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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第6章 - 3 伝言は暗くなってから届きました。 シャープは部下たちと一緒に大使館の厩で待っていました。彼らは安物の服を着て、いつもとはちょっと違った感じでした。 「ハーパー軍曹が俺と一緒に行く。他のみんなはここで待っていてくれ。酒を飲むなよ!今夜遅くにたぶんお前たちの手が必要になる」 と、シャープは皆に言いました。彼は、その夜の冒険が不首尾に終わるのではないかと予感していました。 パンフリー伯は楽観的に構えていましたが、シャープは最悪に備えておきたかったのでした。彼はライフルマンたちが援軍として必要になると考えていました。 「酒を飲んではいけないのなら、そのブランデーはなんです?」 と、ハリスは尋ねました。 シャープは大使の貯蔵庫からブランデーを2本持ってきており、コルクを抜いてバケツに注ぎ、ランプのオイルをそこに加えました。 「こいつを混ぜて、びんに戻しておけ」 「火付けでもするんですか?」 「何をすることになるかわからないんだ。何もしなくていいかもしれない。だがシラフで待っているんだ。何が起きるのかそのうちわかる」 シャープは全員連れて行きたかったのですが、例の僧侶はパンフリーの連れとして二人しか許可していませんでしたし、本当に何も起こらないかもしれませんでした。 モンセニーは本当のことを言っているかもしれないし、チャンスはある。 しかしシャープは僧侶が本当に手紙を渡すかどうか、疑わしく思っていました。 彼は海軍用のピストルを2丁、大使館から持ち出し、油をさして装てんしました。 大使館の時計が11時を打ち、パンフリーが厩にやってきました。 彼は黒いコートを着て、皮製の鞄を持っていました。 「大聖堂だ、シャープ」 と、パンフリー伯は言いました。 「また祭室だ。真夜中過ぎだ」 「なんてこった」 と、シャープは言いました。彼は剣のベルトのバックルを締めました。 「武器は?」 と、シャープはパンフリーに尋ねました。伯はコートを広げて決闘用のピストルが一組、ベルトに差し込んであるのを見せました。 「結構です」 と、シャープは言いました。 「やつは殺すつもりです。まだ雨は降っているか?」 「いいえ、風だけです」 と、ハーグマンが答えました。 「パット、7連発銃とライフルは?」 「それとピストルです」 と、ハーパーが言いました。 「それからこれだ」 シャープは言って壁にかけたフランス軍の背嚢から煙玉を取り出しました。彼は工兵中尉が、狭いところで使う方法を教えてくれたのを思い出していました。 「火打ち箱はあるか?」 ハリスが持っていて、ハーパーに渡しました。 「みんなで行ったほうがいいんじゃないですか?」 と、スラッタリーが言いました。 「連中は3人で来いと言っている」 シャープが言うと、パンフリー伯はうなずきました。 「もし全員で行くと、連中は姿をくらます。そしてもう一度、この鞄の中身を盗ろうとたくらむだけだ」 彼はパンフリー伯の書類鞄に向かってうなずきました。 「重いですか?」 パンフリーは首を振りました。 「30ポンドかな?」 と、伯は鞄を持ち上げながら言いました。 「十分重いですよ。準備はできたか?」 街路は濡れて暗く、角ごとにたいまつで照らされているだけでした。風は冷たく、コートをあおりました。 「何をしにいくかわかっていますか」 と、シャープはパンフリー伯に言いました。 「連中はこっちに金を渡させ、2、3発お見舞いしてきますよ。それでこっちは手紙を手に入れられない」 「きみはシニカルな見方をするな。連中は手紙よりもこれを欲しがる」 と、パンフリー伯は鞄を上に揚げました。 「それよりも、手紙と金の両方を欲しがりますよ。やつらは必要があれば殺しにかかってくる」 パンフリーは海へ向かう道を、先頭に立って歩いていきました。風が鳴り、大聖堂の屋根の未完成の部分にかけられたキャンバスの布をばたばたとあおりました。 路地のたいまつが大聖堂を浮かび上がらせていました。 「早くついたようだ」 パンフリー伯の声は不安げでした。 「やつらはもう来ていますよ。われわれを待っています。それから、私に一言あっていいんじゃないですか?」 「きみに?」 と、パンフリーは尋ねました。 「例くらい言ったらどうです。鞄の中にはいくら入っているんですか、閣下?1800ギニーですか、それとも1500ギニー?」 パンフリーは気まずそうにハーパーのほうに目をやりました。 「もちろん1500だ」 と、パンフリーは小声で答えました。 「そうだ、大使の前で言わないでくれてありがとう」 「明日も言わないとは限りませんよ」 と、シャープは言いました。 「私の仕事には金がかかるのだよ、シャープ。実に金がかかるのだ。きみだって経費は申告するだろう?」 「一緒にしないでください」 「私だって皆と同様、たまにはやるのさ」 と、パンフリー伯は虚勢を張りました。 「世界中のみんながうそつきで、みんなが堕落していると?」 「それを外交活動と呼ぶのだよ」 「それじゃ、自分が泥棒で人殺しだっていうことを神様に感謝しますよ」 彼らは路地を出て大聖堂の扉への階段を上りました。 パンフリーは左側の扉を圧して開き、ハーパーはシャープに続いてはいると十字を切り、軽く肩膝をつきました。 柱がクロッシングに向かって続いているのが高い祭壇の小さな光の中で見えました。 礼拝堂にはたくさんのろうそくがともされ、吹き込む風で揺らめいていました。 シャープはライフルを手にし、先頭に立ちました。 人影は見えませんでした。 「もし何かあったら、伏せてください」 と、シャープは言いました。 「走るんじゃないのか?」 と、パンフリー伯は聞き返しました。 「もう後ろに回られています」 シャープには足音が聞こえていました。ちらりと振り返ると、人影が二つ、袖廊の突き当たりに映っていました。カチリという金属音も聞こえました。 囲まれていました。 「なんということだ」 と、パンフリー伯は言いました。 「神様がこっちについてくれるように祈ってください。後ろは二人だ、パット。扉を固めている」 「見えました」 身廊が袖廊と交差しているクロッシングに来ると、たくさんのろうそくが祭壇にともされているのがわかりました。その上は未完成のドームが闇に溶け込んでいました。 パンフリーは祭室への階段に向かおうとし、シャープはそれをさえぎりました。 「待ってください」 そしていずれ聖域が作られるはずの壁にある扉に近づきました。 扉には鍵がかかっていました。 内側には錠前も鍵穴もなく、外からロックされていることがわかりました。 シャープはミスを犯したのでした。退路は断たれたのでした。 「何事だ?」 と、パンフリー伯は尋ねました。 「他の出口が必要だということです」 と、シャープは言いました。彼は周囲の闇を見回し、記憶をたどって上のほうに窓があったことを思い出しました。 「出るときは梯子だ」 「何も起こるはずがない」 と、パンフリー伯はそわそわと言いました。 「外交官相手に何もするはずがない」 「1500ギニーのためなら国王だって襲う連中です」 シャープは言って祭室への階段を下り始めました。
by richard_sharpe
| 2008-02-12 19:32
| Sharpe's Fury
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