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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第5章 - 1 シャープは艀から海に飛び降りました。彼のブーツよりも、海面は上にありました。 キーオ少尉は祖父のものと思われるような古ぼけた帽子をかぶっていましたが、シャープは彼についてざぶざぶと岸に向かいました。 「続け、続け、続け」 と、キーオはこの晩彼が率いることになる兵士たちに向かってささやき続けました。 軍曹が漁師が仕掛けた網に引っかかり、ののしりながらブーツを蹴り上げてほどこうとしていました。 「手助けがいるか、マスターソン軍曹?」 と、キーオは尋ねました。 「いいえ、まさか」 と、マスターソンは飛び跳ねながら言いました。 「厄介な代物ですよ」 「銃剣装着!」 と、キーオは言いました。 「静かにすばやくやれよ!」 4~500人の兵士たちが、二つの駐屯地の間に気づかれずに上陸するのは容易なことではないとシャープには思われましたが、今のところまだフランス軍は気づいていませんでした。 かがり火の中に小さなテントの群れが見えました。テントの外には銃が立てかけてありました。シャープは、なぜフランス軍がテントを設営したのかが不思議でした。 兵士たちは筏を守り、眠らずにいるべきでしたが、ともあれ何人かの歩哨たちは起きていました。 二人の兵士が銃を肩に駐屯地の中をうろうろしていました。そして第87連帯の兵士たちを乗せた2番目の艀が接岸したことにも気づいていませんでした。 さらに二つの中隊が、北側の岸に上陸しました。 「フォー・ア・バラ!」 ゴーフ少佐がキーオの兵士たちに向かって低く言いました。 「フォー・ア・バラ!」 「フォー・ア、なんだって?」 と、シャープはハーパーにささやきました。 「フォー・ア・バラです。道を開け、という意味です。道をあけろ、アイルランド人がお通りだ、ってことです」 ハーパーは銃剣を引き抜きました。彼は戦闘の最後まで、7連発銃をとっておくつもりでした。 「さて、俺たちも行きますか」 と彼はいい、ライフルに銃剣を取り付けました。 「前進!」 ゴーフ少佐は全軍に号令を発しましたが、まだ静かな声でした。 「連中を殺しまくれ。だがこっそりやるんだ。寝ているやつらをまだ起こすな」 第87連隊は前進を始めました。焚き火の明かりを反射して、銃剣がちらちらと瞬きました。しかしまだ敵軍は静かでした。 最初に危険に気づいたのは、北岸の歩哨でした。彼は叫び、発砲しました。 「フォー・ア・バラ!」 と、ゴーフ少佐はわめきました。 「フォー・ア・バラ!容赦するな!」 ゴーフはもう用心深さをかなぐり捨てていました。シャープはタラベラでの彼らは鮮烈をしっかり保っていたことを記憶していましたが、今のゴーフはスピードと凶暴さを兵士たちに求めていました。 「突っ込め!突き刺すんだ!」 と、彼は叫びました。 兵士たちはそれに答え、湿地を駆け抜けました。 若いキーオ少尉は細身の将校用の剣を握り締め、先頭を走っていました。 「フォー・ア・バラ!」と、彼も叫んでいました。 溝を飛び越え、剣を振りたてながら、彼は左手で大きすぎる帽子を押さえていました。 彼は躓きましたが、ハーパーと同じくらいに大男のマスターソン軍曹がつかんで引き戻しました。 「殺せ!」 と、キーオは叫びました。 「殺せ!」 銃口が焚き火の間から火を吹きましたが、シャープには銃弾がかすめる音も聞こえず、誰か倒れた様子もありませんでした。 フランス兵たちはテントから飛び出してきましたが、多くがアイルランド兵の銃剣の餌食になりました。 騎馬の姿が2騎、シャープの背後の闇に消えようとしていて、彼は向き直ってライフルを構えましたが、騎兵はアイルランド兵を通り越して艀が接岸した闇に向かって消えていきました。 キーオは兵士たちの先頭に立って見えなくなっていました。 シャープはハーパーを引き戻しました。 「俺たちはグリーンの上着を着ているんだ、パット」 と、彼は言いました。 「誰かがカエルと間違えるかも知れないから、気をつけろ」 彼は正しかったのです。 6人ほどのレッドコートの兵士の顔が炎の中に黄色く浮かび上がり、その銃口が向けられているのがシャープには見えました。 「第95連隊だ!」 と、彼は叫びました。 「第95連隊だ!撃つな!そちらは?」 「第67連隊だ!」 と叫び返す声がしました。ハンプシャーの連隊でした。彼らはアイルランド兵たちの後から突撃してきたのでした。大尉が一人、彼らを率いて占拠した西と南の駐屯地の守備に回るところで、その間にもゴーフ少佐は自分の部下のアイルランド兵たちをテントの間から撤退させ、海岸沿いの警戒線に配備していました。 シャープとハーパーはゴーフについて行きがてら、小さなテントに剣を突っ込んでみました。叫び声がし、シャープが垂れ幕をめくってみると、二人のフランス兵が隠れていました。 「出ろ!」 と、シャープは怒鳴りました。二人は這って彼の足元に来て、震えていました。 「捕虜をとるのかわからないんだ」 と、シャープは言いました。 「こいつらをただ殺すってことはできませんね」 と、ハーパーは答えました。 「俺たちは殺しに来たわけじゃないからな」 とシャープはいい、 「立て!」 と怒鳴りました。 彼は剣を二人に突きつけて、前方にハンプシャーの兵士たちが捕虜を集めているところを見つけ、そこに引き立てました。 ハンプシャー兵の一人が、14歳以上には見えないフランスの少年兵の上にかが見込んでいました。少年は胸に銃弾を受け、息を引き取ろうとしていました。 「しっかりしろ」 と、ハンプシャー兵は少年の頬をなでていました。 「しっかり」 対岸では突然銃声が響き、そしてすぐに途絶えました。南岸でも英軍の攻撃は成功したようでした。 「シャープか?」 と、ゴーフ少佐の声がしました。 「そうです」 「恐ろしく早く終わった」 と、ゴーフはちょっとがっかりしたような様子で言いました。 「ただ走り抜けただけだ!戦闘とは言えないな。ご苦労だがグレアム将軍にこちら側を占拠したと報告してもらえるだろうか?将軍は筏のところにいるはずだ」 「喜んで」 とシャープは答え、ハーパーをつれて占領した駐屯地に戻りました。 「もうちょっと戦えると思ったんですがね」 と、ハーパーもゴーフ同様落胆した様子でした。 「やつら、寝ていたのかな?」 「俺たちはダブリンのやつらがカエルどもを起こしにきたのを見に来たわけですね」 「ゴーフ少佐の隊はダブリン人なのか?」 「ダブリンで召集した隊です。ここにはあとどれくらいいるんですかね?」 「必要なだけさ。1時間くらいかな」 「そんなに?」 「工兵隊には仕事がたくさんあるからな」 とシャープは言い聞かせ、そしてグアディアナ川の橋で、シャープが自分を守ってくれると信じていた哀れなスタリッジのことを思い出したのでした。 グレアム将軍は筏を停泊させた岸辺にいました。 5隻の筏は広く平らなつくりで、短いマストがついていました。フランス兵は闇夜の北風を待ち、満ち潮に乗って南に向かおうとしていたのでした。そして志願兵が4分の1マイル先の停泊地に突っ込み、ボートで地獄から引き返してくる、という作戦だったのでした。 もし英国・スペイン連合艦隊に筏が突っ込む作戦が成功していれば、パニックが起きたはずでした。 碇綱を切って漂う船がぶつかり合い、イスラ・デ・レオンの岸に乗り上げ、そして筏は火を発し、大きな混乱を引き起こすことになるはずでした。 それぞれの筏には発火装置と薪が満載され、旧式の砲も搭載されていました。 それは200年くらい前に使われていたようなもので小型でしたが、榴弾を発射することはできるし、停泊地の船にダメージを与えただろう、とシャープは思いました。 工兵たちは導火線を南岸に向けて引いており、その脇にグレアム将軍は立っていました。 シャープはゴーフの報告を伝え、サー・トーマスはうなずきました。 「忌まわしい代物じゃないか」 と、彼は近くの筏をあごで示しました。 「バルゴワン!」 と、北岸で声がしました。 「パースシャー!」 と、サー・トーマスは返しました。 「こちら側も占拠しました」 と、声が叫びました。 「よくやった!」 「バルゴワンとは?」 と、シャープは尋ねました。 「パスワードだ。先に言っておかなければならなかったな。バルゴワンは私が育った場所なんだよ。地上でいちばんいいところだ」 彼はそういいながら南のサン・ルイス砦のほうを見つめていました。 「あまりに簡単に運びすぎた」 と、彼は心配そうに言いました。シャープは黙っていました。サー・トーマス・グレアム中将は、彼に話しかけたわけではなかったからです。 「小隊クラスだ。連隊レベルで守るべき場所だ。連隊の中級クラスの将校たちは、ぐっすり眠っていたのだよ」 フランス軍の駐屯地の焚き火は消えかけていましたが、その光の中にレッドコートの兵士たちが砦に向かっていく姿を将軍は認めました。 兵士たちはシルエットを浮かび上がらせ、砲台に向かっていました。 「ウィリー」 と、サー・トーマスは言いました。 「ヒューとジョニーに兵士たちを低く伏せさせるように言ってくれ」 「アイ・アイ・サー」 とウィリアム卿は答えて南に向かって駆けていき、サー・トーマスは泥の間に筏に向けて板を渡しかけて 「来て見てくれ、シャープ!」 とシャープを呼びました。 シャープとハーパーが将軍についていくと、彼はクレイモアで近くの樽をこじ開けました。 樽の中には白っぽい玉が詰められていました。9ポンド砲の砲弾ほどの大きさでした。 「これはいったいなんだ?ハギスみたいだ」 「煙玉です」 と、技術中尉が中身を一瞥して答えました。彼と技術軍曹は、大砲の中身を移動させようとしていました。 サー・トーマスは一つつかみあげ、また樽の中に戻しました。 「他の樽も皆そうか?」 「他は硝石や硫黄やアンチモンやピッチの混合物です。盛大に燃えますよ」 サー・トーマスは煙玉を持ち上げ、重さを量っていました。そのケースには10あまりの小さな穴が開けられ、サー・トーマスが指でたたくと、うつろな音がしました。 「パピエ・マシェ(張子)か?」 と、将軍は推測しました。 「その通りです。火薬でいっぱいのパピエ・マシェです。アンチモンや、石炭くずが詰まっています。最近ではこんなにたくさんは見かけません。海軍の武器です。これを使って敵の要塞に突っ込み、火をつけるんです。生きては帰れませんが、あたり一面木っ端微塵です」 「連中はこれで何をしようとしていたんだ?」 と、サー・トーマスは尋ねました。 「煙を使って姿を隠して筏を進めようとしたのではないでしょうか。仕事に戻ってもよろしいでしょうか」 「もちろんだ」 将軍は避けて中尉を通しました。シャープが樽のそばに近づいたとき、彼は煙玉を樽に戻そうとしていました。 「これをいただいてもいいですか?」 「欲しいのか?」 と、サー・トーマスは驚いたように尋ねました。 「お許しいただければ」 サー・トーマスは妙な顔をしてシャープを見ていましたが、肩をすくめました。 「好きにしたまえ、シャープ」 シャープとハーパーはフランス兵の背嚢を見つけてきました。 シャープは大聖堂の祭室のことを考えていました。暗闇から銃や剣が向かってくることを。彼は背嚢に煙玉をつめ、ハーパーに渡しました。 「気をつけて扱え。これが命綱になるかもしれないからな」 と、シャープは言いました。
by richard_sharpe
| 2008-01-23 20:46
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