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1810年、ブサコ作戦。
第3部 トレス・ヴェドラス防衛線 第13章 - 1 シャープは農場のある小高い場所の周りの湿地を、四苦八苦しながら進んでいました。 撃たれるかもしれない、と思っていましたが、フェレイラ兄弟たちは待ち伏せをしてはいないようでした。そして家畜小屋にたどり着いたとき、その理由がわかりました。 フランス軍の突撃隊が、農家の周囲を固めていたのです。 「誰と誰が戦っているんでしょうね」 と、ハーパーがシャープに追いついてきて尋ねました。 「さあな。パット、あれはライフルじゃないか?」 農家から銃声が聞こえたのでした。 「そうですね」 「じゃあ、うちの連中がいるわけだな」 シャープが家畜小屋に回りこんだとき、今度はマスケットの銃声が農家から響き、そのうちの何発かは家畜小屋の壁に撥ね返りました。シャープは丸太の柵に身を潜め、頭の上をかすめていく銃弾を避けました。 「ポルトガルかもしれないぞ」 と、シャープはハーパーに向かって叫びました。 「そこにじっとしていろ、パット!」 「無理です。カエル野郎どもが近づいてきています」 「待っていろ」 シャープは柵の後ろ側に立ち上がり、ライフルを農家に向けました。しかしいきなり、正面の窓が煙にかき消され、銃撃が始まりました。 「来い!」 シャープは叫び、ハーパー、ヴィセンテ、セイラ、ホアナが建物の角を回り込んでシャープに合流しました。 二人のフランス兵の姿が見え、ハーパーが一人を倒し、ヴィセンテの銃弾はもう一人が身を隠した石壁に当りました。 シャープは後続を予期してライフルを構えました。 「家に行ってみる」 とシャープは言い、柵越しに窓を見ると、レッドコートが見えたように思いました。 フランス兵は姿を見せず、しかしいずれは彼らを見つけるだろう、とシャープは思っていました。 「カエルを見張っていてくれ。ひとっ走りしてくる。レッドコートがいるみたいなんだ」 彼は警戒しながら農家の敷地を進みましたが、次第に銃声はおさまっていき、そして遠くで聞こえる砲声以外に物音は聞こえなくなりました。 シャープは待っていました。動くものはなく、銃声も聞こえませんでした。 彼は柵に身を隠しながら農家に近づき、窓には誰の姿もないのを確認しました。 他の4人も後に続き、しかし誰も彼らを撃ってきませんでした。 「大尉!」 と、ハーパーが叫び、振り返るとフランス兵がいて、銃を構える代わりに彼らに向かって手を振りました。 交渉が行われている。 将校が一人現れ、彼らに向かって下がっているようにと身振りで示しました。 シャープはVサインを送ると隣の建物に駆け寄り、そのドアを勢いよく開きました。中にはフランス兵が二人いて、シャープにマスケットを向けかけましたが、ライフルの銃口が彼らを狙っていることに気づいたようでした。 「変なことを考えるなよ」 とシャープは言って部屋を横切り、反対側の農家に近い扉を開けました。他の4人も後に続き、セイラは怯えているフランス兵と言葉を交わしていました。 「喇叭が聞こえるまで撃たないように言われているんですって」 「撃たないように言っておいてくれ」 フランス兵たちは、待機していました。 中には帽子を目の上に引き下げて横たわり、少しでも眠ろうとしているものもいました。 シャープは農家の中には誰がいるのだろうか、と考えながら庭を横切っていきました。 英軍なら安心、しかしもしポルトガル軍なら、フェレイラはシャープたちを殺すように指示するだろう。 しかしここにとどまっても、交渉が終わればフランス軍に殺されることになるのです。 「家の中に入る。角を曲がるとカエルどもがいる。無視するんだ。銃を構えずに、連中を見ないで平気な振りをして歩け」 窓には誰の姿もなく、フランス兵たちはおしゃべりをしたり休んだりしていました。シャープは危険を犯す決意をしました。庭を横切るだけだ。ほんのすぐそこだ。 「いくぞ」 と、彼は言いました。 敵兵が交渉の間の休戦を破った時に銃撃を命令するように支持されているはずの将校たちは、シャープたちの姿を見て驚きのあまり一瞬反応することを忘れました。彼らがようやく行動に出ようとしたとき、シャープたちは農家の入り口に達していました。一人が何か言おうとして口を開きかけました。 「いい天気じゃないか?」 と、シャープは彼に笑いかけました。 「濡れた服がよく乾きそうだ」 シャープは他の4人に先に通らせ、最後に家に入りました。そこにはレッドコートの兵士たちがいました。 「誰が俺たちを殺そうとした?」 と、シャープは大声で詰問しました。度肝を抜かれたライフル隊員のパーキンスが、返事の代わりに無言でフェレイラ少佐を指差し、シャープはそっと部屋を横切るといきなりライフルの銃床でフェレイラの側頭部を殴りつけました。 少佐は崩れ落ち、一歩踏み出そうとしたフェラグスをハーパーのライフルの銃口が押しとどめました。 「おやりなさいよ」 と、ハーパーはやんわりと言いました。 レッドコートもグリーンジャケットも、シャープを見つめていました。 正面の戸口に立っていたブレン中尉は立ち止まって振り返り、まるで幽霊でも見てしまったかのようにシャープを見ていました。 「お前ら、この馬鹿野郎!」 と、シャープは言いました。 「お前らみんなだ。外にいた俺たちを殺そうとしたな!思いっきり撃ちやがって、貴様ら!一発だってかすりもしなかったぞ!ミスター・ブレンだったな?」 「はい、大尉」 「どこに行くつもりだ、ミスター・ブレン?」 しかしシャープは返事を待たず、振り返りました。 「ハックフィールド軍曹!この民間人たちを武装解除しろ。そのでかいやつが面倒を起こすようなら、撃て」 「撃つんですか?」 と、ハックフィールドは驚いて聞きなおしました。 「耳が悪いのか?撃て!身じろぎでもしようものなら、撃っていい」 シャープはブレンに向き直りました。 「それで、中尉?」 ブレンは動揺していました。 「降伏するところです。フェレイラ少佐がそうすべきだと」 と、彼はぴくりともせずに倒れているフェレイラを指しました。 「彼が指揮すべき場ではないとわかっていますが、しかし彼が言ったことは、えーと・・・」 と、彼の声は次第に小さくなりました。彼はスリングスビーもまた降伏を主張した事を言おうかと思いましたが、それは責任回避にあたり、不名誉なことだと思ってやめました。 「申し訳ありません。私の決断です。フランス軍は大砲を用意しているというものですから」 と、彼は意気消沈して続けました。 「嘘だ。連中は大砲なんぞ持っていない。この湿地に、馬が大砲を運んでこられると思うか?おまえたちを脅しただけだ。老いぼれるまで俺たちはここに籠っていられることを、奴らは知っているのさ。ハーヴェイ、カービー、バッテン、ピータース、ドアを閉めて荷物を積み上げろ。ブロックするんだ」 「裏口もですか?」 と、ライフル隊員のスラッタリーが尋ねました。 「いや、スラッツ、開けておけ。たぶん必要になる」 シャープはすばやく窓から外を見て、その窓が地面から高すぎてフランス兵たちが襲撃しにくいと見て取りました。 「ミスター・ブレン、こちら側の指揮を任せる。4人を指揮しろ。奴らはここを抜けられない。他のレッドコートは上か?」 「そうです」 「下に来させろ。ライフル隊だけを上に上げる。カーター、ペンドルトン、スラッタリー、スィムズ。梯子をあがって好きなようにやれ。ミスター・ヴィセンテ、その肩で上に行けるか?」 「大丈夫だ」 「ライフルを持っていって、うちの連中の面倒を見てくれ」 シャープはブレンに向き直りました。 「お前は4人に射撃を続けさせろ。狙わずに撃つだけでいい。他のレッドコートたちをこちら側に集中させたい。ミス・フライ、マスケットは装填してあるか?よし。フェラグスを狙え。もし動いたら撃て。息をしても撃っていいぞ。パーキンス、ご婦人方と一緒にいて、捕虜たちをそれらしく扱え。セイラ、こいつらに座って手を頭の上に載せるように言ってくれ。もし手を動かしたら撃つと」 シャープは4人の捕虜たちのところへ行くと、その荷物を部屋の片側に蹴って動かしました。コインが鳴る音がしました。 「あんたの荷物のようだな、ミス・フライ」 「5分経ちました」 と、ブレンが言いました。 「たぶんそうだと思います」 彼は時計を持っていませんでしたが、そういう見当をつけていました。 「それが持ち時間か。正面を見ているんだ、ミスター・ブレン。そこはお前の持ち場だ。責任を持てよ」 「私が指揮を取る」 と、それまで黙ってシャープを見ていたスリングスビーが、いきなり暖炉から出てきました。 「私がここの指揮官だ」 「ピストルを持っているか?ここに出せ」 シャープはスリングスビーのピストルを受け取ると火薬を捨てました。そしてそれをスリングスビーに返し、彼を再び暖炉の中に座らせました。 「あんたがやるべきことは、ミスター・スリングスビー、煙突を見張ることだ。フランス軍が侵入してこないように」 「わかりました」 と、スリングスビーは言いました。 シャープはフランス軍が、この数分の間に体勢を立て直し、全軍で突撃をかけてくることを予期していました。 彼は左手のドアを開けたままにして、18人の兵士たちを3列に並べ、前列は膝を着いて後方2列は立つ態勢を取らせました。 ただ心配なのは、フェラグスとその連れの動きでした。シャープはライフルを大男に向けました。 「面倒を起こしたら、銃剣の練習台にしてやる。じっとしていろ」 彼は梯子に向かいました。 「ミスター・ヴィセンテ?標的を捉えたらいつでも撃ち始めてくれ!敵の目を覚まさせてやれ!下のお前たち!」 と、彼は大部屋を見渡しました。 「待つんだ」 フェレイラが起き上がり、他の4人のほうに身動きをしたので、シャープは再びライフルの銃床で彼を殴り、その時上の階からハリスの声が、フランス軍が動き始めたことを告げました。 そしてライフルの銃撃が始まり、戸外ではフランス軍の鬨の声が響き、攻撃が始まりました。 シャープは東に面した窓際に立ち、兵士たちが小屋の角を回って走ってくるのを見ていました。 「まだだ!まだだぞ!」 フランス兵は叫び続けながら開いた裏口に達しました。シャープは膝を突いた部下たちに向かって怒鳴りました。 「前列!撃て!」 6発の銃弾が発射される音が室内に響き渡り、その至近距離からの銃撃が的をはずすわけもありませんでした。 前列の兵士が両脇に退き、2列目の兵士が膝をつきました。 「第2列!撃て!」 「第3列!撃て!」 ハーパーが7連発銃を構えて進み出ようとしましたが、シャープがそれをとどめました。 「まだだ、パット」 そしてドアに近づくと、死んだ兵士たちが障害になってフランス兵たちが薦めずにいる中、勇敢な一人の将校が進もうとしているのを見て取り、シャープはライフルを構えてその頭を撃ちぬきざま、ドアの陰に避けました。 フランス兵の死体はドアの内側にも横たわっており、シャープはそれを外に押し出すとドアを閉めました。 その時銃撃が始まり、ドアを銃弾が打ち叩く音が激しく聞こえました。 彼は窓に歩み寄ると剣を引き抜き、押し入ろうとしている敵を銃剣で迎え撃っている兵士たちに合流しました。切り払っても押し寄せるフランス兵に向けてハーパーの7連発銃が火を噴き、すさまじい銃声と共に窓から敵の姿はすっかり消えました。 正面の入り口に向かって、第二波の攻撃が始まりました。ドアの内側に積み上げた荷物が揺れ、シャープは裏口につめていた兵士たちを正面の防御に加えました。それぞれが窓から狙い、不利を悟った敵兵は、今度は正面を避けて庭に面した裏側に集中し始めました。 シャープは片膝をついてライフルの装填をしていましたが突撃隊の兵士が向かってくるのを見つけました。 一人は屋根裏からの銃撃に倒れ、シャープはもう一人を狙いましたが、その敵兵はライフルを見て姿を消しました。 「銃撃やめ!」 と、シャープは叫びました。 「よくやった!連中は後退したぞ!再装填だ。銃をチェックしろ」 つかの間の静寂でした。 高台からの砲声が大きくなり、シャープは保塁の砲兵隊が農場を攻撃している敵兵を狙い始めたことに気づきました。 屋根裏のライフル隊員たちは、まだ射撃を続けていました。 ゆっくりと、しかし確実に、ヴィセンテの指揮のもと、彼らは引き鉄を引き続けていました。 シャープは捕虜のほうを見て、パーキンスのライフルと、セイラとホアナのマスケットも使えるな、と思いました。 「ハーパー軍曹!こいつらを縛り上げろ。手と足だ。マスケットの吊るし紐を使え」 6人の兵士たちがハーパーを手伝い、フェラグスはシャープを睨みつけていましたが、抵抗はしませんでした。シャープはフェレイラ少佐の手も縛り上げました。 スリングスビーは四つんばいになってドアの後ろの荷物の山に這っていき、自分のバッグを見つけると暖炉に戻って水筒のコルクを抜きました。 「哀れなやつだ」 とシャープは言いながら、スリングスビーに同情している自分に驚いていました。 「いつから飲み続けているんだ?」 「コインブラからです。量はともあれ、ずっとです」 と、ブレンが答えました。 「俺はこいつが飲んでいるところは、一度しか見たことがない」 「スリングスビー大尉はあなたが怖いんです」 「俺が?」 と、シャープは驚きました。彼は暖炉のスリングスビーに歩み寄ると片膝をつき、顔をのぞきこみました。 「悪かったな、中尉」 と、彼は言いました。 「失礼なことをした」 スリングスビーはシャープを見て瞬きし、混乱と驚きがその顔に広がりました。 「聞いているか?」 と、シャープは尋ねました。 「ご親切に、シャープ」 とスリングスビーは言って、さらに二口三口、ラムをすすりました。 「さて、ミスター・ブレン、聞いていただろう。謝ったぞ」 ブレンはにやっと笑い、何か言いたそうにしましたが、そのとき屋根からライフルの銃声が聞こえ、シャープは窓のほうに振り返りました。 「射撃用意!」 再び敵襲が始まりました。 今回は一つの窓に集中して攻撃をかけ、その間に死体の山を片付けてドアに向かう、という作戦だったのですが、そちらの兵士たちが鬨の声を上げるというミスを犯したために、シャープはドアを開け、ハーパーの号令下、3列の兵士たちに一斉射撃を行わせることができたのでした。 そして再び死体の山ができ、しかしフランス軍はなおも進撃しようとしてきました。 その時シャープの耳元で銃声がし、セイラがフランス兵に向けて銃を撃ち込んだのでした。 ハーパーは1列目に再装填をさせているところでしたが、敵兵の一人がドアまでたどり着き、それをシャープの剣の切っ先が出迎えました。 「第2列!撃て!」 ハーパーの叫びにシャープは身を翻し、剣を敵の腹から引き抜き、死体を引っ張り込むとドアを勢いよく閉めました。 セイラは兵士たちが装填する様子を真似ていました。 ドアは銃撃に身震いし、埃を上げていました。しかし誰もそれを開けようとするものはおらず、フランス軍は射程距離外に後退していきました。 「勝てそうだな」 とシャープは言い、兵士たちは火薬ですすけた顔で笑いました。 本当に、勝利は目前のようでした。
by richard_sharpe
| 2007-06-22 18:20
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