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1810年、ブサコ作戦。
第2部 コインブラ 第9章 - 2 コインブラに入城したフランス軍歩兵のほとんどが第8連隊の兵士たちで、フランス全土から駆り集められてきてまだ日も浅く、訓練も十分に受けていませんでした。 彼らは戦争の意味もわかっておらず、空腹でした。 兵士たちは大学に乱入し、手当たり次第に価値のありそうなものを破壊していっていました。ただ、彼らの怒りの捌け口を向け、フラストレーションを解消するために。 携帯できる望遠鏡だけが破壊を免れ、他のものや天体望遠鏡、クロノメーターなどは完全にこわされました。 絵は額からはずされ、胸像は砕かれ、図書室の本だけは、あまりに膨大な数なので損傷を免れました。 ただ数人の兵士たちが稀少本を書棚から取り出して引き裂きましたがすぐに飽きてしまい、ローマ時代の壺を壊すことに熱中し始めました。 目的などなく、ただ怒りを向けているだけでした。 彼らはポルトガル人を憎んでおり、敵が価値を認めるものなら何でも破壊しようとしているのでした。 12世紀に二人のフランス人によって建てられた旧聖堂は女性たちの隠れ場所になっていましたが、今度はフランス軍の兵士たちによって蹂躙されることになりました。 何人もの住人たちが妻や娘を守ろうと立ち向かい、銃弾に倒れていきました。 壁の高いところに飾られた聖者たちも銃の餌食になりました。 新しく建てられた聖堂では、洗礼盤に兵士たちが放尿し、それが一杯になると彼らは少女たちに洗礼をほどこそうと、髪を洗礼盤につけるのでした。 旧聖堂よりもさらに古いサンタ・クルス教会では、ポルトガルの初期の二人の国王の墓が暴かれました。 12世紀にムーア人からリスボンを解放したアフォンソ征服王の遺骨は棺からばらまかれ、その息子のサンチョ1世は絹の縫い取りの今日帷子を剥ぎ取られ、朽ちた遺体はバラバラになりました。 サンチョの墓にあった、宝石で飾られた金の十字架を取り合って、兵士の一人が撃たれ、残りの二人は十字架を半分に分け合いました。 そしてその教会に隠れていた女たちも、他の女たちと同様、兵士たちが分け合うことになったのでした。 ほとんどの兵士たちが食糧を求めていました。 家々の地下室は蹴破られ、何か食べるものは残っていないか、探し回られました。 しかし街はすっかり空にされており、兵士たちはますます怒りをつのらせ、酒場に残っていたワインに殺到しました。 そしてそういうときに、下町にある倉庫に、大変な量の食糧があるという噂が広まっていったのです。 しかし兵士たちは倉庫を守る竜騎兵たちを見ると、多くのものが女と略奪品をよそに求めて散り、しかし何人かは竜騎兵の隙をうかがって待っているのでした。 破壊から街を守ろうとしたものもいました。 ある将校は二人の兵士を女から引き離そうとして蹴り倒され、剣で突き刺されました。 旧聖堂では、信心深い軍曹が破壊を妨げようとして撃ち殺されました。 ほとんどの将校たちはこういう破壊への妨害は無駄だと知っており、狂気の嵐が過ぎ去るのを待っていました。 マッセーナ元帥は護衛に守られて参謀たちと愛人と一緒に司教の屋敷に入りました。 歩兵隊の大尉が二人やってきて兵士たちの行動について将軍に苦言を申し立てましたが、将軍はあまり気に留めませんでした。 「困難な行軍だった。実に困難だった。いくらか慰めは必要だ。奴らは馬みたいなものだ。手綱は緩めるときと引き締める時がある。遊ばせておけ」 彼は司教の寝室でアンリエットが快適に過ごせるかどうかを確認しました。 彼女は壁に十字架がかかっているのを嫌がり、マッセーナはそれを窓から投げ捨てさせました。そして彼女が何を食べたいかを尋ねました。 「ブドウとワインを」 と彼女は答え、マッセーナは召使たちにすぐにそれを探すように言いつけると、地図が卓上に広げられた司教の居間へと戻りました。 その地図はお粗末で、マッセーナの参謀の一人がもっと正確な地図が大学にあるのではないかと探させました。 確かにあったのですが、そのときには既に灰になっていました。 将軍たちは、マッセーナが次の作戦のプランを練っている居間に集まってきました。 敵は今リスボンに向かって撤退しており、マッセーナの軍はモンデゴ川を押さえていました。 しかし他の敵が、彼とその軍を脅かしているのでした。 飢えが兵士たちを襲い、ポルトガル人のゲリラたちが背後を狼のようにつけてきていました。 ジュノー将軍は一時停戦を提案しようとしていました。 「英軍は船で出て行くでしょうから、行かせましょう。アルメイダまで一時退却を」 アルメイダはポルトガルにおける国境の城砦で、困難な道のりの東の端にありました。 「補給と援軍を待ちましょう」 「援軍だと?ドルーの歩兵隊は動かん。行軍の許可が下りないのだ」 皇帝はマッセーナに13000の歩兵を与え、しかし半数は国境の守備に裂かねばならず、増援を申し出ていたのですが認められなかったのでした。 皇帝は半分飢餓状態で靴も壊れた兵士たちを指揮したことがないのだ。補給線はポルトガルのパルティザンたちに寸断され、アルメイダまでの丘を抜ける道は彼らの支配下にある。 マッセーナ元帥はその道を引き返そうとは思いませんでした。 リスボンへ行くしかない。リスボンだ。 「ここからリスボンまでの道は、今までよりもましか?」 「100倍もいいです」 と、ポルトガル人参謀の一人が答えました。 元帥は窓から街中に立ち昇る煙を見つめました。 「英軍が海に出るというのは確かなのか?」 「ほかに手立てはありますでしょうか」 「リスボンは?」 「守りきれますまい」 「北はどうだ?丘陵地帯は?」 テージョ川から大西洋までの32キロあまりの距離を、マッセーナは指差しました。 「低い陸がありますが道が3本あり、わき道もいくつもあります」 「しかしウェリントンはここでの戦闘を予想しているぞ」 「だとすれば彼は自分の軍を危険にさらすことにる」 ネイ元帥が割り込みました。 マッセーナはブサコの給料で彼の兵士たちが砲撃にさらされたときのことを思い出しました。 「ヤツを丘から引っ張り出さなければ。この丘には砦があるそうだな?」 「街道を守備するための砦を築いているとの噂です」 「では丘陵地帯を行くことしよう」 ウェリントンの軍を包囲し、突破しなければならない。 彼は地図を見つめ、勝利を収めた三色旗がパリを行進するところを思い描きました。 「2日のうちに南に向かう」 と、彼は決断を下しました。 「今日は兵士たちに休養を。しかし明日には全員イーグルの元に集合し、水曜には出発だ」 「食事を与えることはできるのでしょうか」 と、ジュノーが尋ねました。 「食糧くらいあるだろう。英軍だって、街中を裸にできるわけがない」 「食糧はあります」 と、新参の声がしました。それは補給主任のポケランのものでした。彼は本当に嬉しそうでした。 「どれくらいある?」 と、元帥は用心深く尋ねました。 「リスボンに到着するまでは十分持ちます。もっとあります」 ポケランはこの数日、将軍たちに顔を合わせるのを避けてきたのですが、今は彼の独壇場でした。 「輸送手段が必要です」 と、彼は言いました。 「そして運び出すのに1分隊かもっと。それから、支払いをお約束になりましたが、それを待っている男がおります」 マッセーナは約束をした記憶がなくもなかったのですが、それを破棄することも考えていました。 フランス軍はいつも補給は略奪でした。それが皇帝の方針でもありました。 バレット大佐は元帥の表情を読み取りました。 「もし約束を破ったら、ポルトガル人はわれわれを信用しなくなります。まもなくわれわれはこの土地を支配することになります。協力し合わなければなりません」 バレットは正しい、とマッセーナは思いました。新しい敵を作る必要はない。 「払ってやれ」 と、彼は金庫係の将校にうなずきました。 「そして2日のうちに物資を南に運ぶ。レイリアまでだ」 元帥はポケランに向かい、地図上を指差してみせました。 「荷車が必要です」 と、ポケランは言いました。 「全軍の荷車もラバも使え」 「馬の数が足りません」 と、ジュノーが苦しげに言いました。 「いつだって馬は足りない!ここの住人を使え!縛り付けて鞭打て!働かせろ!」 「負傷者はどうしますか?」 と、さらにジュノーが尋ねました。負傷者は荷車に載せられていたのでした。置き去りにすればポルトガル人たちに何をされるかわからないからです。 「残しておけ」 「護衛は?」 「見つけておく」 とマッセーナはいらだたしげに言いました。 食糧が見つかり、敵は撤退しつつあり、作戦は半分成功したようなものだ。 そして軍は街道を行軍し、攻撃をかける。 2週間もすれば、リスボンは彼の手に落ち、戦争は勝利に終わるだろう。マッセーナはそう考えていました。 シャープはセイラを裏道に引っ張り込もうとした兵士に出鼻をくじかれました。 彼女の黒いドレスの裾は破れ、髪は乱れて汚れた顔にかかっていました。男は彼女の腕をつかみ、シャープが壁にライフルの銃床で押し付けると、彼は派手に抵抗しました。 セイラは兵士に唾を吐きかけ、何かひどい言葉で罵りました。 「あんた、フランス語を話せるのか?」 と、シャープは彼女に尋ねました。 「フランス語とポルトガル語とスペイン語を」 シャープは兵士の股間を思い切り殴りつけ、仲間たちの先頭に立って道を急ぎました。 死体から内臓を引っ張り出している3本足の犬、いきなり窓が割れ、振ってくるガラスのかけら。 女の悲鳴と教会の鐘の音。 フランス兵たちは彼らを気に留めていませんでした。ただセイラとホアナを見て、もう済んだのかと尋ねる時以外は。 そしてその言葉が理解できるのは、セイラとヴィセンテだけでした。 倉庫が近づくにつれ、噂に引き寄せられた兵士たちで街路が混みはじめました。 シャープとハーパーは自分たちの大きな身体で兵士たちを威嚇しながら通り抜け、フェラグスの倉庫の向かい側の家並みにたどり着きました。 最初のドアを開けると、赤ん坊を抱え、顔から血を流した女が彼らから身を翻して逃げました。 シャープは階段を上がり、そして期待通り、屋根裏が他の家々とつながっているのを見て安心しました。 上で一つながりになっている部屋がいくつかの階段を持ち、それぞれが違う家の入り口に通じているのです。 ベッドはほとんどがひっくり返されていましたが、一つだけフランス兵が寝ているものがありました。 彼は二人の女を見るとベッドから転げ出ました。 シャープは屋根の上の窓を開け、振り返ると兵士がセイラに手を伸ばしていました。 セイラは微笑み、そしていきなり、すごい力でマスケットの銃床を兵士の腹に打ち込みました。 兵士は思わず屈みこみ、その額にホアナが自分の銃を叩きつけました。 兵士は仰向けにひっくり返り、セイラは自分が新たに獲得した能力に、満足そうな微笑を浮かべました。 「彼女たちとここにいてくれ」 シャープはヴィセンテに言いました。 「思いっきり突っ走る準備だけしておけ」 彼は頭上から竜騎兵を攻撃するつもりでした。攻撃ののち、竜輝兵たちはいちばん近い階段から屋根裏に登るとシャープは予想していました。そして他の階段からシャープたちは逃げる。 「行くぞ、パット」 彼らは屋根に出て、切妻の破風のところにたどり着きました。 シャープは身を屈め、騎兵の姿を確認しました。 「パット、将校がいる。左側の灰色の馬に乗っているヤツだ。合図したら撃て」 ハーパーはライフルを構えました。 騎兵たちは大きな馬の身体と剣を使って兵士たちを追い散らそうとしていました。 その左手に将校がいて、誰一人として頭上を気にしていませんでした。彼らの仕事は通りを封鎖することで、屋根を警戒することではありませんでした。 ハーパーは狙いを定め、撃鉄を起こしました。 シャープは7連発銃を手にしてハーパーの横に立ちました。 「いいか?」 「はい」 「お前が先に撃て」 とシャープは言いました。ハーパーの狙いは確かでしたし、7連発銃は狙いを定める必要はなく、その威力だけで十分でした。 将校が手綱を引いて馬を鎮めようとし、後ろを振り返ったときにハーパーは引き鉄を引きました。 弾丸はヘルメットを貫き、血しぶきが上がりました。そしてゆっくりと将校は倒れこみました。 シャープは他の竜騎兵たちの群れの中に7連発銃を撃ち込みました。大砲のような音が響き、煙があたりに満ちました。馬のいななきが聞こえました。 「逃げるぞ!」 シャープは叫びました。彼らは窓を抜けて屋根裏に戻り、反対側のいちばん遠い階段を駆け下りました。 ヴィセンテと女たちが続きました。 家の反対側から兵士たちの声がし、蹄の音が響いていました。 彼は2丁の銃を肩にしてドアを開け、人ごみに入り込みました。セイラは彼のベルトを握っていました。 騎兵たちは馬から下りて家に殺到し、一人だけが馬上で他の馬たちの手綱を預けられていました。 竜輝兵たちはシャープが期待したとおりの行動を起こしたのです。 将校は死に、何人かが負傷し、統制を欠いて、ただ攻撃したものへの復讐だけを考えて家になだれ込み、倉庫の守備が手薄になる。そこへ兵士たちが押し寄せる。 竜騎兵の軍曹が剣をふるって先頭の男をなぎ倒そうとしましたが鞍から引き摺り下ろされ、そして倉庫の扉は開かれました。 歓声が上がりました。 残りの竜騎兵たちには、なすすべもありませんでした。 「騒ぎになるぞ」 と、シャープはハーパーに言いました。 「俺ひとりでいく」 「何をしに?」 「やるべきことをしに」 と、シャープは答えました。 「お前とヴィセンテ大尉は女の子たちを守ってくれ」 シャープは本当はハーパーと行動したかったのでした。この大柄なアイルランド人がいるだけで、大騒ぎの最中の倉庫の中では心強いからです。 しかしいちばん大きな危険は、闇の中で彼らが離れ離れになることでした。そこでシャープは一人で行動することにしたのでした。 「待っていてくれ」 シャープは言い、背嚢とライフルをハーパーに預け、剣と7連発銃を持って人ごみに分け入りました。将校の死体とおびえた馬たちを通り過ぎ、彼はやっと倉庫の入り口にたどり着きました。 入り口はごった返しており、中に入ると箱や袋、樽に殺到する兵士たちで、通り抜けるのが大変でした。 一人の砲兵がシャープを止めようとしてこぶしを突き出してきましたが、彼はその兵士を顔から突き倒し、袋の山をかき分けて、開いた空間に入り込みました。 彼の記憶にある、二つの手押し車に載せた物資がある反対側の端までが、彼の仕事を進められる場所でした。 この奥までは兵士たちはほとんど入ってきていませんでした。彼らが興味を持っているのは食料で、蹄鉄やろうそくではなかったからです。 しかし既に一人が手押し車のところにいて、中身を物色していました。彼の袋は食料で一杯になっていました。シャープはその兵士の後頭部を7連発銃の銃身で殴りつけ、倒れた男を蹴りやってから、袋の中身を確かめました。ビスケットと干し肉、チーズが入っていました。 彼はそれを自分と仲間のために確保し、ランプ用の油の樽を剣の刃を使ってこじ開けました。 その油は鯨油で、手押し車のふちから流れ出しました。手押し車の向こうには巻いた布があり、シャープが願っていた通り、それは麻でした。 彼は手押し車まで布の道を作り、カートリッジの火薬と7連発銃の撃鉄を使って火をおこし始めました。 彼の周囲では兵士たちがひしめき合い、ラム酒の樽が壊されて中身が流れ出し、誰もシャープが銃を使っていることに気づいていませんでした。 彼は引き金を引き、火花が散りました。シャープは炎がしっかりとあがるのを見てから手押し車の鯨油の中に落としました。炎は荷台一杯に広がり、シャープは食料の袋をひったくると、走り出しました。 数歩の間は、彼の邪魔をするものはいませんでした。ラム酒の周りの男たちは、彼に気づいてもいませんでした。 しかし麻布に炎が燃え移り、突然あたりは光に照らされました。 誰かが叫び、煙が広がり始め、そしてパニックになりました。 竜騎兵たちは倉庫の中に入ろうし、食料を盗み出す兵士たちを怒鳴り続けていましたが、恐慌をきたした兵士たちが彼らの行く手を阻んでいました。 叫び声やわめき声が聞こえ、銃声がし、急に煙が濃くなりました。 シャープが食料を奪った兵士のポーチのカートリッジに火が燃え移り、破裂しました。 そして床にこぼれたラム酒も、青白い炎を上げて萌え始めました。 シャープは行く手の兵士たちをなぎ払い、押し倒し、蹴り、そして剣を抜いて道を開こうとしました。 彼の怒りの形相におびえた兵士たちがよけている間に、火薬の樽が爆発しました。その炎は倉庫の中に一気に燃え広がりました。 シャープは剣を納め、前の箱の上に食料の袋を投げ上げると、自分もそれに飛び乗りました。 猫が逃げ散り、シャープは袋の上に飛び降り、出口に向かって走りました。倒れた兵士を踏みつけ、煙から必死の思いで逃げながら、彼は出口から飛び出しました。 そしてハーパーたちが待つ家に戻ったのでした。 「ゴッド・セーブ・アイルランド」 と、ハーパーは戸口に立って混乱を眺めながらつぶやきました。 煙が倉庫の出口から噴出し、火の光をさえぎるほどでした。内部から悲鳴が聞こえ、そしてまた爆発音が上がりました。 炎の燃え滾る音が、川の流れの音のように聞こえてきていました。 「あなたがやったんですか?」 と、ハーパーが尋ねました。 「俺がやった」 と、シャープは答えました。 彼はいきなり疲れを感じました。疲れ、そして恐ろしく空腹でした。 ヴィセンテが娘たちと待っていた、聖者の絵がかかっている小さな部屋に入ると、シャープは 「どこかもっと安全な場所を教えてくれ」 と、ヴィセンテに言いました。 「こんなときに、安全な場所なんてあるだろうか」 と、ヴィセンテが問い返しました。 「どこか、この通りから遠い所だ」 彼らは裏口から外に出ました。振り返ると、フェラグスの倉庫の隣にも火が燃え広がっているのがシャープにもわかりました。 竜騎兵たちが集まってきていましたが、遅すぎました。 シャープたちは路地を下り、また上り、通りを横切り、酔いつぶれたフランス兵たちが寝転がっている中庭を通り抜けました。 ヴィセンテが先導しました。 「山の手に行く」 と、彼は言いました。そこが安全だという確証があったからではなく、彼が生まれ育ったなじみの場所だからでした。 誰も彼らをさえぎらず、背後では炎と煙と怒りが渦を巻いていました。 「誰何されたらなんて言えばいいのかしら」 と、セイラがシャープに尋ねました。 「オランダ人だと言ってくれ。フランス軍にはオランダ人が結構いるんだ」 山の手はやや静かで、ヴィセンテは路地を通って中庭を抜け、石段を何段か下って、大きな家の庭の中に彼らを導きました。庭の横にコテージがありました。 「この屋敷は、論理学の教授のものだ。こっちには召使たちが住んでいた」 コテージは狭いものでしたがフランス軍から見つけ出されることはなさそうでした。 道すがら、シャープは所々の家にユニフォームがかけられ、それが、すでにその家が誰かの縄張りになっていること、他の兵士たちによる略奪を許さないことを示すしるしになっていることに気づいていました。そこで彼はジャケットを脱ぐとコテージのドアのフックにかけました。 敵をこれで防げるかもしれないし、防げないかもしれない。 ともあれ、彼らは干し肉とビスケットとチーズを分け合い、シャープはできればこれからずっと眠ってすごしたい、と思いました。しかし他のものたちもそう思っていることを、彼は知っていました。 「少し休め」 と、彼は言いました。 「あなたは?」 と、ヴィセンテが尋ねました。 「誰かが起きて見張りに立たなくちゃならない」 コテージには物置よりもちょっと大きいだけ、という寝室がひとつだけあり、将校であるヴィセンテにそこが与えられました。 ハーパーは台所にカーテンや毛布、コートでベッドを作り、ホアナが彼の後に続いて台所の扉が閉じました。 セイラは馬の毛で張られた古い肘掛け椅子に倒れこみました。 「あなたと一緒に起きているわ」 と、シャープに言ってまもなく、彼女はぐっすりと眠り込みました。 シャープはライフルを装填しました。 彼は座り込みたかったのですが、そうするともう起きていられなくなるのはわかっていました。 彼はライフルを傍らにドアに寄りかかり、遠くの叫び声を効き、煙が立ち昇るのを見ていました。 彼は、自分が義務を果たしたことを理解しました。 そして今度やるべきことは、軍に戻ることでした。
by richard_sharpe
| 2007-04-09 14:43
| Sharpe's Escape
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