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1810年、ブサコ作戦。
第2部コインブラ 第7章- 2 「こっちだ、パット!」 シャープは叫ぶと同時にセイラをつかんで袋の間に押し込みました。 扉は閉じられ、あたりは暗くなり、シャープはライフルを扉に向けて構えました。同時に、最初の銃弾が飛んできました。 一発目はシャープの頭のすぐそばの袋にあたり、2発目は鉄の樽に跳ね返って壁に当りました。 そして3発目、ヴィセンテが後ろにはじかれるようにして倒れ、ライフルを取り落としました。 シャープはライフルをセイラのほうに蹴りこむとヴィセンテを狭い空間に引っ張り込んでから、再び扉に狙いをつけました。 ハーパーが大きく壁を伝って迂回し、こちらにたどり着きました。 「6人か、それ以上います」 「長居はできないぞ。ミスター・ヴィセンテが撃たれた」 ヴィセンテは立ち上がり、壁に寄りかかっていました。 「出血している」 と、彼は言いました。 「どこだ?」 「左肩だ」 「唾に血が混じるか?」 「いや」 「なら、大丈夫だ」 シャープはヴィセンテのライフルをハーパーに渡しました。 「7連発銃を貸してくれ。ミスター・ヴィセンテとミス・フライを連れて奥へ行け。出口を探すんだ」 シャープは耳を済ませました。かすかな音がしていましたが、ネコかネズミのようでした。 「壁沿いに行け」 と彼はハーパーにささやき、開けた場所に身体をさらしました。 影の中で火花が瞬き、弾丸が彼の脇をかすめました。シャープはライフルを振り上げました。 「今だ、パット!」 ハーパーがヴィセンテとセイラを導きながら奥に引っ込むと、シャープは右肩にライフルを、左肩に7連発銃を掛け、積荷の上によじ登りました。穀物の袋の間に足を取られながらも、音を立てずに彼はそっと腹ばいになり、かすかなささやき声を頼りに進みました。 敵は自信ありげでしたが、騒ぎを大きくしたくない様子でした。 フェラグスが突然叫びました。 「シャープ大尉!」 答えはありませんでした。 「シャープ大尉!」 やはり、返事はありませんでした。 「出て来い!謝るのなら帰らせてやる!俺はお前の謝罪が欲しいだけだ!」 よく言うよ、と、シャープは思いました。 フェラグスはこの貯蔵品を全てフランス軍に売り渡すことを望んでおり、シャープたちが姿を現した途端に銃撃でことを終わらせるつもりなのでした。 奇襲には奇襲で返すに限る。 シャープはゆっくりと袋の山の縁に移動し、下を見下ろしました。誰も上に気をとられていませんでした。 兵隊なら、常に上方に注意するべきだ。 シャープは7連発銃を構え、ベストな瞬間を待っていました。 そのとき、今度は扉のほうから違う声が聞こえてきました。 「シャープ大尉!フェレイラ少佐だ」 では、あの野郎もここにいるわけだ。シャープは7連発銃を構え、発砲しようとしました。しかしフェレイラ少佐は言葉を続けました。 「将校として約束する!出てくれば傷つけたりしない!兄は謝罪を望んでいるだけだ」 彼はポルトガル語でも何か話しました。ヴィセンテがいるのも知っていて、彼に信用させようとしているようでした。 シャープは銃口を下に向け、引き鉄を引きました。 すさまじい音が石の壁に反響し、反動でシャープは銃を取り落としかけました。 下の通路では悲鳴が上がり、逃げる足音が聞こえました。 ピストルが一発発射されましたが、シャープは既に奥に向かって走り始めていました。 何回か通路を飛び越え、端にたどり着くと、彼は 「何か見つかったか、パット?」 と尋ねました。 「跳ね上げ戸があります。それだけです」 「受け取れ!」 シャープは7連発銃を投げ下ろし、積荷を探りながら途中まで降りてから床に飛び降りました。フェラグスとその手下たちの気配はありませんでした。 「当りましたか?」 「たぶん2人。跳ね上げ戸だと?」 「ここです」 「何だ!臭うな」 「何かいやなものがあるみたいです。ハエがすごいですよ」 正面から出るとなると、さらに怪我人が出る。女性を連れている以上、彼女を危険にさらすことはできない。 彼は床の扉を引き上げました。ひどい臭いが立ち昇ってきました。何かが闇の中で死んでいる。ネズミか? 身を乗り出して階段の下を覗いてみましたが、地下蔵があることくらいしかわかりませんでした。 地下室には出口があるかもしれない。 倉庫の反対側の階段で、足音がしていました。フェラグスたちは、高い場所からの攻撃を考えているようでした。 もう逃げ道はほかにありませんでした。 「降りろ!」 彼は最後に降り、フェラグスたちが気づかないよう、そっと蓋を閉めました。 暗闇の中のひどい悪臭に、セイラはむせ返りました。ハエの羽音がうるさいほどでした。 「パット、銃を装填しておけ。ライフルをくれ。俺がライフルを撃ったら、こっちを先に装填して欲しい」 シャープはささやきました。ハーパーなら、暗闇の中でもライフルの装填ができるはずでした。 「ホルゲ、壁沿いに出口があるかどうか探ってくれるか?」 「フェレイラ少佐が上にいる」 ヴィセンテは痛みをこらえながらも、希望のある様子で言いました。 「兄貴と同じ悪党だ」 と、シャープは言いました。 「ヤツはカエルどもに小麦粉を売ろうとしていた。俺がそれを止めたんだ。ブサコで俺をハメたのはあいつだ」 証拠はありませんでしたが、確かなことでした。シャープをホーガンとの夕食のために修道院に招いたのはフェレイラであり、その帰りに襲われたのです。 シャープはポケットからナイフを取り出し、セイラを呼びました。 「これを取ってくれ。気をつけて。ナイフだ。あんたのドレスの裾を切り取って、ホルゲの肩の包帯の代わりにして欲しい」 シャープは彼女が、今ではたった一つの持ち物であるドレスをダメにするのを嫌がるかと思ったのですが、しばらく後に絹を切り裂く音が聞こえてきました。 シャープは階段をのぼり、聞き耳を立てました。しばらくの間は静かでしたが、いきなり銃声が響き、厚い木材でできた跳ね上げ戸に銃弾が食い込む音がしました。 フェラグスの、シャープたちを見つけたという宣告でした。 しかしまた、辺りは静かになりました。 「奴らは誰もいなくなったと思わせたいんだ」 「出口はない」 ヴィセンテが言い切りました。 「いつだって出口はある。ネズミは入ってきているじゃないか」 「それに死人が二人いる」 「奴らはこっちに手出しをしない。本当に死んでいるんならな。ホルゲ、シャツを脱いで、ミス・フライに手当てをしてもらえ」 むせ返るような臭気の中、シャープはささやきました。 シャープは待ちました。 待ち続けました。 ヴィセンテのうめき声と、セイラがたてる衣擦れの音だけが聞こえていました。 シャープはハッチのそばにいて、次にどんな手を彼らが企てているかを考えていました。 「装填できました」 と、ハーパーが言いました。 「奴らが来るといいな」 とシャープが答えたそのとき、頭上で大砲のような音が轟きました。 シャープは爆発を予期しましたが、またドスンという重い音が響き、それが何度か続きました。 「重石を載せているんだ」 「なぜ?」 と、セイラが尋ねました。 「連中は俺たちを閉じ込めたんだよ、ミス。都合のいい時にまたもどってくるつもりだ」 シャープの考えでは、フェラグスは英軍とポルトガル軍が駐留している間は、騒ぎを起こしたくないはずでした。彼らが去ってフランス軍が到着するまでは、倉庫を開けるつもりはない。 「だから時間は稼げた」 「何のための時間を?」 と、ヴィセンテは尋ねました。 「出て行くための時間さ。みんな、耳を塞げ」 シャープは一呼吸待ってから、ライフルを頭上に向けて撃ちました。その弾丸は扉に埋まり、シャープの耳はガンガン鳴っていました。彼は替えのカートリッジを探り、弾丸の装填だけを済ませました。 「手を貸してくれ、パット」 火薬と紙だけをハーパーの掌に乗せたシャープに、ヴィセンテが何をしているのかと尋ねました。 「神になるのさ。光を作る」 シャープは上着の内側を探り、ロウフォードがくれた「ザ・タイムズ」を取り出すと二つに裂き、一方はまた懐に収め、もう一方をきつくねじりました。 「準備できました」 ハーパーは既にシャープが何をしようとしているのか理解していました。 「火打石を探せ」 「あります」 「パット、今日俺と一緒にきてよかったか?」 「これまでで一番幸せですよ」 「じゃあ、今いるところがどういうところか見てみようぜ」 シャープは引き鉄を引き、火花が火薬を伝って炎が上がり、新聞紙のたいまつに燃え移りました。シャープはそれを手に取りました。燃え尽きるまで約1分でした。 たいして見るべきものはありませんでした。2つの死体以外は。 それは無残な眺めで、顔はネズミに食い荒らされ、切り裂かれた腹からは蛆虫があふれ出、びっしりとハエがたかっていました。 セイラは身をよじり、嘔吐しました。 およそ20フィートの正方形の地下室で、床は石造りでした。天井は石とレンガでできており、細いレンガでアーチ状のつくりになっていました。 「ローマ時代のものだ」 と、ヴィセンテがアーチを見ながら言いました。 新聞紙は最後の炎を上げ、ヴィセンテが暗い声で 「閉じ込められた」 とつぶやきました。彼はシャツの左側を裂かれ、包帯を巻かれていましたが、皮膚とシャツの端が血に染まっているのが見えました。 そして炎は燃え尽き、再び暗闇が戻ってきました。 「出口はない」 「出口は常にある」 シャープは言い張りました。 「俺は前にコペンハーゲンで閉じ込められたことがあるが、抜け出した」 「どうやって?」 と、ヴィセンテは尋ねました。 「煙突だ」 シャープは答え、そしてあのときの暗く、狭く、息苦しかった思い出に身震いしました。 「ローマ人が煙突を作っていなくて残念ですよ」 と、ハーパーが言いました。 「彼らが戻るのを待って、飛び出して闘うしかないな」 と、ヴィセンテが言いました。 「無理だ。フェラグスが次に来る時は、こっちにチャンスをくれるはずがない。扉を開けた途端に銃撃で皆殺しだ」 「じゃあ、どうすればいいの?」 と、気を取り直したセイラが小さな声で尋ねました。 「あの上の食糧を破壊しなくちゃならない」 と、シャープは頭上に顎を向けました。 「ウェリントンが望んでいることだ。そうだろう?俺たちの義務だ。仕事をしなくちゃな」 しかしその前に、シャープもどうすればいいかわからないのでしたが、彼らはそこから脱出しなくてはなりませんでした。 二人の負傷者を除き、フェラグスとフェレイラ少佐、そして3人の男たちは酒場に場所を移していました。 「言ったはずだ。彼らは軍人だ」 と、フェレイラが言いました。 「もう死んだも同然だ」 フェラグスは暗い眼をしてワインを見つめていました。 4人を閉じ込め、これからどうするかを考えているのでした。 彼らが死ぬまで、どれくらいかかるだろうか。気が狂うだろうか。撃ち合い、殺しあう?死肉をむさぼるだろうか。 そして扉を開けた時に、生き残りは一人だけ・・・。 いや、3人の男たちが哀れみを請うところを見なくては。そしてセイラ・フライには、次のレッスンを。 「今夜やつらを出す」 「今夜はまだ英軍がいる」 と、フェレイラがさえぎりました。 「じゃあ、明日の朝だ」 「明日の朝もまだダメだ。それに午後には私と一緒にフランス軍との会合に行かなくてはならない」 「お前とミゲルが行けばいい。俺はここに残る。英軍が去り次第、ゲームの始まりだ。倉庫の前で会おう。フランス軍の護衛を連れてきてくれ。俺は中にいるつもりだ」 今回のことは彼にとっては男としての面子の問題でした。 名誉の挽回でした。そして、今度は勝つつもりでした。 英軍とポルトガル軍はモンデゴ川を渡ってリスボンに向かう道をたどり始め、それにしたがっていく家畜や荷車、市民たちで、道はごった返していました。 ロウフォード中佐は埠頭のほうを何度も振り返りました。 彼はよく眠り、上等の食事を取り、軍服もきれいに手入れされ、愛馬ライトニングの鞍に収まっていました。 彼の連隊は厚さの中で汗まみれになり、汚れ、つかれきっていました。 「問題は塩漬け肉です。燃やすこともできません」 と、フォレスト少佐が言いました。 「シャープがテレピン油の事を何か言っていなかったか?」 「会っていません」 「ここにくればいると思ったんだが」 と、ロウフォードは煙の漂う埠頭の周囲を見回しました。 「シャープは美人の英国女性を助け出したんだ。もう少し私が注意を払ってやればよかったんだが」 「ここにはいません」 「戻ってくるだろう。いつものことだ」 そこへ、スリングスビー大尉がやってきて敬礼しました。 「中佐、兵士が一人行方不明です。ハーパー軍曹です。許可なく場所を離れました」 「私が許可をした」 と、ロウフォードは言いました。 「私は許可していません」 「越権だ。わかっている。しかしハーパー軍曹は必ず戻ってくる。ミスター・シャープと一緒だ」 「それなら、なおさらです」 「どういうことだ?」 「ミスター・シャープは今朝、また私に無礼を働きました」 「その問題はまた別の時に」 「彼に、ハーパー軍曹を連れて行く権利はありません。そんなことをしたら煽り立てるだけです。なにしろアイルランド人ですからね」 ロウフォードは、スリングスビーの息が酒臭いような気がしました。 「彼がアイルランド人だと言うなら、このライトニングもアイルランド出身だ」 「ハーパー軍曹は国王陛下の軍隊というものに敬意を払っていません」 「ハーパー軍曹は」 と、フォレストが割って入りました。 「タラベラでイーグルを取ってきた一人だよ、大尉。きみが合流する前だ」 「彼が戦うということは否定しません。闘犬みたいなものですよ。そういう血なんです」 「きみは何が望みだ?」 ロウフォードが尋ねました。 「ハーパー軍曹が戻り次第、罰を受けさせます」 「それは戻った時の様子次第だ。任せる」 「ありがとうございます」 と、スリングスビーは敬礼をして去りました。 「熱心な男だ」 と、ロウフォードは言いました。 「そうでしょうか」 フォレストは言いました。 「今夜、一緒に夕食をどうだ?そして朝にはコインブラよ、さらば、だ。そしてフランス軍が慈悲をたれますように」 20マイル北ではフランス軍が街道に向かっていました。 次はコインブラ、そしてリスボンへ。そして勝利。 イーグルは南へと向かいつつありました。
by richard_sharpe
| 2007-03-26 18:06
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