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1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第1章- 3 12人のシャープの部下たちが手押し車を押し、技術将校のスタリッジ中尉が彼らに付き添っていました。 橋に差し掛かると、増水した川に女たちは怯えましたが、かなり足元は楽になりました。枯れ枝や漂流物が川上の側に押し寄せていて、水がしぶきを上げながら、水圧をかけてきているようでした。 「俺が考えているのと同じことをお考えですかね?」 と、ハーパーが尋ねました。 「ポルトか?」 「かわいそうな連中でしたよ」 と、ハーパーはドゥロ川に架かった橋のことを思い出していました。 フランス軍の攻撃から逃げ惑い、ひしめき合った群衆の重さで橋が落ち、数百の人々が川に飲まれたのでした。 シャープは今でもそのときの子供たちの様子を夢に見ました。 3人のフランス人将校たちは橋の向こう側に馬を止め、シャープは急いで女たちを追い越しました。 「ジャック、通訳してくれ」 と、シャープはブレンに声をかけました。二人はスペイン側の岸に渡り、女たちはためらいがちに後に従いました。 シャープが近づくと、将校たちの一人が帽子を取り、敬礼しました。 「第8連隊のルクロワ大尉だ」 と、非の打ち所のない軍服に身を包んだ、ハンサムで真っ白な歯の若い将校は英語で自己紹介しました。 「シャープ大尉だ」 ルクロワは驚いたように目を見張りました。シャープが大尉には見えなかったからでしょう。 シャープのユニフォームはぼろぼろで汚れていました。それでも将校らしく剣を帯びており、しかしそれはむしろ屠殺用の刃物と言ったほうがいいような、重たい騎兵の剣でした。 彼がしているような、ライフルを肩にかけるということも、将校はしないことでした。 そして彼の顔は日に焼けて傷跡があり、社交の場には向かないことは確かでした。恐ろしげな顔立ちで、ルクロワは(彼は臆病者ではありませんでした)シャープの目から敵意を見て取っていました。 「ヴァンダール大佐からの敬意を。それから負傷者を引き取ることを許可いただきたい」 彼は女たちの荷物が滑り落ちた手押し車に目をやり、間を置いてから言葉を継ぎました。 「橋を破壊しようという企ての前に」 「企て?」 と、シャープは尋ねましたが、ルクロワは無視しました。 「もしくはあなたがたは、わが方の負傷者をポルトガル人の弄りものにするつもりか?」 シャープは言い返そうとしましたが、こらえました。要求は公正なものであり、彼はジャック・ブレンを、フランス人たちから聞こえないところまで引っ張って行き、こう言いました。 「准将のところに行って、こいつらは俺たちが橋を壊す前に負傷者を引き取りたいと言っていると伝えろ」 ブレンが橋を引き返している間に2人のフランス将校は、女たちを連れてジョセフィーヌ砦に引き返していきました。 ルクロワはタバコをシャープに勧めましたが、シャープは首を振りました。 「今朝の攻撃は見事だった」 と、彼はタバコに火をつけながら言いました。 「そちらの守備隊は眠っていた」 シャープの答えに、ルクロワは肩をすくめました。 「守備隊か。役立たずだ。年寄りと病人と疲れ切ったやつらだ」 彼は唾を吐き捨てました。 「しかし今日はもう十分やっただろう。橋は破壊できないぞ」 「なぜだ?」 「大砲だ」 と、ルクロワはジョセフィーヌ砦を指差しました。 「大佐は橋を確保することを決意された。彼が決意したということは、為されたも同じさ」 「ヴァンダル大佐だったか?」 「ヴァンダールだ。」 と、ルクロワはシャープの発音を訂正しました。 「第8連隊のヴァンダール大佐だ。聞いたことはないか?」 「ないね」 「もっと勉強するべきだな、大尉。アウステルリッツの記事を読みたまえ。ヴァンダール大佐の勇敢さには驚くだろう」 「アウステルリッツ?何だそれは?」 ルクロワは肩をすくめました。 女たちの荷物は橋の向こうに放り出され、兵士たちはシャープの指示でスタリッジ中尉の下に集められました。スタリッジは4番目の舟橋の梁を蹴飛ばしており、それは腐っていて、彼は穴を大きくしようとしているのでした。 「これを広げられれば、ここから向こうを吹き飛ばせる」 シャープを呼ぶハーパーの声に振り返ると、ジョセフィーヌ砦からフランス歩兵隊がこちらに向かってきていました。 彼らは銃剣を構えて隊列を組み、橋に向かっているのでした。少なくとも100人はいました。 なんてこった、とシャープは思いました。スタリッジを急がせたほうがいい。 ポルトガル側から、雷のような轟きが聞こえてきました。准将が2人の将校に伴われ、馬を駆けさせているのでした。さらにレッドコートの兵士たちが砦から駆け下り、シャープたちの援軍として合流しようとしていました。 准将が徴発した牡馬は、揺れる足元に苛立っていました。しかしムーンは騎手としても敏腕で、うまくコントロールしていました。彼はシャープの傍らに馬を乗り付けました。 「何事だ?」 「負傷者を引き取りたいと」 「それではあの兵士たちは何をしている?」 「橋の爆破を阻止しようとしているようです」 「なんだと」 と、ムーンはあたかもそれがシャープの失策であるかのような目つきで彼を見ました。 「交渉をしながら戦闘もするというのか?同時に両方できるわけがない!戦争にもルールというものがあるのだ!」 彼は馬を進め、ジリスピー少佐がシャープに同情的なまなざしをちらりと向けながら、准将を追いました。3番目の将校はジャック・ブレンでした。 「ブレン!来い!通訳をしろ。私のカエル語は平均点以下なんだ」 とムーンは怒鳴りました。 ハーパーはスタリッジを手伝って4番目の舟橋の梁を曲げ、火薬の樽を押し込んでいました。スタリッジは上着を脱いで腰に巻きつけた導火線をたぐっていました。 シャープのすることはないようだったので、彼はルクロワのところに向かった准将を追いました。 フランス軍の進撃に、准将の怒りは爆発寸前でした。 「負傷兵の救出の交渉をしながら進軍するとは!」 と、ムーンは噛み付きました。 「彼らは負傷者を引き取りに来ただけと信じますが、ムッシュー」 と、ルクロワは答えました。 「武器を所持するな!私は許可していない。なぜ彼らは銃剣を装着している?」 「誤解があるようです」 と、ルクロワは柔らかく言いました。 「この件について、わが軍の大佐と話し合ってくる許可をいただけますでしょうか」 彼は歩兵隊の後ろに控えている騎馬の将校を指し示しました。 「ここに来るように、彼に言いたまえ」 と、ムーンは命じました。 「使者をお送りいただけますか?」 「ああ、まったく!ジリスピー少佐、行って話してきてくれ。将校1人と20人の兵士たちだけを、武器を携行せずに送るようにと。ブレン中尉、通訳をしてやれ」 ジリスピーとブレンがルクロワと共に丘を登っていき、そのころ第88連隊の軽歩兵隊が到着し、橋の上は混雑してきました。 シャープは心配になり始めました。 彼の部下たちはスタリッジを護衛しており、そこに88連隊が加わり、彼らはフランス軍の銃撃の、絶好の標的となるはずでした。さらにジョセフィーヌ砦の胸壁からは、砲兵隊が榴弾砲をお見舞いしようと待ち構えているに違いありませんでした。 ムーンは88連隊に橋から降りるように命じましたが、いまや明らかに彼らは援軍というよりは混乱をもたらしただけでした。 フランス将校が1人、馬で橋に向かってきていました。ジリスピーとブレンは、他の将校に歩兵隊の後ろ側に伴われていきました。 そのフランス将校は20歩ほど先に馬を横様に止め、シャープは、これがヴァンダル大佐だな、と思いました。 彼は立派な金色の肩章をブルーの上着につけ、帽子には白のボンボンが派手な飾りになっていましたが、むしろないほうがよさそうでした。 彼は残酷な、敵意のある表情をしており、細く黒い口髭をはやしていました。たぶんシャープと同年代の30代半ばで、傲慢な自信に満ちていました。 彼は流暢な英語を早口のかすれ声で話しました。 「向こう岸に撤退したまえ」 と、彼は前置きもなく言いました。 「きみは誰だ?」 と、ムーンは問いただしました。 「アンリ・ヴァンダール大佐だ。向こう岸に撤退し、橋も破壊せずに残せ」 彼はポケットから時計を取り出し、蓋を開け、准将にそれを向けました。 「銃撃開始まで、1分やろう」 「こういうやり方はない」 と、ムーンは高尚なことを持ち出しました。 「大佐、もし闘うつもりなら、まず私が送った使者を敬意を持って送り返すべきだ」 「使者?」 と、ヴァンダールは面白そうに言いました。 「白旗も掲げていなかったようだが」 「きみの部下も持っていなかった!」 と、ムーンは抗議しました。 「それに、ルクロワ大尉によれば、きみたちはわが方の婦人たちを火薬と一緒に歩かせたそうだな。私はきみらが来るのを阻止できなかった。彼女たちの命を危険にさらすことになる。きみたちが女性の命を盾にしたのだ。文明的な戦争行為のルールを放棄したのはきみたちだ。橋が無事であれば、いずれはきみの使者たちをお返ししよう。1分だ、ムッシュー」 ヴァンダールはそういいながら馬を返し、戻っていこうとしました。 「きみは彼らを捕虜にするのか?」 と、ムーンは叫びました。 「そうだ!」 ヴァンダールはためらいもなく叫び返しました。 「戦争にもルールというものがある!」 その背に向かって、ムーンはまた怒鳴りました。 「ルール?」 ヴァンダールは馬首をめぐらし、端正で傲慢な表情を向けました。 「戦争にルールがあると思っているのか?われわれフランス人はただ一つのルールを持っている。戦争において、それは勝つことだけだ。それ以外にはない」 彼は馬を丘にむけて進め始め、ふたたび叫びました。 「1分だぞ」 「なんということだ」 と、ムーンはフランス人が去っていくのを見つめながらつぶやきました。彼は混乱していました。 「ルールがあるのだ!」 「橋を爆破しますか?」 と、シャープはぶっきらぼうに尋ねました。 ムーンは、まだヴァンダールを見つめていました。 「彼らが交渉を求めてきたのだ!あの男が!こんなことは許されない。ルールがあるのだ!」 「橋の爆破をお望みですか?」 と、シャープは再び尋ねました。ムーンには聞こえていない様子でした。 「ジリスピーとブレンを返してこなくてはならないのだ。なんということだ。ルールがあるのに!」 「返してきませんよ」 と、シャープは言いました。 ムーンは鞍から身を乗り出し、ヴァンダールの裏切り行為がどんなに彼にダメージをもたらしたか気づいていないかのような、戸惑った表情をしていました。 「捕虜を取ることはできないのだ!」 「たとえ橋に手をつけなくても、やつは二人を返しませんよ」 ムーンはためらいましたが、この橋の破壊に彼のキャリアの将来が懸かっていることを思い出しました。 「爆破しろ」 と、彼は荒っぽく言いました。 「下がれ!」 と、シャープは振り返って兵士たちに叫びました。 「下がるんだ!ミスター・スタリッジ!導火線に点火!」 「しまった」 と、准将は自分が橋のいてはならない方にいることに気づきました。しかし兵士たちで混み合っており、すでにフランス人に与えられた時間の半分は過ぎている中、彼は馬の向きを変え、橋にそって進もうとしました。 ライフルマンたちとレッドコートたちは走り出し、シャープはその後をライフルを構えて後ろ向きに進みました。 少なくとも、彼はフランス軍のマスケットの射程外なので安全でした。しかしシャープはヴァンダールが砦に向かって手を振ったのを見たのでした。 「しまった」 シャープも准将と同じ言葉を口にし、そのとき6門の大砲による榴弾発射の砲声で、世界中が震動したようでした。 空はかげり、弾丸がシャープの周囲でうなり、橋を叩き、兵士たちをなぎ倒し、川面を波立たせました。 後ろで叫び声がして、歩兵たちが橋にめがけて突撃してきました。 砲撃の後の、奇妙な静寂が漂っていました。 まだ銃声もせず、川も静まり、そしてまた叫び声が上がりました。 今度はムーンの乗馬が首から血を吹き上げていななき、准将は兵士たちの塊の中に落ちました。 スタリッジは死に、シャープからはその向こうに火薬の樽があるのが見えました。 この技術将校は頭を榴弾砲で砕かれ、まだ火のついていない火口(ほくち)を持って倒れていました。 シャープは火口箱をひったくり、樽めがけて走り出しました。 彼は導火線を短くちぎり、何度か失敗してからようやく麻紐に火をつけました。 彼はその火に息を吹きかけ、炎を導火線に移すと、火薬が火花を散らし始めるのを確認しました。 フランス兵の戦闘の兵士が女たちの荷物のところまで達し、それを蹴って横にどけ、そして端になだれ込むと、片膝をついてマスケットの狙いを定めました。 シャープは導火線を見ていました。 なんてゆっくり燃えているんだ! ライフルの銃声がしました。フランス兵の一人が顔を血で染めてゆっくりと倒れました。 燃えるのが遅すぎる! フランス軍はほんの数ヤード先にいて、将校たちの命令までが聞こえ、シャープは導火線をちぎってさらに短くしました。そして火のついている導火線を、樽に結びなおしました。今度は数インチしか長さがありませんでした。 盛んに燃えているのを確かめると、彼は西側の岸に向かって走り出しました。 ムーンは負傷していましたが、88連隊の兵士たちが彼を運んでいました。 「大尉、急いで!」 と、ハーパーが怒鳴りました。 シャープにはフランス兵たちの足音が聞こえていました。 ハーパーは7連発銃を構えました。それは海軍の武器で、一度に7発の銃弾で敵をなぎ倒す破壊力を持つもので、反動も大きく、おろそかに扱うと怪我をするのでした。 パトリック・ハーパーは十分それに耐えうるほどの頑丈な男でした。 「伏せて!」 と彼は叫び、シャープは身を投げ出し、軍曹は引き鉄を引きました。 その音でシャープは耳が聞こえなくなるほどでしたが、フランス軍の前列は吹き飛ばされ、そのうち生き残った軍曹が1人、火薬の樽に駆け寄ろうとしました。 シャープはまだうつぶせになっていましたが、ライフルを構え、狙いを定める余裕もなく引き鉄を引きました。 煙の中で、フランス軍曹の顔が血に染まるのが見えました。彼は後ろ向きに倒れ、導火線はまだ無事に火花を散らしており、そして世界中が爆発したのでした。
by richard_sharpe
| 2007-10-16 19:12
| Sharpe's Fury
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