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1811年3月、バルロッサの戦い。
第2部 カディス 第4章 - 1 シャープは大使館の屋根裏に部屋を与えられました。パンフリー伯はその部屋のことを謝りました。 「カディスでわれわれが使える家は6軒だけなのだ。私も1軒使わせてもらっているが、きみは大使館にいたほうがいいんじゃないかと思ってね」 「そうですね」 と、シャープは大急ぎで答えました。 「そうだろうと思った。では明日の夕方5時に会おう」 「それから、民間人の服装が必要です」 シャープは既に伯に話してありましたが、一組のズボンとシャツとコートがベッド上に置かれていただけでした。 たぶん、不運なプラマーのものだったのだろうと思われました。それらは黒くて大きすぎ、じめじめしていました。 彼は朝6時に大使館を出ました。風に乗ってくる教会の鐘の音で時間がわかりました。 目立ちすぎると思ったので剣もライフルも持たず、大使館からピストルを借りてきていました。 「必要ない」 と、パンフリーは前の夜、彼に言いました。 「丸腰は好きじゃないので」 と、シャープは言い返しました。 「きみが言うのならそうだろう」 と、パンフリーは言いました。 「しかし現地の人間に向けないでくれたまえ。今でさえ、彼らはわれわれを信用していないのだ」 「街を調べてみるだけです」 彼としては、ほかにすることもなかったのでした。 パンフリー伯は脅迫者からのメッセージを待っていました。その正体は誰も知りませんでしたが、新聞に手紙が掲載されたことは、英軍との同盟を壊そうとする政敵の存在を示していました。 「もし交渉が失敗した場合、この新聞がこちらの手がかりです」 と、シャープは言いました。 「私は交渉に失敗したことはない」 「それでも新聞社を見ておくことは必要です」 シャープは主張し、朝早いうちに出かけたのでした。 方角に気をつけるように言われていましたが、たちまちシャープは道に迷ってしまいました。 カディスは狭く暗い小道と高い建物の迷路でした。ここでは馬車を使えるだけの広さのある道はほとんどなく、金持ちでさえ、輿を使うか歩くほかはありませんでした。まだ日は昇らず、街は眠っていました。 しかしシャープは、探していたものを教会の外で見つけました。 乞食が石段の上で眠っていました。彼はその男を起こすとコートと帽子を与え、乞食のコートとつば広の帽子と交換しました。両方とも、汚れきっていました。 彼は日の出の方角と思った方向に歩いていきました。そしてやがて、街の城壁にたどり着きました。外壁は港にそそり立つように面し、階段が道路の高さまで続いていました。黒い大砲が据えられていました。1中隊のスペイン兵が、歩哨についていました。しかし、少なくとも半数は鼾をかいていました。 世界中が、この街と同様に眠っているようでした。しかしそのとき光がはじけ、東の水平線を二つに裂きました。そして大きな煙の塊がフランス軍の砦の一つの下に広がったかと思うと、雷のような轟が湾に響き渡りました。歩哨たちも目を覚まし、砲弾は胸壁を飛び越え、シャープの前方4分の1マイルのところに落ちました。 一瞬の静寂のあと、それは爆発しました。破片はオレンジの繁みに飛び散り、火薬のにおいがしました。 シャープは焦げた草の上に飛び降り、墓地を横切って暗い小道に入り込みました。家々の壁が城っぽくなってきて、東から朝日が射してきました。 彼は道に迷っていましたが、それでも街の北の端にいることはわかり、それは彼が当初から目指していた方向で、小道を探っているうちに、彼は赤く塗られた十字架が壁にかかっている教会を見つけました。 その十字架は、パンフリー伯によればベネズエラから持ってこられたもので、聖ヴィンセントの祝日には赤いペンキは血に変わるのだ、ということでした。 シャープは教会の入り口の階段の下にうずくまりました。汚れたコートが彼をすっぽり包み、帽子の縁が顔を隠しました。 ここの道幅はほんの5歩ほどで、彼の正面はセメントで塗られた4階建ての家でした。狭い小道がその家の脇を通り、家の一階にはドアと二つの窓がついていました。窓は内側から閉められていました。ガラスの外側は、黒く太い鉄格子でした。 上の階にはそれぞれ3つの窓があり、狭いバルコニーがついていました。 これが、パンフリーの言っていた 「エル・コレオ・デ・カディス」 の発行所でした。 「その家はヌニェズという男の持ち物だ。新聞社の社主だ。印刷所の上に住んでいる」 ヌニェズの家に、人影はありませんでした。 シャープはじっとうずくまり、大使館の台所から持ってきた木の鉢を傍らの石段の上に置きました。そして一握りのコインを入れておきました。 彼は子供時代に知っていた乞食たちのことを思い出していました。 なんだか不思議に安らいだ時間でした。シャープはうずくまり、歩行者の姿が見えるとパンフリーに教わったとおり、 「ポル・ファヴォール、マドレ・デ・ディオス」(聖母様のお恵みを) と言いました。何度も何度も繰り返し、そしてときどきコインが鉢に投げ込まれると礼の言葉をつぶやきました。 その間もずっと、彼は例の家を見つめ、正面の大きな扉は使われていないらしく、窓の向こうのよろい戸も開かれたことがないことに気づきました。 6人の男たちがその家を訪れ、わきの小道に面した扉を使っていました。 しばらくしてシャープは立ち上がり、ぶつぶつつぶやきながら場所を移動し、そしてまたうずくまりました。今度は小道の入り口のところでした。男が脇のドアをノックし、ドアの小窓が開いて合言葉を交わした後、扉が開くのが見えました。 その後1時間ほどの間に3人の配達人が木箱を運び込み、洗濯女が洗濯物を一抱え持ってきましたが、必ず小窓で確認した後に扉が開くのでした。 日が高くなってきた頃、一人の僧侶がわき道の扉からでてきました。 彼は背が高く角ばった顎をしていました。 その僧侶はシャープの鉢にコインを投げ入れ、同時に何かを命じました。シャープには何を言われたのかわかりませんでしたが、僧侶が教会を指差しているのを見て小道からはなれるように言っているのだろうと思いました。 シャープは立ち上がって鉢を拾い上げそして教会に向かいましたが、そこにはトラブルが待ち構えていました。 3人の乞食たちがさっきシャープがいた階段にいました。 カディスの男たちの乞食の少なくとも半分は、イギリスとの戦争やフランスとの戦争で不具になったものたちでした。そしてそれぞれ自分が闘った戦闘の名前をプラカードにし、あるいはぼろぼろの軍服を身にまとっていました。 しかしシャープを待ち受けている3人は不具でも軍服でもなく、彼をじっと見つめていました。 シャープは不法侵入してしまったのでした。 ロンドンの乞食たちは連隊のように組織されていました。 誰かが他の乞食のナワバリを侵すと警告を受け、それでも警告を聞かなかった場合、乞食のリーダーたちが招集されました。ある乞食がアガリを二人の水兵に奪われたとき、次の朝には二つの死体が発見されたものでした。 今、3人の男たちはそういう使命を帯びているのでした。彼らは何も言わず、シャープを取り囲み、一人が彼の鉢を取り上げ、残りの二人が両脇から肘をつかみ、回廊の影に引っ張り込みました。 「マードレ・デ・ディオス」 と、シャープはつぶやきました。 鉢を持った男が、シャープに何者かと尋ねました。シャープには彼の訛りの強いスペイン語はわかりませんでしたが、何を知りたがっているのかはわかりました。そして、次に何が起こるのかもわかっていました。 男のマントの下からナイフがシャープの喉笛めがけて伸び、その瞬間乞食は兵士へと変わりました。 シャープはその男の手首をつかんでナイフをかざし、その切っ先を持ち主に向け、そしてシャープは薄笑いを浮かべながらその男の顎の下の柔らかい肉に刃を突っ込みました。 ナイフは男の舌にまで達し、唇から血が噴き出ました。 右腕が自由になったシャープは、今度は左側の男を力いっぱい蹴りつけて振りほどきました。 男のブーツを脚払いすると彼は倒れ、マスケットがあたった瞬間のような鈍い音が頭蓋骨から響きました。 シャープは3人目の男の眉間に肘を突き入れました。 シャープがピストルを引き抜いたのを見た一人は膝をつき、降参しました。その股間にシャープはピストルの狙いを定めて撃鉄を起こしました。いやな音がしました。 ナイフを突き立てられた男は鉢を置き、手を差し出して何か話し始めました。 「行け、馬鹿野郎」 とシャープは英語で言いました。男たちには言葉はわかりませんでしたが、理解してしたがいました。 彼らはゆっくりと後ずさりし、シャープがピストルを下げるのを見ると、一散に駆け出したのでした。 「馬鹿野郎」 とシャープは言いました。ずきずきと頭痛がしていました。 彼は包帯に触れ、痛みを紛らそうとしました。目がかすむような感じがし、動悸が激しくなりました。彼は回廊のアーチのキーストーンに刻まれた十字に、じっと目を凝らし、痛みが薄れるのを待ちました。 彼はピストルを無造作にほうりました。まだ握りしめていたのでした。アーチは彼の姿を隠していました。 彼は回廊の門のところの草が生い茂っていることに気づきました。錠前は侯爵夫人のボートハウスにあったような、古いものでした。それは朽ちていました。 彼はとおりを覗き込み、例の家の窓が閉ざされているのを確認しました。 塔がその家に面してそそり立っていて、その足元にも石のブロックの間にも草が生い茂っていました。 その建物は廃屋で、ヌニェズの家から40歩ほどしか離れていませんでした。 「完璧だ」 と彼は大声で言い、ヤギを引いて通りかかった女は彼のことをキチガイだと思った様子で十字を切りました。
by richard_sharpe
| 2007-12-21 17:45
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