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1810年、ブサコ作戦。
第3部 トレス・ヴェドラス防衛線 第13章 - 3 ロウフォード中佐は西側と北側に、突撃隊の兵士の数が増していくのを見ていました。 南は手薄で、東側は洪水に阻まれて無人でした。 騎兵隊は突撃隊の後方に控えて、銃撃がサウス・エセックスを弱体化して攻撃が可能になるのを待ち構えていました。 まだマスケットの射程にはやや遠い距離でしたが、それでも次第に中央に集められた負傷兵が増えていきました。 サウス・エセックスに被害が及ぶことを恐れた砲兵たちは北側に砲撃をすることができず、フランス兵たちはそちらに殺到していきました。 「農場にたどり着くことができますかどうか」 と、フォレストがロウフォードに近づいてきました。 ロウフォードは答えませんでしたが、フォレストは軽歩兵隊を見捨てることを示唆しているのでした。 南に向かい、丘に戻ればサウス・エセックスは生き延びる。軽歩兵隊を失うことになるのは残念だが、連隊全部を失うよりはマシだ。 「銃撃が弱まってきているのは確実です」 とフォレストは言いましたが、それは農場の方のことを言っているのでした。 ロウフォードは鞍の上で身体をよじり、農家の周りの粉塵が薄らいでいくのを見ました。フランス兵たちが家畜小屋の陰に回りこむ様子も見え、それは農家の兵士たちは打ち破られてはいないことを示していましたが、フォレストの言っていることは正論でした。 「気の毒なことをした」 と、ロウフォードは言いました。 彼は一瞬、湿地を横切って農場に向かおうか、とも考えましたが、サウス・エセックスの銃撃によって主をなくした馬の一頭が湿地で足を取られてもがいているのを見、トラブルを招くだけだと悟りました。 ロウフォードは決心しなければなりませんでした。 「負傷者を運べ」 と、彼はフォレストに言いました。 「撤退ですか?」 「仕方あるまい、ジョセフ。仕方がない」 とロウフォードが言った時、突撃隊の銃弾の一発がライトニングの右目を射抜きました。ライトニングは後足立ちになり、叫び声を上げ、ロウフォードはブーツで蹴り上げて左側に身を投げ出し、地面にしたたかに叩きつけられました。 巨大な牡馬が倒れるのを、それでも彼は何とか避けることができました。 ロウフォードの召使が駆け寄り、ライトニングに向かってピストルを構えましたが、彼はためらいました。 「やれ。やってくれ!」 ロウフォードは叫び、ルロイ少佐がピストルをひったくると馬の頭を足で抑え、額を撃ち抜きました。ルロイはブーツを血で染めて、部隊の東側に戻っていきました。 「少佐、命令を」 と、ロウフォードはフォレストに言いました。 彼は涙ぐんでいました。ライトニングはすばらしい馬だった。 サウス・エセックスは撤退を開始し、それはいらだたしいほどにノロノロした動きでした。 フランス軍はそれを見てあざけりの叫びを上げ、さらに接近してきました。 彼らは英軍を撃破し、金づるの捕虜を確保し、武器を奪い、そして隊旗2つを手に入れようとしていました。 ロウフォードは銃弾で穴だらけになった旗を見上げ、それがはずされる時の衣擦れの音を思い浮かべ、その考えを無理に払いのけました。 怒っているであろうピクトンのいる丘に戻り、たぶん他の連隊の笑いものになるだろうが、それでもサウス・エセックスは生き延びなければならない。それだけだ。 ポルトガル軍のライフルが、ロウフォードの部隊の南側に進路を作ろうとして射撃を始めました。しかし騎兵隊が襲撃をはじめ、ポルトガル兵たちは再び四方陣形を取らざるを得なくなりました。 ひっきりなしの砲撃をついて、騎兵隊は谷の中央に向かおうとしており、ポルトガルのライフル隊はサウス・エセックスのために彼らを一掃しようとしてくれているのでした。 後2,300ヤードも行けば丘に近づき、フランス軍も追撃をあきらめるだろう。 ロウフォードは農場を振り返りました。もう屋根からも窓からも煙は上がっておらず、全ては終わったように見えました。 「それでも少なくとも、救出を試みた」 と、彼はフォレストに言いました。 そして失敗した。と、フォレストは思いました。しかし、何も言いませんでした。 軽歩兵隊は、取り残されたのでした。 シャープはフェラグスが右を狙った拳を避け切れずに左肩で受けました。まるで銃弾を受けたかのようでした。 危うく倒れるところでしたが、フェラグスがシャープの頭を狙ってはなった右パンチを、かろうじて帽子を飛ばす程度で免れ、シャープはライフルの銃床をフェラグスの左ひざに叩きつけました。 痛みに立ち止まったフェラグスの拳をさらにライフルで殴りつけ、修道院でシャープが与えた傷に、さらに打撃を加えました。 二人のレッドコートがフェラグスを押さえ込もうとしましたが弾き飛ばされ、しかしシャープには立ち直る隙を与えてくれました。 彼はライフルをハーパーに放りました。 「まかせろ」 と彼は言い、剣のベルトのバックルをはずすと、ブレンに渡しました。 「窓の外を見張っていろ、ミスター・ブレン!よく見ているんだぞ!中に入れるな」 「俺に殺らせてください」 と、ハーパーが言いました。 「パット、ミスター・フェレイラとはフェアにやらなくちゃならん。さあ、あんたと俺だけだぜ?」 と、シャープはフェラグスに笑いかけました。 セイラは大男の背後にいて、マスケットの撃鉄を起こしました。一瞬それに気をとられたフェラグスに向かって踏み込み、シャープは右拳でフェラグスの左目を殴りつけました。手ごたえはありました。フェラグスは首を大きくのけぞらせ、シャープはすばやく下がりました。 「あんたがこいつを殺したいのはわかる」 と、シャープはセイラに言いました。 「でもレディーのすることじゃないぞ。俺に任せておけ」 シャープは再び踏み込み、フェラグスの閉じた左目を狙い、左へ左へと動いていきました。フェラグスはそれをちゃんと把握しており、シャープが予期したよりも早く、左ストレートをシャープの肋骨に食らわせました。包帯で巻いた肋骨に、砲弾を受けたような衝撃がありました。シャープが一瞬の差で下がっていなければ、床に倒れていたであろうと思われました。 肋骨の痛みに耐えながらシャープはもう一度左目を狙い、しかしフェラグスはそれをかわして再び左パンチを繰り出し、今度はシャープは避けました。 フェラグスは左目の視界を失い、ひどい頭痛に襲われていました。しかし彼はシャープもまた痛手を負っている事をわきまえていました。 シャープは負傷した兵士たちの一群と暖炉の間にさがり、フェラグスは間を詰めました。 その時暖炉の中で酔っ払っていたスリングスビーが、左足を突き出し、フェラグスはそれにつまずきました。 その間にシャープはフェラグスの正面から、左目にもう一度一撃を与えました。そして立て続けに鼻にも。 「放っておいてやれ、ミスター・スリングスビー。ミスター・ブレン、窓の外を見張っているか?」 「はい」 「よく見張っておけ」 シャープは負傷兵たちの前を通り過ぎ、フランス軍の標的になりかねない、窓の近くの広く開いたスペースに移動しました。フェラグスは、彼に向かって突進してきました。 シャープは後ろに下がってフェラグスの左側に回りこむようにし、次々と彼の腹に拳を打ちつけました。 それはさほどのダメージにはならないことを、シャープは知っていました。それよりも、シャープはフェラグスの背後に賭けていたのでした。 シャープはフェラグスの顔に頭突きをし、その衝撃でがんがんと耳鳴りはするし視界は赤くなり、暗くなるし、それでも彼はフェラグスを押しまくり、その左パンチを側頭部に受け、もう一発喰らったら駄目かも知れない、と思いながらも、フェラグスを窓のところまでおびき寄せることに成功しました。 シャープはつぎの一撃を避けようとしましたが頭蓋骨に激痛が走り、しかしそのとき、フェラグスは身震いしました。 もう一度身震いし、フェラグスの生きているほうの右目の光が鈍くなりました。 驚いたようにシャープを見つめるフェラグスの喉を、シャープは殴りました。フェラグスは反撃しようとしましたが、彼の背は既に窓に全体をさらしており、ようやく標的を見つけたフランス軍の銃弾がさらに彼を貫き、血が唇から滴りました。 「ミスター・ブレン!ちゃんと見ていなかったな」 最後の一発がフェラグスの首筋を撃ち抜きました。そして彼は朽木が倒れるように倒れ伏したのでした。 シャープは帽子を拾うと大きく息をつきました。 「ミスター・ブレン、アドバイスは欲しいか?」 「もちろんです」 「フェアに闘うな」 シャープは剣をつけると、 「フェレイラ少佐に2人つけろ。もう2人、スリングスビー中尉につけてやれ。あと4人、このバッグを運べ」 と、フェレイラたちが運んでいたバッグを指差しました。 「ミスター・ブレン、入っているものが何であろうとミス・フライのものだ。盗まれないように縛っておいてくれ」 「わかりました」 「それから」 と、シャープはセイラに話しかけました。 「ホルゲにいくらか金貨を分けてくれるだろう?ボート代を払わなくちゃならない」 「もちろんよ」 「よし!」 とシャープは言ってハーパーを振り返りました。 「みんな着替えたか?」 「もうすぐです」 そしてハーパーがレッドコートを着終わると(いちばん大きなものでしたが、それでもハーパーには小さく見えました)、シャープはブレン中尉と上着を交換し、フランス軍がライフル隊員のことをマスケットしか持っていないと勘違いしてくれるように願いました。ズボンはグリーンのままだったからです。 「これからやることは」 と、シャープは小隊の兵士たちに言いました。 「連隊を救出することだ」 「出撃するんですか?」 と、ブレンは声を硬くしました。 「ちがう。あの連中が出る」 シャープは3人のポルトガル人を指差しました。彼はハーパーからライフルを受け取ると、3人を狙いました。 「出ろ!」 3人はためらいましたが、彼らの主人を倒したシャープにも怖れを抱いていました。 「連隊の陣まで走れば助かるといってやれ」 と、シャープはヴィセンテに言いました。ヴィセンテは半信半疑の様子でしたが、シャープの顔色に何かを読み取り、抗議をやめました。 3人は走り出しました。 シャープは嘘を言ってはいませんでした。 最初のうち、フランス軍は反応するのを忘れたようでしたが、数秒後に農家から誰か出てくると予想したらしく、銃撃が始まりました。 3人の男たちを狙った弾は全て外れ、そうしているうちに彼らは射程距離外に出ました。 フランス兵たちは建物の陰から出てきました。 「ライフル隊!連中を殺しまくれ」 シャープは言いました。 ライフル隊の銃声に、フランス突撃隊はパニックに陥り、建物の陰に駆け込みました。 シャープは兵士たちに計画を話し始めました。 レッドコートを着込んだライフルマンたちがまず全速力で走り、氾濫した川に向かって狙いをつける。 「そして堆肥の山の前で、援護射撃をする」 その後フェレイラ少佐とスリングスビー、セイラとホアナがヴィセンテの先導で続き、最後にブレン中尉が小隊の残りの兵士たちを率いる。 「お前が殿軍だ」 と、シャープはブレンに言いました。 「突撃隊をひきつけろ。中尉、正攻法の戦闘だ。二人一組になって、うまく冷静に戦え。敵はグリーンジャケットには近寄りたがらないはずだ。だからうまくいくさ。俺たちの後をただついてくればいい。湿地に入り、連隊をめざす。例の3人が走り抜けたから、溺れるほど深くはない。大丈夫だ。連中が道を教えてくれた」 既に3人は、フランス兵たちの危険地帯から逃れていました。 フランス兵たちは物陰に隠れ、標的が来るのを待っていました。 「ライフル隊、準備はいいか?」 シャープは彼らを正面の扉の陰に集まらせ、まず全力疾走で農場を抜けること、そして堆肥の手前で止まって振り返り、射撃を始めることを言い聞かせました。 「思い切りやれ。行くぞ!」 シャープがまず飛び出し、堆肥のところで片膝をつきました。 レッドコートのライフルマンたちが散らばって突撃体勢をとり、彼の傍らに戦列を整えました。シャープは将校を探しましたが見当たらず、こちらにマスケットを向けている兵士に狙いをつけました。 「ホルゲ!いまだ!」 ライフルの射撃が始まりました。 フランス兵たちは、自分たちが安全だと思い込んでいました。しかし今、彼らはバタバタと倒れていっているのでした。 ヴィセンテは農場を振り返り、そのとき彼をマスケットの銃弾がかすめました。 「止まるな!」 とシャープは叫びました。 「ミスター・ブレン!いまだ!」 一番人数の多いブレンのグループが最後に飛び出してきました。 「ライフル隊!下がれ!下がれ!」 18人のライフルマンたち全員がヴィセンテに続き、連隊に駆け込んだ3人のポルトガル人の後を追いました。 連隊は撤退しようとしていました。しかし彼らが立ち止まるのがシャープには見えました。農場から軽歩兵隊が飛び出したことに気づいたのでした。 赤い連隊の戦列は煙に縁取られ、その上に二つの隊旗が翻っていました。 シャープは振り返りました。まるで時間がゆっくり流れているかのように見え、シャープは驚いていました。全てが驚くほどはっきりとしていました。 ブレンの部下たちは突撃体制を作るには遅すぎ、ひとりが膝をついて倒れました。 「おいていけ!」 と、シャープは怒鳴りました。 彼は立ち止まってライフルを再装填しました。 「戦闘だ、ミスター・ブレン!突っ込め!」 フランス兵たちは農場から出てきましたがマスケットにさえぎられ、後退しようとしていました。 シャープは将校が剣をかざして叫んでいるのを見つけ、狙い、引き鉄を引き、煙で姿を見失いました。 その傍らの地面に銃弾が食い込みました。そしてもう一発、彼の頭上をかすめました。 ブレンは兵士たちの指揮を取り、手順どおりの戦闘を繰り広げながら、ゆっくりと撤退しつつありました。 シャープは振り返り、ライフル隊員たちに駆け寄りました。彼らは湿地の中でシャープを待っていました。 「あっちだ!」 と彼は叫び、連隊の北面を攻撃しているフランス突撃隊を指差しました。 ヴィセンテは既にサウス・エセックスの近くに迫っており、あふれた川を渡っていました。 シャープは向きを変えたライフル隊員たちに合流しようと走り続けましたが、次第にブーツが泥に取られていきました。 彼はヴィセンテたちとブレンたちを先に連隊に向かわせ、ライフル隊員を手元において、連隊へ攻撃をかけようとしている突撃隊にダメージを与えることにしました。 フランス兵たちの中で、こちらを気にしているものはわずかでした。マスケットではとても届かない距離だと思われたからです。シャープの思惑通りでした。 「将校と、軍曹だ。探せ。そいつらを殺せ」 と、シャープはライフルマンたちに言いました。 そのためにライフル隊を、神は作ったのでした。マスケットでは届かない距離でも、ライフルなら仕留められる。 そして自分たちの前にあるのはマスケットだと信じていた敵は、突進して来ました。 最初の数秒でライフルマンたちは3人のフランス兵を倒し、7人に負傷させ、再装填後の射撃では、敵を混乱に陥れました。 サーベルを握って振り上げた将校を狙い、シャープは引き鉄を引きました。煙が消えた時、その将校の姿はありませんでした。 ブレンは無事に湿地を突っ切り、彼らを追うものはいなくなっていました。 フランス兵たちもライフルとたたかうハンデを悟り始めていましたが、遠くにいた騎兵隊はまだ状況が理解できず、撤退する歩兵たちの中を突き進んできました。 「下がれ!ゆっくり下がって左に寄れ!」 もう連隊の方陣は間近でした。彼らは川を渡りつつあり、水の深さも1フィートほどでした。騎兵隊は、その手前もずっとそれくらいの深さだと勘違いしたようでした。 「奴らが足を取られるまで待て」 と、シャープは言いました。 「それから撃て」 先頭の一頭が流れに入り込み、騎手を振り落としました。後続の馬たちはペースを落としました。 シャープの叫びで、ライフルマンたちは射撃を始めました。 日焼けした顔にピッグテイルをたらした軽騎兵が1人、流れに突進してきましたが、シャープの放った弾丸が、そのブルーのジャケットを撃ち抜きました。 騎兵隊の2列目の真ん中で、砲弾が炸裂しました。 シャープは次に竜騎兵を狙いました。仕事は簡単になってきていました。 さしもの騎兵たちも不利を悟り、馬首を返してもっと足場の良い場所へと戻ろうとしましたが、さらにその後をライフルの銃弾が追うのでした。 そしてサウス・エセックスの向こう側にいるポルトガルのカザドールたちからも、ライフルの銃撃が始まりました。 フランス兵たちは安全圏まで、完全に撤退していきました。 「一日の仕事にしちゃ、悪くなかったな、パット」 と、シャープはライフルを肩にかけまわしながら言い、取り残された馬のほうにうなずいて見せました。 「馬をおまけにくれたみたいだな。軍曹、お前にやるよ」 サウス・エセックスは4列に隊列を立て直し、騎兵の最後の襲撃に備えていました。 しかし騎兵たちは挟み撃ちになるのを恐れて手出しをせず、軽歩兵隊は戦列に復帰したのでした。 「うまくいった。良かった」 と、ロウフォードは言いました。彼はハーパーが引いてきた馬に乗っていました。 「ちょっとハラハラしましたが」 と、フォレストは答えました。 「ハラハラした?」 と、ロウフォードは驚いたような声音で返しました。 「まさか!全てが思ったとおりに運んだ。まったく思ったとおりだった。ライトニングは残念だったが」 彼は嫌悪をこめた視線で、明らかに酔っ払っている義弟を見ました。スリングスビーは連隊旗の後ろに座り込んでいました。 ロウフォードはシャープが歩いてくるのを見つけると、帽子を取りました。 「ミスター・シャープ!よくやってくれた。本当にすばらしかった。ありがとう。さすがはきみだ」 シャープはブレンと上着を取り替え、嬉しそうに見つめているロウフォードを見上げました。 「農場に残してきた負傷兵を救出に行く許可をいただけますか?」 と、シャープは言いました。 「任務に戻る前に」 ロウフォードは戸惑いました。 「負傷兵の救出も、きみの任務のうちだと思うが?」 「補給将校に戻る前に、という意味なんですが」 ロウフォードは鞍の上から身を乗り出しました。 「ミスター・シャープ」 と、彼は穏やかに言いました。 「はい」 「つまらないことを言うのはやめてくれ」 「わかりました」 「それからきみをペロ・ネグロに派遣しなくてはならない」 とロウフォードは言って、シャープが理解していないのを見て取ると、こう付け加えました。 「本部にだ。将軍がきみからの報告を望んでおられる」 「ミスター・ヴィセンテを送ってください。それから捕虜と。将軍がお望みのことは、彼らが話すはずです」 「それからきみも話せるはずだ」 と、ロウフォードはフランス軍が遠くの丘に撤退していくのを見ながら言いました。 「特にありません」 と、シャープは言いました。 「特にないだと!まったく、2週間も行方不明になっておいて、何も話すことがない?」 「道に迷っただけです。テレピン油を探していたんですが。申し訳ありませんでした」 「道に迷っただけか」 と、ロウフォードは単調に言い、そして泥だらけのズボンをはいてマスケットを手にしたセイラとホアナに目をやりました。 彼は二人の女性について何か言いたそうでしたが、首を振ってシャープに視線を戻しました。 「何も言うことがないだと?」 「抜け出してきました」 と、シャープは言いました。 「それだけのことです。戻ってきました」 彼らは抜け出して戻ってきました。 それが、シャープの脱出の顛末でした。
by richard_sharpe
| 2007-07-21 17:12
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