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1810年、ブサコ作戦。
第1部 第5章- 2 「今だ!」 クロウファード将軍は叫び、荒野から突然フランス軍の前に湧いて出たように、2連隊が立ちはだかりました。 「10歩前進!」 兵士たちはすばやく前進し、マスケットを構えました。 「ムーアの仇だ!」 第52連隊はコルンナにいて、そこで彼らは敬愛していたサー・ジョン・ムーア将軍を失ったのでした。 「撃ち方用意!」 第52連隊の大佐が叫びました。 敵は間近にいて、予期しなかったレッドコートのラインを見つめていました。全てのマスケットの銃口がフランス兵たちを狙っていました。 「撃て!」 1000を越える銃弾が発射され、あっという間に数十人の兵士が倒れました。生きているものも、負傷者の山を越えていくことができないことに気づきました。前方ではまだマスケットが狙いを定めていました。 「小隊の半数ごとに射撃!」 「撃て!」 一斉射撃が始まり、英軍・ポルトガル軍にはさらに新手の攻撃隊が加わりました。 彼らは正面からではなく、フランス軍を包囲するように回りこみ、両方の側面から射撃を仕掛けていきました。 フランス軍の前進が止まりました。 「銃剣装着!」 クロウファードは叫びました。 17インチの刃を装着する間だけ時間が空きました。 「奴らを殺せ!」 ブラック・ボブは怒鳴り、訓練のいきわたった部下たちを、4倍の敵を破滅させるために突撃させるのでした。 マスケットを発射しながら彼らは丘を駆け下り、フランス軍に到達した時、そこにはしたい野山があり、何ヤードかはなれたところに生き延びた敵兵たちがいました。英軍の兵士たちは恐ろしい鬨の声を上げ、突進しました。 「殺せ!」 ブラック・ボブは兵士たちの右手にいて、剣を引き抜き、レッドコートの兵士たちが銃剣をフランス兵に突き立てるのを見つめていました。 屠殺場のようでした。 銃撃には生き延びたフランス兵のほとんどが傷ついており、彼らは身を寄せ合い、レッドコートの兵士たちが今、銃剣で突撃してくるのでした。 突き刺し、引き抜き、悲鳴が響き渡っていました。 フランス軍は打ち破られました。 前列のものは後列に阻まれ、銃剣から逃れることができずにいました。 後方の兵士たちは逃げ散りました。 置き去りにされた太鼓が坂を転がっていました。 最後のフランス兵の部隊が崩れ、レッドコートたちはそれを追い、村の中まで追い詰めて銃剣を振るいました。 その叫び声は谷底のマッセーナのところまで届きました。彼は口をあけてその光景を眺めていました。 ブドウ園でカザドールに捕まったフランス兵は喉を切り裂かれ、ライフルマンたちは逃げる兵士たちに銃弾を浴びせかけました。 フランス兵たちは姿を消しました。 彼らはパニックになり、村の周りの坂を駆け下り、銃も死体も放置して逃げていきました。 死体の中にまぎれて生き延びたフランス大尉は、第52連隊の中尉に見つけられました。 中尉は礼儀正しい男で、お辞儀をすると剣を引きました。 「丘の上までご一緒いただければ光栄です」 と中尉は言い、学校で覚えたフランス語で、何とか会話しようと試みました。 急に寒くなったと思いませんか? フランス大尉は同意しました。しかしたぶん、イギリス中尉が 暑いですね。 と言ったとしても、彼は同意したでしょう。 彼は血まみれでしたが、自分の血ではありませんでした。彼は部下たちが死んでいるのを見、死につつあるのを見、助けを求めているのを見ました。 彼は銃剣が自分に迫ってきたときのことを思い出していました。殺戮の喜びに酔った兵士の顔を。 「嵐だった」 と、彼は自分が何を言っているのか考えずに言いました。 「まだ暑さは終わっていないと思います」 と中尉は相手の言葉を聞き間違えて答えました。 43連隊と52連隊の楽隊員たちが負傷兵を運んでいました。そのほとんどがフランス兵でした。丘の上の修道院で、軍医が治療をしているのでした。 「明日天気がよければ、クリケットをするつもりです」 と中尉が言いました。 「ムッシュー、クリケットを見たことはありますか?」 「クリケット?」 「軽歩兵師団の将校たちは、他の隊の連中と試合をするのが好きなんです。戦闘や天気のせいで流れない限り」 「クリケットは、まだ見たことがない」 「まだずっと先のことだと祈りますが、あなたが天国に行ったら、クリケットで日をすごすことになると思いますよ」 南から、突然火の手が上がりました。 フランス軍の少数の部隊が、スーラへ援軍として派遣されていたものが、ポルトガル軍の攻撃を受けて逃げようとしているところでした。 彼らはポルトガル軍よりも多勢で、ポルトガル軍は恐れるに足りないと思っていましたが、その背後のイギリス軍の射撃を恐れていました。 彼らは算を乱し、死体と負傷者を残して逃げました。 11歳くらいの少年太鼓手がブドウ園に置き去りにされ、泣いていました。彼は胸に銃弾を受けており、彼の父親の軍曹はすこし離れたところに倒れていて、鳥がその目をつついていました。 煙が丘を下ってきました。砲声は途絶え、砲身は冷えてきていました。 フランス軍は谷底に撤退しました。 「尾根の北に迂回する道があります」 と、参謀の一人がマッセーナ元帥に進言しました。 彼は丘の上を見つめていました。 やられた、なにもかも。全てが無だ。粉砕された。 そして敵は尾根の向こう側に隠れて、彼がもう一度試みるのを待っているのでした。 「ミス・サベージを憶えていますか?」 と、ヴィセンテはシャープに尋ねました。彼らは小山の端に腰を下ろし、フランス軍が撃退されるのを見ていました。 「ケイト?もちろん憶えている。どうしているかと時々考えていたんだ」 「私と結婚した」 と、ヴィセンテは嬉しそうに言いました。 「なんだって?よくやったな!」 「ヒゲをそったんですよ。あなたのアドバイスどおり。そうしたら彼女はイエスと言ってくれた」 「口髭だと靴ブラシにキスしているみたいだろうからな」 「子供も生まれたんです。女の子だ」 と、ヴィセンテは続けました。 「すばやいじゃないか、ホルゲ!」 「とても幸せですよ」 と、ヴィセンテは厳かに言いました。 「そりゃよかった」 と、シャープは言いました。本気でそう思いました。 ケイト・サベージはオポルトの家から逃げ、シャープはヴィセンテの助けを借りて、彼女を救い出したのでした。 18ヶ月前の出来事で、シャープは時折あの父親のブドウ園と貿易商の仕事を相続した英国娘はどうしているかと考えていたのでした。 「ケイトはまだオポルトにいる」 「母親と?」 「彼女はイギリスに帰った。私がコインブラの連隊に入隊してすぐだった」 「なぜコインブラに?」 「私が育った町なんだ。両親もまだそこに住んでいる。今ではオポルトに住もうと思っているんだ。戦争が終わったら」 「また弁護士に戻るのか?」 「そう願っていますよ」 ヴィセンテは十字を切りました。 「リチャード、あなたが法律のことをどう思っているのかは知っている。しかし人間と獣の間を隔てるものなんだ」 「フランス軍を止める役には立たないぜ」 「戦争は法を超えている。だからよくないものなんです。戦争は法が抑制してきた全てのものを失わせてしまう」 「俺みたいに」 「あなたはそれほど悪人ではない」 と、ヴィセンテは微笑しながら言いました。 シャープは谷を見下ろしました。フランス軍は前夜に陣を取っていた所まで退いていました。 「連中は俺たちが止めを刺しに追いかけると思っているぞ」 「そうするんですか?」 「まさか!こっちは高いところに陣取っているんだ。ここから動いてもいいことはない」 「ではわれわれは何をすれば?」 「命令を待つのさ。命令を待つだけだ。俺の命令はきたようだ」 シャープはフォレスト少佐が馬で近づいてきている方向にうなずきました。フォレストは帽子を取り、シャープにうなずきました。 「小隊に戻るようにと中佐のご命令だ」 彼の声は疲れているように聞こえました。 「フォレスト少佐、ヴィセンテ大尉を紹介させてください。俺はオポルトで彼と一緒に闘ったんです」 「会えて光栄だ」 と、フォレストは言いました。その袖は血で汚れていました。ほかに言葉を探しましたが見つからず、フォレストはシャープに向き直りました。 「中佐は小隊の帰還をお望みだ、シャープ」 「みんな、立て!」 シャープも立ち上がり、ヴィセンテの手をとりました。 「またな、ホルゲ。きっとあんたの助けがまた必要になる。ケイトによろしく」 シャープは小隊を率いて戻りました。尾根は今は静かになり、草がそよいでいる音が聞こえるだけでした。 フォレストはシャープの傍らで馬を進めていましたが、連隊の近くに達するまで何も言いませんでした。 サウス・エセックスは隊列を組んだまま草の上に座っていました。 その端でフォレストはシャープを左手で引き寄せました。 「スリングスビー中尉が軽歩兵隊をしばらく指揮することになるぞ」 と、フォレストは言いました。 「どうやって?」 と、シャープはショックを受けて尋ねました。 「しばらくの間だ。中佐がきみを呼んでいる。シャープ、彼は機嫌がよくないぞ」 それは控えめな言い方でした。 ウィリアム・ロウフォード卿は頭にきていました。しかし育ちのいい礼儀正しい人間として、その怒りの表現を、引き結んだ口元と冷たい視線をシャープに向けるだけにとどめました。 ロウフォードはフォレストにうなずきました。 「少佐、きみは残ってくれ」 と彼は言い、フォレストが馬から降りるのを待ちました。 「ノウルズ!」 ロウフォードはテントから呼び、ノウルズは同情的な視線をシャープに向けました。 「ノウルズ、きみはここにいて、他のものを遠ざけていてくれ。ここでの話を連隊の連中に聞かせたくない」 ノウルズは帽子をかぶり、すこし離れたところに立ちました。フォレストはシャープを見つめているロウフォードの傍らに歩み寄りました。 「大尉、たぶんきみは自分で説明できると思うが?」 と、ロウフォードは冷たい声で言いました。 「説明ですか?」 「イリッフ少尉は死んだ」 「残念です」 「まったく!あの少年は私に預けられていたのだ!あの子の父親に、私からの正式な命令も受けずに突撃していった上官の犠牲になったと手紙を書かなければならない!」 ロウフォードはすこし間をおきました。怒りのあまり次の言葉を見つけられず、彼は剣の鞘を叩きました。 「私がこの連隊を指揮しているのだ、シャープ!」 と、彼は言いました。 「きみはそれに気づいたことがないようだな。きみの好きなように兵士を死地に追いやってもいいと思っているのか?私の許可もなしに?」 「命令を受けました」 と、シャープは無表情に答えました。 「命令だと?私は命令を出していない!」 「ロジャース・ジョーンズ大佐からの命令を受けました」 「ロジャース・ジョーンズ大佐とは誰だ?」 「カザドールの指揮官だと思いますが」 と、フォレストが静かに割って入りました。 「全く、シャープ、ロジャース・ジョーンズ大佐とやらは、サウス・エセックスを指揮してはいないぞ!」 「大佐から命令を受けたのです。そしてそれに従いました」 と、シャープは言いました。 「そしてあなたのアドバイスを思い出したのです」 「私のアドバイス?」 「昨夜です。あなたは突撃隊を大胆かつ攻撃的に行動させたいとおっしゃいました。そのようにしました」 「それから、私は私の隊の将校たちにはジェントルマンでいてもらいたいのだ。礼儀を見せて欲しい」 シャープは、この会見の核心に入ったな、と思いました。 実際、ロウフォードはシャープが彼の命令無しに攻撃をかけたことを腹立たしくは思っていましたが、敵と戦うことに対してのクレームをつける将校はいないはずでした。 シャープは何も言わずにロウフォードの目の間の一点を見つめていました。 「スリングスビー中尉が、きみが彼を侮辱したといってきた。きみは彼に決闘をもちかけたと。そしてきみは彼を私生児と呼んだと。罵ったと」 シャープはフランス軍のパニックから小隊を連れ出した後の坂での出来事を思い出していました。 「俺は私生児とは言いませんでした。そういう言葉はつかいません。馬鹿野郎と言っただけです」 ノウルズは西のほうを見つめていました。フォレストは微笑を隠そうとして地面の草に視線を向けました。 ロウフォードは驚愕している様子でした。 「彼をなんと呼んだと?」 「馬鹿野郎です」 「それは将校たちの間では絶対にふさわしくない言葉だ」 と、ロウフォードは言いました。 シャープは黙っていました。それがいつも最善の策でした。 「何も言うことはないのか?」 シャープはしぶしぶ口を開きました。 「俺はこの連隊のためにならないことはしたことはありません」 この宣言にロウフォードはたじろぎました。彼は瞬きをしました。 「誰もきみを非難しているわけではない、シャープ。しかし私は将校たちの間のマナーというものをきみの行動の中に取り入れてもらいたいのだ。私は同僚の将校に対する無礼さを黙認するわけにはいかない」 「軽歩兵隊の半分が失われるのを黙認することはできるんですか?」 「軽歩兵隊の半分?」 「私の同僚の将校はフランス軍の下方で攻撃命令を出しました。フランス軍が撃破されたとき、彼は全軍を失うところでした。なぎ払われるところだった。幸いなことに私がそこにいて、やるべきことをやりました」 「そういうことを言おうとしているのではない」 「しかし事実です」 シャープはぶっきらぼうに言いました。 フォレストが咳払いをし、つま先の草をじっと見つめていました。ロウフォードはそのヒントに気づきました。 「少佐?」 「スリングスビー中尉は遠すぎるところまで小隊を率いて行ったように思いますが」 と、フォレストは穏やかに所見を述べました。 「大胆かつ攻撃的」 と、ロウフォードは言いました。 「それが将校に求められることだ。私はスリングスビー中尉の熱心さを評価したい。そしてシャープ、彼を非難する理由はない」 何も言うな。舌を噛んでいろ。シャープは思いました。 「それから将校たちの決闘を許すわけにはいかない。侮辱も見過ごせない。スリングスビー中尉は経験のある熱心な将校だ。連隊にとって価値のある人物だ。分かるか、シャープ?」 「はい」 「だから彼に謝りたまえ」 絶対にイヤだ。とシャープは思い、またロウフォードの目の間を見つめて黙っていました。 「聞こえたのか、シャープ」 「聞こえました」 「謝るのか?」 「いいえ」 ロウフォードは一瞬言葉を失いました。 「結果として、シャープ」 と、ロウフォードは何とか立ち直りました。 「きみはこの件について私に従わないということになる」 シャープは視線をロウフォードの右目にずらしました。まっすぐにロウフォードを見つめ、中佐を気まずい気持ちにさせました。 シャープはロウフォードの目に弱さがあることを見て取り、したがってそれは間違っていると考えました。 ロウフォードは決して弱い男ではなく、しかし無慈悲さというものに欠けていました。 ロウフォードは今、切っ先を突きつけられているのでした。 彼はシャープがスリングスビーに謝ることを期待していました。 なぜ謝らない?わずかな動作で済むことなのに。それで問題は解決するのに。 しかしシャープは拒否し、ロウフォードはどうしたらいいか分からなくなっているのでした。 「謝りません」 と、シャープは荒っぽく言いました。 「中佐」 と付け加えた口調がまた無礼なものでした。 ロウフォードは怒り心頭という様子でしたが、やはり一瞬言葉に詰まりました。 「きみはかつて、補給将校だったと思うが」 「そうです」 「ミスター・キリーが病気だ。今からきみについての決定が下されるまで、きみには彼の任務を請け負ってもらう」 「わかりました」 と、シャープは無表情に答えました。 ロウフォードはもっと彼が何か言うかと予期していたのでためらいました。そして彼は帽子をかぶり、立ち去ろうとしました。 「中佐」 と、シャープは呼びかけました。 ロウフォードは振り返りましたが、何も言いませんでした。 「ミスター・イリッフですが、彼は今日よく戦いました。もし彼の家族に手紙をお書きになるなら、彼は本当によく戦ったという事実を伝えてください」 「彼が死んで残念だ」 ロウフォードは苦々しげに言うと立ち去りました。ノウルズが彼に従いました。 フォレストはため息をつきました。 「なぜ謝らないんだ、リチャード?」 「あいつはほとんど俺の小隊を皆殺しにするところだったからです」 「それはわかっている」 と、フォレストは言いました。 「中佐もわかっている。ミスター・スリングスビーにもわかっている。小隊のみんなも知っている。苦杯を飲むんだ、シャープ。そして彼らのところにもどれ」 「あの人は」 と、シャープは去っていく中佐の姿を指差しました。 「俺を脇にどけたがっている。あの忌々しい義弟とやらを攻撃隊の指揮官にしたいんです」 「シャープ、彼はきみを排除しようとしているわけじゃない」 フォレストは辛抱強く言いました。 「まったく、彼ほどにきみが優秀なことを知っている人がいるか?しかし彼はスリングスビーを引き立てなくちゃならないんだ。ファミリー・ビジネスというやつだよ。彼の妻が、スリングスビーがキャリアを積むことを望んでいるんだ。妻が望むことは、妻は手に入れるんだよ、シャープ」 「俺が邪魔なんですよ。それに謝ったとしても、遅かれ早かれこういうことになるんです。だから今行きますよ」 「あんまり遠くまで行くなよ」 と、フォレストは微笑しました。 「なぜです?」 「ミスター・スリングスビーは酒飲みだ」 と、フォレストは静かに言いました。 「そうなんですか?」 「飲みすぎる。今のところは押さえている。新しい連隊で仕事を始めたばかりだからな。しかしどうかと思うんだ。私も同じ悪癖を持っているんだが、リチャード、誰にも言わないでほしいものだが、ミスター・スリングスビーはしまいにはもとの習癖から逃れられなくなるんじゃないかと思う。ほとんどの人間がそうだ」 「あなたは違う」 「今のところはね、シャープ。今のところは」 フォレストは微笑しました。 「しかし私が今言ったことを考えておいてくれ。謝ればいいことだろう?それで全部終わりだ」 終わりの時だ。と、シャープは思いました。彼は謝るつもりなどなかったからです。 そしてスリングスビーが軽歩兵隊を率いることになったのでした。 フェレイラ少佐は兄からの手紙を受け取ったところでした。 「お返事を、一言」 と、ミゲルが言いました。 フェレイラは砲煙が漂う丘のあたりを見つめていました。多くのフランス兵が死に、英軍・ポルトガル軍の勝利のように思われました。 しかしウェリントンはリスボンまで撤退するだろう。 フェレイラはうなずきました。 「スィム」 それはイエスを意味していました。 その運命の一言をつげ、彼は馬を返しました。 彼の幸運の全て、彼の家族の将来が、次の数時間にかかっていました。 彼は3時間ほど馬を東に走らせました。英軍もポルトガル軍も、斥候すら出していない領域でした。丘の斜面にたった一人で、彼は10分ほど立っていました。 やがて半マイルほど先に、グリーンのコートの竜騎兵が姿を現しました。その中の将校は危険はないかとあたりを見回していましたが、部下たちを率いて馬を進めてきました。 フェレイラは両手を上げ、武器を持っていないことを示しました。 将校の突き出した剣の切っ先が、フェレイラの喉もと近くにありました。 「紹介状を持っている」 と、フェレイラはフランス語で言いました。 「誰宛の?」 「あなたにだ。バレット大佐からだ」 「バレット大佐というのはいったい誰だ?」 「マッセーナ元帥の参謀だ」 「手紙を見せろ」 フェレイラはポケットから書状を出してフランス軍の将校に手渡しました。 この手紙を持つものを信用し、便宜を図るようにという内容でした。バレットはこの手紙を小麦粉の一件の時にフェレイラに渡したのですが、それが今生きていました。 「何が望みだ?」 と、竜騎兵の将校は言いました。 「バレット大佐に会いたい」 1時間半ほど進み、ネイの兵士たちが休んでいる場所に到着しました。 マッセーナ元帥は食事中でした。そして竜騎兵たちの中に背の高い男がいました。 彼はフランス軍の制服を着ていましたが、ポルトガル人でした。バレット大佐でした。 彼はポルトガルの将来はフランスによる文明化しかないと思い極め、フランス軍に身を投じたのでした。 「言い訳をしてもらおうか。きみは小麦粉をくれる約束をしていたはずだ。その代わりに英軍の歩兵が待っていたではないか!」 「戦争中ですから、大佐。まずいことになったのです。小麦粉もあったし、兄もあの場にいました。しかし英軍の小隊がやってきて、立ち去らせようとしたのですが失敗したのです」 フェレイラの声には力がありませんでした。 バレットは一応納得したようでした。 「残念だ。兵士たちは腹をすかせている。レモンしか見つからなかった」 「コインブラには食糧が貯蔵されています」 と、フェレイラは言いました。 「小麦粉、米、豆、塩漬け肉が」 「あの連中が、コインブラまでの道を塞いでいるのだ」 と、大佐は尾根を指差しました。 「迂回する道があります。3日もあれば、コインブラに着きます」 「その3日で英軍がコインブラを空にするだろう」 「私の兄は、数ヶ月の補給を保証しています。ただ・・・」 と、彼は言葉を切りました。 「ただ、なんだ?」 と、フランス人の参謀の一人が尋ねました。 「あなたがたの軍は、町に入ると乱暴を働く。殺人に、盗み。もし兄の倉庫に彼らが入ったらどうなりますか?全てを奪って、破壊するでしょう。兄は二つのことを望んでいます。公正な支払いと警護です」 「敵に支払う必要はない」 と、もう一人のフランス人が割って入りました。 「もしそれに同意していただけなければ、コインブラの食糧は廃棄します」 しばらくの沈黙ののち、バレットはうなずきました。 「元帥に話してこよう」 彼が去ると、背の高いフランス人参謀がフェレイラに尋ねました。 「イギリス軍はリスボンの手前に防御壁を作っているとか?」 フェレイラは肩をすくめました。 「砦を1つか2つ作っているようです。たいしたことはありません。何か作っているとしたら、サン・フリアーノの港でしょう。リスボンの南に新しい港を作っています。リスボンを取られたときのために」 「砦は見たのか?」 「リスボンへの道沿いにありました。リスボンから20マイルのところです」 「丘はあるか?」 「そんなに急ではありません」 「彼らは丘がわれわれがリスボンに向かう障害になると考えているのだな?そして新しい港に逃げ込むと?」 「そう思います」 「それにしても食料が必要だ。あなたの兄は支払いと警護を望んでいるのだな?」 「生き延びることを望んでいます」 「みんなそれを望んでいる。じきにフランスに帰れるだろう」 フェレイラが驚いたことに、バレット大佐は元帥を伴って戻ってきました。 そしてついにマッセーナはうなずき、支払いがなされることになりました。 「どこに食糧があるかわかっているのだな、大佐」 と、マッセーナは言いました。 「フェレイラ少佐が教えてくれます」 と、バレットは答えました。 「よろしい。兵士たちにちゃんとした食事をさせてやるべき時期だ」 マッセーナは食事に戻り、バレットとフェレイラは支払いと警護についての打ち合わせを始めました。 そして全てが無事に済み、フェレイラは馬で帰途に着きました。 午後の陽射しの中で秋風が冷たく、そして英軍もポルトガル軍も、誰一人フェレイラの姿を見ていませんでした。
by richard_sharpe
| 2007-03-03 13:14
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