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1810年、ブサコ作戦。
第2部 コインブラ 第9章 - 1 補給責任者のローレン・ポケランはこの数週間というもの、ずっと食糧の心配をし続けてきました。 彼は6万5千の兵士たちと、1万7千の馬の食糧を確保する責任がありました。 この荒野では難しい相談で、全ての街は遺棄され、倉庫は空で、果樹園の果物も取り去られ、井戸は汚染されていました。騎兵たちが何度も食糧の探索に派遣されましたが、殺しても殺しても出没するパルティザンたちに悩まされ、蹄鉄も底をつき、その苦情にもポケランは対応しなければなりませんでした。 彼は母の涙ながらの懇願に従えばよかった、と思い始めていました。僧になればよかった。 しかしついに奇跡が起こり、ポケランの悩みは解決されたのです。 フェラグスの倉庫には全軍を1ヶ月は維持できる量の食料が保管されており、そのほかにも油や蹄鉄、釘といった価値のあるものがたっぷりありました。必要ないものは、売り払うという役得もあるわけです。 彼は3人の伍長を率いて倉庫の中を調査しました。 リストにし切れないほどの量が保管されていました。 ポケランの新たな悩みは、これをどのようにして運ぶかということでした。 「街中の荷車を徴発してこい。手押し車も荷馬車も、全部だ。市民を運搬に徴用しろ」 「それを私一人で?」 と、言いつけられた伍長は口をもごもごさせながら答えました。彼はこっそりチーズを食べていたのでした。 「私は元帥に報告しなければならない。貴様、食ったのか?」 「虫歯があって、軍医に抜くように言われているんです。抜きに行っていいですか?」 「却下する」 ポケランは答えました。彼は剣を抜いて伍長に叩き付けたいほどに頭にきていましたが、剣を抜いたことは今まで一度もなく、さびているのではないかと心配でした。そこで彼は伍長を張り倒しました。 「われわれは模範に成らなければならんのだ。兵士たちが空腹なら、われわれもそうでなければならない。軍の糧食を勝手に食うな。馬鹿者。貴様は何様だ?」 「馬鹿です」 と伍長は答えました。しかし少なくとも、腹をすかせた馬鹿ではなくなっていました。 伍長たちを荷車の徴用に送り出すと、次のポケランの仕事は倉庫の護衛の確保でした。 「ドゥムスニル!」 と、彼は竜騎兵の大佐を呼びました。 ドゥムスニル大佐は他のフランス兵たちと同様、兵站部門を馬鹿にしていました。彼はゆっくりと向きを変えてポケランに近づき、上からこの小男を見下ろしました。 「呼んだか?」 「倉庫にはほかにドアがないか、確認したか?」 「もちろんまだだ」 「誰も入れるな。わかったな。誰もだ!軍のためだぞ、大佐!私はマッセーナ元帥に、きみがこの物資の安全の責任を負っていると報告してくる」 ドゥムスニルは鞍の上から身を乗り出しました。 「マッセーナ元帥は自ら私に命令を下されたのだ、このチビ。お前の命令などには従わん」 「もっと増員しろ」 ポケランは2分隊の騎兵しかいないのに、周りを兵士たちが取り囲み始めていることを心配していました。 「なぜあいつらは集まってきたんだ」 「ここに食い物があるという噂が広まっているからだ。奴らは腹をすかせているからな。こっちはこれで十分だ。お前は自分の仕事をしろ。私の仕事に口出しするな」 ポケランはドゥムスニルにその場を任せ、倉庫の戸口のところにフェレイラ少佐とフェラグスと一緒にいるバレット大佐のところに向かいました。 「全てが良好です。情報以上のものです」 「こちらの紳士はいつ支払われるのかということを知りたがっている」 と、バレットはフェラグスのほうを振り返りながら言いました。 「今すぐに」 ポケランには決裁権はありませんでしたが、マッセーナにこのグッド・ニュースを伝えれば、即座に支払われるだろうと思っていました。彼は騎兵たちの間を、3人を案内して通り抜け、騎兵はまた扉を固めました。 噂を聞きつけた兵士たちの数は増し、ドゥムスニル大佐は剣を抜いて、軍の食糧を守る体勢をとるのでした。 シャープとハーパーは屋根を駆け抜けてヴィセンテとセイラの元へ戻りました。 ヴィセンテは苦痛に身を曲げ、新しい血のしみをドレスにつけたセイラは青ざめていました。 「どうなった?」 と、シャープは尋ねました。 セイラはシャープに向かって血に染まったナイフの刃を見せました。 「弾をとりだしました」 と、彼女は小さな声で言いました。 「よくやった」 「布のクズもたくさん」 と、ちょっと自信ありげに彼女は付け加えました。 「そりゃよかった」 と、シャープは言いました。 ヴィセンテは壁に寄りかかり、シャツを裂いて作った新しい包帯には血がにじみ出ていました。 「痛いだろう」 と、シャープは尋ねました。 「痛い」 ヴィセンテはそっけなく答えました。 「大変だったけれど、彼は声を立てなかったわ」 「それは彼が軍人だからだ」 セイラの言葉にシャープが答えました。 「腕を動かせるか?」 「たぶん」 「やってみろ」 ヴィセンテはぞっとしたようですが、シャープの言葉の意味を悟ると痛みをこらえて何とか左腕を上げました。動いたということは、関節は無事だということでした。 「すぐに良くなるさ、ホルゲ。傷を清潔にしていれば。蛆虫かな?」 と、シャープはハーパーを見ました。 「まだです。傷が膿んだときだけですよ」 「蛆虫?蛆虫といったのか?」 と、ヴィセンテはためらいがちに尋ねました。 「これがいちばんなんですよ」 と、ハーパーは熱意を込めて答えました。 「傷が膿んだときにはちっこいヤツらを置いておけば、腐った肉を食ってすっかりきれいにしてくれるんです。俺はいつも5~6匹飼ってるんですよ。軍医に見せるよりもずっといいです。連中はすぐにちょん切りたがりますからね」 ハーパーは雑嚢をたたきながら言いました。 「俺は軍医が嫌いなんだ」 と、シャープも言いました。 「彼は弁護士が嫌いなんだ」 と、ヴィセンテはセイラに言いました。 「今度は軍医が嫌いだ。好きなものがあるのかな?」 「女さ」 と、シャープは答えました。 「俺は女が好きなんだ」 彼は町を見渡し、街路に悲鳴や銃声が響いているのを聞いていました。 コインブラは混沌の中にあり、狭い街路から煙があちこちで上がっていました。 「火をつけ始めた。早いとこ仕事にとりかかろう」 彼はハーパーに7連発銃を装填しておくように命じると、 「どの家にも学生部屋があるのか?」 と、ヴィセンテに尋ねました。 「たいていは」 「ここみたいな?」 と、シャープは彼等の脇の屋根を身振りで差しました。 「何軒かの家の屋根裏をぶち抜いている?」 「たいていそうだ」 と、ヴィセンテは答えました。 「レプブリカと呼ばれていて、家全体がそういうタイプのものと、家の一部だけがそういうものとがある。それぞれ自治が認められていて、一人ひとりに投票権があるんだ。私が学生だった時は・・・」 「わかったよ、ホルゲ。もういい。あとで話してくれ」 と、シャープはさえぎりました。 「倉庫の向かいの家の何軒かがレプブリカだといいんだが」 彼はさっき行ってきた時に見ておくべきだったと思いましたが、さっきはそのことに思い至らなかったのでした。 「今必要なのは、ユニフォームだ」 と、彼は続けました。 「ユニフォーム?」 と、ヴィセンテが尋ねました。 「カエルどものユニフォームだよ、ホルゲ。そしてお祭りに参加するんだ。気分はどうだ?」 「力が出ない」 「しばらくここで休め。パットと俺が新しい服を調達してくる」 シャープとハーパーは窓を乗り越え、屋根裏に入りました。 「肋骨がえらく痛むんだ」 と、シャープはぼやきました。 「固定したほうがいいですよ。あとで俺がやってあげます。時間ができたら」 ハーパーはそう言いながらかかに耳を済ませてドアを抜け、シャープが後に続きました。彼らは物音を立てないように、ゆっくりと進みました。 少女の悲鳴が聞こえました。殴られでもしたように一瞬途切れ、また悲鳴が上がりました。 ハーパーは悲鳴の聞こえたドアににじり寄りました。 「血を流すなよ」 と、シャープはささやきました。 階下からは兵士の声が聞こえましたが、少女のことに気を止めてもいないようでした。 シャープは扉を押しながら部屋に入りました。3人の兵士がおり、2人は少女を床に押さえつけ、3番目は大柄な男で、上着を脱いでズボンを足首までおろし、膝をついていました。シャープはその後頭部にライフルの銃床を叩きつけました。兵士は少女の腹の上に倒れこみました。 シャープはその男はそのままに、左手の男の顎をライフルで殴りつけました。骨の砕ける音がしました。 ハーパーの拳が3人目の男を倒しました。 最初の男は衝撃から立ち直り、シャープの股間を狙ってきました。しかし7連発銃の銃身が、ハーパーの手で頭蓋骨に打ち付けられ、男は昏倒しました。 衣類を剥ぎ取られた少女は恐怖の叫びを上げようとしましたが、ハーパーが彼女の服を拾い上げてやり、唇に指を当てました。 少女は息を止めて彼を見上げ、ハーパーはにっこりしました。 「お嬢さん、服を着なよ」 「イングレ?」 と、少女はドレスを引き寄せながら尋ね、ハーパーはうろたえたような表情をしました。 「俺はアイルランド人だよ」 「頼むから、色男」 と、シャープが口を挟みました。 「上に行って二人を連れてきてくれ」 「イエッサー」 ハーパーはドアを出ました。少女は彼が出て行くのを見ると小さく叫び、ハーパーは振り向いてウインクをしました。彼女は着かけた服をつかんで彼のあとを追い、シャープは3人の倒れた兵士たちと共に取り残されました。 大柄な男が息を吹き返す気配を店、シャープは彼の銃剣を取ると肋骨の間に突き立てました。 男はかすかに喉を鳴らしてシャープを見つめ、そのまま首をたれました。血は少ししか出ませんでした。 他の二人は意識を取り戻す気配はありませんでした。シャープは上着を脱がし、自分のジャケットを脱ぐとそれを着てみました。 片側がボタン止めになっていて、前はウエストまでの丈で、後ろが長くなっていました。白い裏地と赤の縁取りで、高い襟は赤で、やはり赤い肩章がついていました。 シャープは白いズボンに履き替えることはやめました。彼はフランス騎兵のオーバーオールを吐いていて、ブルーのジャケットのそのズボンというのはイレギュラーでしたが、2~3回の戦闘を経験した兵士たちは、もともとの正式な服装などしていないものが大半になるのでした。 彼は倒れた兵士の背嚢に自分のジャケットと帽子を突っ込み、代わりの帽子をかぶりました。 その帽子の徽章で、彼は第19歩兵連隊の兵卒ということになりました。 ハーパーが戻ってきて、敵兵のブルーのユニフォームに身を包んだシャープを見てにやりと笑いました。 「よく似合いますよ」 ヴィセンテの後に娘たちが続きました。 ポルトガル人の少女はまだずいぶん若く、15歳くらいで、明るい瞳と黒髪の持ち主でした。 彼女は自分をレイプしようとしていた男が胸から血を流して倒れているのを見るとつばをはきかけ、止めるまもなく、他の二人のうちの一人の首に銃剣を拾い上げて突き立てました。血しぶきが壁に飛びました。 ヴィセンテは口を開き、何か言いかけましたがやめました。 18ヶ月前、シャープが初めて会ったころの彼は強姦犯への正式な裁判を言いたてたものでした。 しかし今の彼は、少女がもう一人の男に身をかがめ、その口元にも銃剣を突き立てるのをただ見ているだけでした。 「俺はレイプするやつが大嫌いだ」 と、シャープは静かに言いました。 「クズですよ」 と、ハーパーも同意しました。 「人間のクズです」 セイラは、見たいわけではなかったのですが少女が両手で握った銃剣から目を離すことができず、見入っていました。 シャープに促されてヴィセンテとハーパーもジャケットを着替えました。 「名前を聞いてくれ」 と、シャープはセイラに言いました。 少女はホアナ・ハチントという名で、この家の住人でした。父親は川で働いていたのですが、今彼がどこにいるのかわからないということでした。 「ありがとうと言っているわ」 「ホアナか。きれいな名前だな」 と、フランス軍の軍曹姿になったハーパーが言いました。 「それに使える女の子じゃありませんか。銃剣の使い方がうまい」 シャープは、袖をやっとの思いで通したヴィセンテが上着のボタンを掛けるのを手伝ってやりました。 「彼女は私たちと一緒にいたいといっているわ」 と、セイラはしばらく少女と言葉を交わしたのちに言いました。 「もちろんそうじゃなくちゃ」 ハーパーは、シャープが意見を口にする前に答えました。 ホアナの焦げ茶色のドレスは胸のところを裂かれていたため、彼女が自分で殺した二人目の兵士のシャツをその上からはおってボタンを掛けました。そしてマスケットを拾いました。 セイラもまた、マスケットを肩にかけました。 たいした戦力ではありませんでした。 2人のライフルマンと、2人の女、そして負傷したポルトガルのカザドール。しかしシャープはフランス軍の夢を打ち砕くには、これで十分だと思いました。 彼もライフルを肩に引っさげ、剣を高くベルトに吊るし、彼らの先頭に立って階段を降りました。
by richard_sharpe
| 2007-04-07 15:02
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