カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1810年、ブサコ作戦。
第2部コインブラ 第6章 - 1 翌日いっぱい、英軍とポルトガル軍は尾根の上からフランス軍を見下ろしていました。 時折マスケットやライフルの銃声が響いていましたが、静かでした。今は砲声も途絶えていました。 フランス軍の歩兵が、武器を持たず、シャツ一枚で丘を登ってきて、負傷者を収容しました。 英軍・ポルトガル軍の歩哨は、彼らが近づき過ぎない限り、その作業の邪魔をしませんでした。 負傷者が後方に運ばれ、死者が流れの向こうに掘られた穴に埋葬されました。フランス軍が掘った塹壕がそこにありました。 しかしこの防御のための要塞は無駄な努力で、ウェリントン公は谷を見下ろす有利な要塞を捨てるつもりはないと思われました。 第9小隊にいた19歳のジャック・バレン中尉が、イリッフの後任として送られてきました。ロウフォードの布告によってスリングスビーは今では大尉でした。 「彼は第55連隊で経験を積んでいる。それがバレンとの違いだ」 と、ロウフォードはフォレストに話しました。 「確かにそうでしょう」 ロウフォードはフォレストの声音にある意味を感じ取りました。 「たんに礼儀の問題なんだ。フォレスト、きみも賛成だろう?」 「全くそのとおりです。しかし私はシャープのほうに価値を認めますが」 「どういう意味だ?」 「私が言っているのは、シャープが攻撃隊を指揮するほうが望ましいということです。彼はその分野では最高の男です」 「それはそうだろう、フォレスト。そうだろう。ただ、彼が文明化されたマナーを身につけ次第、ということだ。われわれは文明のために戦っている。違うか?」 「そう願います」 と、フォレストは同意しました。 「そして下層階級の無礼さをはびこらせるわけには行かない。シャープの行動はそれだ。私はそれを根絶したいんだ」 太陽を滅ぼすようなものだな、とフォレスト少佐は思いました。この少佐は礼儀正しく分別のある、繊細な男でしたが、サウス・エセックスがマナーを身につけたら、作戦遂行がうまく行くかどうか疑問だ、と思いました。 陰鬱な雰囲気が連隊に漂っていました。 ロウフォードは死傷者を運び出させ、埋葬したり、あるいは軍医の手に任せたりしました。 忙しい一日だった、とロウフォードは思いました。 彼は兵士たちにマスケットの手入れを命じ、さらに兵士たちを励まそうとしましたが、暗い視線と呟きしか得られませんでした。 ロウフォードは愚かではなかったので、それが何に原因するのか、わかっていました。 彼はシャープが謝罪することを望んでいました。しかし彼の姿は見当たらず、とうとうロウフォードはルロイを探し出しました。 「彼と話してくれ」 と、彼は頼み込みました。 「私のいうことなど聞かないでしょう、中佐」 「ルロイ、彼はきみを尊敬している」 「そうかもしれませんが、彼はロバみたいに頑固ですよ」 「兵士たちは不満なんだ」 「シャープは変わった男です」 と、ルロイは言い、タバコに火をつけました。 「たいていの兵士たちは、兵卒上がりの将校を嫌います。しかし連中はシャープが好きなんだ。彼は兵士たちに恐れられています。そして兵士たちは、彼のようになりたがっている。彼は本当の兵士なんです。昨日はスリングスビーの命を救った」 「それはどうでもいい」 と、ロウフォードはいらだたしげに言いました。 「スリングスビー大尉は小隊をすこし遠すぎるところまで率いていったが、無事に連れ帰った」 「そのことを言っているのではありません」 と、ルロイは言いました。 「シャープはスリングスビーをポルトガルの地に葬ろうとしていた奴を撃った。今まで見た中で、いちばんすばらしい射撃でした」 確かにあの時はロウフォードもシャープをねぎらいましたが、今はそんな気分ではありませんでした。 「誰もが発砲していた。よそから飛んできた弾だったかもしれない」 「そうかもしれません」 と、アメリカ人は疑わしげな言い方をしました。 「しかし昨日のシャープはずいぶん役に立ったということはお認めになると思いますが」 ルロイはシャープの小声のアドバスを聞いていたのだろうか、とロウフォードは思いました。 しかし彼のアドバイスがなくても、ロウフォード自身の判断で連隊を旋回させただろう。 「謝罪さえすればいいんだ!」 と、ロウフォードは主張しました。 「話してみますよ、中佐」 と、ルロイは約束しました。 「しかしミスター・シャープは最後の審判の日まで謝りはしないと言っているんでしょう。ウェリントン公でも捕まえない限り、命令は効きませんよ。シャープが恐れているのは彼だけです」 「ウェリントンの手を煩わせる気はない」 ロウフォードはウェリントンの参謀本部にいたので、彼の気質を心得ていました。彼はこのことをロウフォードの失敗だと考えるはずでした。 確かに失敗でした。 ロウフォードは、シャープがスリングスビーよりもはるかに優秀な将校であることを知っていました。しかし中佐は妻のジェシカにコーネリアスのキャリアについて約束していたのです。約束は守らねばならない。 「話してみてくれ」 と、彼はルロイを急き立てました。 「謝罪の手紙でもいいんだ。自分で渡す必要もない。私があとで受け取りに行ってもいい」 「そう言ってみます」 とルロイは言い、坂を下って連隊の補給部隊に向かいました。兵士の妻たちに帽子を取って挨拶をし、そしてシャープの姿を見つけました。 「一言いいか?」 彼はシャープを伴って、すこし坂を降りました。 「私が何を言いにきたかわかるな?」 と、ルロイは言いました。 「推測できます」 「それで?」 「ノー です」 「そうだろうと思った。で、私は中佐になんと伝えればいい?」 「最高の補給将校をお持ちになったと」 ルロイはくすくす笑いながら坂を登り、連隊の妻たちに帽子を上げて歩いていきました。 「考えてみるそうです」 数分後、彼は中佐に告げました。 「いくらか希望が出てきたということならいいが」 と、ロウフォードは言いました。 しかしシャープがそのことについて考えたにしろ、謝罪は届きませんでした。 その代わり、日暮れ時になって、撤退の命令が発せられました。全軍、夜明け前までにリスボンに向かうというものでした。 その中でサウス・エセックスだけが違う指令を受けることになりました。 「われわれが撤退すると思うだろうが、尾根を迂回する道がある。もしとどまれば、フランス軍がそこからやってくる。われわれには違う指令が下った。連隊は今夜ここを発し、コインブラに向かう。長い道のりだが、必要なことなのだ。コインブラに到達したら、物資の全てを破壊する。ポルトガル軍も同様の使命で送り込まれる。重要な任務だ。将軍は補給物資を明日の夜までに破壊することを望んでおられる」 と、ロウフォードはテントに集まった将校たちに説明しました。 「コインブラに今夜までに着かねばならないと?」 と、ルロイは尋ねました。少なくとも20マイルの距離があり、特に夜の行軍は大変なものになりそうでした。 「荷車が物資を運ぶ。兵士の背嚢もだ。負傷者と女子どもは荷車隊と一緒に進む。われわれは身軽に、早く行軍することができる」 「先発隊は?」 と、ルロイが知りたがりました。 「補給将校がどのようにすればいいか判断するだろう」 「深夜の行軍は、混乱しがちです。特にコインブラでは。休憩所を探すのにもそうですが、酒を飲む連中も出るでしょう。シャープ一人では無理です。私も同行させてください」 ロウフォードには、ルロイの申し出がシャープに対する同情から出ていることがわかっていました。しかしその申し出はもっともなことでした。ロウフォードはうなずきました。 「少佐、そうしてくれ。そしてわれわれ残りのものは、コインブラに最初に到着する。ポルトガル軍に先を越されるわけにはいかない。1時間以内に準備を」 「軽歩兵隊が先頭ですか?」 と、スリングスビーが熱心な口調で尋ねました。 「もちろんだ、大尉」 「急ぎます」 「案内人はいるんですか?」 と、フォレストは尋ねました。 「一人見つけた。しかしむずかしいルートではない。メイン・ロードを西に向かい、南に曲がるだけだ」 「すぐわかるでしょう」 と、スリングスビーが自信満々で言いました。 「1時間で支度だ、諸君。1時間だ!」 ロウフォードはにっこり笑いました。 ルロイはシャープを探しにいきました。 「きみと私がコインブラに向かう。私の替え馬に乗るといい」 「コインブラ?」 「宿舎探しだ。連隊は今夜出発する」 「あなたは来なくても大丈夫ですよ。前に宿舎探しはやったことがあります」 と、シャープは言いました。 「一人で行きたいのか?」 と、ルロイはにやりと笑いました。 「私も行くよ、シャープ。連隊は20マイルも一晩で混乱しながら進むことになる。無理だ。細い道だぞ。私は一緒にいたくないね。きみと一緒に先に行く。それで宿を探して、酒場を見つける。日が昇るまでに連隊が着くわけがないという方に10ギニー賭けてもいい」 「金は取っておいてください」 「それに連中が到着した時には、連中はとんでもなく不機嫌になっているだろうからね。だからきみのアシスタントとして一緒に行くのさ、シャープ」 彼らは馬に乗り、丘を下りました。日が傾き、影が長く伸びていました。9月の末でした。 負傷者を載せた荷車は既に出発しており、ルロイとシャープは彼らを追い越していきました。 半分打ち捨てられた村を通り過ぎたとき、彼らはポルトガル将校たちが残っている村人を対比させようとしている様子を見ました。 黒い服の女性が、将校の馬に殴りかかり、叫び声を上げていました。 「彼らに文句は言えない。彼らは、われわれが戦闘に勝ったことを知っている。それなのになぜ避難しなければいけないのかと言っているんだ。いやなものだよ、家を捨てるというのは」 ルロイの声は苦々しく、シャープは彼に視線を向けました。 「経験があるんですか?」 「ある。反逆者に追われて、着のみ着のままでカナダに向かった。私はほんの子供だったがね、シャープ。エキサイティングだと思ったものだ。子供に何がわかる?」 「それでイギリスに?」 「そして成功したんだ。父はかつて戦った相手との間で貿易をすることに躍起になった」 とルロイは笑い、しばらくの間、彼らは黙って馬を進めていきました。 「で、リスボンの防御について話してくれないか」 「俺が知っているのは、ホーガン少佐が話してくれたことだけです」 「彼はなんと?」 「ヨーロッパでこれまで作られたものの中では最大の防壁だといっていました。140以上の要塞があって、塹壕で結ばれています。丘は傾斜を急にして、谷は障害物で埋め、流れは叛乱しやすくしています。各区画ごとに大砲を置いて、2列に渡ってテージョ川から海まで続いています」 と、シャープは説明しました。 「その背後にいて、フランス軍の鼻をくじくことができると?」 「彼らを飢えさせることができます」 と、シャープは言いました。 「で、シャープ、きみはどうするんだ?謝るのか?」 ルロイはシャープの表情を見て笑い出しました。 「中佐は自分から屈服するつもりはないぞ」 「俺もです」 「では補給将校にとどまるのか?」 「ポルトガル軍は英軍将校を欲しがっていますから」 と、シャープは言いました。 「そっちにいけば仕事があるでしょう」 「まったく」 とルロイは言い、そのことについて考え始めました。 「軽歩兵隊から離れたくはないんですが」 とシャープはパット・ハーパーや他の友人ともいえる連中のことを考えながら続けました。 「しかしロウフォードはスリングスビーのほうがいいようですし、俺のことはいらないでしょう」 「彼には君が必要だよ、シャープ。ただ、彼は約束をしたんだ。中佐の奥さんを見たことがあるか?」 「ありません」 「美人だ。絵のようにきれいだ。ただ、怒ったドラゴンみたいなんだ。私は彼女が召使をしかりつけているところを見たんだが、手ごわい女性だよ、われわれのジェシカは。ご亭主よりも軍の指揮官向きだな」 少佐はタバコを取り出しました。 「まあ、ポルトガル軍に入るのは急ぐことはない。ミスター・スリングスビーはじきにシッポを出すさ」 「酒ですか?」 「戦いのあった晩には、けっこう飲んでいたぞ。朝には立ち直っていたが」 彼らは日が暮れてかなりたってから、コインブラに入りました。そして市長のオフィスを探しましたが彼は不在で、訪問にはふさわしくない時間に訪れた将校たちを、ナイトキャップ姿の召使が迎えました。 「チョークはあるか?」 と、シャープは言いました。 「夜明けまでに2連隊の兵士が到着する。チョークを少なくとも4本。それから、兵站将校は?」 「道を登った左手の6番目のドアです。でも埠頭のほうに何トンもありますよ」 「ランタンがあるといいんだが」 と、ルロイ少佐が割り込みました。 「ランタン。どこかにひとつありました」 「それから馬2頭を厩に入れたい」 「裏に回ってください」 馬を休ませ、ルロイがランタンを持って、彼らは宿舎になりそうな建物にチョークでしるしをつけていきました。 SEはサウス・エセックス、4-6は第4小隊から6人、というようなしるしをモンデゴ川にまたがる橋のところまでつけ、30分後、ポルトガルの将校たちも同じような作業を始めました。 そしてシャープとルロイは埠頭の近くに酒場を見つけ、ワインとブランデー、そして食事を注文しました。 食べ始めた時、外で軍靴の音が響いてきました。ルロイはドアを開け、 「ポルトガル軍だ」 と言いました。 「わが軍は出し抜かれたのかな?中佐は喜ばないでしょうね」 と、シャープは言いました。 「中佐はご機嫌斜めだろうな」 と、ルロイも言いました。そして振り返り、ドアに書かれたSE、CO、ADJ、LCO というマークを見、ニヤリと笑いました。 「で、ロウフォードはここに泊まらせるわけか、シャープ?」 「ご親戚と一緒にいたいのではないかと思ったんでね」 「ミスター・スリングスビーを誘惑にどっぷり漬け込むわけか」 シャープはちょっと驚いた表情をしました。 「ああ、それは考えていませんでした」 「この嘘つきめ」 ルロイは言ってドアを閉め、笑い出しました。 「きみを敵には回したくないな」 彼らは酒場で眠り、明け方に目を覚ましました。 まだサウス・エセックスは到着していませんでした。 負傷者を載せた荷車と、荷物を載せた馬車が橋を渡ってきて、シャープはそれを見送ったあと、埠頭に下りました。 埠頭にはボートがつながれていて、それぞれが小麦粉、ビスケット、塩漬け肉、ラム酒などを満載し、その船体には番号と所有者の名前が書き込まれていました。 フランス軍の到着までに、全て破壊しなければなりませんでした。 フェレイラの名が記された6隻ほどのボートはひときわ大きく、シャープは、これはフェラグスのものだと推測しました。 これらのボートはレッドコートの兵士たちによって守られていました。そのうちの一人が、シャープに尋ねました。 「われわれは撤退するというのは本当ですか?」 「本当だ」 「全く、これをどうすればいいんでしょうね」 「除去する。ボートもだ」 「なんてこった」 と兵士は言い、シャープはビスケットの箱6つほどと塩漬け肉の樽に、サウス・エセックスの印をつけました。
by richard_sharpe
| 2007-03-05 15:53
| Sharpe's Escape
|
ファン申請 |
||