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1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第3章- 4 驚いたことに、シャープはヘンリー・ウェルズレイが好きになりました。 彼は30代後半の痩せた男で、兄と同じようにハンサムで、しかし兄ほどには鷲鼻ではなく、顎もとがっていませんでした。 彼にはウェリントン公の冷たい尊大さはなく、むしろ内気で優しそうでした。 シャープが大使館の食堂に入ったとき、彼は立ち上がって嬉しげにライフルマンを迎えました。 「よく来てくれた」 と、彼は言いました。 「ここに座りたまえ。もちろん、准将は知っているね?」 「はい、閣下」 ムーンはシャープに冷たい視線を向け、ちょっとうなずいただけでした。 「それから、サー・トーマス・グレアムを紹介させてくれ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「サー・トーマス・グレアム中将は、イスラ・デ・レオンの師団を指揮している」 「知り合えて光栄だよ、シャープ」 と、サー・トーマスは言いました。彼は背が高く、恰幅のいいスコットランド人で、白髪とよく日に焼けた肌と、鋭い瞳の持ち主でした。 「それからきみはもうウィリアム・パンフリー伯を知っていると思うが」 ウェルズレイはテーブルについているもうひとりを紹介しました。 「ああ、まさか」 シャープは思わずつぶやきました。 彼はパンフリー伯を知っていました。しかしそれでもやはり、彼に会ったことに驚かずに入られませんでした。 パンフリー伯はシャープに向けて指先でキスを投げました。 「パンプス、私のお客を困らせてはいけないよ」 とヘンリー・ウェルズレイは言いましたが、シャープはすでに困惑していました。パンフリー伯は、他の人々にとって影響力のある人物だという以上に、彼にとって影響力のある人物でした。 彼は外務省に所属し、シャープはそれをよく知っていました。シャープは伯にコペンハーゲンで会い、そしてポルトガル北部で会い、そしてパンフリーは、今までよりもさらに高慢に見えました。 この夜、彼は銀の縫いとりで縁取られたライラック色の長上着で装い、細面の頬には、黒のベルベットで出来たつけ黒子をつけていました。 「ウィリアムはここの一等書記官なのだ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは説明しました。 「実際、リチャード、私は現地人を驚かせるためにここに配属されたのだよ」 パンフリー伯は物憂げに言いました。 「それにはまったく効果を上げているな」 と、サー・トーマスは言いました。 「ご親切に、サー・トーマス」 パンフリーは言い、スコットランド人のほうに軽く頭を下げました。 ヘンリー・ウェルズレイは腰を下ろし、皿をシャープのほうに押しやりました。 「このカニの爪を食べてみたまえ」 と、彼は急き立てました。 「ここの名産だ。沼地で取れたものだ。割って、身を吸いだすんだ」 「遅くなって申し訳ありませんでした」 とシャープは言いました。テーブルの上の荒れ具合から見て、ディナーは終わっていたのは明らかで、そして同様に、明らかにヘンリー・ウェルズレイは何も食べていませんでした。 彼はシャープが、彼の使っていない皿を見ているのに気づきました。 「私はこのあと、正式なディナーに呼ばれているのだよ、シャープ。スペイン人のディナーの始まりは、とてつもなく遅いのだ。毎晩ディナーを2回ずつなど、食べていられないからね。それでもこのカニは魅力的だ」 彼は爪をひとつとってクルミ割りで殻をこじ開けました。大使がシャープにどうやって食べるのかわからせようとしてやっているのだということは、シャープにもわかりました。そこで彼はクルミ割を取りました。 「それできみの頭はどうだね?」 と、ヘンリー・ウェルズレイは尋ねました。 「良くなっています。ありがとうございます」 「厄介なものだよ、頭の傷は。インドにいたとき助手がいたんだが、彼の頭はぱっくり割れてしまった。気の毒に、死んでしまったと思ったんだが、彼はすぐに起き上がって1週間で治ってしまった」 「インドにいらしたんですか?」 と、シャープは尋ねました。 「2度ね。もちろん、民間人サイドにいたんだが。あそこは好きだよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「私もです」 と、シャープも言いました。彼は2つ目のカニを割り、溶かしバターの皿に突っ込みました。ありがたいことに、ウィリアム・ラッセル卿も空腹だったらしく、二人はカニを分け合い、他の男たちはタバコを取り出しました。 2月でしたが、窓を開けていても暖かでした。 サー・トーマス・グレアムがスペインの同盟軍について愚痴をこぼしている間、ムーン准将は冷たい目でシャープを睨みつけていました。 「バレアリックからの臨時便の船が、まだ来ないんだ」 と、彼はうなりました。 「連中が約束した地図だって、一枚も見たことがない」 「すぐですよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「船は薪になっている恐れがあるな。それでフランス軍は、船を作っているんだ」 「薪に関しては、あなたとキーツ提督にいい知らせがありますよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイはきっぱりと言い、そして話題を変えてシャープに視線を向けました。 「ムーン准将によれば、きみらはグアディアナ川の橋を破壊したそうだな」 「そうです」 「それは安心だ。全てにおいて、サー・バーナビー」 と、ウェルズレイはムーン准将を見ました。 「作戦はほとんど成功ということですな」 ムーンは椅子の上で身体をずらし、脚の痛みに顔をしかめました。 「もっとうまくいくはずでした。閣下」 「また、どうして?」 「兵士というものを理解いただく必要がありますな」 ムーンはぶっきらぼうに言いました。サー・トーマスは准将の非礼にわずかに顔をしかめましたが、ムーンはまったく譲歩しませんでした。 「よく言っても、欠陥のある成功です」 と、彼は続けました。 「私は第40歩兵隊に所属していたが」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「まあ、私にとってはうまくいった時期とはいえないが、兵士の統制を軽んじたことはない。何が欠陥だったか、言ってみてくれませんかな、サー・バーナビー」 「もっとうまくいくはずだったのです」 とムーンは言い、口をつぐみました。 大使はタバコを召使から受け取り、差し出された火をつけるために身をかがめました。 「それで私は、あなたの勝利を祝うためにお招きしたのですが。私の兄と同じように寡黙ですな、サー・バーナビー」 「ウェリントン公と比べられるとは、お恥ずかしい限りです。閣下」 と、ムーンは堅苦しい言い方をしました。 「聞いていただきたいのだが、アーサーが以前、彼の偉業のひとつについて話してくれた」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「そしてそれは、彼の名声がさらに上がるという話ではないのだ」 大使は煙の塊をクリスタルのシャンデリアに向けて吐きました。 サー・トーマスとパンフリー伯は黙ってじっと座っており、彼らはこれからこの部屋で何が起こるか知っているようでした。シャープは妙な雰囲気になってきたのを感じ、カニを置きました。 「彼はアッセイエで落馬したのだ」 と、大使は続けました。 「そういう名前の場所だったと思う。なんにせよ、彼は敵の真っ只中に落ちて、誰も彼もが彼に向かってきた。アーサーは私に、自分はもう死ぬのだと思ったと言った。彼は敵に囲まれ、みんな恐ろしい盗賊のようで、そしてそのとき、どこからともなく英軍の軍曹が現れたのだ。どこからともなく、と彼はいったものだ!」 ヘンリー・ウェルズレイはまるで手品師のように、そこに誰かが現れたかのようにタバコを持った手を波打たせました。 「続いて起こったことは、アーサーが言うには、彼が今まで見てきた戦闘の中でも、いちばんすばらしいひとこまだったそうだ。その軍曹は、5人を斬って倒したらしい。少なくとも5人だ。その男は、5人を斃したのだ!たったひとりで」 「5人!」 と、パンフリー伯は大げさに驚いて言いました。 「少なくとも5人」 と、大使は言いました。 「戦闘を後から正確に思い返すと、混乱しがちなものです」 と、ムーンは言いました。 「ああ!あなたはアーサーが話を脚色しているとお言いかな?」 ヘンリー・ウェルズレイは、大げさな丁寧さで尋ねました。 「1人が5人相手に?たいへん驚きましたな、閣下」 と、ムーンは指摘しました。 「それではその軍曹に、何人と戦ったのか訊いてみよう」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。罠が仕掛けてあったのでした。 「何人だったか思い出せるかな、シャープ?」 ムーンはまるで蜂に刺されたようでした。シャープは再び困惑して、肩をすくめました。 「それで、シャープ?」 と、サー・トーマス・グレアムが促しました。 「数人いました」 と、シャープは居心地悪げに答えました。 「しかしもちろん、将軍も横で戦っておられました」 「アーサーは私に、自分は呆然としていたと言っていたよ」 と、ヘンリー・ウェルズレイは言いました。 「自分を守ることさえ出来ない役立たずだったと」 「闘っていらっしゃいました」 とシャープは言いましたが、実際にはシャープは目を回したサー・アーサー・ウェルズレイをインド軍の大砲の車輪の下に押し込んで隠したのでした。 本当に5人だったか?彼は思い出せませんでした。 「援軍もすぐに来ました」 と、彼は急いで付け加えました。 「本当に、すぐに」 「しかしサー・バーナビー、あなたが言ったように」 と、ヘンリー・ウェルズレイの声が柔らかく響きました。 「戦闘を後から思い返すと、混乱が生じる。もし良かったら、あなたのジョセフ砦での勝利についての報告を見せてもらえますかな?」 「もちろんです、閣下」 とムーンは言い、そしてシャープにも何がおきたのかわかったのでした。 国王陛下の特命全権大使はシャープの味方であることを表明し、ウェリントン公もシャープの側にいることをムーンにわからせ、准将の報告書の書き換えを暗に促したのでした。 好意でした。そしてそれは大きな好意のひとつであり、しかしシャープは好意には好意を返さなければならないこともわかっていました。
by richard_sharpe
| 2007-12-11 18:47
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