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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第5章 - 4 サン・フェルナンドのサー・トーマス・グレアムの司令部はつつましいものでした。彼は白い石造りの船大工の作業場を徴発し、ベッドとテーブルといすをそこに置いただけのものでした。 作業場の中央には大きな炉があり、シャープの衣服はそこで乾かされていました。シャープはライフルもそこに立てかけましたが、熱がスプリングに届かないようにプレートをはずしておきました。 彼自身はシャツの上に、サー・トーマスがどうしてもと貸してくれたコートを着ていました。 将軍はそのとき、報告書の口述をしていました。 「すぐに朝食だ」 と、将軍は文章の間に言いました。 「腹ペコです」 と、ウィリアム・ラッセル卿が主張しました。 「ウィリー、いい子にしていなさい。何があるか見ておいで」 そして将軍は大げさな修辞で彼が戦いに率いていった兵士たちのことを口述し続けました。朝日が丘の稜線を染め、しかし暗い湿地帯ではまだ筏が燃えていました。煙は60マイル以上はなれたセビリアからも見えたということでした。 「きみの名前も入れておくかね、シャープ?」 と、サー・トーマスは尋ねました。 「いいえ、私は何もしませんでしたから」 シャープは答えました。 サー・トーマスは鋭い一瞥をシャープに投げかけました。 「きみがそう言うのなら、シャープ。それで、私のご好意とやらは何がいいのかね?」 「12ポンド砲の弾を1ダースお持ちなら、いただきたいのですが。もしなければ9ポンド砲でも」 「お持ちだとも。とにかく、ダンカン少佐は持っているだろう。きみの上着はいったいどうしたんだね?剣でやられたのか?」 「銃剣です」 「朝食の間に、誰かに縫わせておこう。12ポンド砲だったかね?何に使う?」 シャープはためらいました。 「ご存知でないほうがよろしいかと」 サー・トーマスは鼻を鳴らしました。そして書記を下がらせ、炉に向かうと、手をかざして暖めました。 「当ててみようか、シャープ。当てさせてくれ。きみは本隊から取り残されてここにいて、そして突然私に、きみを所属の隊に返すのを取りやめるように指示が下った。そして一方、ヘンリー・ウェルズレイのラブレターが、カディス市民を面白がらせている。二つを結び付けてもいいかな?」 「結構です」 「手紙はもっとあるのだな?」 と、サー・トーマスは鋭く尋ねました。 「もっとたくさんあります」 「そして大使はきみに何をさせようとしている?それを見つけ出すことか?」 「買い戻させたがっておられます。そしてうまくいかない場合は、盗ませようと」 「盗ませる!」 サー・トーマスは、疑り深い目つきでシャープを見ました。 「その商売に、何か経験があるのかね?」 「少しばかり」 とシャープは答え、一瞬ためらった後、将軍がもっと答えを欲しているのを見て取りました。 「ロンドンでのことです。子供のころ、その商売を覚えました」 サー・トーマスは笑い出しました。 「一度追いはぎにつかまったことがあるよ。殴り倒してやったがね。きみじゃなかったろうね?」 「ちがいます」 「では、ヘンリーはきみに手紙を盗ませたがっていて、きみは私の砲弾を欲しがっているのだな?なぜか話したまえ、シャープ」 「もし盗み出せなかった場合、破壊することになるかもしれないからです」 「私の砲弾をカディス市内で爆発させると?」 「できれば避けたいのですが、そうなるかもしれません」 「そしてそれがフランス軍の迫撃砲だと、スペイン人に信じさせたいと?」 「それが何か、スペイン人が考えてくれないといいのですが」 「彼らはバカではないよ、シャープ。ドンたちはまったく協力する意思のないやつらだが、バカではない。きみが爆弾をカディスで爆発させたことを知れば、3つ数える前にあいつらの厄介な牢獄にきみを放り込むぞ」 「ですから、将軍はご存知ではないほうがいいかと」 「朝食だ!」 と、ウィリアム・ラッセル卿が部屋に飛び込んできました。 「ビーフステーキ、レバーいため、それから新鮮な卵ですよ!えーと、ほとんど新鮮な卵です」 「で、私にそいつを大使館あてに送って欲しいのだろうな?」 と、サー・トーマスはウィリアム卿の言葉に取り合わずにシャープに言いました。 「もしできれば、パンフリー伯宛に」 サー・トーマスはうなりました。 「こっちに来て座りなさい、シャープ。レバーいためは好きかな?」 「好きです」 「では今日中に箱に詰めて送ることにしよう」 と、サー・トーマスは言いました。そしてウィリアム卿に視線を移しました。 「好奇心はいかんぞ、ウィリー。ミスター・シャープと私は、内密の話しをしていたのだ」 「私にも分別はありますよ」 と、ウィリアム卿は言いました。 「それならいいが、きみは普段そうでもないからな」 と、サー・トーマスは言いました。 シャープのジャケットは修理のために持っていかれ、彼は座ってビーフステーキとレバーと、キドニーとハムと卵焼きと、パンとバターと濃いコーヒーの朝食をとりました。 シャープは半分ハダカのような状態でしたが、その朝食を楽しみました。 それはシャープには驚きでした。食事の間中、公爵の息子と富裕なスコットランドの地主と同席していて、それなのに彼は妙に快適に感じていました。 ウィリアム卿はまったく悪意のない人物でしたし、サー・トーマスは根っから兵士たちが好きだったのでした。 「私はまさか自分が軍人になるとは思わなかったのだ」 と、彼はシャープに打ち明けました。 「なぜですか?」 「私は私なりに幸せだったからなのだよ、シャープ。私は幸せだった。私は狩りをして、旅行して、読書をして、クリケットをして、おまけに世界一の妻を持っていた。そして私のメアリが死んだ。私はしばらくふさぎこみ、そしてフランス人の現在の邪悪さがその原因になったのだと思いついた。彼らは自由と平等を標榜しているが、その結果どうなった?彼らは堕落し、野蛮と非人間性に落ち込み、そして私は彼らと戦うのが自分の義務だと思うにいたったのだ。だから私は軍服を着たのだよ、シャープ。最初にレッドコートに袖を通したとき、私は46歳だった。17年前のことだ。そして全体として、それは楽しい年月だったと言わねばならない」 「サー・トーマスは」 と、ウィリアム卿はナイフでパンを切りながら付け加えました。 「ただ軍服を着たわけではないんだ。第90歩兵連隊を自費で設立したんだ」 「そしてずいぶん高くついたよ!」 と、サー・トーマスは言いました。 「帽子だけでも436ポンド16シリング4ペンスもした。しかし4ペンスというのはなんだろうと、私はいつも思うんだがね。そして私はここにいるのだよ、シャープ。まだフランス軍と戦っている。たくさん食べたかね?」 「いただきました。ごちそうさまでした」 サー・トーマスはシャープと厩のところまで一緒に歩いていきました。建物の手前で将軍はシャープを引き止めました。 「クリケットなんだが、きみはするかな?シャープ?」 「ショーンクリフでやりましたが」 と、シャープは用心深く答えました。ライフルマンたちが訓練を受けていたとき、宿舎でやっていたのでした。 「選手が必要なんだ」 と将軍は言って、少し考え込みました。 「ヘンリー・ウェルズレイはまったくの阿呆だ」 と、いきなり彼は話題を変えました。 「ただ、阿呆だが実にいいやつだ。私が言っている意味がわかるかな?」 「おそらく」 「彼は本当にいい男だ。スペイン人との厄介ごとをうまくさばく。連中は実に怒りっぽいし、世界をスクラップにしようとしているが、ウェルズレイは辛抱強く連中と付き合っている。良識あるスペイン人たちは、彼を信用しているのだ。彼は優秀な外交官で、われわれには大使としての彼が必要なのだよ」 「私はあの方が好きです」 「ただ彼は、女のことになるとバカになるのだ。彼女が手紙を持っているのかな?」 「いくつかは持っていると思われますが」 「で、きみは彼女を探している?」 「そうです」 「私の砲弾で彼女を吹き飛ばしたりはしないだろうね?」 「しません」 「そう願うよ。彼女は実に別嬪さんだった。ヘンリーと一緒にいるところを一度見たのだが、彼はまるでクリームの皿を見つけた雄猫みたいに見えたよ。彼女も幸せそうだった。彼を裏切るなんて、驚いたよ」 「パンフリー伯は、裏切ったのは彼女のヒモだといっていました」 「で、きみはどう思うんだね?」 「金をちらつかされたのではないかと」 「もちろん、ヘンリー・ウェルズレイ自身の問題なんだが」 と、サー・トーマスはシャープの言葉に触れずに続けました。 「彼は人を許す男でね。まだ彼女に未練があるとしても私は驚かんよ。ああ、おしゃべりをしてしまったな。昨夜はきみと一緒でよかった、ミスター・シャープ。きみの仕事が早く片付いたら、1,2回一緒にゲームをどうだね?書記は足首を捻挫してしまってね。そして南に向かって一緒に航海してくれると光栄だが。ヴィクトール元帥に一発お見舞いしてやれると思うんだが、どうかな?」 「ご一緒したいですね」 と、シャープは言いました。しかしそれが実現するとは思っていませんでした。 彼はハーパーと他のライフルマンたちがいるところを探しに行きました。 サン・フェルナンドの街の中に古着屋を見つけ、大使館の金で部下たちに民間人の服を買ってやり、筏が燃える煙の下をくぐって、カディスの街に入りました。 午後になっても煙は雲のように立ち込めていました。 そして12発の砲弾がキャベツのラベルの箱に入って大使館に届けられたのでした。
by richard_sharpe
| 2008-02-04 17:34
| Sharpe's Fury
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