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1810年、ブサコ作戦。
第3部 トレス・ヴェドラス防衛線 第11章 -1 ヴィセンテがまずシャープとハーパーの元にやってきて、その後にぼろぼろのスカートと裸足の娘たちが続きました。 ヴィセンテは、こちらを見ている男たちに目をやると若い男に質問をはじめ、そしてそのためらいがちな答えを聞くにつれ、ヴィセンテの声は怒りを増していきました。 「われわれを待ち構えておくように言い聞かされていたそうだ。そして殺せと」 と、最後にヴィセンテはシャープに説明しました。 「殺す?なぜ?」 「奴らはわれわれを裏切り者だと言ったんだ」 ヴィセンテは吐き出すように言いました。 「フェレイラ兄弟が3人の部下と一緒にやってきて、われわれがフランス軍と接触を持ち、今は軍にスパイとして入り込もうとしていると」 彼は振り返って若い男に恐ろしい口調で何か尋ね、そしてシャープに向き直りました。 「そして彼らはそれを信じたんだ!馬鹿な奴らだ!」 「連中はこっちを知らないからな」 と、シャープは眼下の男たちのほうにうなずきながら言いました。 「それで、たぶん連中はフェレイラを知っているんだろう?」 「知っている。今年の初めに、彼がこの武器を彼らのために調達した」 ヴィセンテはまた若者に何か尋ね、答えを一言得ると、突然丘を下り始めました。 「どこへ行くんだ?」 と、シャープは背後から呼びかけました。 「もちろん、彼らと話しに行く。リーダーはソリアーノという名前だそうだ」 「パルティザンか?」 「丘陵地にいる連中は、みんなパルティザンだ」 ヴィセンテはライフルを肩からはずし、剣のベルトも取り、丘を降りて行きました。 セイラとホアナがやってきて、ホアナは若者に質問を始めました。彼はヴィセンテよりもホアナのほうを怖がっているようでした。ヴィセンテは今、6人の男たちのところに到着し、彼らと話を始めていました。 セイラはシャープの傍らに立ち、彼の腕にそっと触れました。 「あの人たちは私たちを殺そうとしているの?」 「あんたとホアナに対してはほかのことを考えているだろうが、俺とパットとホルゲを殺したがっている。フェレイラ少佐がここに来たんだ。俺たちのことを敵だと言ったそうだ」 セイラは若者に何か尋ね、シャープに向き直りました。 「フェレイラは昨夜ここに来たんですって」 「それじゃ、連中は半日くらい俺たちの先を行っていることになる」 「大尉」 ハーパーは丘の麓を見ていました。シャープもそちらに目を向けると、6人の男たちはヴィセンテを捕らえ、その頭に銃口を向けていました。 もしシャープが若者を殺したら、ヴィセンテも殺されるのでした。 「くそ!」 シャープは今度ばかりはどうしていいかわかりませんでした。 行動を取ったのはホアナでした。 彼女はハーパーの手を振り切って丘を駆け下り、ヴィセンテを捉えている男たちに向かって叫びました。 すこしはなれたところで立ち止まって、コインブラで何が起きたか、フランス軍がレイプし殺し、盗み、彼女自身も3人のフランス兵に襲われ、危ういところでこのイギリス人たちに助けられたことを話しました。 彼女はシャツのボタンをはずして胸のところを引き裂かれたドレスを見せ、本当の敵をわかっていないパルティザンたちを罵りました。 「フェラグスを信用するの?」 と、彼女は彼らに尋ねました。 「あいつがあんたたちに親切だったことがあった?それにもしこの人たちがスパイだったら、どうしてのこのこここにやってくるのよ?どうしてフランス軍と一緒にいないの?」 一人が何か答えようとしましたが、彼女は唾を吐きかけました。 「あんたたちは敵に操られているのよ。女房子供をレイプされたいの?それとも、あんたたちは妻も持てない半人前ってこと?代わりにヤギとでもやってるんでしょう!」 彼女はもう一度唾を吐き捨てるとシャツのボタンを止め、背を向けて丘を登り始めました。 4人の男たちが彼女の後をついてきました。 彼らは用心深くマスケットをシャープとハーパーに向け、安全な距離を保って立ち止まると、ホアナに質問を始めました。ホアナはそれに答えていました。 「彼女はあなたが街でフェラグスがフランス軍に売ろうとしていた食糧を燃やしたことを話しているわ」 と、セイラがシャープに言いました。 ホアナの口からは弾丸のように恐ろしい勢いで言葉がほとばしり出ていました。セイラは微笑しました。 「もしあの子が私の生徒だったら、口を石鹸でごしごし洗ってやるところよ」 「俺もあんたの生徒じゃなくて良かったよ」 4人の男たちはホアナの剣幕に押されながら、シャープをちらちらと見ていました。シャープは彼らの表情に疑問が浮かんでくるのを見ると、若者を地面に押しやりました。4人のマスケットがいきなりシャープを狙いました。 「行け」 とシャープは言って手を離しました。 「行って俺たちに敵意は無いことを話して来い」 セイラが通訳し、若者はうなずきながら丘を仲間の元へ駆け下りて行きました。 その男たちの中でいちばん背の高い男がマスケットを肩に掛け、ゆっくりと丘を登ってきました。 彼はまだホアナに質問を続けており、ホアナは答えていました。彼はときどきシャープに向かって敵意の無い表情でうなずいていました。 「あれは俺たちを信用するという意味かな?」 と、シャープは尋ねました。 「確かじゃないみたい」 と、セイラが答えました。 小一時間ほど話した結果、ヴィセンテが十字を切って妻子に賭けて誓い、ようやくシャープたちは裏切り者ではないということが受け入れられました。 ヤギの踏み分け道を入り込んだところに、戦争が通り過ぎてくれるのを待っている人たちが隠れ住んでいました。 彼らはフェレイラによって供給された英軍の備品の武器で武装し、そのことでフェレイラを信用しており、またフェラグスの富をあてにしていました。 ヴィセンテの家族を知っている者たちもおり、それによってソリアーノがヴィセンテの言葉を信じることになりました。 「5人いた」 と、ソリアーノはヴィセンテに言いました。 「ラバを連れて行かせた。われわれの最後の一頭だった」 「どこに行くと言っていた?」 「東です」 「カステル・ブランコ?」 「そこから川へ」 と、ソリアーノが保証しました。 彼は粉引きだったのですが粉引き小屋は壊され、フランス軍の背後にあってこれからどうやって暮らしを立てていけばいいのかと思案に暮れていました。 「きみたちは南に向かい、フランス軍を奇襲してくれ。殺すんだ。殺し続けろ。それから、この娘さんたちに靴と着る物を用意してくれないか。そしてフェレイラ少佐の道筋を案内して欲しい」 と、ヴィセンテは言いました。 一人の婦人がヴィセンテの傷を見て、もう治りかけていると言い、包帯を替えてくれました。靴と靴下がセイラとホアナのために用意されましたが、ドレスは黒くて重たいものしかなく、長旅には不向きでした。そこで少年たちが着るズボンとシャツと上着を出してくれるように、セイラは頼みました。 村には少ししか食糧はありませんでしたが、それでも彼らはパンとチーズを包んでくれ、そして日が高くなった頃に彼らは出発しました。 テージョ川に着くまでに60マイルほど歩くというのがヴィセンテの読みで、川でボートを見つけられればリスボンまで下ればいいだけだ、というのが彼の希望的観測でした。 「3日程度だな」 と、シャープは言いました。 「1日に20マイルも?」 セイラが驚いたように言いました。 「もっと早く歩ける」 と、シャープは言いました。 軍隊は一日に15マイルの行軍を想定しているが、兵隊たちは銃や荷物や負傷者と一緒だ。クロウファード将軍はタラベラの戦いに間に合おうとして、一日に40マイルを進んだ。その道は主街道で、これから進む道は荒野を横切る、アップダウンの激しい行程を、フランス軍の偵察を避けるために選ばなければならない。 たぶん大丈夫だろう、と彼は思いました。もし川までに4日かかると、失敗してしまうことになる。ラバを連れているフェレイラ兄弟の足どりは、二日ほどですむはずでした。 彼は東に向かいながら考え続けていました。 切り立った、むき出しの荒野で、しかし避難民たちが谷底に潜んでいることが見て取れました。 川にたどり着いてボートを見つけるまでに、フェレイラたちはずっと先に進んでいるかもしれない。 「カステル・ブランコだけが、川に出るルートか?」 と、彼はヴィセンテに尋ねました。 ヴィセンテは首を振りました。 「安全なルートだ。フランス軍がいない。それにこの道はそこへ続いている」 「これが道だって?」 それは踏み分け道で、道路とは言いがたいものでした。 シャープは塔を振り返りました。まだソリアーノの姿が見えていました。 「奴らに追いつけないだろうな」 と、シャープはうめきました。 ヴィセンテは立ち止まると靴先で地面に大雑把な地図を描き始めました。 テージョ川が東のスペインから曲がりくねって流れ出、南の海に向かい、細い半島になった部分にリスボンがありました。 「彼らはまっすぐに東に向かっているが、もしリスクを承知ならわれわれは南に向かうことができる。そちらの丘陵はあまり高くないので、フランス軍がいるかもしれない」 シャープは地図を覗き込んでいました。 「南の川下に着けるんだな?」 ヴィセンテはもう一本の川を描き込みました。それはテージョ川に流れ込んでいました。 「この流れをたどれば彼らよりも早く南に向かえる」 「日を稼げるか?」 「フランス軍がいなければ」 「でも1日は稼げるな?」 「たぶんもっと」 「それならそうしようぜ」 彼らは南に進路を変えましたが竜騎兵は見当たらず、フランス兵もおらず、わずかにポルトガル人を見かけただけでした。 2日目には雨が降り出しました。 薄暗く、彼らは骨の髄まで冷え、しかしそこはすでに荒れた高地ではなく、ぶどう園と囲いのある農地でした。 テージョ川の支流にたどり着いたのは夕暮れで、川は雨のために増水していました。彼らは小さな寺院で夜を明かし、翌朝、彼らは浅瀬をたどって川を渡りました。 ハーパーがライフルやマスケットの紐をつなぎ合わせ、彼らは助け合いながら石伝いに対岸に渡りました。 そして東の岸を、彼らは歩き始めました。岩場を歩くのは大変でしたが、南に向かうにつれ、道は歩きやすくなり、午後には村々をつなぐ道に出ることができました。 わずかな住民たちだけが住んでおり、彼らは敵の姿を見かけないことを教えてくれました。 貧しい人々でしたが、彼らは食糧を分けてくれさえしたのでした。 テージョ川に着いたのは、その日の夕方でした。 天気はさらに悪くなっていました。西から次第に雨足が激しくなり、木々を打ち叩き、小さな流れを激流に変えました。 テージョ川の川幅は広く、激しい流れの川面を雨が叩いていました。 シャープは川岸に立ってボートがないかどうか見渡して見ましたが、どこにもありませんでした。ポルトガル政府は全ての設備を破壊してフランス軍の手に渡らないようにし、トレス・ヴェドラス防衛線の情報を敵に悟られないようにしたのです。 「ボートはある」 と、シャープは言いました。 「オポルトにはあった。憶えているか?」 「あの時はラッキーだった」 と、ヴィセンテは言いました。 「そうじゃない、ホルゲ。ラッキーだったんじゃない。土地の奴らだ。連中は新しいボートを手に入れることはできない。だから政府には古い壊れかかったボートを差し出しておいて、新しいのは隠してあるはずだ。探そう」 フェレイラたちは見つけただろう、と、シャープは苦い思いでした。 彼らは金を持っていましたから。 シャープは川上を見上げ、自分が彼らよりも先回りしていることを願いました。 ずぶぬれのまま一晩過ごし、翌朝、冷え切って疲れきり、彼らは川上の村に向かいました。 男たちは全て武装し、道の端に立っていました。 ヴィセンテは彼らに話しかけましたが、どうも友好的ではない雰囲気でした。 この川沿いの住民たちは、ポルトガル軍に全てのボートを敵の手に渡さないよう破壊するように脅されており、ヴィセンテが隠してあるものを出すように言っても、彼らは古ぼけた銃を突きつけるだけでした。 シャープは、時間の無駄だと思いました。 「アブランテに行けと言っている。そこにはボートが隠してるというんだ」 と、ヴィセンテが言いました。 「ここにもあるさ。アブランテまでは、どれくらいかかる?」 「昼には着くかな?」 と、ヴィセンテは考え込みました。 その間にフェレイラ兄弟は南に向かってしまうかもしれない。 シャープはこれまでのところ彼らに先行していることに自信がありましたが、こうなると追い越されてしまうのでは、と思うのでした。 「彼らと話してみる」 と、ヴィセンテは言いました。 「戻ってきて金を払うと約束すれば、売ってくれるかもしれない」 「信じないさ。歩こう」 彼ら編むらを後にし、追ってきた男たちが囃したてましたが、シャープはそれを無視しました。 彼は北に向かっており、それは違う方向でしたが、村人たちの姿が見えなくなるまで黙っていました。 「時間の無駄だ。連中はボートを持っている。そいつが必要だ」 彼は一人で少し高くなったところに登り、村を見下ろして林やブドウ畑に隠されているものが無いかどうか見渡しました。まだ雨は降っていました。 彼のプランはシンプルでした。 村人たちにとってボートよりも価値があるものを見つけ出し、それを奪う。 しかし何も見つかりませんでした。貯蔵食糧も、フェンスのところにいるニワトリ以外は。 男たちが部外者たちを追い払ったことに祝杯を挙げようと、酒場に入っていくのが見えました。その喚き声や笑い声がシャープの怒りを煽り立てました。 「押し込んで、引きずり出してやる」 と、彼はハーパーに言いました。ハーパーは7連発銃を肩から下ろしました。 「いつでもどうぞ」 「俺たち二人が入るから、あんたたち3人はドアのところにいてくれ。いつでも銃を使えるようにしているんだ」 彼とハーパーはフェンスを飛び越え、豆畑を突っ切って酒場の裏口を開けました。 12人ほどの男たちが部屋に集まり、ワインの樽の周りにいて、ほとんどの男がまだ肩に銃を下げていました。 しかしシャープは誰も銃を構えることができずにいるうちに部屋を横切り、ハーパーは火の消えた暖炉の上から彼らを狙って7連発銃を構えていました。 シャープは男たちからマスケットを取り上げ、一人が抵抗しようとした時にはライフルの銃床でその顔を殴りつけ、ワインの樽を蹴飛ばしてひっくり返しました。樽の倒れる音が、まるで大砲の音のように大きく響きました。 男たちがその音にひるんだのを見て取り、シャープは正面の入り口に立ってライフルを彼らに向けました。 「ボートが欲しい」 ヴィセンテがその後を引き継ぎました。 彼はライフルを肩に掛け、ゆっくりと踏み出しながら穏やかに話し始めました。 彼は戦争のことを、コインブラを襲った恐怖のことを話し、フランス軍が撃破されない限り、この村をも同じことが襲うだろうということを断言しました。 「きみたちの妻は乱暴される。家は焼かれ、子供たちは殺される。私はそれを見てきた。しかし敵を撃ち破ることはできるし、そうしなくてはならない。君たちは、それを手伝うことができる。手伝わなければならないんだ」 彼はこのとき、一人の弁護士でした。酒場が彼の法廷で、銃を取り上げられた男たちが陪審員でした。そして彼は演説に熱を込めました。 彼はかつて法廷で話したことはなく、彼にとっての法律は貿易に関するオフィスでのもので、しかし彼は弁護士として法廷に立つことを夢見ており、今、彼は雄弁に、誠意を持って話しているのでした。 彼は村人たちの愛国心に訴え、しかし彼らがどういう種類の人間かわかっていたので、ボートには代金が支払われることを約束しました。 「全額払う。しかし今ではない。われわれは金を持っていないんだ。しかし私の名誉に賭けて、私は必ずここに戻り、合意した金額を支払う。そしてフランス軍が去った時には」 と、ヴィセンテは締めくくりました。 「きみたちは敵を撃破するための一端を担ったことに満足するだろう」 彼は言葉を切り、向きを変えて十字を切りました。シャープは男たちがヴィセンテのスピーチに感動したことを感じました。 本当に金が支払われるかどうかということと愛国心とが闘っていたようですが、ついに一人の男が同意しました。 彼はこの若い将校を信用し、ボートを売る気になったのでした。 それはボートというよりはふるい艀(はしけ)で、河口を横断するのに使っているものでした。 18フィートほどの長さで、胴が広く、二人の男が4本のオールで漕ぐ作りになっていました。 平たい船底の先に、せり上がった舳先がありました。 持ち主はそのボートを川に沈めて隠していたのですが、村人たちがボートから重石を取り除き、浮かべてくれ、オールを提供してくれ、ヴィセンテはさらに戻ってきて支払うという約束を繰り返しました。 「リスボンまではどれくらいかかる?」 と、ヴィセンテは彼らに尋ねました。 「一昼夜です」 とボートの主は答え、彼は持ち舟がヘタクソな漕ぎ方で流れに乗るのを見守りました。 シャープとハーパーがオールを取り、最初のうちはおぼつかない運びでしたが、川の流れがうまく下流に運んでくれ、そのうちに彼らもオールの扱いに慣れてきました。 そしてついに彼らはテージョ川の流れの中心に乗ることができました。 ヴィセンテは舳先にいて前方を見守り、ホアナとセイラは幅の広いところにいました。 もし雨が降っていなければ、もし風が川面を吹き上げて冷たい水しぶきを浴びせかけていなければ、ちょっとした遊山のようでしたが、しかしその代わりに彼らは暗い空の下で凍え、小さなボートは急流にもまれていました。 遠くスペインを横切ってきた川の流れは、海へ向かって彼らを押し流そうとしていました。 そしてそのとき、フランス軍が彼らを見つけたのでした。
by richard_sharpe
| 2007-05-03 17:46
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