カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第6章 - 2 その男はよそのテーブルから椅子を持ってきて、シャープとパンフリーの間に置きました。そしてピストルにちらりと視線を向けると肩をすくめ、そして給仕の娘に手で合図をしました。 「ヴィノ・ティント、ポルファヴォール」 と彼はかすれ声で言い、 「ここで闘うつもりはない」 と、今度は英語で言いました。 「だから銃はしまっておきなさい」 シャープは銃口をまっすぐ黒服の男に向けました。男は僧侶でした。 「私の名は」 と、彼はパンフリー伯のほうに向かって言いました。 「サルバドール・モンセニー神父だ。ある確かな人物たちが、私に代理人を依頼してきた」 「確かな人物?」 と、パンフリー伯は尋ねました。 「誰かということを私の口から聞き出そうとは思わないでいただきたいものだ、閣下」 僧侶はシャープのピストルをちらりと見、シャープには彼が誰だかわかりました。 ヌニェズの家から出てきて、シャープに路地から出て行くようにと言った僧侶でした。 「私としてはこのことに個人的な興味はない」 と、モンセニー神父は続けました。 「だがあなたを信頼するようにといって私に頼んできた人物は、僧侶に任せるのがいいと思っている」 「銃をしまえ、シャープ」 パンフリー伯はシャープが引き金から指をはずし、銃をコートの下にしまうのを待ちました。 テーブルに赤ワインのデカンタとコーヒーが運ばれ、神父は自分でワインをグラスに注ぎました。 「私が設定できる金額は3000ギニーだ」 「あなたは交渉する権利があるのかな?」 と、パンフリー伯は尋ねました。 モンセニーは何も答えず、砂糖をワインのグラスに放り込みました。 「3000ギニーとは法外な」 と、パンフリーは言いました。 「まったく天文学的数字だ。最終的にわが国王陛下の政府は600ギニーしか用意できない」 モンセニー神父はかすかに頭を振り、そして空のグラスを隣のテーブルからとると、シャープの前においてワインを注ぎました。 「それできみは何者だ?」 と、彼は尋ねました。 「この方の面倒を見る」 と、シャープはパンフリー伯のほうに首を振り、自分が頭痛をこらえていることに気づいてくれないように願いました。 モンセニーはシャープの頭の包帯を見て、面白がっているようでした。 「怪我人をつけてもらったのか?」 「いちばん優秀な男をつけてくれた」 パンフリーは言い訳がましく言いました。 「護衛は要らないはずだ、閣下」 「あなたはお忘れかな」 と、パンフリー伯は言いました。 「手紙について交渉した先日の男は殺された」 「残念なことだ」 と、僧侶は厳かに言いました。 「しかし彼自身の過ちだと聞いている。彼は力ずくで手紙を奪おうとした。2000ギニーにまでなら交渉に応じる用意がある」 「1000ギニーでこれ以上エル・コレオを発行しないというのは?」 と、パンフリーは言いました。 モンセニーはグラスにワインを注ぎました。 「私の依頼人は新聞上で彼らの影響力を行使することを望んでいる。しかし2000ギニー払うというのなら」 「ああ」 と、パンフリー伯は言いました。 「大使館の金庫には、もう1500ギニーしか残っていない」 「1500ギニー」 とモンセニー神父はいい、そのことについて考えているようでした。 「その代価で、あなたの依頼人たちは手紙を返し、これ以上新聞を発行しないというのは、神父」 「それで成立するだろう」 と、モンセニー神父は言いました。彼はわずかに微笑し、交渉結果に満足している様子でした。そして、身をそらせました。 「ちょっとした忠告を受けていただけるかな?」 と、モンセニーは言いました。 「喜んで」 と、パンフリー伯は慇懃に答えました。 「あなた方の軍は船で南に出て北上し、ヴィクトール元帥を襲撃しようとsウィている。彼がそれを知らないとでも?その結果どうなると?」 「われわれが勝つ」 と、シャープは言いましたが、モンセニーはそれを無視しました。 「ラペーニャはどうかな?8千か9千の兵力だ。グレアム将軍は3,4千。そうなるとラペーニャが指揮を執る、が、彼は老婆みたいなものだ。ヴィクトールに押され、ラペーニャは逃げ出すだろう。パニックになり、撃破される。街には少数の守備隊しか折らず、フランス軍が殺到する。カディスはフランス軍の手に落ちるというわけだ。そうなったら手紙は問題ではなくなる」 「それならば、なぜ手紙を返してくれないのかな?」 と、パンフリーは言いました。 「1500ギニーだ、閣下。ご自分でお持ちになるように。護衛は2人、それ以上はいけない。どこで交換するかは大使館に伝言を送る。伝言は今日のオラシオンのあとに届く」 モンセニーはグラスを干し、立ち上がって小銭をテーブルの上に置きました。 「これで私は重荷から解放された」 彼は言ってうなずくと、去っていきました。 シャープはコインをテーブルの上でくるくる回しました。 「少なくとも自分の飲み代は払っていったわけだ」 「夕方の祈りのあとに伝言を受け取るわけだが」 と、パンフリーは顔をしかめながら言いました。 「今夜金を用意しろということかな?」 「もちろん。それについてはやつを信用していいですよ」 と、シャープは言いました。 「他は信用できないが」 「他は信用できない?」 「私はやつを新聞社の前で見た。やつは直接かかわっていますよ。手紙を渡そうとはしないでしょう。やつは金を持って逃げますよ」 パンフリーはコーヒーを見つめていました。 「それは間違いだと思うが。手紙の資産価値は下落した」 「まったく、それはどういう意味なんです?」 「スペイン軍を率いるラペーニャ将軍は、老婦人といわれている臆病者だ。サー・トーマスの軍勢は少ない。ラペーニャがヴィクトール元帥に粉砕された場合、カディスは陥落する。カディスが落ちれば、スペイン人はこれ以上待たない。降伏し、ボナパルトと交渉するだろう。英国は平和を作り出せない。そうなると、手紙はもう1ペニーの価値もなくなる。そういう意味だ。提督が手紙を持っている意味も、数ヶ月しかない。だから本気で彼らは交渉しているはずだ」 パンフリーは小銭を出して僧侶の出したコインの横に置き、立ち上がりました。 「大使館に戻らねば、リチャード」 「やつは嘘をついている」 と、シャープは声を尖らせました。 パンフリーは区はため息をつきました。 「外交においては、常に誰もが嘘をついていることをわきまえているのだよ、シャープ。そうやって続けていくのだ。われわれの敵はカディスが数週間のうちにフランス軍の手に落ちると予想しており、その前に金を受け取ろうとしている。日が照っているうちに干草を作れ、と、そういうことだ」 雨はひどくなり、風も強くなっていました。 店の看板は大きく揺れ、雷鳴が砲撃のように頭上で響いていました。 シャープはパンフリーが路地をたどっていくのについて大使館に戻っていきました。 退屈そうなスペイン兵が守るアーチをくぐって中庭を急ぎ足で横切ると、上のほうから声がしました。 「パンプス!上だ!」 シャープとパンフリー伯が上を見上げると、大使が大使館の厩の端にある5階建ての見張り塔の窓から身を乗り出しているのが見えました。 「上だ!」 と、ヘンリー・ウェルズレイは再び叫びました。 「ミスター・シャープ!きみも来てくれ!」 彼は興奮しているようでした。 バルコニーの屋根の下には、ムーン准将がまるで塔の主のような様子でいるのが、シャープの気に障りました。 ムーンは足置きをそばに椅子に座り、傍らには望遠鏡があり、小さいテーブルにはラム酒が載っていました。窓越しに悪天候から守られているその場所を、彼は砦にしているようでした。 彼は足を下ろし、杖に持たれかけさせていました。そして大使と一緒に東の方角を見つめていました。 「船だ!」 と、ヘンリー・ウェルズレイはシャープとパンフリー伯にうれしそうに報告しました。 小さな船の一群が白波を蹴立ててカディス湾に入ってきていました。 1本マストでそれぞれとても大きな帆を張っており、シャープの目には奇妙な形の船に見えました。 「フェラッカ船だ」 と、大使は言いました。 「フェラッキーたちは嵐で壊れる前にここに到着したわけだ」 と、准将はヘンリー・ウェルズレイの微笑を受けながら言いました。 フランス軍の迫撃砲はフェラッカを沈めようと試みていましたが、うまくいっていませんでした。 砲声は雨と風でさえぎられ、煙がマタゴルダ砦とサンノゼ砦の両方から塊のようにもくもくと上がるのがシャープから見えましたが、どこに着弾したかはわかりませんでした。 フェラッカは前に突き進み、港の南端をめざし、迫撃砲の射程を抜けました。 北の岬の向こう側に稲妻が閃きました。 「これでスペイン人たちは約束を守るぞ!」 ヘンリー・ウェルズレイは大喜びでした。 「バレアリクスから補給物品を運んできた。これで軍を運ぶこともできる!」 これであらゆるトラブルが終わった、とでもいうようでした。 英軍とスペイン軍が合流できればフランス軍を数で圧倒することになり、反対勢力の口も封じることができるはずでした。 コルテスとスペインの首都はセビリアに戻り、それで勝利を予感させることができるはずでした。 「計画では」 と、ヘンリー・ウェルズレイはシャープに言いました。 「ラペーニャとサー・トーマスの部隊はジブラルタルからの歩兵部隊と合流して北上し、ヴィクトールの広報をたたき、アンダルシアから撤退させるということになっている」 「それは機密事項だと思っていましたが」 と、准将は不機嫌な声で言いました。 「秘密といっても、僧侶が私にそれについては全部話してくれた」 大使は驚いたようでした。 「僧侶が?」 「ヴィクトール元帥はわれわれの計画について熟知していると確信していた様子でした」 「もちろん知っているでしょう」 と、准将が言いました。 「彼はラッパ手から昇進した。数を数えられたからでしょう?艦隊の数くらい数えられるでしょう」 彼は振り返ってフェラッカ船団に目をやりました。今では砲撃も収まっていました。 「閣下、私が受けた申し出についてお話し合いをしたいのですが」 と、パンフリー伯は言いました。 大使はじっと船を見ている准将のほうをちらりと見ました。 「有益な申し出かな?」 「希望的なものかと」 「よろしい」 と言って、ヘンリー・ウェルズレイは階段を降り始めました。 「シャープ、来たまえ」 とパンフリー伯が命令口調で言いましたが、シャープが続こうとしたとき、准将が指を鳴らしました。 「ここにいろ、シャープ」 と、ムーンは命じました。 「すぐに行きます」 とシャープはパンフリー伯に言い、ウェルズレイとパンフリーが行ってしまった後で 「なんでしょう」 と、准将に尋ねました。 「ここでいったい何をしている?」 「大使のお手伝いをしています」 「大使のお手伝い?」 と、ムーンはシャープの言葉を繰り返しました。 「それで残っているのか?リスボンに戻っているはずだぞ」 「あなたこそ」 と、シャープは言いました。 「骨折の療養には陸にいるのがいちばんなのだ。医者がそういった。ここにいるといろいろなものが見える」 と、彼は望遠鏡を投げてよこしました。 「女ですか?」 と、シャープは尋ねました。脚を折った男がやっとの思いで塔の上まで上る、という理由が、シャープには他に思いつきませんでした。 「言葉に気をつけろ、シャープ。ここにいる本当の理由を言え」 「ですから大使がここに残ってお手伝いするようにと」 「そういう厚かましさは兵卒のときに覚えたのか?それとも生まれつきかな?」 「軍曹になったことで」 「軍曹になったこと?」 「明けても暮れても、将校たちの面倒を見させられましたから」 「将校たちについてどう思っていると?」 シャープは答えず、フェラッカ船を見つめました。そして怒りの波を鎮めました。 「行ってよろしいでしょうか」 「女に関することか?」 と、ムーンは問い詰めました。 「何のことですか?」 と、シャープは階段を降りかけて振り返りました。 「私だって新聞は読めるのだよ、シャープ。おまえとあのオカマは何をたくらんでいる?」 「オカマ?」 「パンフリーだよ、馬鹿なやつだ。おまえは彼のことが気に入っているようだな。ライバルがいるぞ。よく目を開いていることだ、シャープ。あのオカマの家をしきりに尋ねるのは誰だと思う?」 と、ムーアは二つの中庭のうちの小さいほうの家を指差しました。 「大使だよ、シャープ。こそこそと入っていく。なんのことなんだろうな」 「パンフリー伯が大使のアドバイザイーだからだと思いますが」 「夜に?」 「わかりません」 と、シャープは言いました。 「もう行ってもよろしいですか?」 「よろしい」 とムーンはせせら笑い、シャープは階段を駆け下りて大使の書斎に入り、ヘンリー・ウェルズレイが土砂降りの雨を見つめている姿を見出しました。 「シャープ大尉もモンセニー神父が嘘をついているという意見です」 と、シャープが入ったときにパンフリー伯はウェルズレイに言いました。 「そうなのかね、シャープ」 と、ウェルズレイは振り向かずに尋ねました。 「彼を信じてはいけません」 「黒衣の人物を?」 「彼が本当に新婦かどうかも、われわれは知りません」 と、シャープは言いました。 「それに私は彼の姿を新聞社で見ています」 「なんにせよ、取引は彼とです」 と、パンフリー伯は辛らつな口調で言いました。 「1800ギニーか」 と、大使はいいながら机の前の椅子に座りました。 「なんということだ」 彼は動揺していたので、シャープが鋭い一瞥をパンフリー伯に与えたことに気づきませんでした。 パンフリーはしゃあしゃあとしていました。 「閣下、スペイン人たちはわれわれよりも早く船に気づいたかもしれません。明日かあさってには船団を送れる。そうなるとこちらの勝利を彼らも予想するでしょう。カディスを守れれば手紙は無用のものになる。そのようなことになる前に彼らの利益にもなるように、こちらからオファーもできます」 「それにしても1800ギニーだ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「あなたの金ではない」 と、パンフリーは言いました。 「しかしパンプス、手紙は私のものなのだぞ!」 「手紙が公になった時点で、問題は外交政策上のものとなったと考えています。国王陛下の軍資金を使うのは合法的なことです」 パンフリー伯は右手を優雅に動かしました。 「難しい話ではありません。ゲリラたちとの間では、それくらい簡単に動きます」 「モンセニーは金を取って、手紙も渡さないでしょう」 と、シャープはそっけなく言いました。 二人は彼を無視しました。 「だれも国王陛下の外交官を殺しなどいたしません。騒動の元ですからな」 と、パンフリーは言いました。 「彼らはプラマーを殺しました」 と、シャープは口を挟みました。 「プラマーは外交官ではなかった」 と、パンフリー伯は鋭く決め付けました。 大使はシャープを見ました。 「きみは手紙を盗み出せるかね?シャープ」 「いいえ。破壊することはできますが。しかし盗み出すには監視が厳しすぎます」 「破壊する」 と、大使は言いました。 「というと、暴力を行使すると言うことかな?」 「そうです」 「それはできない。スペインとの友好関係の上で、それは禁じ手だ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。彼は顔を両手で覆いました。 「彼らは約束を守るだろうか、パンプス?もうこれ以上発行しないだろうか?」 「提督は最初の一撃で満足し、それよりも金を望んでいると思います」 と、パンフリーはシャープが不満そうな声を立てるのをさえぎって言いました。 「ではそのように」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「買い戻してくれ。あれを買い戻してくれ。このようなトラブルを起こして全く面目ない」 「閣下、トラブルはすぐに収まります」 とパンフリー伯は言いました。 「それではこのことを終わらせましょう。シャープ大尉?私と同行してもらえると考えているが?」 「行きます」 と、シャープはむっつりと言いました。 「それでは金を集めて、終わりにしよう」 と、パンフリー伯は軽い調子で言いました。
by richard_sharpe
| 2008-02-10 16:39
| Sharpe's Fury
|
ファン申請 |
||