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1810年、ブサコ作戦。
第2部 コインブラ 第10章 - 2 シャープが目覚めた時には朝になっていました。 例の猫はストーブの横の棚にうずくまり、黄色い目でシャープを見ていました。 セイラの片腕がシャープの胸に預けられ、彼はその白さと肌のきめ細かさに目を見張りました。 彼女はまだぐっすりと眠っており、金色のおくれ毛が彼女の息遣いに合わせて震えていました。 シャープは彼女の腕をそっとはずすと裸のまま台所のドアを開き、その隙間から居間の様子を見ました。 ハーパーが椅子に座り、ホアナは彼の膝の上で眠っていました。彼は振り向くと 「異状無しです」 とささやきました。 「俺を起こせばよかったのに」 「どうしてです?何も騒ぎはありませんよ」 「ヴィセンテ大尉は?」 「外です。何か起きているか見に。あまり遠くには行かないとのことです」 「お茶を入れよう」 シャープはドアを閉め、ストーブの横のバスケットから薪を取り出しました。 なるべく音をたてないようにしたつもりでしたが、セイラは目を覚まし、ハーパーのコートを胸にかき寄せて座りました。 シャープは彼女を見つめ、彼女も黙って彼を見ていました。そして太股を掻きながら、いきなり話し出しました。 「あなたがインドにいたとき、死んだあと他の人に生まれ変わって戻ってくるということを信じているという人々に会わなかった?」 「聞かなかったな。あそこの連中は変なことをいろいろ信じているんだ」 「私が生まれ変わるなら」 と、セイラは壁に頭をもたせ掛けながら言いました。 「男に生まれ変わりたいわ。あなたは自由だもの」 彼女は梁から下がっている、干したハーブを見つめていました。 「自由なもんか」 と、シャープは言いました。 「軍隊にがんじがらめだ。ノミみたいにしつこいんだ」 彼は、彼女がまた足を掻くのを見ていました。 「昨夜のことだけど」 とセイラは言ってわずかに赤面し、暗闇の中で起きた出来事について、無理にさりげない話し方をしようとしました。 「あなたは変わらないままよ。同じ人間だわ。でも私は違うの」 そのときヴィセンテの声が聞こえ、台所の扉をノックする音がしました。 「ちょっと待ってくれ、ホルゲ」 とシャープは怒鳴り、そしてセイラの目を覗き込みました。 「悪いことしたかな?」 「違うわ。そうじゃないの」 と、セイラは急いで答えました。 「ただ、全てが変わってしまったというだけなのよ。女にとってはね。小さい出来事じゃないの。男の人にはそうでしょうけれど」 「あんたを一人にする気はないよ」 と、シャープは言いました。 「それを心配しているんじゃないのよ。ただ、全てが新しく思えるだけなの。今の私は昨日の私とは違うし、明日はまた違うでしょうね。わかる?」 「たぶんもっと話してくれると助かる。俺の目が覚めているときにね。ちょっとホルゲと話をしなきゃならない。それからお茶を飲みたいんだ」 彼は屈みこんで彼女にキスし、服を拾い上げました。 セイラは自分のドレスを取り、 「臭いわ」 と、顔をしかめました。 「これを着ていろ」 シャープは自分のシャツをセイラに与え、オーバーオールのサスペンダーを裸の肩に引き上げ、ブーツをはきました。 「今日は休養日だ。服を全部洗う。フランス軍が今日中に出発するとは思えないからな」 シャープは彼女がシャツのボタンをかけ終わるのを見届けてから、扉を開きました。 「すまん、ホルゲ。火を起こしていたんだ」 「フランス軍は出発しないようだ」 と、ヴィセンテはドアのところから言いました。彼はシャツ姿で、左腕を吊っていました。 「あまり遠くまでは行けなかったが、準備をしている様子ではなかった」 「一息ついているんだ。たぶん明日出発だな」 彼はセイラを振り返りました。 「パトリックが火を焚いているかどうか見てきてくれるか?火を貸して欲しいといってくれ」 セイラはヴィセンテの脇をすり抜け、ヴィセンテは彼女とホアナを見比べて、二人が汚れたシャツだけしか着ていないのを知ると、台所の中に入ってきてシャープに顔を近づけました。 「売春宿みたいじゃないか」 「グリーンジャケットはいつもラッキーなんだ。二人とも志願したんだぜ」 「正当化できるか?」 シャープは薪をストーブに押し込みました。 「正当化するとか、そういうことじゃないんだ。人生ってヤツさ」 「宗教があるのは、そういうことのためなんだ。ただ生きていくことから昇華するために」 「俺はいつもラッキーでね。法律と宗教からは逃げられるんだ」 ヴィセンテはその返事にガックリしたようでしたが、鉛筆書きのシャープの肖像を見ると目を輝かせました。 「すごいな!あなたにそっくりだ!」 「ホルゲ、それは堕落した世界から逃れようとする、民衆の怒りの絵なんだとさ」 「それは?」 「それを描いたやつが言ったんだ。なんだかそんなようなことを」 「ミス・フライじゃないのか?」 「カエルの将校だ。昨夜、あんたが寝ている間のことだ。ちょっと避けてくれ、火が来た」 セイラが火のついた木切れを持ってきて、ストーブに押し込むと火が燃え上がるのを待っていました。 「今日やるべきことは」 と、シャープはセイラが火を焚きつけている間に言いました。 「湯を沸かして洗濯をして、ノミをとることだ」 「ノミ?」 と、セイラは驚いたように言いました。 「あんたがあちこち掻いているのはどうしてだと思う?今日いっぱいかかる。カエルどもが出発するのは、早くても明日になるだろうし」 「今日は出発しないの?」 「あんなに飲んでる奴らが?今日は上官たちも出発命令は出さないだろう。良くて明日だ。今夜出発できればいいんだが、連中は夜警を置くだろう。やつらが行ってしまうまで待って、橋を渡って南へ向かう」 「フランス軍についていくの?どうやって追い越すの?」 と、セイラは尋ねました。 「いちばん安全なのは、テージョ川に出るルートだ。高地を横切って川に出て、ボートを見つける。下っていけばリスボンだ」 ヴィセンテが言いました。 「だがその前にやることがある。フェラグスを見つける」 というシャープに、ヴィセンテは怪訝な顔をしました。 「ホルゲ、俺たちはヤツに貸しがある。少なくとも、セイラは貸しがある。あのクソ野郎は彼女の金を奪ったんだ。だから戻らなくては」 ヴィセンテは明らかに反対の意見のようでしたが、それを口には出さず、代わりに 「夜警がここに来るかもしれない。どうする?」 と、尋ねました。 「俺たちはイタリア人だとか、オランダ人だとか、好きなことを言えばいい。そしてちゃんと元の部隊に戻ると言うんだ。実際、ここを出たら元の部隊に戻るんだから」 彼らはお茶を沸かして食糧を分け合って朝食をとり、シャープとヴィセンテが見張りについている間、ハーパーが女たちを手伝って衣類を煮沸しました。シャープは火かき棒を熱し、縫い目に入り込んだシラミを殺しました。 ハーパーはカーテンを洗うと細長く裂き、シャープの包帯を作りました。肋骨はまだ痛みましたが、大きく呼吸をしても前ほど痛くはなくなっていました。回復しつつある証拠でした。 街も回復しようとしていました。コインブラは、今日はいくらか静かになっていました。まだ倉庫から煙が立ち昇ってはいましたが。 シャープはフランス軍がいくらか補給物資を運び出したかもしれないとは思いましたが、ウェリントン将軍の思惑どおり、彼らを空腹のままでして置くことはできたと考えていました。 見回りの兵士はやってきたことは来ましたが、シャープとハーパーは庭を荒れ果てさせておいたので、彼らは中を見もせずに立ち去っていきました。 夜になり、蹄や鉄の車輪の音が近くの通りで聞こえました。どうやら2大隊が近くに宿を取っているようでした。 シャープは闇の中を偵察に出、少なくとも6人ほどの歩哨が立っていることを確認しました。 シャープの影が街路にさし、一人が誰何しましたが答えはなく、兵士は闇に向けて発砲しました。 銃弾はシャープの頭上の壁に跳ね返り、彼は地面に伏せました。 「イヌだろう」 と、フランス兵たちが言っているのが聞こえ、皆もそれに同意したようでした。 シャープはその夜、遅番として見張りに立ちました。 セイラが彼と一緒に月夜の庭を見ていました。彼女は生い立ちを、両親を亡くしたことを話しました。 「私は叔父の厄介者になったの」 「そして彼はあんたを放り出したのか?」 「そうすることができるようになるとすぐに」 彼女は椅子に腰掛け、シャープのオーバーオールの皮でほどこされたジグザグの補強を指でたどっていました。 「本当に英軍はリスボンにいるの?」 「もちろんいるさ」 「もし100ポンド持っていたら」 と、セイラは物思いに沈みながら言いました。 「リスボンに小さな家を持って、子供たちに英語を教えるの。私は子供が好きよ」 「俺は嫌いだね」 「まさか。好きなくせに」 と、彼女は彼を軽く叩きました。 「イギリスに帰るつもりはないのか?」 「帰って何になるの?誰もポルトガル語を習いたくなんかないし、ポルトガル人には自分の子供に英語を習わせたがっている人がたくさんいるのよ。それに、イギリスでは私はただの身分も財産も将来もない若い女の一人に過ぎないの。ここでなら違うのよ。人の興味の対象になるの」 「俺とかね」 とシャープは言い、またセイラに叩かれました。 「俺と一緒にいることもできるんだぜ」 「兵隊の女になるの?」 「そう悪くもないさ」 と、シャープは弁解がましい口調で言いました。 「そうね」 と彼女は言い、しばらくの間黙っていました。 「二日前まで、私は自分の人生は誰か他の人しだいだと思っていたの。雇い主とかね。今では自分次第だと思っているわ。あなたが教えてくれたのよ。でもお金が必要だわ」 「金なんか簡単なことだ」 「それは決まり文句とは言えないわね」 「盗めばいい」 「あなたは本当に泥棒だったの?」 「今もだ。昔泥棒で、いつも泥棒で、ただ今は敵からしか盗まないだけだ。いつか盗まなくてもいいくらいになって、誰からも盗まれないようにできるまではね」 「あなたの人生観はシンプルね」 「生まれて、生き延びて、死ぬ。そんなに難しいことか?」 「それじゃあ動物と同じだわ。私たちはいくらか動物よりはマシなはずよ」 「みんなそういうんだ」 と、シャープは言いました。 「それでも戦争が始まったら、連中は俺みたいな男を必要とする。少なくとも、今までは必要とした」 「今までは?」 彼はためらい、肩をすくめました。 「俺の上官は俺をはずしたがっているんだ。義弟に俺の仕事を与えたがっている。スリングスビーってヤツは、マナーを心得ているんだ」 「いいことじゃないの」 「5万のカエルどもが襲ってきてみろよ。マナーなんて言ってられないぜ。必要なのは完全な無我の境地だ」 「あなたにはそれがあるの?」 「バケツいっぱいにね」 セイラは微笑みました。 「これからあなたはどうするの?」 「さあね。戻って、イヤになったら他の軍隊を探す。たぶんポルトガル軍に入るだろうな」 「でも軍人であり続けるのね?」 シャープはうなずきました。彼には他の生き方は想像できないのでした。 ときどき耕地と牧草地を持って農場をすることを思い描くことがシャープは好きでしたが、彼は農業についての知識はまったくなく、それは夢に過ぎないということをわきまえていました。 たぶんこのまま兵士らしい最後を迎える。熱病とか、戦死とか。 セイラは彼の考えを読んだようでした。 「あなたは生き延びるわ」 「あんたもね」 闇の中で犬が吼え、猫がドアのところで背中を丸めました。 しばらくのち、セイラは深い眠りに落ちました。シャープは猫の横に腰を下ろし、空を薄明かりが染めていくのを見ていました。 ヴィセンテが早朝に目覚め、シャープのところにやってきました。 「肩はどうだ?」 と、シャープは彼に尋ねました。 「すこし痛みが和らいできた」 「良くなってきているんだ」 ヴィセンテは黙って腰を下ろし、しばらくして口を開きました。 「もしフランス軍が今日出発するとしたら、われわれも考えたほうが良くないかな」 「フェラグスのことは忘れろと?」 ヴィセンテはうなずきました。 「われわれの義務は、軍に戻ることだ」 「そうだ」 と、シャープも同意しました。 「ただし俺たちが軍に戻った時には、失踪したとしてブラックリストに載っているはずだ。あんたの上官は歓迎しないだろう。だから土産を何か持っていかなくちゃな」 「フェラグスを?」 シャープは首を振りました。 「フェレイラだ。今回のことについて、彼は全てを知っている。ただ、ヤツを見つけるにはその兄を見つけなくては」 ヴィセンテは納得したようにうなずきました。 「軍に復帰するためには何か有益なものを持ち帰らなくてはならず、フランス軍が出発したらフェレイラを探すということだな?逮捕して連行する?」 「簡単だろう?」 と、シャープは笑いながら言いました。 「私はあなたほどには、こういうことには慣れてないんだ」 「どういうことに?」 「自分の部隊から離れていることとか、自分自身から離れていることとか」 「ケイトが恋しいだろう?」 「ケイトも恋しい」 「それでいいじゃないか、ホルゲ。あんたはそういうことのほうが得意だ。おまけに軍の中ではよりぬきの軍人だし、フェレイラをつれて帰ったら英雄だ。2年もすればあんたは大佐で、俺はきっとまだ大尉のままだ。そして今言ったことばなんか忘れたいと思うのさ。お茶にしよう、ホルゲ」 フランス軍は出発し、ほぼ一日がかりで全軍が橋を渡ってリスボンに向かう道に消えていきました。 3000以上もの負傷兵はコインブラに残され、150人の海兵隊員によって守られていました。指揮官の少佐にはコインブラ司令官の称号が与えられましたが、その過小な人数ではコインブラ全体を指揮下に置くことなど望めませんでした。 彼は町の中のいくつかの地点と外部への街道沿いに歩哨を置きましたが、その間はがら空きでした。 生き残った住民たちは復讐を求め、むやみに銃を発砲し、中にはフランス兵たちの建物に発砲するものもいましたが、彼らはやがて窓からの射撃でなぎ払われました。 歩哨たちはマッセーナがいずれよこしてくれるであろう援軍を期待して、街にとどまっているのでした。 シャープたちは日が暮れるとすぐにコテージを出ました。 彼らは元の軍服に戻っていましたが、5分もたたないうちに2度罵声を浴びせられ、住民たちにはどこの軍服か識別できていないことに気づかされました。そして一度銃弾がかすめ、彼らは上着を脱いでシャツ姿になりました。 それでも彼らが通り過ぎるとき、僧侶が近くにいた少女を遠ざけたほどでした。 フェラグスの家の近くの角から、シャープは様子をうかがいました。 正面の扉は砕かれ、窓ガラスは一枚もなくなり、よろい戸もこわされていました。 「いないようだ」 と、シャープは言いました。 「なぜわかる?」 ヴィセンテが尋ねました。 「いたら、少なくともドアを閉めておくだろう」 「殺されたかもしれませんよ」 と、ハーパーが言いました。 「見てみようぜ」 シャープはライフルを構え、他のものたちに待つように言って、階段を駆け上がって玄関に入り、耳を済ませました。 静かでした。彼は手招きし、娘たちがまず駆け込みました。セイラは室内の有様に目を見張りました。 全てのものが壊されていました。 シャンデリアのクリスタルの破片が、シャープのブーツの下で砕けました。台所の鍋の柄は折り曲げられ、教室の小さな椅子も机も、セイラの机も粉々にされていました。 彼らは階段を登り、全ての部屋を見てみましたが、フェレイラ兄弟の姿はありませんでした。 「でもフェレイラ少佐はフランス側ですよね?」 と、フランス軍の破壊振りに混乱したハーパーが尋ねました。 「自分でもどちら側か分からないのさ。ただ勝った側につきたいだけだ」 シャープは答えました。 「でもヤツは連中に食糧を売ったんですよね?」 「連中はそう思っただろう」 「で、あなたがそれを灰にした」 と、ヴィセンテが口を挟みました。 「フランス人の結論は何だと思う?あの兄弟が彼らをバカにしたと思うだろう」 「いっそ二人を撃ち殺してくれればよかったのにな」 とシャープは言い、ライフルを肩にかけて屋根裏への階段を昇りました。何かがあるという期待はしていませんでしたが、街の様子を見下ろせると思ったのでした。 敵の姿はなく、煙が立ち昇っているだけでした。 セイラがついてきて、窓から川の方角を見渡しました。 「それで、これからどうするの?」 と、彼女は尋ねました。 「軍に合流する」 「それだけ?」 「ずいぶん歩くぞ。あんたはもっといいブーツを見つけなくちゃな。服も。探そう」 「どれくらい歩くの?」 「4日か5日か、もしかしたら一週間か。わからないな」 「どうやって服を見つけるの?」 「道沿いだよ。フランス軍は出発する時に略奪品を持っていくんだが、途中で気が変わる。捨て始めるんだ。だから南に向かう道にはいろんなものが山ほど落ちているだろうな」 彼女は自分のドレスを見下ろしました。破れ、汚れ、しわくちゃでした。 「私、ひどい格好ね」 「あんたは素敵だよ」 とシャープは言い、そしてかすかな音を聞きつけて唇に指をあて、そっと来たところに戻ろうとしました。 ハーパーが階段の下で下の階を指差しながら指を3本立てました。そしてもう一度振り返り、今度は4本の指を見せました。3人以上、ということでした。たぶん、略奪者でした。 シャープはゆっくりと動きました。 ヴィセンテはハーパーの背後にいて、ライフルを構えていました。ホアナは寝室でマスケットを肩に当てていました。 シャープはハーパーの傍らにたどり着き、誰かが怒っている声に気づきました。彼は自分を指差して階下を指差し、ハーパーはうなずきました。 シャープはさらにゆっくりと階段を下りていきました。ガラスの破片が散らばり、彼は足を下ろすところを選びながら進みました。半分ほど降りたとき、足音が近づいてきました。そして男が一人姿を見せ、シャープを見て驚いた表情をしました。 シャープは撃ちませんでした。 フェラグスが近くにいるとしたら、警告を与えることになるからです。彼は身振りで男に床に伏せるように命じましたが、男は身を翻し、叫びました。 ハーパーが撃った弾がシャープの肩を越えて男の背にあたり、床に倒れました。 シャープは一度に4段の歩幅で階段を下り、負傷した男の背を蹴りつけて彼を飛び越し、2人目の男が台所から姿を見せたところを撃ちました。 ハーパーも7連発銃を構えながら降りてきました。 シャープは台所へ向かう数段の階段を降り、その下に死体を確認すると裏口から飛び出しました。 男が1人、彼を狙って撃ってきました。 ハーパーも駆け出し、ライフルを構えましたが、撃った男の姿は煙が消えると同時に見えなくなっていました。 シャープが再装填しているところにホアナがやってきて、彼は彼女に装填しかけのライフルを渡し、マスケットを受け取りました。そして庭に駆け戻りました。 「庭には誰もいない」 と、シャープはハーパーに呼びかけました。ハーパーは台所の扉から庭に出て、門まで突っ切りました。 「略奪ですかね?」 「そうだろう」 シャープは撃ちたくなかったのでした。略奪者はシロウトだからです。 「馬鹿だな」 と、彼は自分に向かって言いました。そしてホアナからライフルを受け取ると、セイラが負傷した男を見下ろしていました。 「ミゲルだわ」 「誰だって?」 「ミゲルよ。フェラグスの部下の一人なの」 「確かか?」 「もちろんよ」 「こいつと話してくれ」 と、シャープはヴィセンテに言いました。 「あの兄弟たちがどこか聞きだしてくれ」 シャープは怪我人をまたいでライフルを取りに行き、装填し終わるとヴィセンテがミゲルを尋問しているところに戻りました。 「話さないそうだ。医者を呼べば話すといっている」 「こいつはどこを撃たれてる?」 「わき腹だ」 と、ヴィセンテはミゲルのどす黒く血に染まったウェストの部分を指差しました。 「どこにフェラグスがいるのか尋ねてくれ」 「話さないといっている」 シャープはブーツを血に染まった部分に押し付け、ミゲルはうめき声を上げました。 「もう一度聞いてみろ」 「シャープ、それは・・・」 とヴィセンテは言いかけましたが、シャープは怒鳴りました。 「もう一度聞け!」 そしてシャープはミゲルの顔をのぞきこみ、意味ありげに笑いました。ミゲルは話し始めました。シャープはミゲルの傷に足を乗せたまま、ヴィセンテの通訳を聞いていました。 フェレイラ兄弟はシャープが死んだと思っていたが、彼らが先に軍隊に着きさえすればシャープが生きていてもたいした問題ではないと考えていた。そして自軍に合流するためにフランス軍のいない高地を越えてカステロ・ブランコに向かい、そこから南に下って川を目指す。少佐の家族も財産もリスボンにあるので、リスボンに向かう。ミゲルと他の二人は家屋敷を守るためにコインブラに残った。 「知っていることはそれだけか?」 と、シャープは尋ねました。 「それだけだ」 とヴィセンテは言い、シャープの足をミゲルの傷からどけました。 「ほかに何を知っているのか聞いてくれ」 シャープは言いました。 「拷問をしてはいけない」 ヴィセンテはシャープをいさめました。 「拷問しちゃいない。ただ、ほかに言っていないことがありそうな気がするだけだ」 ヴィセンテはミゲルに話しかけ、ミゲルはマリア様に誓って全部話したと言いました。 しかし彼は嘘をついていました。 彼は、山にいるパルティザンたちのことを知っていました。しかし彼は自分が死にかけていることを知っていて、復讐を望んでいました。自分を死に追いやったものたちがパルティザンに撃ち殺されることを願っていました。 彼らはミゲルに包帯を巻いてやり、医者を呼んでやるといって立ち去りました。 しかし医者は来ないまま、彼は静かにゆっくりと失血死しようとしていました。 そしてシャープと彼の仲間たちは、街を後にしたのでした。
by richard_sharpe
| 2007-04-28 18:23
| Sharpe's Escape
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