。 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 と、軍曹は力を込めて言いました。 「ひどいもんでしたね」 「金は持っていますか?」 「持っっている」 と、パンフリーは言いました。 「おかげで楽しい思いをさせてもらいましたよ」 と、シャープは言いました。彼の頭はひどく痛んでいて、手からは血が流れていました。しかし他にダメージは受けていませんでした。 風が彼に吹き付けていました。波が砕ける音も聞こえ、屋根の端に行ってみると、岸壁の向こうを稲妻が切り裂きました。雨が再び降り出したのか波のしぶきか、風は水滴を含んでいました。 「向こう側に足場がある」 と、彼は言いました。 「足首を折ったらしい」 と、パンフリー伯は言いました。 「大丈夫ですよ」 とシャープは言いました。とにかく閣下の弱気に付き合っている暇はありませんでした。 「歩けばよくなります」 シャープは屋根の端か見下ろし、明かりが中庭のほうに向かってくることに気づきました。その明かりだけで、足場の存在がわかりました。 他にもランタンの明かりが通りをやってきて、大聖堂での物音を誰かが聞きつけたのだと思われました。 しかし西側の正面の扉は閉じられており、誰も中に入ることはできませんでした。 大聖堂の北面のほうには、誰も注意を向けていませんでした。 シャープは梯子を見つけ、金のバッグはハーパーが持ち、彼らは梯子を次々と下っていきました。 頭上では雷鳴が響き、稲妻が光っていました。 最後の梯子を降りきった時、玉石の石畳に危うくキスをしそうになったパンフリー伯は「神様」 と言いました。 「足首はひねっただけのようだ」 「折れていなかったでしょう」 とシャープはいい、にやりと笑いました。 「最後がきつかったが、何とかうまくいった」 「大聖堂の中だったんですよ!」 と、ハーパーが言いました。 「神様は許してくださるさ」 と、シャープは言いました。 「中のやつらはお許しにならないだろうが、お前のことは許してくれる。神様はアイルランド人を愛しているんだろう?いつもそう言っていなかったか?」 大使館はすぐそこでした。 彼らは寝ぼけ眼の門番を起こして門を開けさせました。 「大使はお待ちかねでしょうね?」 と、シャープはパンフリーに尋ねました。 「もちろん」 「では国王陛下の金を大使にお返しください」 「と、シャープは言いました。 「6ギニーのぞいて」 彼は鞄を開いて6ギニー数え、残りをパンフリーに渡しました。 「6ギニー?」 と、パンフリー伯は尋ねました。 「買収しないといけない人間がいるんでね」 と、シャープは答えました。 「大使は明朝きみにお会いになりたいだろう」 「いつものところにいますよ」 と、シャープは言いました。 彼は厩に向かい、回廊で立ち止まってパンフリー伯がヘンリー・ウェルズレイの居住区と大使館の事務所がある方向へはいかず、代わりに自分の住居へと向かっていくのを見ていました。 彼は閣下の姿が消えるとつばを吐きました。 「俺がくすねたと思われるだろうな」 と、彼は言いました。 「そうでしょうか」 「そんなもんさ。パット、疲れたか?」 「1ヶ月くらい寝込みそうですよ」 「今はダメだパット。今じゃない」 「ダメとは?」 「敵を打ちのめすのにいちばん効果的なときは?」 「敵が倒れているときですか?」 「敵が倒れているときだ」 と、シャープはうなずきました。 まだ仕事は残っていました。
by richard_sharpe
| 2008-02-20 17:31
| Sharpe's Fury
|
ファン申請 |
||