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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第5章 - 3 シャープは溝の端の20ヤード離れた場所にいました。 これは自分の戦いではない、と彼は自分に言い聞かせていました。彼の責任分野は湾の向こうの街にある。 しかし煙玉を艀のひとつに乗せてしまっていて、それはどうしても必要でしたし、もしフランス軍が艀を奪ってしまったら、サー・トーマスの撤退は不可能になってしまいます。 「連中をボートから引き離さなければ」 と、シャープは言いました。 「50人はいますよ。もっとかも」 「十分な数の味方が戦っているさ。俺たちはただやつらを怖がらせればいいんだ。たぶん連中は逃げ出すぞ」 彼は立ち上がり、装てんしていないライフルを肩にかけ、健を引き抜きました。 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 と、ハーパーは言いました。 陸軍の規定では、シャープは突撃隊の将校としてサーベルを携行するべきでしたが彼はその武器が好きではありませんでした。サーベルのカーブした刃はなぎ払うのに適してはいましたが、ほとんどの将校の剣は飾りでした。 シャープはむしろ騎兵の長い剣を好んでいました。 その刃はまっすぐで、欠けやすく重く、重心が取りにくいことで騎兵たちはしばしば不平を漏らすのでしたが、シャープは刃の背の部分を境に両刃にし、その重さが棍棒のようであることを好んでいました。 シャープとハーパーは溝の中に水しぶきを上げて駆け込み、フランス軍の左側から回り込んで襲い掛かりました。 彼らは予期していなかった襲撃に驚き、あるものはマスケットの争点をしなおしましたが、ほとんどはただ艀のほうに逃げていこうとしていました。 シャープは一人の喉に剣をつきたて、その兵士はマスケットを取り落としながら倒れました。 シャープはさらに剣をたたきつけました。 ハーパーはゲール語で怒鳴りながら、銃剣を振るっていました。 フランス兵の銃剣がシャープの右側でひらめき、シャープは剣をその兵士の頭にたたきつけました。突然前方が開けて敵がいなくなり、ただ一握りのフランス兵だけが艀のへさきに取り付き、海兵隊員たちに銃剣で反撃されていました。 シャープは溝の中をざぶざぶとわたり、一人の兵士の背骨に剣をつきたて、そして艀に取り付いていた兵士たちが彼に気づき、獰猛な様子で向かってきたのを見て、荷が重過ぎることになったことに気づきました。 銃剣が彼のジャケットを切り裂きました。彼が横様に剣を振るったとき、ハーパーが追いつきました。 ハーパーは支離滅裂な言葉を叫びながらライフルの銃床で兵士の顔を殴りつけ、しかしさらに多くのフランス兵たちが向かってきたので、シャープはハーパーを引き戻しました。4人の兵士が襲い掛かってきました。殺意に満ちて歯をむき出しにし、剣を突き出してきました。シャープは草を刈るように剣でなぎ払い、後ろに下がりました。 ハーパーは傍らにいましたが、フランス兵たちはつぎつぎと押し寄せてきました。 すくなくともマスケットの装填はしていないはずだ、とシャープは思っていました。 しかしそのときひとつの銃口が火を噴き、煙が上がりました。銃弾がどこに命中したのかはわかりませんでしたが、ともあれシャープは身をよじって逃れ、溝の中に倒れこみました。フランス兵たちはシャープが死んだと思ったらしく、ハーパーに向かっていきましたが、このアイルランド人は兵士の目に銃剣をつきたててこれを迎え撃ちました。 ゴーフ少佐が中隊を率いて溝を戻ってきて、シャープにはその様子がまず一斉射撃の音でわかりました。そしてそのあと、レッドコートの兵士たちの突撃の叫び声が上がりました。 彼らは爆発的な怒りを持って、銃剣を振りかざしていました。 「フォー・ア・バーラ!」 と彼らは叫び、フランス兵たちは道をあけました。 艀を襲っていたものたちは、第87連隊の突撃にさらされました。 シャープが死んだと思っていたフランス兵の一人が彼の上にかがみこみ、剣を盗もうとしました。シャープは顔にパンチを食らわせ、水の中から這いだしざま、兵士の顔を剣で切り払いました。彼は逃げ出し、シャープはキーオ少尉が剣で大男に切りかかっていくのを目撃しました。敵は細身の将校をマスケットで狙いましたが、やはり大男のマスターソン軍曹が先に銃剣をその兵士の胸に突き立てました。フランス兵はマスターソンの重さを胸に受けて倒れ、キーオ少尉は倒れた男にきりつけて、もっと餌食はいないかと探しました。 彼は甲高い叫び声を上げ、そして二つの人影が溝にいるのを見つけると、部下に向かって突撃を叫びました。 「フォー・ア・バーラ!」 と、ハーパーがわめきました。 「きみか!」 と、キーオは水際で立ち止まりました。彼はいきなりにやりと笑いました。 「本物の闘いだな!」 「参りましたね」 と、ハーパーはつぶやきました。 ゴーフ少佐は兵士たちに南に向けて隊列を組むように怒鳴り、軍曹たちがレッドコートたちを引き連れて敵の死骸を越えていきました。 生き残った海兵隊員たちは何人かのフランス兵を艀から殴りつけて振り落としていましたが、コリンズ大尉は剣を握り締めたまま息絶えていました。 「ボートを移動させるべきだったんです」 と、海兵隊の軍曹がシャープにぼやきました。 「びしょぬれですね。落ちたんですか?」 「落ちたんだ」 とシャープが答えたとき、砲声がとどろきました。5つの筏のうちのひとつに着弾し、爆発しました。火柱が白い光を上げて立ち上り、天を貫きました。そして赤い光が続き、沼地の草原に光の輪ができました。 夜の闇は火に満たされました。 そして、占拠した駐屯地のほうでは爆破が始まったのだと勘違いしたらしく、工兵たちはまだ最後の導火線を敷設しているところだったのですが、誰かがそれに火をつけました。 警告の叫び声があがり、工兵が跳び下がったとき、爆薬が爆発しました。 いかだのすべてにつながれていた導火線がうねる炎の蛇のように見えました。 白い閃光のなかで湿地はすさまじい音に包まれ、その中で英軍の歩兵たちは艀に呼び戻されました。 次々と爆発は続き、火の塊が草の上を走り、熱風が吹き渡りました。 艀のところから撤退していたフランス軍の姿が、光に浮かび上がりました。 「撃て!」 とゴーフ少佐は怒鳴りました。彼の第87連隊の一斉射撃と、まだ続いている爆発、そして砲撃も始まり、榴弾が湿地帯を越えて飛んできました。 「下がれ!下がれ!」 と、サー・トーマス・グレアムは叫びました。 ラッパが響き、レッドコートたちは駐屯地に駆け込みました。彼らの仕事は終わったのでした。 炎のついた木片が宙を舞い、まだ砲声は響いていました。 「点呼!」 と、ゴーフ少佐は叫びました。 「1,2,3」 と、キーオ少尉は一人ひとりの兵士たちの肩に触れながら数えていきました。一人が泥の中に倒れこみました。 「起こせ!」 と、キーオは叫びました。 「6,7,8、マスケットはどうした!」 筏は地獄の業火のように燃え盛っていました。 煙は100フィートほどもたち昇り、サン・ルイス砦の砲兵たちからも、レッドコートの兵士たちの群れが溝にいるのが見えました。 一発の砲弾がハンプシャー部隊の列に命中しました。 「サー・トーマス!」 と、ゴーフ少佐が叫びました。 筏のすぐそばで砲身が爆発し、シャープは砲弾が水の中に転がり落ちるのを見ました。 「サー・トーマス!」 ゴーフ少佐は呼び続けていましたが、サー・トーマスはハンプシャー部隊が艀に乗り移り終わるのを待っていたのでした。そしてようやく、彼は自分の艀にやってきました。 背後で爆発した砲弾の破片が、奇跡的に彼をかすめただけで飛んでいきました。 水兵たちは艀を岸から話し、最後の艀が潮に乗ると、オールを動かして砲火から逃れ始めました。 「漕げ!」 と、海軍将校が叫んでいました。 「漕げ!」 サン・ルイス砦からさらに3発砲弾が発射されましたが、それらは頭上を飛び越えていきました。 湿地帯で銃火がひらめき、レッドコートたちも立ち上がって船腹に並び、迎え撃とうとしました。 「撃つなよ!」 と、ゴーフが叫びました。 「漕ぐんだ!」 と、海軍将校が叫び続けていました。 「私が予定していた撤退の仕方ではなかったが」 と、サー・トーマスは言いました。 「シャープだな?」 「そうです」 「濡れているじゃないか」 「水に落ちました」 「死に損なったな!脱ぎなさい。私のコートを着るんだ。頭の傷はどうだ?きみがけが人なのを忘れていた。頼みごとをしてはまずかったな」 サンノゼ砦からも砲撃を受け、しかしオールはしっかりと艀を炎から引き離し、湾の暗がりに運んでくれました。 負傷者はうめき声を立てていましたが、他のものは興奮してしゃべっており、ゴーフはそれをほうっておきました。 「肉屋のツケはいくらだった?」 と、サー・トーマスはこのアイルランド人に尋ねました。 「3人戦死、8人負傷です」 「だが、夜戦としては上出来だな」 と、サー・トーマスはいいました。 艦隊は無事ということになり、サー・トーマスは、スペイン軍の準備さえできれば、彼のささやかな部隊を南に進軍させることができるようになったのでした。
by richard_sharpe
| 2008-02-01 15:54
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