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1810年、ブサコ作戦。
第3部 トレス・ヴェドラス防衛線 第13章 - 2 サリュー将軍の2人の参謀が調査を完了し、砲撃の中を帰還しました。 英軍の第119保塁を回り込む谷間を進み、榴弾と銃弾をかいくぐっての作業でした。 彼らは突撃隊の兵士たちの間を通り抜け、流れを飛び越えて将軍のそばに馬をつけました。 「谷間は封鎖されています」 と、一人が報告しました。 「木立と藪と柵が谷を塞いでいます。通り抜けられません」 「それに大砲を備えた稜保がその上に設けられています。谷を抜けるのを待ち伏せているのです」 と、もう一人も言葉を添えました。 サリューは罵りました。 彼の仕事は終わろうとしていました。できることは、レニエ将軍に報告することで、レニエはさらにマッセーナ元帥に報告するだけでした。 大砲は全て本物で、敵軍を突破するラインは全て封鎖されているということを。 彼に必要なのは撤収の喇叭を鳴らして攻撃隊を撤退させることでしたが、参謀たちが命からがら引き返したと同時に、ポルトガルのカザドールたちが繰り出してきたのが、サリューには見えていました。 その敵たちは闘いを求めており、そういう挑戦を受けて立たなければ、将軍から元帥に昇進することなど望めないのでした。 「奴らは防衛線からどうやって出てきたんだ?」 と、彼はポルトガル突撃兵を指差しながら尋ねました。 「丘の裏側に細い抜け道があります。門と防砦で守られています」 サリューはうめきました。 ということは、ポルトガル兵が使った抜け道から攻撃することは無理だということでした。しかし彼は撤退する前に、敵が求めている戦闘を受け、少なくとも鼻面を撃ちたたくくらいのことはやってのけるつもりでした。 「突撃をかけろ」 と、彼は命令しました。 「それから例の歩哨たちはどうしている?」 「隠れています」 「どこに?」 参謀は煙の中の農家を指差しました。霧は晴れてきていましたが、そこだけ濃霧が立ち込めているようでした。 「引きずり出せ!」 とサリューは命じました。 歩哨を捕虜にする、という当初の目的から、4連隊も率いてきた以上、何らかのダメージを与えなければ引き返すことはできない、と彼は考えるようになり、たとえそれがわずかな数の捕虜の獲得でも、一種の勝利といえるものを勝ち得なければ気がすまなくなっていました。 彼は馬腹を蹴って川を渡り、家畜小屋を通り過ぎましたが、そこではさらに悪い知らせが待ち受けていました。 ポルトガル兵がフランス騎兵を押し戻し、ライフルの銃声が響いているのでした。 皇帝はなぜライフルは役に立たないなどと考えたのだろう。 役に立たないのは目に見えない敵を撃とうとするマスケットで、もしそれがライフルなら、ずっと向こうの娼婦の背中に止まっている南京虫さえ撃ち抜けるのに。と、サリューは思いました。 「レニエ将軍に騎兵隊を出してくれるように要請しろ。連中を一掃できるだろう」 ただの偵察のはずだったのが、このとき戦闘へと状況は変わったのでした。 サウス・エセックスは、第119保塁の西側からポルトガル軍が出撃したのと同時に東側から出発し、2つの部隊はいまやその谷間を封鎖していました。 サウス・エセックスの正面には、水のあふれ出た川に縁取られた農場がありました。 ロウフォードの左手は丘の斜面で、ポルトガル軍の攻撃と保塁からの砲撃により、フランス軍がくぎづけになってしまっていました。 「無茶だ」 と、ロウフォードは言いました。 サウス・エセックスの将校たちは馬に乗る暇もなく召集されましたが、ロウフォードだけはライトニングにまたがり、その鞍の高さから、彼には農場に向かう道筋が見えていました。そこに向かわなければならない。 ロウフォードの号令で兵士たちは2列縦隊になり、ロウフォードはその農場の向こうを見渡して分厚い煙の壁ができていることに気づき、軽歩兵隊が力の限りの抵抗を示していることを理解しました。 「コーネリアス、よくやった」 と、彼は声に出して言いました。 スリングスビーが丘に撤退するよりも農場に立てこもるほうを選んだというのは軽率な行為でしたが、少なくとも彼は激しく戦っているのです。 「少佐、進撃だ!」 と、ロウフォードはフォレストに告げました。 サウス・エセックスは小隊ごとに4列に隊列を組みなおし、2小隊が横並びに、奥行きは4小隊という編成になり、第9小隊が最後尾につきました。 ピクトン将軍が、上から見下ろしているはずでした。 「必要に応じて展開させる」 と、ロウフォードはフォレストに説明しました。 「農場に向かう道から橋を占領し、各小隊を農場に送り込む。彼らを指揮してくれ。カエルどもを一掃し、コーネリアスたちをこちらに合流させる。夕食までには戻ろう。ペッパー・ハムがあるんだ。いいと思わないか?」 「いいですね」 「それから、ゆで卵だ」 と、ロウフォードは言いました。 「便秘になりませんか?」 と、フォレストは尋ねました。 「卵で便秘になる?まさか!私は毎日ゆで卵を食べているし、父もそうだった。快調だったと、彼は保証してくれるよ。ああ、やつらがこっちに気づいたぞ」 ロウフォードは小隊の間の狭い空間にライトニングを乗り入れました。彼が見た「やつら」とは軽歩兵隊と突撃隊で、彼の連隊の正面に集まりつつありました。 フランス軍は既にポルトガル軍の右翼への攻撃を開始し、今度は新たな敵を発見したのでした。 突撃に十分な数とはいえませんでしたが、ロウフォードは彼の軽歩兵隊が敵の攻撃部隊を後退させることができるということを願っていました。 フランス軍の射程距離に入る前に彼は兵士たちの戦闘に立ち、部下と危険を分かち合おうとしました。 農場に目を向けると、そこではあいかわらず激しい戦闘が続いている様子でした。 銃弾がロウフォードの頭をかすめ、黄色い連隊旗を撃ちぬきました。 彼は鐙に立ち上がり、谷の向こうを見渡すと、そこには丘の間から騎兵の一群が姿を現していました。 遠すぎて、まだ何もできない。 「右へ!」 と、ロウフォードは右翼の先頭の榴弾兵たちの間にいるフォレストに向かって叫びました。 「あっちだ!」 と、彼は橋の方向を指差しました。 太股を押さえて崩れる兵士が眼に入り、ロウフォードは彼を後方に運ぶように指示しました。負傷者を置き去りにするつもりはありませんでした。あの騎兵隊が突進してこない限りは。 そしてありがたいことに、フランス軍は砲兵隊を連れていない。 騎兵隊は川を渡り、ロウフォードの目にも引き抜いたサーベルや剣が見えてきていました。混成の騎兵隊で、竜騎兵や軽騎兵のそれぞれのユニフォームが入り乱れていました。ほんの1マイルほどの距離のところまで迫ってきたところでポルトガル兵たちに気づきましたが、彼らは四方陣形を取って騎兵に備えました。 騎兵たちはそちらを避け、まっすぐにサウス・エセックスに向かってきました。 砲弾が騎兵たちの頭上で炸裂し、彼らはやや散らばりました。 「密集陣形!」 と、ロウフォードは怒鳴り、兵士たちはおのおのの間の距離を縮めました。しかし各小隊間の距離を詰める暇もなく、騎兵たちがそこに割って入りました。 「進軍を続けろ!気を取られるな!」 ロウフォードは、騎兵を見て緊張したすぐ近くの小隊に声をかけました。 騎兵は半マイル先に一列に広がり、左翼は彼らの餌食になろうとしていました。 タイミング次第だ。 と、ロウフォードは思いました。 まだ四方陣形を組むには早すぎました。 数はどれくらいだ?300か?いや、もっとだ。 その蹄が柔らかい芝草を踏む音が聞こえ、旗印が見え、その隊列がギャロップで馬を進め始めました。 まだ早すぎる、とロウフォードは思いました。 地面は湿っていて、彼らがやってくるには思っているよりも時間がかかる。 また砲弾が破裂し、一騎の竜騎兵が血しぶきを上げ、剣を放り投げて馬ごと倒れました。 2列目の騎兵たちが迂回した時、ロウフォードは 今だ。 と思いました。 「四方陣形!」 教科書どおりの美しさだ。 と、ロウフォードは思いました。 後方の小隊の群れが立ち止まり、中央の小隊は両脇に広がり、そして前方の小隊が足踏みをしている間に、それぞれの部分がお互いにはまり込むようにして陣を作りました。 外側の列の兵士たちは、片膝をつきました。 「銃剣装着!」 ほとんどの騎兵は後退しましたが、少なくとも100騎はまっすぐにロウフォードの攻撃に向けて馬を進めてきました。 方陣の西面が煙に包まれ、それが流れ去ったのちには12ほどの死体を残して騎兵は駆け去りました。 突撃隊のほうは大きな攻撃目標を見つけ、方陣に向けて盛んに発砲していていました。 彼らはレッドコートたちが陣形を乱し、攻撃のチャンスを与えるのを待っているのでした。 ロウフォードにはその隙を与えるつもりはありませんでした。 しかし、やがて彼はジレンマに気づきました。 彼自身が敵の突撃隊に乗り入れ、進撃のきっかけを作るのがいちばんいい方法だと思われましたが、そうすると騎兵が攻撃してくることになり、それはさらに大きな危険に連隊をさらすことになるのでした。 砲兵隊による砲撃は、彼の助けになってくれてはいました。しかし地面が柔らかく、中には土に埋もれて爆発しない砲弾もあるのでした。 ロウフォードは連隊の北側に馬を進めました。 方陣を組んだままの進軍は難しく、ゆっくりとしか進めず、しかも中央には負傷者を抱えており、ひっきりなしに歩兵隊からの攻撃も受けているのでした。 簡単そうに見えた任務が、いきなり死地に追い込まれたことを、ロウフォードは悟りました。 「ライフル隊がいれば」 と、フォレストがつぶやきました。 ロウフォードは苛立ちましたが、彼もまた同じ思いでした。 彼の失策でした。それはわかっていました。軽歩兵隊の小隊全部を歩哨に送り込み、まさかトラブルに巻き込まれるなどとは思いもせず、そして今まさに彼の連隊はトラブルのさなかにいるのでした。 サウス・エセックスは谷間のど真ん中で、遠くの保塁からの砲撃以外に援護はなく、その間にも突撃隊が血のにおいをさせながら続々と迫りつつあるのでした。 今のところ犠牲は少なく、しかしそれはフランス兵たちが距離を保っているおかげだというだけのことで、その間にも彼らの孤立はいよいよ強まっていました。 ピクトンが見ていることを、ロウフォードは知っていました。 それなのに、八方ふさがりでした。 ヴィセンテが降りてきて、レッドコートの連隊が救援に向かってきていることを告げました。しかしそれも半マイルほど先で騎兵隊に阻まれていました。 シャープは窓越しに黄色の連隊旗を見つけました。サウス・エセックスでした。 しかし今の様子では、100マイルも向こうにいるのと同じ程度に助けになりませんでした。 フランス軍は何度かの攻撃を繰り返したのちに建物の陰に身を隠し、ライフルの的にならないようにしていました。 突撃隊で一杯だった庭も、今は空でした。 シャープはライフル隊員のうち二人を降りてこさせ、自分とパーキンスと共に正面の窓からフランス軍を狙わせましたが射程距離外で、ほとんどの者たちが家の両側に隠れるか、連隊への襲撃をかけようとしている突撃隊に合流しているか、なのでした。 「さてどうする、ミスター・ブレン?」 と、シャープは尋ねました。 「何をですか?」 と、ブレンは質問が自分に向けられたことに驚いていました。 シャープは笑いました。 「あんたはここでよく闘った。よくやった。だからどうやってここから連中を追い払うか、いいアイデアがあるんじゃないかと思ったのさ」 「闘い続ける、ということですか?」 「まあ、それは普通だな」 とシャープは言い、すばやく窓から見渡して、銃撃が途絶えていることを確認しました。 「カエルどもはこれ以上踏みこたえられない」 と、彼は言いました。 それはブレンにしてみれば、楽観的な予想のように思えました。彼にわかる限りでは、谷間はフランス軍でいっぱいで、レッドコートは文字通り足止めされているのでした。 シャープも同じ結論に達していました。 「ミスター・ブレン、国王にもらっている金のお返しをする番だぞ」 「金って、何ですか?」 「金って何かって?あんたは将校で、ジェントルマンだ。おかげで金持ちじゃないか」 兵士たちの何人かが笑い出しました。 スリングスビーは暖炉の中で足を投げ出し、水筒を抱えて居眠りしているようでした。 シャープはもう一度窓から外を見ました。 「トラブルが発生した」 と、シャープは連隊のほうにうなずきました。 「彼らはわれわれの援護を必要としている。ライフルを必要としている。それによって、われわれは彼らを援護することができる」 彼は捕虜たちのほうに振り返りました。そして、ある考えが形をとり始めました。 「それで、フェレイラ少佐が降伏するように命令したそうだな?」 と、彼はブレンに尋ねました。 「そうです。彼は命令を出す立場にはないとわかっていましたが・・・」 「その立場ではない」 とシャープはさえぎり、なぜフェレイラがフランス軍の手に投降しようとしたのか、さらに興味を持ちました。 「なぜ降伏するか、彼は言ったか?」 「フランス軍に交換条件を出すはずでした。われわれの降伏と引き換えに、民間人を解放すると」 「こそこそしたやつだな」 と、シャープは言いました。 フェレイラはシャープを見つめていました。 「それで、俺たちよりも先に軍に戻ろうとしたな?」 と、シャープはフェレイラに尋ねました。彼は何も言いませんでした。 「あんたはダメだ、少佐。あんたは軍人だ。あんたを逮捕した。だが、あんたの兄とその部下は行っていい。ミス・フライ、立つように言ってくれ」 4人はおずおずと立ち上がり、シャープはパーキンスと2人のレッドコートに銃口を向けさせて、ハーパーに手足をほどかせました。 「何かしたいなら外でやれ。フランス軍はいない」 と、シャープはセイラに通訳させました。 「リード軍曹、正面のドアの前の荷物をどけろ」 シャープはフェラグスとその3人の部下たちを振り返りました。 「ドアが開いたら思いっきり走れ」 「フランス軍が彼らを撃つかもしれない」 と、まだ弁護士としての自分を忘れていないヴィセンテが抗議しました。 「行かないなら俺が撃つ」 シャープは言いました。家の裏手から発砲音がして、屋根裏のライフル隊員がそれに応酬していました。 つぎの攻撃が来る。 しかしフランス軍はめくら撃ちに撃っているだけのようでもありました。 サウス・エセックスによる銃声は鈍く、遠くなり、かわりにポルトガル兵のライフルの銃声が聞こえてきていました。 部屋の端にいたフェレイラ少佐は、ポルトガル語でフェラグスに何か言いました。 「出て行ったらあなたが後ろから撃つだろうと言っているわ」 セイラが通訳しました。 「俺は撃たないと言ってやれ。早く走れば助かると」 ドアの前の障害が取り除かれ、シャープはヴィセンテを見ました。 「ライフル隊員たち全員を屋根裏から下ろしてくれ」 フランス軍に撃ちかけているライフルの銃声が聞こえなくなると心細くなるだろう、とシャープは思いました。 「ハーパー軍曹!体格の合った6人のライフルマンと6人のレッドコートのジャケットを交換させろ」 「ジャケットを?」 「聞こえただろう!6人ごとに続けさせろ。ライフルマン全員、レッドコートに着替えさせたい。その上から背嚢を背負わせろ」 シャープは振り返って部屋の中央にいる負傷者たちを見ました。 「われわれは打って出る」 と、シャープは彼らに言いました。 「お前たちはここに残れ」 警戒の色が、兵士たちの顔をよぎりました。 「フランス軍はお前たちには何もしない」 英軍はフランス軍の負傷者の面倒を見ていましたし、フランス軍も同様でした。 「しかし奴らはお前たちを撤収の時に連行したりもしないだろう。俺たちは戻ってくる。だがフランス軍はお宝を奪おうとするだろうから、大切なものは友達に預けておけ」 「何をするつもりですか?」 と、負傷兵の一人が尋ねました。 「連隊を助けに行くのさ」 と、シャープは答えました。 「その後で戻ってくる。約束する」 一人目のライフルマンが、しぶしぶレッドコートに袖を通しました。 「急げ!」 その時、パーキンスが苦痛の叫びを上げました。 シャープは窓から銃弾が飛び込んだかと思いながら半ば振り向き、しかし彼が見たのはフェラグスでした。 縛から逃れ、パーキンスを殴り、この兵隊だらけの部屋で発砲するのを兵士たちがためらっているうちに、フェラグスは今、シャープに向かってきているのでした。
by richard_sharpe
| 2007-06-27 18:55
| Sharpe's Escape
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