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1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第3章- 1 背の高い二人の男が、並んでカディスの岸壁沿いを歩いていました。 この防護壁は非常にしっかりとしたつくりで、外敵と海から街を守っていました。 湾に降りていく階段は幅広く、3台の馬車が通れるほどでした。住民たちにとってそこは散歩に適した場所で、しかし誰もこの二人を邪魔するものはいませんでした。 護衛が彼らの先に立ち、両脇と背後も守って人ごみから彼らを隔てていました。 背の高いほう、非常に背の高い男でしたが、彼はスペイン海軍提督の軍服を着ていました。 彼の顔はゆがんでおり、苦痛と絶望をこらえているようでした。 彼は左足をもものところで失っており、下肢は黒檀の義足でした。 彼の連れはサルバドール・モンセニー神父でした。モンセニーは彼と一緒にトラファルガーの海戦のあと、イギリスでとらわれの身となっていたのでした。 「それでは、その娘はきみのところに懺悔に来たのだな」 と、提督は面白そうに尋ねました。 「カテリーナ・ヴェロニカ・ブラスケスです」 と、モンセニーは言いました。 「神が彼女を私の元にお導きになりました。ほかに7人の僧侶が、その日は大聖堂に癒しと告解のためにいたのに、彼女は導かれて私の元へ」 「で、きみは彼女のヒモを殺したのだな?そして例のイギリス人と護衛も。神はそれをお許しになると断言するよ、ファーザー」 モンセニーは神の意思を疑ったことなどありませんでした。 「神が私にお望みなのは、聖なる強大なスペインです。われわれの旗は南アメリカにまで広げられ、カトリックの王がマドリードにまします。そして神の栄光がわが国民をあまねく照らす。私は神の業を成し遂げます」 「楽しいか?」 「はい」 「よろしい」 と、提督は言いました。そして湾に面した大砲の脇で立ち止まりました。 「もっと金が必要だ」 「すぐに、閣下」 「金だ」 提督は吐き捨てるような声音で言いました。 彼はカルデナス侯爵でした。彼は金の下に生まれてきて、常に新しい財源を生み出していました。しかしいつもそれで十分ではありませんでした。 「買収に金が必要なのだ」 と、彼はそっけなく言いました。 「連中には志と言うものがない。法律家や、政治家たちだ。人間のクズだ」 提督がクズと呼んでいるのはコルテス(スペイン国民議会)の代議員たちでした。彼らはカディスにあって、新しい政治形態をスペインに持ち込もうとしていました。 リベラレスと呼ばれるものたちはコルテス主導の政府をスペインに樹立することを望み、市民たちが自分たちの運命と呼ぶところのものを決め、それを自由とか民主主義とか言っており、提督はそれを憎んでいました。 彼はスペインが在りし日のスペインであることを望んでいました。国王と教会に統べられ、神と栄光に捧げられるスペイン。 外国から解放され、フランスもイギリスも去ったスペイン。そのために彼はコルテスを買収しようとしており、フランス皇帝に働きかけようとしているのでした。スペインから去るように。そしてフランスがイギリスとポルトガルを征服する手助けをすると。 それは単なる提案でしたが、ナポレオンの切望につけこんだものでした。 ナポレオンはスペインでの戦争を終わらせたいと願っていました。 諸国の目にはフランスが勝ったと見られていました。 フランス軍はマドリードを占領し、セビリアを奪い、そして今ではスペイン政府は地の果てのカディスに存続するのみでした。 そしてスペインを占領するということは何百何千ものフランス兵を砦に配備するということであり、それを怠れば直ちにパルティザンに奪い返されてしまうのでした。 もしボナパルトが従順なスペイン政府と講和を結べば、これらの軍隊は戦闘から解放されることになるのでした。 「いくら必要ですか?」 と、モンセニーが尋ねました。 「1万ドルで、コルテスを買収できる」 提督は英軍のフリゲート艦の帆が大西洋に面したカディスの突堤の先にあるのを見つめていました。そして震えるような嫌悪を感じました。 彼はイギリスが大嫌いでした。 「しかしイギリス人は」 と、彼はまだフリゲート艦を見ながら言いました。 「1万ドルを例の手紙には支払わないだろう」 「彼らは莫大な金を支払いますよ」 と、モンセニー神父は言いました。 「彼らを脅せば」 「どうやって?」 「手紙の一部を公開します。もちろん変えて。そうすれば全部が公開されるのを恐れるでしょう。執筆者が必要です」 モンセニーはロザリオを手で探りながら言いました。 「オリジナルを公開すると、イギリス側の言い分が正しいことがわかってしまう。だから新しく英語で作り直し、それがオリジナルだといわなくてはなりません。完璧な英語を書ける人物が必要です」 提督は軽く手を振りました。 「一人知っている。いかれた奴だ。彼は英語で書く能力があるし、英語の本を読むのに熱中している。彼がいい。それで、どうやって公開する?」 「エル・コレオ・デ・カディスです」 と、モンセニー神父は言いました。リベラレスとは反対勢力の新聞の一つでした。 「手紙の一部を出版してイギリス人は第二のジブラルタルとしてカディスの占領を企てているとその中で明らかにします。もちろんイギリス側は否定するでしょうが、しかしその日のうちにカディスの誰もがその手紙を英国大使が書いたのだと知ることになりますから」 その手紙は英国のスペイン大使によって書かれ、情熱的な恋が告白されていました。その一部の中では、結婚の申し込みさえしているのでした。カタリーナ・ヴェロニカ・ブラスケスという娘に。 彼女は娼婦でした。高級娼婦ではありましたが、娼婦には違いありませんでした。 「コレロのオーナーはヌネスという男だったな?」 と、提督は尋ねました。 「そうです」 「彼が手紙を出版する?」 「ヌネスについてはちょっと知っていることがあるのです。彼はそれを世間に知られたくないでしょう」 と、モンセニーは言いました。 「その出版社に対し英国側が破壊行動に出るというように思うが?」 「そうかもしれません。しかし私はあの建物を砦にしますよ。あなたの部下たちが守ってくれるでしょう。ですから英国側は手紙を買い取るしかない」 「いちばんいいのは」 と、提督は言いました。 「手紙と金の両方を手にしていることだ」 「それがいちばんです」 と、モンセニーも言いました。 「英国から金を受け取り、手紙も出版することができれば」 「裏切り行為だがな」 「神の御業に裏切り行為などありません」 と、モンセニーは言いました。 そのとき、湾の向こうから砲声が轟きました。二人は振り返り、遠くの白い煙を見つめました。 フランス軍の砦のあるトロカデロ半島の、大型迫撃砲から発せられた煙でした。提督はその砲弾がイギリスのフリゲート艦に命中することを願っていました。しかしミサイルは半マイルほど東の市街の海際に落ちました。 提督は砲弾が爆発する瞬間を待っていました。 「もし手紙を出版したら、コルテスも英軍攻撃に移るだろう」 と、提督は言いました。 「買収すればより確実だ」 提督は既に自分の提案をパリに向けて送っていました。簡単なことでした。彼は英国嫌いとして知られ、カディス在住のフランス側の工作員が彼に接触したのでした。しかし皇帝の回答はシンプルでした。 コルテスの投票を提示し、現在フランスで捕虜になっているスペイン国王を帰国させ、スペインには平和が戻る。 フランス軍が全てに主導権を握り、全土を完璧に掌握し、ポルトガルを征服してウェリントンの軍勢を海に蹴落とす。 そのことによりフランス軍はグアディアナの提督の領地を略奪から免れさせているのでした。そしてその見返りに、今こそ提督はコルテスの投票結果をフランス寄りにし、イギリスとの同盟を破棄しなくてはなりませんでした。 「夏までには、ファーザー」 と、彼は言いました。 「夏?」 「全てが終わる。われわれの王を戴き、われわれは解放される」 「神のご加護のもとに」 「神のご加護のもとに」 と、提督もうなずきました。 「金を作ってくれ、ファーザー。そしてイギリス人に目に物見せてやるのだ」 「それこそ神のご意志です。そのようになるでしょう」 そして英軍は地獄に落ちることになるはずでした。 シャープが撃たれてから後は、ことは簡単に進みました。 ボートは流れに乗り、グアディアナ川の川幅の広いところに夜になってたどり着きました。 シャープは意識のないまま船底に横たわり、頭の骨は砕け、包帯は血に染まっていました。 准将はむっつりと座り込み、どうしたらいいか迷っていました。 明け方には丘の間に家並みが見えてきました。 「大尉を医者に診せなければなりません」 とハーパーは言いました。そのアイルランド人が苦しんでいることに、准将は声の調子から気づきました。 「大尉は死んでしまいます」 「まだ息をしているだろう?」 と、准将は尋ねました。 「しています。でも医者が必要です」 「まったく、貴様らときたら!私は魔法使いではないのだぞ!この荒野で医者を見つけられると思うか?」 准将も痛みのあまり思わず声を荒げ、その瞬間ハーパーの顔に反抗的な色が閃いたのを見て取ると、急に恐怖を感じました。 准将は自分が良い将校だと思っていましたが、兵卒たちの中にいるのは居心地の悪いことでした。 「もし街が見つかったら」 と、彼はこの大柄な軍曹をなだめようとしました。 「医者を探そう」 「わかりました。ありがとうございます」 准将は町が見つかることを願っていました。彼らには食料が必要でしたし、彼自身も、むやみに痛む足を診てもらうために医者を必要としていました。 「漕ぐんだ!」 と彼は命じましたが、どんなに漕いでもたいした効果はありませんでした。櫂はただ水面を打つばかりで、やがて准将にもボートが満ち潮の中に入ってしまったことがわかりました。そして、街も村も見えませんでした。 「閣下!」 と、ヌーラン軍曹が舳先から叫びました。一艘のボートが現れたのが見えました。 そのボートには、どうすれば櫂でうまく漕げるのかをわきまえている男たちが乗っており、さらにマスケットを構えている男の姿も見えました。 ムーンは思わず罵りの言葉をつぶやきました。 しかしそのとき、近づいてくるボートで命令を発している男が立ち上がり、敬礼しました。 彼は英語で叫んでいました。その将校は海軍のブルーのユニフォームを着ており、グアディアナ川をパトロールしている小型帆船に所属していました。 その帆船は彼らを救助し、シャープを運び上げ、兵士たちに食糧を与えて海に向かいました。そこには母船の36門の砲を搭載したフリゲート艦のソーンサイド号がいたのでした。 シャープはそのことを、何も知らずにいました。 ただ痛みだけを感じていました。
by richard_sharpe
| 2007-11-28 18:07
| Sharpe's Fury
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