カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第2章- 2 夜の間何度か准将はシャープを起こしにハリスを送ってきました。とはいえ、シャープはうとうととしか眠れていなかったのです。寒くて。 シャープは准将にコートを貸していたのでした。准将はコートを持っておらず、誰か掛ける物をよこせと言い張っていました。 「何かあったのか?」 と、シャープはハリスに尋ねました。 「わかりません。閣下は、ただ大尉に来て欲しがっています」 「シャープ、私はずっと考えていたのだが」 と、シャープが来たとき准将は言い出しました。 「なんでしょう」 「あの兵士たちがアイルランド語をしゃべるのが気にいらん。英語を使うように言いたまえ。わかったか?」 「はい、准将」 とシャープは言い、そして黙りました。 准将はこんなことを言うために起こしたのか? 「伝えます。しかし彼らのうちの何人かは、英語がわかりません」 「それでは学ばせろ」 と、准将は言い捨てました。彼は痛みで眠れず、惨めな気分を他にも味わわせようとしていました。 「連中を信用するなよ、シャープ。乱暴なやつらだ」 シャープは少し黙り込み、どうすればムーンの頭に常識というものをわからせるかを考えていましたが、彼が話そうとする前にライフル隊員のハリスが割って入りました。 「よろしいですか、閣下?」 と、ハリスは丁寧に言いました。 「お前は私に話しかけているのか、ライフルマン」 と、准将は驚いて尋ねました。 「お許しいただければ、閣下、もしよろしければ、敬意を持って」 「続けろ」 「閣下、ミスター・シャープがおっしゃったように、ただ彼らはですね、閣下、英語が話せない未開人のカトリック教徒なんです。それで彼らはボートか筏を作ることができるかどうかですね、自分たちの言葉で議論していたと、そういうわけなんですが閣下、お分かりいただけたでしょうか」 完璧にハリスに煙に巻かれた准将は、考えていました。 「お前は連中のみっともない言葉がわかるのか?」 「そうなんです、閣下」 とハリスは言いました。 「それからフランス語と、ポルトガル語と、スペイン語と、それからラテン語が少しですが、閣下」 「まったくなんてやつだ」 と准将はため息混じりに言い、ハリスを見つめました。 「しかしお前はイギリス人だな?」 「もちろんそうです。誇りに思っています」 「よろしい。ではもしあのならず者どもが問題を起こしそうだったら、私に報告してもらえると思っていいな?」 「ならず者ですか、閣下?ああ、アイルランド人ですね!もちろんです閣下、喜んでいたしますとも」 と、ハリスは熱意を込めて答えました。 夜明けのすぐ前に、川の上流から爆発音が聞こえてきました。 シャープは北を見ましたが何も見ませんでした。夜明けの光の中で川面には煙が厚く立ち込め、その正体が分からなかったのでシャープはヌーランと2人の部下たちを何が起きたのか偵察に出しました。 「馬鹿なことを」 と、准将は言いました。 「そうですか?」 「あいつらが二度と戻ってこないこともわからんのか?」 「戻ってきますよ」 と、シャープは穏やかに答えました。 「ヌーラン軍曹はすぐに帰ってくると思います。待っている間に南を見てきます。食糧を探してきます」 シャープはハリスを連れて川に沿った小高い場所を歩きました。 「で、お前はゲール語をどれくらい話せるんだ、ハリス?」 と、シャープは尋ねました。 「単語3つくらいですね。お高い人たちの前ではちょっと言えないことばです」 シャープは笑い出しました。 「それで、俺たちはどうするんですか?」 と、ハリスは続けました。 「この川を渡る」 「どうやって?」 「わからん」 「もし渡れなかったら?」 「南に進み続けるかな」 とシャープは言いました。 彼は以前見たスペイン南部の地図を思い出そうとしていました。グアディアナ川はたぶんカディスの西で海に注ぎ込んでいる、ということだけが思い出せました。 フランス軍に包囲されている港町のカディスに街道沿いにたどり着く手段はなく、しかし河口でポルトガル向けて北上する船に出会えるのではないかと彼は思っていました。岸近くにはロイヤル・ネイビー(英国海軍)のパトロールがいるはずでした。 時間がかかるかもしれないが、海にさえ着けば帰れる。 「だがもし海に歩いて向かわなければならないなら、向こう岸のほうがいいな」 「そっちはポルトガルだからですか?」 「そっちはポルトガルだからだ。スペイン人よりはフレンドリーだからな。それにこっちにはカエルどもがいすぎる」 シャープの、川を渡るという望みはさらに数マイル進んで丘の上からグアディアナ川が湖のようなたまりになっているところまできたときに、さらに高まりました。 小さな川が流れ出し、さらに2つの川が流れ込み、そこには白い家々の村がありました。 「渡し舟か釣り船があるかもしれません」 と、ハリスが言いました。 「カエルどもが燃やしていなければな」 「テーブルだって浮きますよ」 と、ハリスは言いました。 「少なくともあそこで食べ物が見つかれば、殿下はお喜びじゃないですか」 「ムーン准将はお喜びだ、ということだな」 「それにあそこをお好みでしょう。違いますか?」 と、ハリスは小さな村の北側にある大きな屋敷を指差しました。 2階建てで窓がたくさんある白塗りの屋敷で、煙突からは煙が流れていました。 シャープは望遠鏡を取り出し、屋敷をチェックしました。 窓にはよろい戸が下ろされていましたが、何人かの男たちがワイン倉のテラスの修理をしており、グアディアナ川に近い菜園にも男の姿がありました。 望遠鏡をずらすと、川岸にボート小屋が見えました。 シャープは望遠鏡をハリスに渡しました。 「村に行ったほうがいいぞ」 と、彼は言いました。 「どうしてです?」 と、望遠鏡をのぞきながらハリスは尋ねました。 「あの家は略奪されていない。違うか?菜園なんか立派なもんじゃないか。どういうことだ?」 「主はフランス人と握手したってことですかね」 「そんなところだろう」 「もしその連中がカエルどもと友達だとしたら、ボートは川沿いにつないであるってことですね?」 「たぶんな」 と、シャープは半信半疑ながら言いました。 「行くぞ。准将を拾おう」 彼らは丘を横切り、准将が勝ち誇った様子でいるところに帰りました。ヌーラン軍曹と部下たちは、まだ戻ってきていないのでした。 「言っただろう、シャープ!やつらを信用するな。あの軍曹はかなりずるがしこそうに見えた」 「脚はいかがですか?」 「ものすごく痛い。どうしようもないんだろう?で、そこそこの街があったといったな?」 「大きめの村ですね。教会が二つあります」 「仕事をわきまえている医者がいることを祈ろう。この忌々しい脚をできるだけ早く見てくれる医者だ。出発だ、シャープ。何をぐずぐずしている?」 しかしちょうどそのときヌーラン軍曹が姿を現したので、准将も待たないわけには行かなくなりました。 ヌーランはむっつりした長い顔で、暗いニュースを告げました。 「彼らは砦を破壊しました、大尉」 と、彼はシャープに言いました。 「私に話せ、私に!」 と、ムーンは厳しい口調で言いました。 「私がここの指揮官だ」 「申し訳ありません、閣下」 と、ヌーランは帽子を取りました。 「砦は爆破されて、誰もいなくなっていました」 「ジョセフ砦のことか?」 「そういうんですか?向こう側のとりでです。すっかりなくなっていたんですよ!木っ端しか残っていませんでした」 「何しか残っていなかったって?」 ヌーランは困ったような顔をシャープに向けました。 「スクラップです」 と、軍曹は言いました。 「粉々の破片です」 「それでわが軍は残っていなかったというんだな?どうしてわかった?」 「そこいらじゅうにカエルどもがいたからです。もうびっしりです。見てきました」 「まったく、何ということだ」 と、ムーンははき捨てるように言いました。 「ご苦労だった、ヌーラン」 と、シャープは言いました。 「ありがとうございます」 「くだらん限りだ。われわれは置き去りにされたんだぞ」 准将は苛立ちを口にしました。 「こういうときはなるべく早く街に向かって食糧を探したほうがいいと思いますが」 とシャープは提案し、ハーパーが担架の前を持ち、コンノート・レンジャーの一番背の高い兵士が後ろを持って准将を運びました。 短い距離を進むのに3時間もかかり、日も高くなりました。 そして丘の斜面から、例の屋敷が見えてきました。 「あの家に向かう」 と、准将は即座に宣言しました。 「あの家はアフランセサドスではないかと思うのですが」 と、シャープは言いました。 「英語を話せ、英語を」 「彼らはフランス軍に協力的だと思われます」 「どうしてそう思う?」 「略奪されていないからです」 「そう推測はできまい」 シャープの言葉で准将は少し考え込みましたが、なおもその屋敷は磁石のように彼をひきつけていました。 快適な環境と上流の人々が確約されていました。 「あそこに行くしかない。そうだろう?それなら行くまでだ!さあ、出発だ」 「街に行ったほうがいいと思いますが」 と、シャープは主張しました。 「きみは口をつぐんだほうがいいぞ、シャープ。命令に従え」 そういうわけでシャープは口をつぐみ、彼らは丘を降りてぶどう園を通り過ぎてオリーブの繁みを抜けました。 低い医師の兵を越えて家に近づくと糸杉の並木があり、オレンジの木が植えられ、花壇には花が咲いていました。 大きな池があって水面は落ち葉で埋まり、道に沿って彫像が立っていました。 その彫像は皆、死の苦しみの最中の聖人たちでした。 兵士たちは目を見張り、彼らのうちのカトリックの信者たちは十字を切り、シャープは人影がないかと屋敷を見渡していました。 窓はよろい戸が下りたままでしたが、やはり煙突からは煙が立ち昇り、そしてそのとき大きな扉が開いて一人の黒ずくめの男が進み出、まるで彼らを待っていたかのようでした。 「シャープ、貴族がお住まいだ。居間に兵卒たちを入れるわけには行くまい。きみと私だけが入って、兵士たちには召使のエリアを貸してもらうようにするのだ」 「担架はどうしますか?外へ?」 と、シャープはとぼけて尋ねました。ハーパーが鼻を鳴らすのが、かすかに聞こえました。 「バカを言うんじゃない、シャープ。まず私を運び込ませろ」 「わかりました」 シャープはテラスに兵士たちを残し、准将と共に暗い色の家具ばかりの居間に入りました。
by richard_sharpe
| 2007-11-08 20:53
| Sharpe's Fury
|
ファン申請 |
||