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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第4章 - 5 冷たい微風が西から吹いてきました。5マイル先の北側には、カディスの街並みが瞬いていました。 近づくにつれ、おそらく1マイルほど西に、黄色いランタンの灯りが錨を下ろした船の窓からもれてきているのが見えました。 ここはまだ湾の中ほどで、暗く、黒く塗ったオールの端が立てるしぶきだけが白く見えました。 「早すぎたかもしれん」 と、サー・トーマスが長い沈黙を破りました。 「街から離れなければならない。岸壁沿いに艀を置いたら、フランス兵どもに気づかれるからな。この遠足のことを、昨夜のディナーで黙っていたのはそれに尽きるんだ。もし一言でも言ったら、朝飯時にはフランスに筒抜けだ」 「大使館にスパイがいるとおっしゃるのですか」 「どこにでもスパイはいるのさ、シャープ。街全体が連中に引っ掻き回されている。漁師の船でメッセージを伝えているのだ。連中はわれわれが包囲網に軍を送ろうとしていることを知っているかもしれん。そしてヴィクトール元帥は私自身よりも作戦について熟知しているかもしれんのだ」 「スパイはスペイン人ですか?」 「たぶんな」 「なぜそいつらはフランス人のために働いていると?」 サー・トーマスはこの質問に忍び笑いをしました。 「たぶん私が昔そうだったような考え方をする連中がいるのさ。シャープ、例の自由・平等・博愛は素敵なことだとね。実際そうだが、しかし神はそれらがフランス人の手の内にはないことをご存知だ。それから、イギリス人を憎んでいるものもいる」 「なぜです?」 「理由は山ほどあるのだよ、シャープ。まったく、14年前にはわれわれはカディスを攻撃したのだからな!6年前にはトラファルガーで彼らの艦隊を撃破した!そして商人たちは、われわれが彼らの南米における貿易エリアを破壊して手中に収めようとしていると思っている。で、実際そうなのだ。もちろんわれわれは否定しているがね、しかしやろうとしてはいるのだよ。そして彼らは、われわれが南米植民地の現地人の反逆者を支援していると考えている。間違いではない。認めてはいないが、反逆者たちをあおっているのだ。それからジブラルタルだ。連中はジブラルタルにわれわれがいるのを嫌っている」 「彼らがくれたのだと思っていました」 「まあ、そうだがね。1713年のユトレヒト条約に基づいている。しかし馬鹿どもがサインした後に連中は気づいたのだよ。それだけでもわれわれを嫌う理由としては十分だが、いまやフランス軍はうわさを広げている。カディスも同じようにしようとしていると。本当かどうかはわからん。しかしスペイン人はそれを信じるに足るだけのものがあるのだ。そしてスペインには、フランスと同盟すれば英国と友好関係にあるよりももっと良い国になると信じている輩もいる。それが間違っているとは断言できない。しかしわれわれとしてはここにいる以上、好むと好まざるとにかかわらず、彼らとの同盟を続けなければならん。いまのところ、われわれを嫌っているスペイン人よりも、フランスを憎んでいるスペイン人のほうが多いと思いたいね」 「つねに希望はあります」 と、ウィリアム・ラッセル卿は明るい声で言いました。 「ああ、ウィリー、たぶんな」 と、サー・トーマスは言いました。 「しかしスペインの独立はカディスだけに保たれていて、しかもウェリントン公はリスボンの周辺しか掌握していないとなると、フランス軍を押し返せるなんていっても信憑性がない。ナポレオンに知性のかけらでもあれば、国王を帰らせて平和を取り戻すことを保証するだろうな。で、われわれはうまいこと料理されてしまう」 「少なくともポルトガルはこちら側です」 と、シャープは言いました。 「まったくだ!それに連中はいいやつらだ。部下のうち2000人はポルトガル人なんだ」 「連中に闘えるとすればね」 と、ウィリアム卿は疑わしげに言いました。 「闘えますよ」 と、シャープは言いました。 「私はブサコにいましたが、彼らは闘っていました」 「それでどうだった?」 とサー・トーマスは尋ね、トロカデロ半島の岸に向けて艀が進んでいく間、シャープはそのときの様子を話しました。 サン・ルイス砦が近づいてきていました。 砦の向こうに明かりが見えましたが、それはフランス軍の失敗でした。シャープは、歩哨が暖を取ろうとして焚き火を焚いているのではないかと思いました。しかしたとえ小さな火でも、このような暗がりでは物陰にいるものを見えにくくするのでした。 歩哨よりも危険なのは、周囲を守るボートでした。 サー・トーマスはささやきました。 「オールの音に耳を澄ますんだ」 12ほどのボートが配備されているはずでした。彼らがパトロールしている様子が夕暮れのトロカデロで確認されていました。しかし今は、その気配はありませんでした。 誰かの手がシャープの肩に触れました。 「ゴーフ少佐だ」 と、暗闇の中で声がしました。 「それからこちらはキーオ少尉だ。彼と一緒にいてくれ、シャープ。きみを間違って撃たないようにいっておくから」 「撃ちませんとも」 と、キーオ少尉は少佐に向かって保証しました。 灯りは前方に移り、キーオ少尉が若くて痩せた、上気した顔つきをしていることがシャープにも見えました。焚き火は4分の1マイルほどの距離前方になっていました。 5艘のボートは湾の中で向きを変え、潮にぶつかって白波を立てるのを避けました。 まだ、フランス軍はこちらのボートに気づいていないようでした。しかしブルーのユニフォームの兵士たちが焚き火の周りに立っているのが見えました。 「私はやつらが嫌いだ。まったく、なんてやつらを憎んでいることか」 と、サー・トーマスはつぶやきました。 サンノゼ砦も見えてきました。 半マイルほど離れた場所でした。 大砲の射程距離だな、とシャープは思いました。そしてサン・ルイスとりではもっと近くなっていました。 榴弾砲での射程に入るほどでした。シャープは榴弾砲が大嫌いでした。歩兵たちは皆そうでしたが。 「奴らは寝ているんだな」 と、ウィリアム卿はつぶやきました。 シャープはいきなり罪の意識に襲われました。 彼は昼間パンフリー伯に会い、脅迫者からまだ連絡がないことを聞いており、カディスに常に待機していなければならないはずなのに、そこにいませんでした。 彼の義務はヘンリー・ウェルズレイの件であり、グレアム将軍の作戦ではなかったのですが、にもかかわらず彼は今ここにいて、ただ榴弾砲を腹に受けませんように、と祈るしかないのでした。 彼は剣の柄に触れ、来る前に研いでおけばよかった、と思いました。彼は鋭く研いだ剣で戦闘に躍りこんでいくのが好きでした。 そしてライフルにも触れました。ほとんどの将校は長い銃を持ちませんでしたが、シャープは他の将校とは違いました。 彼は下町の生まれで下町のメシで育ち、そして根っからのケンカ屋でした。 そして艀の底が、泥にぶつかりました。 「やつらを殺しに行くぞ」 と、サー・トーマスは復讐を誓いました。 そしてまず最初の小隊が上陸したのでした。
by richard_sharpe
| 2008-01-22 17:41
| Sharpe's Fury
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