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1811年3月、バルロッサの戦い。
第1部 グアディアナ川 第1章- 2 ハーパーはシャープの傍らで腹ばいになり、谷を見下ろしていました。 「確かか?」 「またです。見えますか?」 准将の命令でランタンには覆いがかけられ、フランス軍から見えない側だけが持ち上げられたのでした。 シャープは兵士たちに呼びかけました。 「みんな、今だ」 彼らは一斉に立ち上がりました。整列はせず、尾根線に散らばっていかにもパルティザンらしく見せていました。 目的はフランス軍に北に注意を向けさせ、西からの攻撃に気づかれないようにさせることでした。 「それだけですか?俺たちはこの辺で小便していればいいだけで?」 と、ハーパーは尋ねたものでした。 「そんなところだ」 と、シャープは答えました。 「立ち上がれ!カエルどもにお前たちの姿を見せてやれ!」 フランス軍の将校たちが望遠鏡をのぞいてもそれとはわからないように、兵士たちはコートでユニフォームを隠し、帽子を取っていました。 「1,2発、お見舞いしますか?」 と、ハーパーが尋ねました。 「やつらを煽るな。ただこっちの姿を見せてやればいい」 「やつらが目を覚ましてからなら、撃ってもいいですか?」 「あっち側に気づいたらな。グリーンジャケットの朝飯を食わせてやろうじゃないか」 シャープたちの小隊は、ほとんどがレッドコートの英国陸軍歩兵たちなのに、その中にライフル隊のグリーンジャケットが混ざっている、という点でユニークでした。 それは手違いによるもので、シャープたちはコルンナからの撤退の際、リスボンに向かう途中で本隊からはぐれたのでした。そしてレッドコートのサウス・エセックス連隊に合流したのでした。 グリーンジャケットの兵士たちのライフルは、傍目には短いマスケットにしか見えませんでしたが、その銃身の中には7条の溝が螺旋状に切ってあり、そこがマスケットとの大きな違いでした。弾丸を回転させることで、正確に狙うことができるのです。 マスケットのほうが装填に時間はかかりませんが、ライフルは3倍の射程を持っていました。 フランス軍はライフルを持っていなかったので、シャープたちは反撃を恐れずにジョセフ砦の歩兵たちを狙うことができました。 「連中が行きます」 と、ハーパーが言いました。 歩兵部隊が丘を目指して進撃していました。暁の光の中で、レッドコートは黒っぽく見えました。 梯子を運んでいる兵士たちもおり、汚れ仕事だな、とシャープは思いました。 フランス軍の大砲は、装填されているはずでした。 散弾が装填されていたら、厄介だな、とシャープは思いました。散弾の標的にされた歩兵部隊は、大きなダメージをこうむるからです。 しかしいずれにしても、それはシャープの仕事ではありませんでした。 シャープはシルエットを浮かび上がらせながら丘の稜線を歩き回っていました。 フランス軍は奇跡的にも、西から近づいている400の兵士たちに気づいていないのでした。 「がんばれよ」 と、ハーパーはつぶやきました。攻撃隊全員に対してではなく、第88歩兵部隊のコンノート・レンジャーズだけが対象でした。彼らはアイルランド人だったので。 シャープは見ていませんでした。自分が見ていたらこの攻撃は失敗に終わるという、妙な予感めいたものが彼を襲ったのでした。彼は代わりに川を見下ろし、浮橋の船の数を数えていました。最初の銃声が聞こえるまで、砦のほうを見ないで数えていようと思っていました。 31の平底舟がありました。ということは、平底舟一艘につき10フィートとして、川幅は100ヤードということでした。平底舟は大きく、しっかりしたつくりで、端が四角くなっており、梁で作られた道に固定してありました。 この冬のスペイン南部からポルトガルの一帯は雨が多く、グアディアナ川も増水していました。 平底舟はそれぞれ鎖を下ろして錨を撒き、各舟の間に遊びができるように調節していました。 100トン以上の重さに耐えるな、とシャープは推測しました。この仕事は橋を破壊するまでは、終わらないのでした。 「やつら、寝ぼけてるんだな」 と、ハーパーは砦の防衛隊のことを評しましたが、シャープは対岸のジョセフィーヌ砦の上で、兵士たちが大砲を操作しているのを見ていました。 兵士たちがさがり、大砲が発射され、川面は汚い煙でかすみました。散弾砲でした。 薄い金属の缶に銃弾を詰めたものが砲から発射されると同時に破裂し、砲声が谷間にこだまして、半インチほどの弾丸がシャープたちのいる丘にも飛んできました。 「誰か当ったものは?」 と、シャープは尋ねましたが、誰も答えませんでした。 砲撃は、さらにこちらの丘のほうに、砦の衛兵たちの注意を向けさせただけでした。 「頭を低くしていろよ」 シャープは言い、マスケットでの銃撃に、あえて反撃させませんでした。 もうそろそろ終わりでした。 見る間に、砦の上にはレッドコートの英国兵たちが登っていき、ブルーのユニフォームのフランス兵に銃剣を突きつけました。ライフル隊の出番はありませんでした。 「大砲の射程から出ろ!」 とシャープは叫び、兵士たちは崖を駆け下りました。 2発目の砲弾が炸裂し、弾丸がシャープのコートの縁を引き裂きました。彼は辛くも砲撃の射程外に逃れました。 ジョセフ砦の大砲は沈黙していました。守備隊は不意を突かれ、レッドコートたちが砦の中心部に突入し、フランス兵はなだれを打って東の門から橋を渡り、スペイン側にあるジョセフィーヌ砦に向かって逃げ出していました。 10名あまりのフランス兵が捕虜になったらしく、残りは皆、逃げたようでした。 英軍へいたちが銃剣を振りかざし、そんな彼らの様子を見下ろして雄叫びを上げていました。 何もかもが、あっという間でした。 「俺たちの役目は終わった。砦に向かって降りるぞ」 「簡単でしたね」 と、ジャック・ブレン中尉が嬉しそうに言いました。 「まだ終わっていないぞ、ジャック」 「橋のことですね?」 「あいつを破壊してからだ」 「そいつは厄介じゃないですか」 「まったくな」 と、シャープは言いました。 彼は若いジャック・ブレンが好きでした。エセックス出身のまっすぐな若者で、不平も言わずにハードな仕事をこなしていました。兵士たちもブレンが好きでした。ブレンは彼らを公平に扱い、特権階級出身の自信を持ち合わせ、しかしそれは陽気さで魅力的なものとなっていました。 いい将校になる、とシャープは思っていました。 彼らは丘を降りて岩場の谷を横切り、まだ胸壁に向けてはしごがかかっている砦のある、つぎの丘を登りました。 ジョセフィーヌ砦の大砲は、いまやいっせいに火を噴き、しかしそれは皆無駄弾に終わりました。 「ああ、きみもきたか、シャープ」 と、ムーン准将はシャープを迎えました。この勝利のせいか、いつものシャープへの嫌悪を忘れたかのようでした。 「おめでとうございます」 「何だって?ああ、どうもありがとう。思ったよりもうまくいった。向こうでお茶を入れている。きみの部下たちにも飲ませてやれ」 フランス兵たちは中央に集められ、厩にいた馬はムーンの凱旋のために吟味されていました。将校は一人でしたが、倉庫を引っ掻き回している英軍兵士を惨めな面持ちで見ていました。 「新しいパンだ!」 と、ムーンの参謀の一人のジリスピー少佐がシャープにひとかたまりのパンを投げて寄越しました。 「まだ温かいぞ!いい暮らしをしていたようだな」 「やつらは飢えているんじゃありませんでしたっけ」 「ここの連中は違うぞ。乳と蜜の土地だ」 ムーン准将は胸壁の階段を昇り、大砲の横に武器庫があることに気づきました。 ジョセフィーヌ砦の砲兵たちは彼の赤いユニフォームを見て砲撃を再開しました。散弾筒が胸壁の上をかすめて飛んでいきました。 「シャープ!」 と、彼は叫び、ライフルマンが胸壁に上ってくるのを待ちました。 「ぐずぐずしている暇はないぞ、シャープ。砲弾と、榴弾だ」 「散弾ではなく?」 「榴弾だ。絶対に榴弾砲だ。海軍の武器庫だ。船を全部ひきあげたから、榴弾砲が残っているんだ。普通の砲弾では橋を破壊できない。そうだろう?それから下に女たちが何人かいる。きみの部下を何人かつけて、橋の向こうに連れて行ってやれ。フランス軍に私からの挨拶と一緒に。残りはスタリッジを手伝ってやれ。向こう側を爆破しなくちゃならん」 スタリッジ中尉は工兵隊のエンジニアで、その任務は橋を破壊することでした。彼は神経質な若者で、ムーンを怖がっているようでした。 「向こう側を?」 と、シャープは尋ね、自分の聞いたことを確認しようとしました。 ムーンは物分かりの悪い子供に言い聞かせるように 「シャープ、こちら側で橋を爆破したら、向こう側は無事で、フランス軍は流れた舟橋を引っ張りあげることができる。修復できるじゃないか。もしスペイン側で爆破したら、われわれは舟橋を焼いてしまえば言いだけだ」 と、大げさに辛抱強い様子で言いました。 「行きたまえ。私は明日の夜明けまでには出発したいのだ」 第74歩兵部隊の歩哨が、18人の女たちを連れてきました。 「お前が連れて行け」 と、シャープはジャック・ブレンに言いました。 「私がですか?」 「女は好きなんだろう?」 「もちろんです」 「それにあいつらのいけ好かない言葉も、ちょっとは話せるんじゃなかったか?」 「信じがたいことですが、そうです」 「ではご婦人方を橋の向こうの砦までお連れしろ」 ジャック・ブレンが彼女たちに出発のために荷物をまとめさせている間に、シャープはスタリッジを探しにいき、彼が砦の武器庫にいるのを見つけました。 「火薬です」 スタリッジは樽の中の火薬を舐めてみていました。 「ひどい火薬ですよ」 彼は唾を吐き出しました。 「まったくフランスの火薬ってやつは。埃よりマシっていう程度です」 「使えるか?」 「爆発はするでしょうね」 「手伝うよ」 「外に手押し車があります」 と、スタリッジは言いました。 「それを使いましょう。5樽もあれば十分です。このゴミでもね」 「導火線はあるのか?」 スタリッジは上着のボタンをはずして、何ヤードかを胴に巻きつけているのを見せました。 「なぜこっちで爆破しないんでしょうね。それか真ん中とか?」 「フランスが修理できないようにだそうだ」 「できませんよ。橋を架けるのは大変なんです。舟橋は、シロウトにはかけなおすのは無理ですよ。フランス軍はわれわれが向こう側に行くのを嫌がるとは思いませんか?」 「嫌がるだろうな」 「じゃあ、ここが私の死に場所になるわけですね。英国のために」 「だから俺がついていくんだ。死なせないよ」 「慰めにはなりますね」 彼は、腕組みをして壁に寄りかかっているシャープにちらりと視線を走らせました。 シャープの顔は帽子の陰になり、しかしその中で眼だけが光っていました。傷跡のある顔は厳しく、用心深そうで、鋭いものでした。 「確かに慰めにはなります」 スタリッジは言い、そして准将がやってくるのを見ると小さい声で罵りました。 シャープはムーンが馬を馴らしているところに戻り、ジャック・ブレンが手押し車に女たちの荷物を載せているのを見ると、それをおろさせました。 ハーパーと部下たちが火薬の樽を手押し車に載せ、その上に女たちの荷物を載せなおさせ、シャープは 「火薬の目くらましになる」 と、ハーパーに説明しました。 「目くらましですか?」 「火薬を積んで橋を渡ったら、もしお前がカエルどもならどう思う?」 「嬉しくないでしょうね」 「だろう、パット。俺たちを射撃練習の的にするぞ」 準備が全て終わったのは、朝もよほど時間がたってからでした。ジョセフィーヌ砦からの砲撃は途絶えていました。 シャープはフランス側から女たちの受け取りの使者が来るのではないかと思っていましたが、来ませんでした。 「将校夫人たちのうちの3人は、第8連隊所属です」 と、ジャック・ブレンがシャープに言いました。 「3人が何だって?」 「第8連隊です。カディスにいた連中ですよ。ただ、彼らはバダホ攻撃に援軍として送られたんです。部隊は川を渡ったんですが、そのうち何人かの将校と奥さんたちは、昨夜はこちら側に泊まったそうです」 ブレンはちょっとシャープの反応を待ちました。 「わかりませんか?川の向こうに、フランス軍の連隊がそっくりそのままいるんです。第8連隊が。ただの守備隊じゃありません。戦闘部隊です。ああ、まいったな」 最後のことばは、女たちの中から抜け出してきた二人が、スペイン語で彼にまくし立てたことに対してでした。 ブレンは彼らに微笑みかけ、なだめようとしました。 「彼女たちは、自分たちがスペイン人だといっているんです。だから向こう側には行かないと」 「こっちで何していたんだ?」 二人は同時にシャープに向かって話しはじめ、どうやらフランス兵に無理やりさらわれてきたらしい、ということがわかりました。 「それで、どこに行きたい?」 と、彼はヘタクソなスペイン語で尋ねました。 二人はまた同時に話し始め、川向こうの南側を指差しました。 「好きなところに行かせてやれ、ジャック」 門が開かれ、ブレンが先頭に立って大きく腕を広げて戦意がないことを示し、女たちがそれに続きました。 川への小道はデコボコしていて石ころだらけで、舟橋へ続く木の舗道に達するまで、彼らはゆっくり進みました。 シャープと兵士たちが後ろにつき、方にライフルと7連発銃をかけたハーパーが、シャープにうなずきかけました。 「レセプション・パーティーが始まりますよ」 3人の騎乗のフランス将校がジョセフィーヌ砦から姿を現しました。 彼らは女たちと兵士たちが近づいてくるのを、そこで待っているのでした。 やっと再開しました。 見に来てくださっていた皆さん、ありがとうございます。 少し小刻みに訳すことにしようかと思います。 今日で第1章の半分くらい。 各章、4回ずつくらいになるかもしれません。 この作品、長いです。。。
by richard_sharpe
| 2007-10-12 17:51
| Sharpe's Fury
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