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1810年、ブサコ作戦。
第2部 コインブラ 第10章 - 3 橋には警護がついていませんでした。 そのことはシャープを驚かせました。しかし、フランス軍の人員は決して多いわけではなく、街の守備に残せる人数も最小限で、残りは全てリスボン攻撃のために移動したのだということが、彼にも推測できました。 街道はフランス軍であふれかえっているということで、シャープたちは娘たちのための靴や服を探すことはできませんでした。道沿いに行けば、必ずフランス軍の殿軍に追いつくことになるからです。 日がまだ高いうちに、彼らは東に向かい始めました。 セイラとホアナの靴は壊れてしまい、彼女たちは裸足で歩いていました。 傾斜の急な丘を登り、捨て去られた村を通り過ぎ、日盛りの頃、林にたどり着きました。 彼らは谷に突き出た大きな岩の影で休憩し、シャープはその頂上からフランス軍の隊列を見下ろしました。 幸い、望遠鏡は無事でした。彼はそれを取り出し、照準を合わせました。50騎あまりの竜騎兵たちが食糧を探していました。 セイラがやってきて、望遠鏡に触れながら 「いいかしら?」 と尋ねました。シャープが手渡すと、彼女はフランス軍を見下ろしました。 「水を地面に注いでいるだけよ」 と、しばらくのちに彼女は言いました。 「食糧を探しているんだ」 「どうやって?」 「住民たちは収穫の全部を無事に運び出すことはできない」 と、シャープは説明しました。 「だから場合によっては埋めるんだ。穴を掘って、穀物を入れ、土を元に戻す。ただ歩いただけではわからなくても、水をかければ掘り返した痕には早くしみこむんだ」 「何も見つからないみたい」 「よかった」 シャープは彼女を見つめていました。そしてなんてきれいなんだろう、と考えていました。それに根性がある。 テレサみたいだ、と、彼は思い起こし、あのスペイン娘はどうしているだろう、生きているのだろうか、などと考えていました。 「出発するわ」 とセイラは言い、望遠鏡を返そうとして銘板に気づきました。 「感謝を込めて」 と、彼女は声を出して読みました。 「AW. AWって、誰?」 「ウェリントンだ」 「なぜあなたに感謝を?」 「インドで戦いがあったんだ。俺は彼を手伝ったのさ」 「それだけ?」 「彼は馬から落ちたんだ」 と、シャープは言いました。 「ちょっと危なかった。まあ、うまく生き延びたわけだ」 セイラは望遠鏡をシャープに手渡しました。 「ハーパー軍曹は、あなたは英軍でいちばんの軍人だと言っていたわ」 「アイルランド風の言い回しだな」 シャープは答えました。 「それよりも、ハーパー本人もすごいんだ。あいつよりもうまく闘う奴はいない」 「それにヴィセンテ大尉は、自分の知っていることは全部あなたに教わったんだといっていたわ」 「ポルトガル風の言い回しだ」 「それなのに、あなたは自分の地位が危ないというの?」 「軍隊っていうのは、働きのことには頓着しないのさ」 「信じられないわ」 「俺も信じたくないよ」 そして彼はにやりと笑いました。 「まあ、俺はうまくやるさ」 セイラは何か言いかけ、しかし言えずに終わりました。谷間から銃声が聞こえたからです。 シャープは振り返りましたが、何も見えませんでした。 竜騎兵たちは再び馬にまたがり、南へと向かおうとしていましたが、そちらには何の動きも見られませんでした。 銃声が続き、だんだん遠ざかり、やがて消えました。 「あっちだ」 とシャープが谷間の向こうを指差し、そちらではフランス騎兵が鐙に立ち上がって馬を駆っていました。 「たぶん奇襲を受けたんだな」 と、シャープは言いました。 「このあたりには誰もいないと思っていたわ。リスボンに向かうように命令されていたんじゃないの?」 「選択権はある。リスボンに向かうか、山の中に入り込むか。この辺の丘は、たぶん住民で一杯だと思う。彼らが友好的なことを願うだけだ」 「なぜそうじゃないかもしれないの?」 「自分の家を捨てろなんていう軍隊のことをどう思う?粉引き小屋も収穫もオーブンもぶち壊しにした奴らだぞ?連中はフランス軍を嫌っているが、だからといって俺たちを好きだというわけじゃないんだ」 彼らは木々の下で眠りました。 シャープは火を焚きませんでした。この丘に誰がいるか、軍人を見る目がどのようなものか、見当がつかなかったからです。 そして早朝、まだ明るんできたばかりの頃に丘を下り始めました。 ヴィセンテが先にたち、岩場の中を東に向かう道をたどりました。その頂上には古い塔の廃墟がありました。 「アタライアだ。見張り塔だ。ムーア人に備えて作られたんだ」 とヴィセンテは言い、十字を切りました。 「中には風車に作り変えられたものもあるが、ただ朽ち果てたものもある。あそこに登ればこの先を見渡せる」 雲をピンクと紫に染め上げている朝日は、彼らの背後にありました。南風も吹き、暑くなりそうでした。 南の谷間には煙が立ち昇り、おそらくフランス軍が食糧を探しているのでした。彼らが丘を登ってこないことに、シャープは自信を持っていました。藪と岩しかないからです。 二人の娘たちは、苦痛を耐えていました。 道は石でごつごつしていて、セイラの足は柔らかすぎ、進めなくなっていました。シャープは彼女の足を、ドレスの裾を裂いた布で包んでから、自分のブーツをはかせました。 「マメができるかもしれない」 とシャープは言いましたが、とりあえずいくらか楽になったようでした。 ホアナはセイラよりは頑丈な足をしており、さらに裸足で歩き続けましたが、足の裏は血だらけでした。 彼らは登り続け、うねうねと曲がって時々問うが見えなくなる道を進みました。 「山羊が通る道だ」 と、ヴィセンテは推測しました。 「こんなところに他の生き物は住めない」 彼らは小さな谷間に入り込み、そこには苔むした岩の間をせせらぎが流れていました。彼らは最後の食糧を分け合いました。 ホアナは足をさすり、セイラはマメができ始めた足の痛みをこらえていました。 シャープはハーパーに向かって顎をしゃくりました。 「お前と俺であの丘に登る」 ハーパーは左手、彼らの北に当る、道からそれた丘を見上げていぶかしげな表情をしました。 「みんなを休ませる」 とシャープは言い、セイラからブーツを受け取りました。彼女は水に足を浸すことができて嬉しそうでした。 「頂上からなら遠くまで見える」 塔の近くまで行かなくても、丘を登る間は娘たちを休ませることができる。 シャープたちは登っていきました。 「あなたの足の具合は?」 と、ハーパーが尋ねました。 「切り傷だらけだ」 「俺はホアナにブーツを貸したほうがいいかなあと思っていたんですよ」 「両足にボートを履いたみたいになるだろうな」 「それにしても、あの子は頑張っていますよ。タフな子だ」 「タフじゃなきゃ、お前に我慢できないだろうからな」 「俺は女性にはすごく優しいんですよ」 彼らはヘザーの茂みの中をまっすぐに登っていました。ブサコでフランス軍が襲ってきたときのような、急な坂でした。 そして二人は頂上からまだ遠いところで話すのをやめました。息が切れてきたのです。 汗が噴き出てシャープの顔を伝いました。彼は岩場を見上げていましたが、不意に小さな動きに気づき、銃身が動くのが見えました。彼は横様に身を投げました。 「パット、伏せろ!」 マスケットのが火を噴き、シャープはライフルを構えました。煙が流れ、銃弾は彼とハーパーの間のヘザーの繁みを貫きました。 シャープはいきなり立ち上がり、今までの疲れも忘れて頂上目指して走り出しました。 銃を再装填している音が聞こえ、そこには若い男が立っていました。 シャープは立ち止まり、ライフルを構えました。 若い男は離れたところにいると思っていた兵士がいきなり目の前に現れ、少しでも動いたらこのグリーンジャケットの兵士は引き鉄を引くだろう、ということを悟りました。 「銃を下に置け」 と、シャープは言いました。 若い男に、それは通じていませんでした。彼はシャープとハーパーをかわるがわる見ていました。 「その銃を置け!」 シャープは怒鳴って、ライフルを肩に当てたまま前へ進みました。 「置け!」 「アルマ!ポル・テッラ」 と、ハーパーが叫びました。 若い男は、今にも身を翻して逃げ出しそうでした。 「逃げろよ。口実をくれるのか?」 少年はマスケットを置き、怯えたように二人のグリーンジャケットの男たちが近づいてくるのを見つめていました。彼は、撃たれると観念しているようでした。 「なんてこった」 丘の頂上でシャープは言いました。坂を下ったその先には、ほかにも男たちがいたのでした。 彼らはこちらに登ろうとしていましたが、シャープとハーパーの姿を見て足を止めました。 「お前、眠ってたんじゃないか?手遅れになるまで俺たちに気づかなかったのか?」 と、シャープは少年に向かって言いました。しかし彼に意味は通じず、シャープとハーパーを見比べるだけでした。 シャープはマスケットを拾うと脇に放り投げました。 「パット、良かったよ。お前はポルトガル語の上達が早いな」 「一言二言、言っただけですよ」 シャープは笑い出しました。 「さて、連中はどうしたいのかな」 彼は振り返り、近づいてくる6人の男たちを眺めました。彼らは民間人でしたが、おそらくパルティザンでした。 一人はまるで狼のような犬をつれていました。犬は引き綱を一杯に引いて吼え、主人から駆け去って丘に登ろうとしていました。全員がマスケットを持っていました。 シャープはヴィセンテが見上げている場所を振り返り、彼に向かって手招きしました。 ヴィセンテと二人の娘たちは登り始めました。 「みんな一緒にいたほうがいい」 と彼はハーパーに言い、マスケットの銃声を聞いて向き直りました。 おそらく彼らは仲間の一人が捕まったとは思わず、発砲を始めたようでした。 狙いは乱暴なものでした。シャープには、弾丸がうなる音さえ聞こえませんでした。しかし2発目が聞こえ、その銃声に興奮して犬が吠え立てました。 3番目の男が撃った弾は、シャープの頭越しに飛び去りました。 「練習が必要だな」 と、シャープは言いました。そして若い男のほうに大またで近づくと、彼を立たせて頭にライフルの銃口を当てました。 銃声が途絶えました。 「犬なら撃てますよ」 と、ハーパーが提案しました。 「この距離で仕留められるか?傷でも負わせようものなら、アイルランド産の肉を口いっぱいにほおばろうとするぞ」 「こいつを撃つほうがマシですね」 と、ハーパーは怯えている捕虜のほうを見て言いました。 6人の男たちは何か話し合っていましたが、やがて襲撃のチャンスはあると考えたのか、また登り始めました。 「30人はいるようです」 と、ハーパーが言いました。 「30人はきついな」 「一人15人ずつか」 とシャープは言い、首を振りました。 「そうはならないだろう」 彼はそうならないことを願い、まずヴィセンテがここまでやってきて、男たちと話をつけてくれることを必要としていました。 男たちは広がりながら近づき、シャープはそれを突破することはできなくなっていました。 男たちはシャープを待っていたのでした。必ず来ると聞かされていました。 そして、彼らはシャープを殺すことを命じられていました。
by richard_sharpe
| 2007-04-30 17:44
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