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1810年、ブサコ作戦。
第1部 第4章 - 2 「今度の手紙はセニョール・ヴェルチ宛だ」 フェラグスは再びセイラを呼んで手紙の口述筆記をさせていました。 セイラは高い襟のドレスに、首にはスカーフをあしらい、襟元と髪の毛との間に隙間がないようにしていました。 彼女の背後に回ったフェラグスは、セイラが彼の視線を感じて怯えている様子を楽しんでいました。 手紙の内容は、アゾレスのヴェルチにボートを手配させ、フランス軍が侵攻してきたらフェレイラの妻子と使用人を安全にかくまうように、というものでした。 「セニョール、あなたはフランス軍が来ることを確信しているように思えます」 「奴らが来るかどうかはわからない。だが用意は必要だ。もし来ても、弟の一家は安全だ。来なければ、セニョール・ヴェルチに手間をかけさせずにすむ」 「どれくらいの期間、私たちはアゾレスで待てばいいのですか?」 セイラは尋ねました。 フェラグスは、彼女の誤解に微笑しました。彼はセイラをアゾレスに行かせるつもりはありませんでした。しかしまだ言う必要はない。 「必要な間中だ」 「たぶんフランス軍は来ません」 「フランス軍はヨーロッパ中を征服してきた。10万ものフランス兵がスペインにいる。さらにピレネーを越える兵士が何人いると思う?30万か?ミス・フライ、本当にわれわれが奴らに勝てると思うか?今日勝ったとしても、奴らはもっと大軍になって戻ってくる」 道中の用心に、彼は3人の男に手紙を持たせました。 彼らを送り出してまもなく、2人の部下が急を知らせてきました。「フェイトル」が倉庫にやってきたというのです。 フェラグスはナイフをベルトに差し、ピストルをポケットに入れて街を横切りました。遠くから砲声が聞こえていました。 細い路地を下り、大きな倉庫の扉を押し開け、彼らは中に入りました。猫がうなり声を立てました。何匹もの猫が、ネズミからビスケットや小麦粉、干し肉などを守っているのでした。 ここにはマッセーナの全軍がリスボンまでの行程を持ちこたえられるだけの食糧がありました。 フェラグスは、2人の部下と一緒に立っている「フェイトル」を振り返りました。 「何が問題なんだ?」 と、彼は尋ねました。 フェイトルというのは倉庫管理の役人で、政府から委託を受けてポルトガル軍の管理下にありました。 全ての街にフェイトルはいて、リスボンの軍事政府の命令を受けていました。 コインブラのフェイトルはラファエル・ピレスという中年の男で、フェラグスの前に片膝をついていました。 「セニョール・ピレス、奥さんと家族は元気か?」 「おかげさまで」 「この街にいるのか?まだ南には向かっていないのか?」 「昨日出発しました。ベポスタに妹がいますので」 ベポスタはリスボン郊外で、フランス軍の眼中にない小さな街でした。 「それはよかった。で、あんたはここに何を持ってきたんだ?」 「命令があります、セニョール」 「命令?」 ピレスは手にした帽子で食糧の山を指しました。 「すべて廃棄しなくてはなりません」 「どうするつもりだ?全部食っちまうのか?」 「兵士たちがここに送られてきます。私の報告書で、上司はあなたが食糧を購入していたことを知っています」 「それで?」 と、フェラグスは尋ねました。 「廃棄しなくてはなりません」 ピレスは状況が絶望的になるのを感じながら、声を張り上げるようにして言いました。 「あんたの上司は報告書を見たんだな?俺の名前を知っている?」 「名前と食糧の量です」 「では場所がどこかはわからないんだな」 「午後に私が市内の倉庫の全てを探索することになっています。ここには警告に来たのです」 ピレスは弱弱しく主張しました。 「黙っていてくれるなら、いくらか払うぞ」 「移動はできませんか?」 「移動!?」 フェラグスは怒鳴りました。 「100人の人手と20台の荷車が必要だ。あんたは警告に来たんだな?あとで兵士を連れてくるわけだ。そして文句は言わせないと。そうだな?」 「強制なんです。われわれがやらなければ、英軍の兵士たちがやってきます」 「イギリス人は海へ」 フェラグスは左パンチをピレスの顔にたたきつけました。鼻が砕け、鼻腔から血が噴出しました。 フェラグスはさらに傷ついた右手を腹に打ち込みました。痛みましたが、男は痛みを耐えるものだ、と彼は思いました。 フェラグスはピレスを倉庫の壁に押し付け、規則的に左右のパンチを繰り出しました。 肋骨が折れ、頬骨が砕け、フェラグスの袖に血しぶきが飛びました。 フェラグス自身も右手と股間に痛みを感じながら、彼は自分の好きな行為を続けました。 ますますひどく殴りつけられ、ピレスは声を上げることもできなくなっていました。 顔は血だらけで歯が折れ、唇は裂けていました。 「立たせろ」 フェラグスは上着とシャツを脱ぎ、二人の部下が両脇からピレスを支えました。フェラグスは近くに寄り、力いっぱい殴りつけました。殴られるたびにピレスの頭は前後に揺れ、口から血が滴りました。 やがてピレスの頭が後ろにガックリと倒れ、左右に力なく揺れ始めた時、フェラグスは最後の一発を叩きつけました。 「地下室に放り込んでおけ。腹を裂いておくんだ」 「腹を?」 と、部下の一人が尋ねました。 「ネズミがこいつを早く片付けてくれる」 フェラグスはミゲルが差し出した布で血を拭き、腹と両腕、背中の見事な刺青をシャツで包み、上着を着ました。 彼は、床の跳ね上げ戸をあけて部下たちが死体を地下室に運び入れるのを見ていました。そこには既にもう一体、腹を裂かれた死体がありました。フェラグスを裏切ろうとした男でした。 フェラグスは倉庫に鍵をかけました。 仮にフランス軍が来なくても、これを売れば利益になる。もし来れば、さらに大きな利益になる。 いずれにしても、あと数時間でわかることだ。 彼は十字を切り、酒場を探しに出かけました。人を殺して、喉が渇いていたのでした。 誰もシャープに命令を持ってくるものはありませんでした。 彼は岩場に立ち、100人あまりのフランス兵がライフルに狙われないように頭を低くしている様子を見ていました。 もう少し人数がいれば、再び頂上を目指そうとしている突撃隊を撃破できるのです。彼らは北に1マイルほどのところに新手を送り込もうとしていました。 シャープは望遠鏡を取り出し、遠すぎる場所から射撃を仕掛けてくる突撃隊を無視して、村の方角から曲がりくねった道を登ってこようとしているフランス歩兵部隊に眼を向けました。 「大尉!ミスター・シャープ!」 パトリック・ハーパーが呼んでいました。 シャープは望遠鏡をしまうとハーパーのところへ戻っていきました。 茶色のジャケットのカザドール(ポルトガル兵)の2個小隊がこちらに向かってきていました。 岩場の敵兵を一掃するようにとの命令を受けたものと思われました。援護の砲撃も始まっていました。 「砲撃の中でここにいたくないですね」 ハーパーは頭を9ポンド砲の方向にしゃくりながら言いました。 「お前は大丈夫だよ、パット」 「あなたが死んだらスリングスビーになるんですよ」 「いやか?」 「俺はドネガル生まれですからね。神様は俺を困らせるほうに持っていくんです」 「神様は俺をよこしたんだぜ、パット」 「神様のやることは不思議なことばかりです」 と、ハリスが割って入りました。 カザドールはシャープの背後、50ペースほどはなれたところで止まりました。 シャープは彼らを気にかけず、誰かドッドを見たものはいるか尋ねて回りました。ミスター・イリッフが、シャープが尋ねる前にうなずきました。 「逃げていました」 「どこに?」 「本隊から分断された時がありましたよね。あのときに丘を駆け下りていました。ウサギみたいに」 ドッドのパートナーのカーターが言っていたことと、符牒が合いそうでした。 ドッドとカーターが敵に囲まれた時、ドッドは下に向かい、カーターは丘を駆け上がり、背嚢に弾丸を受けながら逃げ延びてきたのでした。 シャープは、ドッドはあとでこちらに合流するだろうと考えました。田舎育ちで、地形を読むことができ、おそらくフランス軍を避けて登ってくるだろう。今は彼のためには何もできない。 「で、ポルトガル軍の手伝いをするんですか?」 と、ハーパーが尋ねました。 「いや。だが連中が全軍で闘うっていうのなら別だ」 「ひとり来ますよ」 ポルトガル将校が1人、軽歩兵隊に近づいてきていました。 重たそうな騎兵用の剣を吊るし、将校としては珍しいことに、肩にライフルを引っ掛けていました。 シャープは苛立ちを覚えました。こんな格好の将校を、彼はひとりしか知りませんでした。シャープ自身でした。 しかしその将校は近づきながら帽子をとり、大きく笑いかけました。 「ああ、神様」 と、シャープは言いました。 「ちがうちがう、私ですよ」 ホルゲ・ヴィセンテでした。オポルトの北の荒野であったのが最後でした。 彼はシャープに手を差し出しました。 「ミスター・シャープ」 「ホルゲ!」 「今はヴィセンテ大尉ですよ」 ヴィセンテはシャープの手をとると、両頬にキスをし、このライフルマンをあわてさせました。 「リチャード、あなたはいまでは少佐になっているんじゃないですか?」 「まさか。違うよ、ホルゲ。連中は俺みたいな男を昇進させたくないんだ。元気だったか?」 「私は・・・なんていえばいいのかな・・・うまくやっていますよ。あなたは?怪我をしたんですか?」 ヴィセンテはシャープのあざのある顔を見て言いました。 「階段で足を滑らせたんだ」 「気をつけないと」 ヴィセンテは真面目くさって言い、そしてハーパーに笑顔を向けました。 「ハーパー軍曹!会えて嬉しいよ!」 「キスはなしです。俺はアイルランド人ですから」 ヴィセンテは他の知った顔とも久闊を叙し、そしてシャープを振り返りました。 「ここから連中を追い払う命令を受けている」 と、彼はフランス軍を示しました。 「いい考えだ。しかし敵が少なすぎないか?」 「ポルトガル兵2人でフランス兵1人がやっとなんだ」 と、ヴィセンテは小声で言いました。 「手を貸してくれるとありがたいのですが」 「なんてこった」 といいながら、シャープはうなずいて承知しました。 「ところでどうしてあんたはライフルを持っているんだ?」 「あなたを真似した」 と、ヴィセンテは気楽そうに答えました。 「今は私はアティラドール部隊の大尉なんだ。狙撃隊ですよ。他の隊はマスケットだが、われわれはライフルです。カザドールの連隊ができた時に、18連隊から移籍したんです。ところで、突撃しますか?」 「どう思う?」 と、シャープは逆に尋ねました。 ヴィセンテはかすかに微笑しました。 彼は兵士になって2年足らずで、その前は弁護士でした。シャープが初めてこの若いポルトガル人に会った時、彼は戦時下でのルールを守ることにこだわっていました。 それが変わったにしろ変わっていないにしろ、ヴィセンテは生まれながらの軍人ではないか、とシャープは思っていました。 勇敢で決断力があり、馬鹿ではない。しかし彼はまだその自分の能力をシャープに見せることに自信が持てないようでした。 シャープが、ヴィセンテに闘い方を教えたのでした。 ヴィセンテはフランス軍に目を向けていました。 「彼らは立ち上がれないでしょうね」 「そうでもないさ」 シャープは言いました。 「少なくとも100人はいる。こちらは何人だ?130か?ホルゲ、もし俺なら、全軍を投入するぞ」 「大佐はそうするようにと命令しました」 「彼は自分のやっていることがわかっているか?」 「彼はイギリス人ですよ」 と、ヴィセンテはそっけなく答えました。ポルトガル軍はイギリス人将校たちの指導の元で再組織化され、訓練を受けて8ヶ月になるのでした。 「もっと欲しい」 と、シャープは言いました。 ヴィセンテが答える暇もなく、背後に蹄の音が近づいてきました。 「何をやっている、ヴィセンテ!カエルどもはそこにいるんだぞ!さっさと仕事にかかれ!で、お前は誰だ?」 最後の質問はシャープに対するものでした。この馬上の男はポルトガル軍の制服を着ていましたが、明らかにイギリス人でした。 「シャープです」 と、シャープは答えました。 「第95連隊か?」 「サウス・エセックスです」 「ああ、何年か前に隊旗を失った隊だな」 「タラベラで一つ取り戻しました」 と、シャープはぶっきらぼうに言いました。 「そうだったか?」 この男はあまり興味がないようでした。彼は小さい望遠鏡を取り出し、岩場のほうに向けました。 「ロジャーズ・ジョーンズ大佐を紹介します。私の上官です」 と、ヴィセンテが言いました。 「そしてその上官は、きみにあの連中を追い散らすように命令した。こんなところに突っ立って、おしゃべりをしていろとは言わなかったぞ」 「シャープ大尉のアドバイスをもらっていたのです」 「何かいい考えを引き出せるのか?」 大佐はむしろ面白がっているような声で言いました。 「彼はフランス軍のイーグルを奪ったことがあります」 「おしゃべりしながらじゃないだろう」 ロジャーズ・ジョーンズは言い、望遠鏡をしまいました。 「砲兵たちに砲撃を開始させる。ヴィセンテ、突撃だ。きみは彼の援護をしてくれ、シャープ。ヴィセンテ、連中がここに二度と戻ってこないようにしろ」 大佐は馬を返して去っていきました。 「あそこに一体何人いると思っているんだ」 「命令ですからね」 と、ヴィセンテは乾いた声で言いました。 シャープは肩からライフルをはずし、装填を始めました。 「アドバイスがいるか?」 「もちろん」 「ライフルを真ん中にしろ。突撃態勢だ。射撃を続け、敵に頭を上げさせるな。残りの俺たちの隊は背後から行く。銃剣を装着させろ。正面からまっすぐに攻撃だ。ホルゲ、3個小隊で行く。そうすればあんたのいやな大佐殿も満足だろう」 「あなたたちの隊?」 「あんた一人を死なせるわけには行かないからな、ホルゲ」 シャープは北の方角で砲撃が始まり、煙が濃く漂うのを見ていました。砲弾は岩場を越えていきました。 「さあ、いこうぜ」 と、シャープは言いました。 賢いやり方ではないが、しかしこれは戦争だ。 彼はライフルの撃鉄を起こし、部下たちに密集陣形を取るように叫びました。 戦いの時でした。
by richard_sharpe
| 2007-03-01 14:44
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