カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第4章 - 3 サルバドール・モンセニー神父は彼に気づいた印刷機を操作している二人の男に苛立ち、無視して印刷室に入りました。 エドゥアルド・ヌニェズはモンセニーを案内して部屋に入り、隅の椅子に腰を下ろしてタバコを吸い始めました。 「うまくいっている」 と、モンセニーは言いました。 「よく見えないということを除けば」 と、ヌニェズは閉ざされた窓のほうに手を振りました。 「ランタンがあるはずだ」 と、モンセニー神父は言いました。 「しかしこの仕事はデリケートなのです」 と、ヌニェズは二人の男を指差しました。一人の男は羊の毛皮を玉にしたもので版にインクをつけ、もう一人が紙の縁取りをしていました。 「では気をつけて仕事をするがいい」 と、モンセニーはそっけなく言いました。 彼は満足していました。地下室には印刷徒弟が二人住んでいて、この部屋の床にある引き上げ戸のほかに出入り口はありませんでした。印刷室自体、半地下の部屋になっており、中庭に通じる扉しか出入り口はありませんでした。 1階は倉庫で、紙とインクが貯蔵され、廊下だけが扉に通じていました。2階と3階はヌニェズの居住区で、モンセニーは屋根に抜ける階段を閉ざしてしまっていました。 護衛が1人、ヌニェズの寝室のバルコニーにあるハシゴから屋上に登り、常時監視していました。 ヌニェズはそういうことが気に入りませんでしたが、ともあれ金はたっぷり支払われていました。 「ここが襲われると信じているのですか?」 と、ヌニェズは尋ねました。 「襲われることを願っている」 と、モンセニーは答えました。ヌニェズは十字を切りました。 「なぜです、ファーザー」 「提督の部下たちがわれわれの敵を皆殺しにしてくれるからだ」 モンセニーは9人の護衛を置いて出版社を守っていました。彼らは倉庫に寝起きし、中庭で煮炊きしていました。 彼らは頑丈な雄牛のような体つきで、長年の軍艦暮らしで日に焼けた大きな手を持ち、武器になじみ、いつでも殺しができる男たちでした。国王のために、祖国のために、そして彼らの提督のために。 印刷室の外れには小さな部屋があり、それがヌニェズのオフィスでしたが、モンセニーはその部屋を提督が斡旋した人物に明け渡させました。惨めなやつで、いつも鼻をすすり、タバコを吸い続け、酒びたりで、汗臭い男でしたが、物書きでした。 ベニート・シェヴェズというその男は、モンセニーがドアを開けると振り返りました。 「すばらしい」 と、彼は言いました。 「まったくすばらしい」 「酔っているのか?」 「酔っているですって?ここに酒はありませんよ!違います、手紙です!」 シェヴェズはくすくす笑いました。 「すばらしい手紙です。聞いてください」 「もう読んだ」 と、モンセニーは冷たい声でさえぎりました。 「情熱、優しさ、切望!うまく書けています」 「お前のほうが上手だ」 「もちろんです。しかしこの娘に会ってみたいな。この、カテリーナという娘に」 「コピーを作れ」 と、モンセニーは荒々しく言いました。 「仕事をしろ」 「コピーが必要なわけじゃありません。すべて書き直しているんです。一度に出版できますよ」 と、シェヴェズは言いました。 「一度に?」 シェヴェズは腹をボリボリ掻きながらタバコを一本つまみ上げ、ロウソクの炎で火をつけました。 「英国は議会にし尿を保とうとしている。マスケットを買う金は、英国から出ていますからな。英国はわれわれに大砲の火薬をくれる。カディスを守るために、英国はイスラ・デ・レオンに陸軍を駐屯させている。英軍がいなければ、カディスはなくなる。もし英国に目をつけられれば、議会に働きかけて新聞の発行差し止めがされるでしょう。そうしたらこの手紙の使い道は?だから弾薬に火をつけて終わりにしましょう!手紙も、情熱も、シーツの汗も、私が書かなければならない嘘も、いっぺんに終わりに!やつらに一斉射撃をすれば終わることですよ。終わりにすれば、新聞がどうなろうと奴らの知ったこっちゃない」 モンセニーはこの惨めな男を見つめていました。いくらか知性はあるようだ、と、彼は思いました。 「閣下の最後の手紙がないんですが。誰か他のやつが持っているんじゃないですか?」 と、シェヴェズは言いました。 「娘が持っている」 「それではとってきてください。もしよければ。まあ、それは問題ではないのですが。私はジャーナリストですからね、ファーザー。だからいくらでもでっち上げられます」 「全部すぐに発行しろ」 と、モンセニーは言いました。 「1週間必要です。書き直して、訳して、でっちあげるのに。英軍はヴェネズエラに兵を送り、現地の抵抗勢力に武器を与えていると書いてもいいですし」 と、彼はタバコを吸い込み、そして今度はゆっくりと、考えながら続けました。 「英軍はフランスと和平交渉をしており、ポルトガルを属国化するつもりだと書いてもいい。10日ください!」 「10日だと」 と、モンセニーは鼻で笑いました。 「5日だ。シェヴェズ、5日後にお前は金とブランデーを得ることになるし、燃やしたいものは燃やしてしまっていい。それまでは、仕事だ」 モンセニーはドアを閉めました。 彼は既に、勝利を味わっているのでした。 南風が吹き始め、10艘あまりの船がポルトガルへ出港していき、ヌーラン軍曹と彼の部下たちはリスボンへ向けて出発しました。 しかしパンフリー伯のサー・トーマス・グレアムへの手紙に寄り、シャープのライフル隊員たちはイスラ・デ・レオンに足止めされていました。 その晩、シャープはテントの列に彼らを探しに向かいました。 シャープはユニフォームに着替えて大使館の馬を借り、暗くなる頃に駐屯地に突き、ハーパーが消えかけた火をおこそうと頑張っているところに行き会いました。 「そこのびんにラム酒がありますよ」 と、ハーパーはテントの入り口の石甕に向かってうなずきながら言いました。 「他の連中は?」 「ここから10分以内のところです。酒場ですよ。頭はどうですか?」 「ずきずきする」 「包帯をぬらしていますか?軍医殿が言っていたでしょう?」 「忘れてた」 「ヌーラン軍曹たちは出発しましたよ。リスボンの坂道で戦争しに。でも俺たちは残るんですよね?」 「そう長くはない」 シャープは鞍から滑り降りながら答えました。 「ええ、サー・トーマス・グレアム中将閣下ご自身から命令を受けました」 と、ハーパーは言いました。 「ウィリアム・ラッセル卿が持ってこられました。以上です」 ハーパーは、物問いたげな視線をシャープに投げかけました。 「仕事を請けたのさ、パット。やっつけられたいやつらが何人か、この街にいるんだ」 「仕事ですか」 ハーパーの声には、上の空なところがありました。 「ホアナのことを考えているな?」 「そうです」 「パット、数日のことだ。それにいくらか金ももらえそうだ」 それに関してはパンフリー伯が言っていたことは正しく、ヘンリー・ウェルズレイは手紙を取り返した場合の報酬について誠実に対処すると思われました。 シャープは火の上に屈みこみ、手を温めました。 「民間人の服装が必要だ。カディスに移って、1日2日したら帰る。ホアナは待ってくれるさ」 「そう願いますよ。馬はどうします?うろうろしてますが」 「しまった」 シャープは牝馬を追いかけました。 「サー・トーマスの司令部に行ってくる。厩があるだろう。将軍に会って、便宜を図ってもらわなくちゃならん」 「ご一緒しますよ」 と、ハーパーは言いました。彼は焚き火をほうっておき、シャープには彼が自分を待っていたのだということがわかりました。 アイルランド人の大男はテントからライフルと7連発銃、そして他の武器などを持ち出してきました。 「何か置いていくと、必ず盗まれます。この軍隊は泥棒以外はいないみたいです」 ハーパーはちょっと嬉しそうでした。シャープが戻ってきたからというだけではなく、この上官がホアナのことを尋ねてくれたからなのでした。 「で、仕事ってなんですか?」 「盗みだ」 「ゴッド・セーブ・アイルランド。俺たちにやらせると?このキャンプは泥棒ばかりなのに!」 「お偉方は信用できる泥棒を必要としている」 と、シャープは言いました。 「それは難しいんじゃないですか。馬を引きますよ」 「サー・トーマスと話をしてこなければ」 とシャープは言って、手綱をハーパーに渡しました。 「それから他の連中と合流する。一緒に飲めるんじゃないかな」 「サー・トーマスはお忙しいと思いますよ。夕方からずっと、この辺りを走り回っています。何か爆発したんでしょうかね」 彼らはサン・フェルナンドの街に入りました。街角にはランプがともり、英軍兵とポルトガル兵が飲んだくれている酒場からは明かりが漏れていました。 シャープは憲兵の一人にサー・トーマスの本部の場所を尋ね、埠頭の傍らの小道に入りました。 大きなたいまつが二つ、本部の外に掲げられ、将校たちの姿を照らし出していました。 サー・トーマスはその中にいました。彼は入り口の階段に立ち、明らかにハーパーの言ったとおり、何かが起きているらしく忙しい様子でした。 彼は命令を発していましたが、シャープを見ると破顔しました。 「シャープ!」 と、彼は怒鳴りました。 「なんでしょうか」 「よしよし!きみも行く気だな?いいぞ!ウィリー、彼の面倒を見てやってくれ」 サー・トーマスはもう一度うなずき、向きを変えて将校たちの群れに戻りました。 ウィリアム・ラッセル卿がシャープを振り返りました。 「きみも行くのか!」 と、ウィリアム卿は言いました。 「よかった!」 「行くって、どこへ?」 と、シャープは尋ねました。 「もちろんカエル狩りだよ」 「馬は要りますか?」 「まさか。むしろ泳がないといけない」 「馬をつないでおけるでしょうか」 ウィリアム卿は老いた騎兵を呼び、馬の世話を言いつけました。 「シャープ、行こう。ぐずぐずしていられない。潮に乗らなければ」 ウィリアム卿は半ば駆け足でサー・トーマスを追いました。 シャープとハーパーは、わけがわかりませんでしたが、彼を追って埠頭に行き、レッドコートの兵士たちを満載したボートが月の光の中に浮かび上がるのを見ました。 グレアム将軍はクレイモア(スコットランドの戦闘用の大刀)をベルトに差し、海軍の将校と何か話をしていましたが、シャープを見て会話をやめました。 「よしよし!頭はどうだ?」 「生き延びられそうです」 「その意気だ!ボートだ。乗ってくれ」 ボートは大型の平底船で、水兵が長い櫂で操っていました。レッドコートの兵士たちで、既に一杯でした。 「何をしに行くんですかね?」 と、ハーパーが尋ねました。 「わかるもんか」 とシャープは答えました。 「だが将軍と話をしなくちゃならん。今を逃すと機会はないだろうな。だから行くぞ」 ほかに4隻のボートが停泊しており、どんどん兵士たちが乗り込んでいきました。 ウィリアム・ラッセル卿がシャープの傍らに飛び乗ってきて、グレアム所軍は埠頭でボートに次々に声をかけていました。 「禁煙だぞ!」 と、将軍は叫びました。 「火がフランス軍に見られるからな。音をたててもいかん。銃の撃鉄も起こすな。それじゃあ、楽しんでこいよ。いいな、楽しんでこい」 彼は注意事項を繰り返し、そして先頭の船に乗り込みました。 後方のデッキでは将校たちがたったり座ったりして空間を確保し、そこで水夫が櫂を操っていました。 「この乱暴者どもは」 と、サー・とマースはレッドコートたちを指し示しながらシャープに話しかけました。 「第87連隊の連中だ。おい、お前たちは何者だったかな?アイルランドの反乱軍か?」 「そのとおり!」 と、2、3人の兵士たちが叫び返しました。 「地獄の門からこっち側には、お前たちほど優秀な兵隊はいないんだったな」 とサー・トーマスは言い、アイルランド兵たちは笑い声を上げました。 「きみを歓迎するよ、シャープ」 「何が始まるんですか?」 「知らなかったのか?ではなぜここにいる?」 「あなたのご好意を賜りに」 サー・トーマスは笑い出しました。 「きみも参加したいのかと思っていたよ!まあいい、ご好意とやらはちょっと待ってくれ、シャープ。一仕事しなくちゃならん」 ボートは潮の流れの中を進んでいき、イスラ・デ・レオンの湿地を通り抜けようとしていました。 シャープの全欧、北西にはトロカデロ半島の長く低い影が夜の闇の中に浮かび上がっていました。
by richard_sharpe
| 2008-01-10 17:37
| Sharpe's Fury
|
ファン申請 |
||