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1810年、ブサコ作戦。
第2章 コインブラ 第10章 - 1 フェレイラ兄弟は屋敷に戻りました。そこは倉庫と同様、騎兵たちによって守られ、略奪から免れていました。 二人は祝杯を挙げていましたが、そこにミゲルが駆け込んできて、倉庫が燃えていると知らせたのでした。 「それがどうした?もう売り払ったものだ。フランス軍が損をしただけで、俺たちには関係ない」 フェラグスはそう言って3本目のワインで乾杯しましたが、フェレイラ少佐は窓から煙を見つめていました。 「フランス軍はそうは思わないだろう」 と、フェレイラは言ってワインを兄から取り上げました。 「もう支払いは済んだ!」 とフェラグスは言い、ワインを取り返そうとしましたが、フェレイラはその手が届かないところにボトルを置きました。 「フランス軍はわれわれが食糧を売ったあとで火をつけたと考えるだろう。金を返すように言ってくるはずだ」 「なんだと」 とフェラグスはうなりましたが、弟の言っていることは正しいと思いました。 彼は金貨が詰まった袋に目をやりました。酔いがいっぺんに醒めるようでした。 「出発だ。彼らは追ってくるぞ。良くても金は取り上げられるし、悪くしたら射殺される。まったく!最初にわれわれは小麦粉を売ろうとして失敗し、今度はこれだ。相手がどう思うかわかるか?出発だ。今すぐに」 フェラグスは馬で逃げるつもりでしたが、目立ちすぎるということでフェレイラに止められました。彼らはしばらく身をひそめ、フランス軍が出発してから街を離れることにしました。 「それからどうする?」 とフェラグスに尋ねられ、フェレイラは考え込みました。 まず、金が必要だ。それから? シャープ大尉だけが、フェレイラ兄弟の裏切りを知っている。 「シャープが生きているとしたら、どうするだろう」 フェラグスは、ただ唾を吐いただけでした。 「軍に戻ろうとするだろう」 「そして裏切り者のことを話す?」 「先に私が戻っていれば、彼の言うことを聞くものなど誰もいない」 「食糧には毒が入っていたと言えばいい。それはフランス軍への罠だったと」 フェラグスの提案に、フェレイラはうなずきました。 「重要なのは、リスボンにたどり着くことだ。妻も子供も、金もリスボンだ。しかしどうやって?」 「東に向かって、テージョ川を下ればいいんです」 と、部下たちの一人が言いました。 フェレイラは彼を見つめ、また考え込みました。実際、考える余地はありませんでした。リスボンにまっすぐ向かう道にはフランス軍がひしめいており、一方で山地にはパルティザンがいるために、フランス軍はいないはずでした。そこを越えてテージョ川に至り、ボートを買う。2日もあればリスボンだ。 「山にはシンパがいる」 「シンパ?」 フェラグスはフェレイラの思考についていけないようでした。 「私が武器を融通してやっていた連中だ。彼らが馬を貸してくれるだろう。そしてアブランテスにフランス軍がいるかどうかも知っているはずだ。もしいなければ、そこでボートを手に入れる。もしシャープが生きているなら・・・」 「死んでいるさ」 「もしシャープが生きているとしたら、軍に合流するために、われわれと同じルートを取るはずだ。山の連中が奴らを殺す」 フェレイラは十字を切りました。いきなり全てのことがはっきりとしてきました。 「5人でテージョ川から南に向かう。もし軍に合流できたら、補給物資を破壊してきたといえばいい。もしフランス軍が先についていたら、船でアゾレスに向かう。3人はここに残って、家を守れ。それなりの褒美は出す」 フェレイラ少佐は、既にフランス軍が彼らを探し始めているのではないかという危惧を抱いていました。 フランス軍は二人が彼らを手玉に取ったと思っていて、復讐を開始したのでした。 彼らは正面玄関を叩き壊し、屋敷に侵入しました。既にもぬけの殻で、台所でコックが酒を飲んでいるだけでした。 彼女はフライパンをフランス兵に叩きつけようとしましたが撃たれ、死体は厩のある裏庭に放り出されました。 後はお定まりの破壊行為でした。全ての家具が叩き壊され、窓が割られました。 価値のあるものは馬くらいしか残されておらず、それらはフランス軍の騎兵隊の替え馬として連れ去られました。 夕暮れになり、赤く染まった空に火の手と煙が立ち昇っていました。 フランス軍の最初の武装はやや静まりかけていましたが、暗がりの中で叫び声と涙は続いており、イーグルはこの街を占拠したのでした。 シャープはドアの枠に寄りかかっていました。小さな庭には列をなした植え込みがありましたが、何の植物なのか、シャープにわかったのは豆が育っていることくらいでした。 彼は豆をいくつかポケットに押し込みました。この先、もし飢えた時のために。 彼は再びドアの枠に寄りかかり、遠くの下町からの銃声を聞いていました。 台所からはハーパーのイビキが聞こえていました。 彼はうとうとし、足首に擦り寄っていた猫に起こされました。 シャープは猫を撫でてやり、足踏みをし、何とか眠らないようにしようとしていたのですが、結局立ったまま眠りに落ちました。 次に目覚めると、入り口のところでフランス軍の将校が画板を抱え、シャープをスケッチしていました。 彼はシャープが目を覚ましたのを見ると軽く片手を上げ、そして再び鉛筆を画板に走らせました。 確かで力強いタッチでした。 彼はリラックスした、親しげな声でシャープに語り掛けました。 既に夕方で、将校は描き終えるとシャープに近づき、絵を見せながら意見を求めました。 将校は微笑し、自分の作品に満足しているようでした。 シャープはいかつい顔に傷のある、シャツ姿でドアに寄りかかり、その脇にはライフルが、腰には騎兵用の剣を下げた男の絵に見入りました。 この馬鹿はこの武器がイギリス製だとわからないのか? その将校はまだ若く、きれいな金髪のハンサムな男で、シャープの答えを期待していましたが、シャープは肩をすくめ、剣を抜いて切りかかるべきかどうかと考えていました。 そのときセイラが姿を現し、流暢なフランス語で彼に話しかけました。 将校は丁寧にお辞儀をし、彼の説明にセイラが二言三言口を挟み、将校はスケッチブックから絵を破りとって彼女に渡し、やがて彼はセイラの手にキスをしてもう一度お辞儀をしてから去っていきました。 「一体なんだったんだ?」 と、シャープは尋ねました。 「私たちはオランダ人だといっておいたわ。彼はあなたのことを騎兵だと思っていたの。あなたは現代の兵士の代表的な例なんですって」 「俺だ」 と、シャープは言いました。 「たいした腕だな」 「あなたは古い堕落した世界への人々の怒りの象徴だそうよ」 「なんなんだ」 と、シャープは言いました。 「彼が言うには、この街でおきていることは恥ずべきことだけれども、避けられない事態なんですって。コインブラは古い時代の迷信を象徴しているから」 「結局やつもフランス軍の・・・」 と、シャープは言いかけてやめました。 「クソ?」 と、セイラは彼の言葉を受けました。 「あんたは変わった女だな」 「おかげさまで」 「眠ったか?」 「ええ。今度はあなたが眠らなくちゃ」 「誰かが見張っていなくちゃならない」 シャープは答えましたが、実際彼は役に立っていたわけではありませんでした。 ぐっすり眠り込み、フランス軍将校が彼をスケッチしていたことにも気づかなかったのです。もしかしたら略奪者が来ていたかもしれなかったのでした。 「台所に火が残っているか見て、お茶を沸かしてくれるか?俺の背嚢にいくらか葉が残っている。火薬の味がするが、俺たちはそれが好きなんだ」 「ハーパー軍曹が台所にいるけれど」 と、セイラはためらっていました。 「彼は気にしない。軍ではプライバシーなんかほとんどない。軍隊教育の一つだ」 と、シャープは微笑しました。 「見てくるわ」 とセイラは言い、台所に入って行きましたが、ストーブは冷えたままでした。 彼女はできるだけ音をたてずに動いたつもりでしたが、ハーパーは目を覚まし、ベッドから転がり出るとシャープのいる居間にやってきました。 「今何時ですか?」 「日没だ」 「異状は?」 「お前のイビキ以外は。それと、カエルがセイラとおしゃべりをしていった。世界の現状について」 「恐るべき現状ですよ」 と、ハーパーは首を振り、7連発銃を手にしました。 「すこし眠ってください。俺が見ていますよ」 ホアナが台所から出てきて、ハーパーは振り返って彼女に笑いかけました。彼女は太股までの丈のフランス兵のシャツだけを身につけていました。そしてハーパーの腰に両腕を回し、彼の肩に頭を預けてシャープに微笑みかけました。 「俺たちが二人で見ていますから」 「疲れたら起こしてくれ」 シャープはライフルを拾い上げました。お茶よりも眠りが必要でした。しかしハーパーはたっぷり飲みたいだろうということを、シャープはわきまえていました。 「ちょっと待ってくれ。ストーブに火を入れる」 「暖炉に火をおこすから大丈夫ですよ。外に天水桶もあったし、台所でゆっくり眠ってください」 シャープは裏口から外に出て、ブーツの汚れを落とすと手を洗い、台所に戻りました。彼は扉を締め、闇の中でベッドに膝をつきました。 「気をつけて」 と、セイラが毛布とハーパーのコートの間のどこかで言いました。 「あんた、いったい・・・」 と言いかけ、シャープは馬鹿な質問を途中でやめました。 「あっちにいたくなかったの。ハーパー軍曹は私を邪魔にはしないでしょうけれど、二人のほうがいいだろうと思って」 セイラはそう説明しました。 「確かに」 と、シャープは答えました。 「あなたが眠る邪魔はしないから」 とセイラは言ったのですが、彼女は邪魔をしたのでした。
by richard_sharpe
| 2007-04-19 17:10
| Sharpe's Escape
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