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1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第2章 - 1 「で、今度は何だ」 と、ムーン准将が問いただしました。 「動けません」 「どいつもこいつも、ちゃんと仕事ができんのか?」 シャープは何も言いませんでした。そのかわり、彼とハーパーはカートリッジボックスをはずして飛び込みました。水深4フィートのところで座礁していたのでした。 二人は舟を持ち上げようとしましたが、それはジブラルタルの岩を持ち上げるのと同じことでした。 フランス軍が追ってくる東の岸から50~60フィート、そして英軍が掌握する東の岸からは150ヤード以上のところに、彼らは動けずにとどまっているのでした。 シャープはほかの兵士たちにも命じて川の中で舟を押させましたが無駄でした。 「こいつを一つ切り離せたらどうでしょう」 と、ハーパーが言いました。それは適切な提案でした。つながった舟橋のひとつを切り離せば軽くなり、押すことができると思われました。しかしそれらはしっかりと梁をロープで固定されていました。 「半日かかるぞ」 と、シャープは言いました。 「カエルどもが嫌がるだろう」 「何をやっているんだ、シャープ」 と、ムーンが筏の上からしかりつけました。 「上陸します」 と、シャープは決断しました。 「全員で」 「まったく、なぜそんなことを?」 「そのわけは」 と、シャープは必死で平静さを保ちました。 「30分もすればフランス軍が追いついてきます。もしわれわれが川の中にいれば、射撃練習の的にされるか捕虜になるかです」 「で、きみの意図は?」 「丘に登って隠れ、敵が去るのを待ちます。彼らがいなくなったら、この舟のひとつを切り離します」 道具もないのにどうやってやるのかまでは考えていませんでしたが、やってみなければならないことでした。 ムーンは他のアンを示そうとしましたが思いつかず、結局ハーパー軍曹に運んでもらうことになりました。 兵士たちは頭の上に銃や弾薬を載せてその後に続きました。 岸に着くと、2丁の銃を2枚の上着の袖に通して担架を作り、ハリスとスラッタリーが准将を乗せて急な坂道を登りました。川岸でシャープは何本かの棒と魚網を拾い、兵士たちの最後尾につきました。 左手には、フランス兵たちが絶壁の頂上へ登っているのが見えました。半マイルほど距離がありましたが、一人が銃を撃ちかけてきました。弾丸は谷のどこかに落ち、こだまが聞こえました。 「遠いから大丈夫だ」 と、ムーンは言いました。担架での移動は彼に苦痛を与えるばかりで、青い顔をしていました。 「頂上へ行きます」 と、シャープはむき出しの岩に覆われた丘の上を顎で示しました。 「何を言うんだ」 とムーンは言いかけましたが、 「フランス軍が来ています」 と、シャープはさえぎりました。 「もしお望みなら、ここに残っていただきますが。連中は砦の軍医に診せてくれるでしょう」 ムーンは一瞬その気になったようでしたが、高級将校が捕虜になった場合、たやすく交換に応じないということもわかっていました。フランス軍の准将が英軍捕虜にでもなっていない限り、交渉は何週間もかかることになり、彼の今後の昇進に影響することは目に見えていました。 「そうしなければならないのなら、丘の頂上へ行こう。しかしその後はどうする計画だ?」 「フランス軍が去るのを待ち、舟を切り離し、川を渡り、ご自宅にお返しします」 「で、どうしてきみはたきぎなんか持っているんだ?」 そのわけは丘の上についたときに准将にもわかりました。 第88連隊の兵卒のゲーガンが、母親が骨接ぎ師で自分も子供の頃から手伝ってきたと申し出たのです。 「骨を引っ張ればいいんです」 と、彼は説明しました。 「引っ張る?」 シャープは尋ねました。 「うまいことクイッとひねるんです。子豚を絞めるみたいじゃなく。俺がまっすぐにしますから、一緒に縛ってください。この旦那はプロテスタントですよね?」 「「たぶんそうだと思う」 「じゃ、聖水はいりませんしお祈りもいりません。ただ、まっすぐに寝かさなくちゃなりません」 准将は抵抗しようとしました。 なぜ川を渡るまで待てないのか、彼は知りたがりました。シャープはあと二日はかかることを彼に告げました。 「早くやれば早いだけ、治りも早いです」 と、ゲーガンは言いました。 「すぐに治さないと、曲がっちまいます。それで、ズボンを切らなくちゃならないんですが、すみませんが」 「切るんじゃない!」 と、ムーンは怒鳴りました。 「ウィロウビーの最高級品だぞ!ロンドン一の仕立て屋だ!」 「じゃ、ご自分で脱いでいただかないと」 と、ゲーガンは言いました。彼はコンノート隊員にふさわしい、荒くれのような風貌をしていましたが、優しい声をしていました。そして結局20分ほどジタバタした後、ついにムーンは彼を信用することにして脚をまっすぐにすることを許可しました。残りの人生を曲がった脚で生きるかどうかの瀬戸際でした。 サロンにいる自分や乗馬をする自分を考え、結局のところ虚栄心が恐怖を克服したのでした。 一方シャープは、フランス軍の動きを見ていました。40人ほどが舟橋に向かっていっていました。 「引き上げるつもりですね」 と、ハーパーが言いました。 「ライフル隊員を丘の中腹まで降りさせて、やつらを止めさせろ」 シャープが命じ、ハーパーはスラッタリーとハリス、ハーグマン、パーキンスを連れて行きました。彼らだけが、シャープと一緒にいる直属の部下でした。しかしそれにしても、優秀な連中なのが慰めでした。 准将は呻きそうなのを我慢して息を止めていましたが、叫び声を上げてしまいました。ゲーガンは彼のブーツを脱がせ(またそれがおそろしく痛そうでした)、ズボンを切り取ろうとしており、そしてシャープが持ってきた棒を折れたふくらはぎの両側にあて、切り取ったズボンでくるみました。そして力を入れ、准将が文句を言うまでしっかりと縛り、そしてゲーガンはシャープに笑いかけました。 「手伝ってもらえますか?将軍の足首を引っ張るだけです。できますか?俺が声をかけたら、うまいこと引っ張ってください」 「神様」 と、准将は何か続けていおうとしました。 「俺が見た中で、あなたはいちばん勇敢な男ですよ、将軍」 とゲーガンは言い、シャープに向かって頼もしげに微笑みかけました。 「いいですか?」 「どのくらいの強さで引っ張ればいいんだ?」 「けっこう強く。難産の子羊を引っ張り出すみたいに。いいですか?しっかり持ってくださいよ、両手で。それ!」 シャープは引っ張り、准将は鋭く高い叫び声をあげました。ゲーガンは添え木を強くねじり、骨がはまり込む音が、シャープにも聞こえました。ゲーガンは准将の足をさすりながら、こう言いました。 「すぐに新品同様になりますよ、准将。良くなります」 しかし准将は返事をせず、シャープは 痛くて声が出せないのだな。と思ったのでした。 ゲーガンは添え木の上から魚網を巻きつけました。 「しばらくの間は歩けませんが、松葉杖を作りましょう。すぐにダンスができるくらいに良くなりますよ」 ライフルの銃声が聞こえ、シャープは振り返り、丘を駆け下りました。グリーンジャケットの部下たちが、芝土に片膝をつき、射撃をしていました。 彼らは川から150ヤード離れ、60フィート情報にいたのですが、フランス軍が川の中に入ってきていました。 フランス兵たちは舟橋をほどこうとしているのですが、銃弾の中で思うように行かないようでした。 シャープは指揮を取っている将校を狙い、引き鉄を引きました。しかし煙が晴れたとき、パニックになった将校が片手に剣を、片手に帽子を持って岸に向かっているのが見えただけでした。ハーパーの2発目が一人の兵士に血しぶきを上げさせ、その兵士は川を流れていきました。 フランス兵たちは岸にシェルターを探し、シャープは 「やつらをくぎづけにしておけ。また筏に近づいたら、すぐに殺せ」 と言い、丘の上に戻りました。 准将は岩に寄りかかっていました。 「何事だ?」 「カエルどもが筏を持っていこうとしています。それを阻止しているところです」 ジョセフィーヌ砦からの砲声も聞こえていました。 「あれはなんだ」 「推測ですが」 と、シャープは言いました。 「われわれの部下たちが、舟橋をボートにしてわれわれの捜索を始めたのではないかと。カエルどもはそれを狙っているのでしょう」 「まったく」 と准将は言って目を閉じました。 「ブランデーを持ってはいまいな?」 「ありません。残念ですが」 シャープは、少なくとも一人くらいは水筒の中にブランデーかラム酒を入れている兵士がいると賭けてもいいと思いましたが、准将にそれを出させるつもりはありませんでした。 「水ならあります」 と、シャープは自分の水筒を准将に差し出しました。 「水なんか」 シャープは自分のライフル隊員たちが、川を渡るまでは慎重に行動すると信じていましたが、第88連隊の6人の兵士たちについてはまた別問題でした。 第88連隊はコンノート・レンジャーズと呼ばれ、全軍の中でももっとも恐るべき兵士たちだと言われていました。しかしそれは、名声でもあるのでした。 6人の兵士たちは歯の欠けた軍曹に率いられていましたが、彼をこちらに引き込めば他の兵士たちも問題なく従うということを、シャープは知っていました。 「名前は?軍曹」 と、シャープは彼に尋ねました。 「ヌーランです」 「あそこを見張っていて欲しい」 と、シャープは筏の上の陸の北側を指差しました。 「カエルどもの1連隊が、あそこから現れるだろうと思う。やつらが出てきたら、銃に歌わせてやれ」 「うまく歌いますよ。聖歌隊みたいに」 「やつらが来たら、われわれは南に向かわなくてはならない。第88連隊が優秀なのは、俺も知っている。ただ、フランス軍1連隊全部を相手にするには、ちょっと少ないんじゃないかと思うんだ」 ヌーラン軍曹は5人の兵士たちを見渡し、シャープの言葉を噛みしめるようにして、そしてむっつりとうなずきました。 「確かにちょっと少ないです。で、差し支えなければこれからどうするかお聞きしたいんですが」 「俺が考えているのは、カエルどもがいずれ俺たちを相手にするのに飽きたら、舟橋のひとつを切り離して川を渡るということなんだ。お前の部下たちに伝えてくれ。全員連れ帰る。連れて帰るためにいちばん言い方法は、我慢することだと」 ライフルの銃声が突然響き渡り、シャープはハーパーの持ち場に戻りました。 フランス軍はまた作業を始めており、今回はロープを使って引っ張ろうとしていました。 シャープはライフルの再装填を始めました。しかしそれを終える前にフランス兵たちはシェルターに戻りました。 シャープは川上を見つめました。 橋を爆破した時、7つか8つの舟橋がイギリス側に残ったはずでした。誰かがそれを使って助けに来ようとしている、という確信はありましたが、その姿は現れませんでした。フランス軍の大砲が全て破壊してしまったのかも知れず、あるいは兵士たちも散り散りになったのかもしれませんでした。 他の希望は消え、6つの舟橋を何とかするしかありませんでした。 「思い出しませんか?」 と、ハーパーがシャープに尋ねました。 「それを考えないようにしているんだ」 と、シャープは言いました。 「あの川はなんていう名前でしたっけ」 「ドゥロとタホだ」 「あそこにはボートは一つもなかったんでしたかねえ?」 と、ハーパーは楽しそうに言いました。 「しまいにはボートを見つけたな」 と、シャープは言いました。 2年前、彼の中隊はドゥロ川の敵側に取り残され、そして1年前は彼とハーパーはタホ川の岸にいて、どちらの時も彼らは軍に戻る方法を見つけ、そして今もまたそういう状況なのでしたが、彼は今、フランス軍がいなくなるだろうということだけに望みを賭けていました。 フランス軍は、斥候を一人ジョセフィーヌ砦に送ろうとしていました。 ライフルマンたちは全員彼を狙い、引き鉄を引きました。しかしその兵士は振り返りながらあちらこちらに避け、ライフルマンたちは引き鉄から指を離しました。 「遠すぎる」 とハーパーは言いましたが、ハーグマンなら命中させたかもしれず、しかし実際のところ、ライフルマンたちはそのフランス兵の勇気に感心し、ライフルの銃火の餌食にするのはもったいないと思ったのでした。 「援軍を呼んでくるぞ」 と、シャープは言いました。 そのあとしばらく、何も起こりませんでした。 シャープは仰向けに寝転がり、空を滑っていく鷹の姿を眺めていました。 ときどきフランス兵が顔を出し、ライフルマンたちの様子をうかがっていました。 「あいつ、小便してますよ」 と、ハリスが言いました。 「させてやれ」 と、シャープは答えました。 フランス兵たちは手を振り、ハーパーがそれに答えて手を振りました。 シャープは兵士たちの間を歩き回り、やっと3枚のビスケットを集めるとヌーランの部下の一人に渡し、水で柔らかくして皆で分けさせました。惨めな夕食でした。 「食料がなければどうにもならないぞ、シャープ」 と、ムーンは不平を言いました。彼は大きいのを寄越すように暗に言っているということはシャープにもわかっていましたが、大きな声で同じ大きさのものが皆にいきわたるように指示しました。 ムーンはいつもよりさらに不機嫌でした。 「どうやってわれわれを食わせていくつもりだ?」 と、彼は問い詰めました。 「朝まですきっ腹を抱えていることになります」 「まったく、どいつもこいつも」 「大尉!」 と、ヌーラン軍曹が呼びました。シャープが振り返るとフランス軍が2中隊、筏のそばにやってきていました。 彼らはライフルのターゲットにならないよう、突撃体勢をとっていました。 「パット!撤退だ!上がってこい!」 と、シャープは坂の下のほうに向かって叫びました。 彼らは、再び准将を運びつつ、急な坂道を越え、川を視野にいれつつ南に向かいました。フランス軍は1時間ほど追っていましたが、やがて舟橋のところに戻っていきました。 「今度は何だ?」 と、ムーンは詰問しました。 「ここで待ちます」 そこは丘の頂上で、岩に囲まれており、一方で全ての方向を見渡せる場所でした。丘の間を縫う街道も見えました。 「どれくらいの時間待つのだ?」 「夜が更けるまでです。それから、舟橋がどうなっているか見にいきます」 「もちろんなくなっているだろうよ」 と、ムーンはシャープのおろかさ加減を思い知らせるように言いました。 「まあ、よく見ておくんだな」 しかし見に行く手間は省けました。というのも、夕暮れ時に川のほうから煙が上がるのが見えたからです。 日が暮れてから、彼はヌーラン軍曹と第88連隊の二人の兵士を伴って北に戻りました。フランス軍は舟橋を持ち去ることには失敗したようでしたが、それを焼き払って使えないようにしたのでした。 「残念だ」 と、シャープは言いました。 「准将はご機嫌よろしくないでしょうね」 と、ヌーラン軍曹は面白がっているような言い方をしました。 「よろしくないだろうな」 と、シャープも同意しました。 ヌーランはゲール語で兵士たちにそのことを話しました。 「連中は英語をしゃべらないのか?」 と、シャープは尋ねました。 「ファーガルはダメです」 と、ヌーランは一人のほうにうなずきながら答えました。 「パドレイグは怒鳴ればわかりますが、怒鳴らない限り聞き取れません」 「連中に、お前たちが一緒で嬉しいと伝えてくれ」 と、シャープは言いました。 「そうですか?」 と、ヌーランは驚いたようでした。 「俺たちはブサコでお前たちの隣にいたんだ」 ヌーランは暗がりの中でにやりと笑いました。 「あれが戦闘ってもんですよね?やつらがこっちに向かってき続け、こっちはやつらを殺し続けて」 「それで軍曹」 と、シャープは続けました。 「俺たちはここ数日は一緒にいなくちゃいけないようだ」 「そのようです」 「となると、俺のルールを知っておいて貰わなくちゃならない」 「ルールなんてあるんですか?」 と、ヌーランは警戒した様子でした。 「飢えない限り、民間人から盗むな。俺の許可を得ずに酒を飲むな。悪魔のように闘え」 ヌーランは、それらについてちょっと考えていました。 「もしそのルールを破ったらどうなりますか?」 「破らないさ、軍曹」 と、シャープはそっけなく言いました。 「破るわけがない」 そして彼らは准将のご機嫌を悪くするために戻りました。
by richard_sharpe
| 2007-10-30 19:12
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