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1810年、ブサコ作戦。
第1部 第5章 - 1 スーラという名の村は、尾根の北に達する道の東に位置しており、修道院と教会の廃墟を残して死んだ村となっていました。 1810年9月27日木曜日、この村は兵士たちで埋め尽くされました。 第95ライフル隊と第3カザドール連隊、ほとんどの兵士たちがベーカー・ライフルで武装していました。 対するフランス軍はマスケットを装備、突撃隊は村の下方のブドウ園の建物に陣取っていました。 最初の銃声が響いたのち、マスケットとライフルの銃撃が絶え間なく続き、ポルトガル軍・英軍の兵士の上に砲弾が降りそそぎ、兵士たちの群れに大きな穴が二つ開きました。 フランス軍の将校からは、尾根線の上に砲兵隊の姿が見えました。その砲兵隊の大砲は、村を越えてその向こうの風車小屋のところにいる騎兵隊を狙っていました。 騎兵の頭上で榴弾が炸裂しましたが、彼らに大きいダメージを与えることはできませんでした。 フランス軍は歩兵を英軍の砲兵隊に向けて進め、英軍・ポルトガル軍の突撃隊が砲兵を守るために集結しました。 それはフランス軍側の勝利を意味していました。彼らは英軍側を包囲しており、進軍の太鼓と例の「皇帝万歳!」の声がいっそう高まっていました。 そして突撃隊は標的との間を縮め、ライフルマンたちを狙い撃ちし始めました。 ライフルマンたちも射撃を返し、イーグルに弾丸が当ってはじけました。 フランス軍の突撃隊はライフルの射程距離外に離れて隊列に戻り、この攻撃の指揮官ネイ元帥は、さらに多くの攻撃隊を投入するように指示を出しました。 太鼓は単調な音を響かせ、その上でさらに砲弾が炸裂しました。 指揮を取っていた軍曹の頭が半分入ったままの帽子が後方に飛び、彼は地面に倒れました。 少年太鼓手は砕けた両足で座り込み、腹部が破片で切り裂かれていましたが、それでも通り過ぎる兵士たちを太鼓のリズムで送っていました。兵士たちは彼の頭をポンポンとたたいて通り過ぎ、少年はブドウ園の中で息を引き取ろうとしていました。 前方では、新手の突撃隊が編成され、イギリスのライフルマンに対抗しようとしていました。 ライフルは有効な武器でした。 しかし弾丸を装填するのに時間がかかりすぎるのが欠点でした。弾丸を皮で包むことにより、銃身の中に切られた7本の索條との相乗効果でマスケットよりも射程が長く、精度を高めることができるのでした。 ライフルマンたちとカザドールたちが合流して攻撃隊の人数が増しましたが、フランス軍はさらに3小隊を投入、ブドウ園から走り出しながら射撃を開始しました。 ライフルマンが1人、肺を撃ち抜かれて倒れました。そのポケットを探るフランス兵を軍曹が引き剥がしました。 「他の奴らを殺すのが先だ!丘に登れ!」 フランス兵たちの射撃はいまや圧倒的で、カザドールたちとライフルマンたちは石壁で囲われた村の中に逃げ込みました。 フランスの軍曹たちが指差しながら 「ソウテレル!」 と叫んでいるのが聞こえていました。 それは バッタ という意味で、走っては立ち止まって射撃をし、再装填してまた走って射撃繰り返す、グリーンジャケットのライフルマンたちのことを指しているのでした。 フランス兵たちは村の東側に陣取り、射撃で完全に封鎖していました。 少人数のグループが建物から駆け出して発砲し、その煙があたりにたちこめていました。 フランス兵たちは突撃を開始、その彼らに手押し車の陰からライフルが発砲されました。 頭上では砲弾が時折破裂し、屋根からタイルが滑り落ちました。 2人、3人、続けてフランス兵が倒れました。 英軍の、ポルトガル軍の、そしてフランス軍の砲弾が、一つところで炸裂していました。 フランス兵は数で英軍とポルトガル軍の兵士たちを圧倒していました。 彼らは建物や庭の一つ一つをグループごとに片付けていくのでした。 スーラの西側の端に至って最後の兵士たちを掃討し、突撃隊は村の周囲を取り囲み、半数の兵士たちは村の中央に向けて進みました。家々の半数近くが燃え、通りでは砲弾が爆発し、血と炎があたりを彩っていました。 軍曹たちが集合を命じ、歓声が湧き上がる中、突撃隊はまだ射撃を続けていました。 英軍とポルトガル軍の姿は消えていましたが、北の林の中に姿を隠しているのでした。 風車小屋近くの砲兵隊の中に、小柄で黒髪、火に焼けた顔の男が、彼には大きすぎるような馬の背にありました。 銃弾が彼のすぐ近くを行き過ぎていましたが、彼はそれを気に留めていませんでした。 心配そうな衛兵が後ろに下がるように提案しても、この軽歩兵師団の司令官、ブラック・ボブ・クロウファードは弱いところを見せるような男ではありませんでした。 砲弾が炸裂する村から、フランス軍は本隊に戻ることを決めました。敵軍の突撃隊の出鼻をくじくという彼らお任務は達成されたのでした。勝利は間近に迫っていました。 と、フランス軍は思っていました。 しかし尾根の背後はフランス軍の死角になっており、第43モンモースシャー連隊,53オックスフォード連隊の優秀さを自認する軽歩兵隊が控えていたのでした。 砲兵を銃弾が倒し、軍曹が彼を後方に引きずりました。砲兵大尉の号令で砲弾が発射され、煙が渦巻き、フランス軍の列に着弾しました。 フランス軍の軍曹は密集陣形を叫び、負傷兵は村のほうに退避しました。 砲撃は十分ではありませんでした。フランス兵の数は多く、倒れた兵士はすぐに取って代わり、太鼓の音はだんだんと迫ってきていました。 レッドコートの兵士たちは、待っていました。 ブラック・ボブがぎりぎりまで敵を引き寄せていることを、彼らは理解していました。 まだマスケットには遠い。 英軍の砲兵たちが大砲を破棄して、いきなり後方に逃げこみました。 そして奇妙な静寂が広がりました。もちろん太鼓の音はまだ響いていましたし、フランス軍の雄叫びも聞こえていました。本当の静寂ではありませんでしたが、英軍の一部隊は撃破され、大砲が遺棄され、そして兵士たちは再装填をしていました。 この瞬間、奇妙に静かでした。 フランス軍は大砲が置き去りにされていることに気づきました。彼らは歓声を上げ、砲身に触ろうとしました。将校たちは大砲にはかまわないようにと叫び続けていました。 大砲はあとでいい。しかし今はまだ進軍を続け、ポルトガル軍への勝利を収めなければならない。 下方ではマッセーナ元帥が今夜の宿にする修道院に、アンリエットが快適に過ごせるベッドがあるかどうかと考えていました。そして、彼にポルトガル公の名が授与されること、彼の料理人が英軍の補給物資から食糧を見つけられるかどうかを。 ポルトガル軍を撃破するのはもうすぐでした。 そして、ブラック・ボブは息を大きく吸い込みました。 「前進!」 シャープは叫びました。 彼はライフルマンたちがフランス突撃隊に銃撃を加えることに集中していました。彼自身も膝を突き、発砲を繰り返していました。 「前進!前進!」 やらなければならない攻撃なら、さっさとやるに限る。 彼はライフルマンたちをせき立て、背後のレッドコートの兵士たちとポルトガル兵に手招きしました。 砲撃が援護になりました。導火線が短すぎた砲弾がフランス軍の頭上で炸裂し、そこはきっと地獄だろうな、とシャープは思いました。 彼はライフルを肩に振り上げました。再装填の時間は、もうありませんでした。そして剣を抜きました。 なぜフランス兵は退却しないんだ? 「前進!」 彼は叫び、銃弾が頬をかすめるのを感じました。 フランス突撃隊も射撃をはじめ、煙が立ち込めました。まだ射程距離外でした。 「前進!」 シャープは再び叫び、ヴィセンテが背後に3小隊を従えていることを考えていました。 ライフルマンたちは前進し、狙い、撃ち、そしてシャープの左側のヘザーの繁みに銃弾が撃ち込まれました。 いい腕だ。小山の陰に隠れている。 カザドールが1人、身をよじってヘザーの中に倒れました。 「彼にかまうな!射撃を続けろ!」 シャープは助けようとした2人の兵士を怒鳴りつけました。 北に向けての攻撃の音が激しくなり、砲兵の2個小隊がシャープたちの援護を続けていました。 「ちゃんと狙え!」 戦闘の興奮の中で、敵の顔がはっきり見える位置に、シャープは来ていました。 ハーグマンが射撃を続ける横で、パーキンスが装填をし、彼にライフルを渡していました。 ライフルマンたちはさらに走り、膝を突き、射撃をしました。 また一人カザドールが倒れ、シャープの帽子を銃弾が貫きました。 すぐ背後にヴィセンテが近づいていました。 「一斉射撃をさせてほしい」 と、ヴィセンテは言いました。 「ライフル隊!伏せろ!」 シャープは叫び、ライフルマンたちは身体を伏せました。 ヴィセンテは部下たちを停止させました。 「撃ち方用意!」 この命令は英語で発せられ、多くの英軍将校がポルトガル兵たちを指揮していることを思わせました。 「撃て!」 ヴィセンテは叫び、まるで2門の大砲が発せられたかのような煙が巻き上がりました。 「突撃!」 シャープは叫び、先頭に立って走り始めました。彼の左には、イリッフ少尉がサーベルをぬいて従っていました。 ポルトガル兵たちも叫び声を上げて突撃を開始しました。怒りと憎しみと恐怖が全てでした。そして岩場の煙の中からフランス軍は銃を撃ちかけてきました。 ハーパーはシャープの傍らにいました。 そして彼らからあまり離れていないところに、10人あまりのフランス兵たちが将校を中心にして横に並び、マスケットを構えていました。 ハーパーは7連発銃を低く腰の辺りに構え、引き鉄を引きました。7発の銃弾はまっすぐにフランス兵の列に飛び込み、その真ん中に大きな穴を開けました。将校に命中し、彼は後ろに吹き飛ばされ、他の兵士たちは銃弾よりもむしろその音に驚いた様子でした。そして彼らは、いきなり逃げ出しました。 フランス軍の将校は、負傷しながらも、とどまって闘うように叫んでいました。シャープは剣の一振りで、彼を黙らせました。 カザドールとライフルマン、そしてレッドコートの兵士たちはフランス軍が陣取っていた小山に殺到し、逃げ遅れたフランス兵たちは銃剣の餌食になって断末魔の声を上げていました。 逃げられないと悟った一人の軍曹は、振り返って銃剣をハーパーに向けて突き出しました。ハーパーは7連発銃でそれを払いのけ、銃床を彼の顎にたたきつけると、さらに額を殴りつけて止めを刺しました。 まだ何人かのフランス兵が残っていましたが、崖に追い詰められるのを恐れている様子でした。 「銃を置け!」 シャープは叫びましたが誰も英語がわからず、彼らは振り返って銃剣を構え、シャープは彼の重たい剣でマスケットを振り払いました。そして一人の腹に突き刺し、ひねりながらぬくと血があたりに飛び散り、シャープは足を滑らせました。 そのとき銃声がし、そしてヴィセンテが彼のやはり大きな剣で一人の伍長を倒したところでした。 シャープは起き上がり、あたりは静まり返っていました。 北の方角から、砲声が聞こえているだけでした。 フランス軍はその小山からライフルに追い立てられて逃げ去り、ヴィセンテのポルトガル兵たちは勝利の歓声を上げました。 「ハーパー軍曹!」 シャープは叫びました。 「はい」 ハーパーは死んだ兵士の服を探っているところでした。 「損失を調べろ」 シャープはそう命じると、フランス兵のブルーのジャケットで剣を拭い、鞘に納めました。 シャープは突然疲れを感じ、岩に腰を下ろしました。フランス軍が発する砲声が響いていました。 彼はポーチの中にソーセージがあるのを思い出し、それを食べてから、穴の開いた帽子をかぶりなおしました。 おかしなものだ。 と、彼は思いました。 ほんの数分前は、肋骨の痛みなど忘れていたのに、今は恐ろしく痛むのでした。 彼の足元には短い時代物のサーベルを手にしたフランス突撃兵が、死体となって横たわっていました。 彼は静かな表情をしていました。傷も見当たりませんでした。シャープはブーツでつついて見ましたが、何の反応もありませんでした。ハエがまぶたに止まり、シャープは、やはりこれは死んでいるのだ、と思いました。 ハーパーが戻ってきました。 「ミスター・イリッフです」 と、ハーパーは言いました。 「ほかはかすり傷一つ負っていません」 「イリッフ?死んだのか?」 なんだかシャープには実感が湧きませんでした。 「何も感じなかったと思いますよ」 と、ハーパーは額を叩きました。 「まっすぐここです」 シャープは低く罵りました。 彼はその日までイリッフが好きではありませんでしたが、この戦いでその少年は勇気を示したのでした。 彼は怯えていて、戦いの前に吐いてしまうほどでしたが、しかし銃撃がひとたび始まると、彼は恐怖を克服したのでした。尊敬すべきことでした。 シャープはその遺骸のところへ行くと帽子を取り、驚いたような表情をしているイリッフを見下ろしました。 「いい軍人になっただろうに」 と彼はいい、周囲の兵士たちも同じようなことをつぶやきました。 リード軍曹の手配で4人の兵士たちがイリッフの死体を連隊本部に運んでいきました。 ロウフォードは機嫌を損ねるだろう、とシャープは思いました。そして、どうしてスリングスビーが額を撃ち抜かれたのではなかったのだろう、とも思いました。突撃隊にとってはいい仕事だったろうに。 なぜ自分の弾がスリングスビーから外れたのだろう、ともシャープは考えていました。 彼は太陽を見上げ、まだ午前中であることに気づきました。 まるで一日中闘っていたかのようでした。でもイギリスでは、まだ朝食も食べ終わっていない連中がいる時間だ。 イリッフは気の毒なことをした。とシャープは思いながら水を飲み、砲声を聞き、そして待っていました。
by richard_sharpe
| 2007-03-02 19:31
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