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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第6章 - 1 それからの3日間は何も起きませんでした。 パンフリー伯は手紙を持っている人物からの連絡を待ち続け、大使は「エル・コレオ・デ・カディス」にまた他の手紙が載るのではないかと戦々恐々としていました。 しかし何もおきませんでした。 「あの新聞はこのところめったに発行されていなかったのですよ」 と、カディスの領事であるジェイムズ・ダフは大使に報告しました。 ダフはスペインに50年も住んでいて、30年以上も領事を務めていました。ある人々は彼はスペイン人以上にスペインよりだと言い、ワインの売買の権益によっては、スペインが英国と戦争するときにもそうだと言う者すらありました。 カディスには領事はもういらないという声もありましたが、ヘンリー・ウェルズレイは彼の意見を重要視していました。 「私が思うに、ヌニェズはじたばたしているところですよ」 と、ダフは 「エル・コレオ・デ・カディス」 の社主について言及しました。 「彼には主導権はないらしい。誰もが知っていることとか、マドリードでのうわさか、パリでの嘘か、船の出入りくらいしか彼自身は情報を得られないようです」 「それでは彼がわれわれから金を脅し取ろうとしているのではないと?」 と、ウェルズレイは尋ねました。 「1ペニーもね」 と、ダフは答えました。 この領事は痩せてしなびた感じの、しかしエレガントで、鋭い男でした。 彼はほとんど毎朝大使の元を訪れ、自分の有用性を大使館に売り込んでいました。 「誰かに買収されていると思われます」 と、ダフは続けました。 「あなたもやってみてくれましたか?」 と、大使は尋ねました。 「あなたのご要望のとおりにね、閣下。10回は訪ねてみましたが、うんとは言いませんでした。承知できないらしい。ずいぶんと怯えているようでしたよ。命と引き換えに脅されているのではないでしょうかね」 「誰が背後に?」 と、ヘンリー・ウェルズレイは苛立たしげに尋ねました。 「カルデニャスから雇われている連中がいるようです」 と、ダフは淡々と言いました。 「あの提督の気配が背後からにおうのですよ。彼は執念深い男です」 彼はちょっと間を置き、眉をひそめました。 「発行を思いとどまらせるために、直接的な手段に出ようとお考えでは?」 ウェルズレイも少しの間黙り込み、そしてうなずきました。 「考えはした。しかし私としては気が進まない。最後の手段だと」 「気が進まない、というのは賢明ですな。ヌニェズの家の周りには警備が入っています。カルデニャス提督が摂政府に口利きしたのではないかと思うのですが」 「カルデニャスと話は?」 「できるでしょうね」 と、ダフはうなずきました。 「慇懃に招き入れられ、シェリーを勧められて、何も知らないと否定されるのがおちです」 ウェルズレイは何も言いませんでしたが、失望した表情でした。 「われわれの最後の希望は」 と、ダフは続けました。 「サー・トーマス・グレアムが包囲を突破することです。そのことだけが、英国との同盟への敵対勢力をくじくことができる。問題は、それがサー・トーマスではなく、ラペーニャだった場合です」 ラペーニャは英軍の南側前面に陣取っているスペイン軍の将軍でした。 「彼はサー・トーマスよりも持ち駒が多い」 と、ダフはさらに続けました。 「だから彼が指揮を執ることになるでしょう。彼が総指揮官でなければスペイン軍は協力しない。そして閣下、ラペーニャは臆病者です。サー・トーマスが彼に勇気というものを示すことができるのを願うばかりです」 大使は馬車が待つ中庭に、ダフを送っていきました。 「もしもっと発行されたら」 と、ウェルズレイは馬車の幌をダフのために持ち上げてやりながらいいました。 「私は辞任しなくてはならない」 「そうはなりませんよ」 「しかしもしそうなったら、新任のものが到着するまで、今私がになっている重荷をあなたに預けなければならなくなる」 「あなたがここにとどまれることを心から祈りますよ」 「私もだ」 4日目に大使の待ち望んだ連絡がありました。 シャープは退屈している部下たちを酒を飲んでもよいと許可を与えることでつって厩の屋根を修理させていました。 パンフリー伯の召使は、シャープがスラッタリーに屋根瓦を投げ渡しているところに声をかけました。 「閣下があなたにお供をお願いしたいとお待ちです。すぐにいらしてください」 シャープはプラマー大尉のお下がりの黒い上着を着てコートを引っ掛け、召使に従って細い街路を進みました。 サン・フェリペ・ネリ教会のバルコニーにいました。 現在この教会はコルテス(国民議会)の所在地になっており、その正面には国王(いまではフランスの捕虜)の肖像がありました。 情熱的なスピーチに聞き入っているパンフリー伯の横のベンチに、シャープは滑り込みました。 パンフリーは、今日はバラの香りを漂わせていました。そしてありがたいことに派手なタイツではなく、黒い服装に身を包んでいました。 「2列後ろの右から4番目の椅子だ。敵を見ておきたまえ」 と、パンフリーはささやきました。 細身の、背の高い男が見えました。ひざの間に杖を挟み、彼は退屈している様子で目を閉じていました。 「カルデニャス侯爵だ」 と、パンフリー伯はいいました。 「敵ですか?」 「トラファルガーのことで、われわれを決して許さない。英国は彼を捕虜にしたがハンプシャーで丁重に扱った。しかし彼はわれわれを憎んでいる。そしてシャープ、かれがエル・コレオ・デ・カディスの背後にいる人物だといわれている。双眼鏡は持っているか?」 「大使館においてきました」 パンフリー伯は小さな望遠鏡をシャープに手渡しました。 「提督のコートに注意してみてくれ」 シャープはレンズを調節して提督のブルーのジャケットに焦点を合わせました。 「何を見つければ?」 「例の角笛だ」 とパンフリー伯は言い、シャープは上着に小さな角笛のブローチがとめられているのを見つけました。そしてレンズをあげると、こちらをまっすぐに見つめている提督の目に出会いました。 怖い顔だな、と、シャープは思いました。厳しくて、復讐心に燃えている。 「提督に何をするんですか?」 と、シャープはパンフリー伯に尋ねました。 「何をするって?われわれからは何もしない。彼は名誉ある人物で、スペインの英雄で、表面的には同盟者だ。実際にはしたたかな男で、憎しみの塊だ。ボナパルトと交渉しようとしている。それは証明はできていないんだが」 「彼を殺せと?」 「それこそ外交問題をさらにこじらせることになる。リチャード、私はきみにあの男を殺させたがっているわけではない」 提督は召使を呼ぶとシャープを指差して何かささやき、召使は急いで立ち去りました。シャープは望遠鏡を縮めました。 「なんていう名だとおっしゃいましたっけ?」 「カルデニャス侯爵だ。グアディアナ川の渓谷に広大な領地がある」 「母親に会いましたよ」 と、シャープはいいました。 「意地悪婆あでした。われわれが到着すると、フランス軍に知らせたんです。捕虜にしようとしやがった、あのばばあ」 「あの親にしてこの子あり」 と、パンフリーは言いました。 「とにかくあの男を殺してはいけない。彼のトリックを阻止するだけだが、それも表立ってやるわけにはいかない。それにしてもきみは汚いな」 「厩の屋根を修理していましたから」 「将校のやる仕事ではないだろう」 「恐喝野郎から手紙を取り戻すこともね。でもそれも仕事ですから」 と、シャープは言いました。 「ああ、メッセンジャーだ。ここで待つように言われていたのだよ」 パンフリーは黙り込み、提督と同じ角笛のブローチをつけた一人の男が彼の背後に立って、かがみこんで耳に何事かをささやきました。短くて小さい声だったのでシャープには何も聞こえず、男はドアのほうに立ち去りました。 「教会の斜め向かいにコーヒーハウスがある」 と、パンフリー伯はいいました。 「そこで会うそうだ。行こうじゃないか」 二人はメッセンジャーのあとを追って階段を下りました。 提督は立ち上がってこちらを見ていました。背が高く、片足は黒い木製の義足で、黒檀の杖に寄りかかっていました。 パンフリーは深く慇懃なお辞儀をしましたが、提督はそっけなくうなずき返しただけでした。 「よくもしゃあしゃあとわれわれの前に出てこられますね」 「今のところ向こうの勝だからな、シャープ」 と、パンフリー伯は言いました。 「彼は勝っていて、そして満足しているんだ」 狭い路地は風が渦巻いていて、パンフリー伯は帽子をつかみ、冷たい空気の中をコーヒーハウスに入りました。 1ダースほどのテーブルが店内にはあり、ほとんどのテーブルが一時にしゃべっている男たちに占領されていました。 彼らは怒鳴りあい、他を無視しあい、あるものは興奮のあまり新聞を引き裂き、勝ち誇ったようにそっくり返っていました。 パンフリー伯は辺りを見回すと、カフェの奥のあいているテーブルの椅子に座りました。 「閣下、他の椅子に」 と、シャープは言いました。 「やかましすぎるか?」 「ドアを見渡せる席に」 パンフリー伯は従順に席を移り、シャープは壁を背にして座りました。 娘がコーヒーの注文を取りに来て、パンフリーは身体をねじってタバコの煙の中で言い合いをしている客たちの様子を見ました。 「連中は生まれながらに二つの派閥に分かれているのだ。一方は保守派で、王政主義者で保守的だ。セルヴィレスと呼ばれている。彼らは国王を復位させて、協会の勝利を願っている。領主や貴族階級が多い」 パンフリーは大げさに身震いしました。 「セルヴィレスの反対勢力はリベラレスだ」 と、彼は続けました。 「彼らは永遠に自由について話し続けるのだ。リベラレスたちは専制的な教会権力を減退させることを主張し、暴虐的な君主のことを愚痴っている。国王陛下の英国政府は、公式にはこのような議論が存在することを承認してはいない。われわれはただ、スペイン政府がナポレオンに対抗する戦争を続けることを望んでいる」 シャープはあざけるようにパンフリーを見ました。 「もちろんあなたはセルヴィレスの側だ。そうでしょう?」 「おかしなことに、そうでもないのだよ。リベラレスの側に立ったとしても、彼らの野蛮な頭の中には英国と貿易しようなどという考えはないのだがね。かといって、彼らがボナパルトと戦争を続けようとしているという十分な裏づけがあるというわけでもない」 「混乱していると?」 「混乱というのは、彼ら両方ともわれわれを嫌っているということなのだよ、シャープ。彼らはスペインのもっとも危険な敵はフランスではなく英国であると、心底から信じている。そしてそのリーダーが、もちろんカルデニャス提督なのだ。彼は根っからのセルヴィレスだ。もし彼がリベラレスたちにカディスが占領されるという恐怖を植え付ければ、彼らは提督に従うだろう。彼はスペインをカトリック王の元におくことを望み、彼自身も国王のアドバイザーになり、フランスと講和を結ぼうとしている。われわれがここにいるというのに」 パンフリー伯は肩をすくめました。 「教えてくれ、なぜサー・トーマス・グレアムから砲弾の贈り物が私に届けられたのだ?怒っているわけではない。ただの好奇心だ。まったく!いったい何事だ?」 最後の質問はいきなりシャープがテーブルにピストルを置いたことに対するものでした。 パンフリーは妨げようとしましたが、シャープが彼の肩越しに見つめているのを見て、後ろを振り返りました。 背の高い黒いマントの男が、彼らに近づいてきていました。 彼の顔は長く、あごは角張っており、シャープには見覚えのある顔だったのでした。
by richard_sharpe
| 2008-02-08 17:27
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