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三冬のシャープ・サイト
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第1部
第3章- 4 軽歩兵隊を尾根の頂上付近まで率いていたシャープでしたが、ロウフォードに見せるために、気が進まないながらも再びスリングスビーを先頭に立てました。 谷底では晴れてきていた霧も、そこではまだ深く、迫ってきている敵軍を隠していました。この第二波は最初のものよりも多勢で、ゆっくりと登ってきており、戦闘が打撃を受けてもすぐに後が続くように配慮されていました。8000の軍勢でした。 第74連隊ハイランダーズがまずかれらを待ち受けており、ポルトガル軍の9ポンド砲も控えていました。 砲撃ののち、ハイランダーズの射撃が始まりました。 マスケットには少し遠い距離でしたが、それでも銃弾は標的を次々と捉え、ポルトガル軍による砲撃とあいまって、フランス軍の隊列は、猟犬にいきなり襲われた牛の群れのように混乱しました。 フランス軍は前列の兵士しか射撃ができないのに対し、英軍とポルトガル軍は全ての兵士たちが射撃可能でした。 フランス軍の隊列は朱に染まり、それでも撤退はしませんでした。 英軍・ポルトガル軍に蹴散らされた突撃隊は前衛の部隊の隊列に後退して合流し、銃撃を再開しようとしていました。 しかし前列の兵士たちは次々と倒れていきました。 第74連隊の右翼にポルトガル軍の砲撃が繰り返され、新手の砲撃が左手にも加えられ始めました。 飛び散った肉片と血と、兵士の叫び声に満ちていました。 尾根の南側から連合軍の兵力が繰り出され、射撃は続いていました。 フランス軍は北に向けてじりじりと進み始めました。ポルトガル部隊の向こう側に、開けた場所があるのがフランス軍の将校たちに見えたのです。岩場を彼らは登ってゆきました。 ロウフォード中佐はその軍勢が近づいてくることに気づきました。さらに緊急なのは、突撃隊が開けた場所に集合するということでした。 「ミスター・スリングスビー!」 と、ロウフォードは叫びました。 「軽歩兵隊を展開させろ!敵軍を後退させるのだ!連隊!連帯は右翼に移動!」 ロウフォードはサウス・エセックスをその開けた場所に進め、先にそこを奪おうとし、スリングスビーには突撃隊を押し戻させようとしたのでした。 フォレスト少佐に救い出されたスリングスビーの馬の背に戻ったシャープは、軍旗を中心とした一団の背後に立ち、敵軍のイーグルの数を数えていました。15、ありました。 射撃は続いており、谷底からこだまが響き渡り、火薬の煙が漂っていました。 斜面はフランス軍のブルーのジャケットの死体で点々と彩られ、這って下がっていこうとするものもいました。 犬が一匹、死んだ主人の周りを吼えながらぐるぐる回っていました。 シャープの小隊が進むところ、絶え間なくライフルの発砲音が響いていました。 シャープは見ているだけというのがとても嫌でしたが、部下たちを尊敬する気持ちでした。 彼らは優秀でした。次々と突撃隊の兵士たちを標的にし、既に二人の将校を倒していました。 スリングスビーはきれいなサーベルを手にして、彼らの背後に立っていました。 彼は任務を遂行しつつあり、シャープはそれを憎憎しく思っていました。それもこれも、ロウフォードの義妹と結婚しているというだけのために。 憎しみのあまり、シャープはライフルを肩からはずし、撃鉄を起こしました。火薬皿に親指で火薬を詰め、彼はスリングスビーを見つめました。そして、ライフルを肩に当てました。 彼はスリングスビーの背中を狙いました。背の一点を。赤いジャケットの、二つのボタンの中間でした。 シャープは引き金を引きたい、と思いました。 誰が気づく?中尉は100ペースも先にいる(ライフルの射程距離でした)。 シャープはスリングスビーが背を撃ちぬかれ、回転しながら倒れる様子を想像しました。 気取ったチビめ。 と、シャープは思いました。そしてライフルの引き鉄に当てた指に力を入れました。 誰も見ていない。皆、近づいてくる敵軍に気をとられている。誰かが見ているとしても、彼が突撃隊を狙っていると思うにちがいない。 これはシャープに取って初めての殺人ではなく、最後でもないであろうことを彼は自覚していました。そして、再び憎しみが身体を走り、彼は身震いしました。そして引き鉄をいっぱいに引きました。 ライフルの反動に、馬が身をよじりました。 弾丸は4個小隊の頭上を飛び、スリングスビー中尉の左腕を1インチのところでかすめ、尾根の岩の上に登ってきていた突撃隊兵士の顎に命中しました。彼はまさにスリングスビーに迫り、至近距離から銃撃しようとしていたところでした。 シャープの銃弾は彼を吹き飛ばし、血しぶきを上げて背中から倒れました。 「すごいぞ、リチャード!なんという腕前だ!」 ルロイ少佐が見ていたのでした。 「あいつはスリングスビーをやるところだった!私はずっと見ていたんだ」 「だから撃ったんです」 と、シャープは嘘をつきました。 「本当にすごい!しかも馬の背からだ!中佐、ご覧になりましたか?」 「何だ、ルロイ」 「シャープがスリングスビーの命を救ったんです。今まで見たことがないほどすばらしい射撃でしたよ!」 シャープはライフルを担ぎなおしました。急に自分が恥ずかしくなったのでした。スリングスビーはイラつく男でしたが、シャープを傷つけたことはありませんでした。彼の笑い方も、態度も、シャープをイラつかせることも彼のせいではないことにシャープは思い当たり、意気消沈してしまいました。 ロウフォードのほめ言葉も、彼を慰めてはくれませんでした。 彼は連隊から離れ、負傷した捕虜が軍医の治療を受けている後方のテントの外に立ちました。 兵士の妻たちが負傷兵の手当てをし、フランス兵のマスケットを持った彼女たちは、同時に捕虜の見張りもしていました。 ポルトガル軍の1連帯が英軍の5個小隊に付き添われ、北の尾根に向かおうとしていました。 伝令が新道を走り、馬に蹴られそうになった男が罵り、それを見ていた女たちが笑っていました。 「攻撃には遠すぎるところにまで行ってしまった!」 ロウフォードがシャープに向かって叫びました。 シャープは振り返り、隊列が再び進度を遅くしているのを見ました。 開けた場所はサウス・エセックスで埋め尽くされ、彼らはゆっくりと何重もの隊列を広げ、丘の頂上から射撃を始めようとしていました。 しかし突撃隊の進撃は止まり、太鼓は後退を告げていました。 「大砲が2門いりますね」 とシャープは言いました。 砲兵隊はすぐそばにいて、サウス・エセックスは敵の突撃を食い止める行動にはいっており、彼らとコンノート・レンジャーズの間にはやや広い空間が開いていました。そしてそこが、突撃隊によって占拠されつつあるのでした。 岩場から開けた場所を見つけ、そこを目指してやってきた突撃隊でした。 辺りを覆っていた霧がいきなり晴れ、シャープはそこにいるのが突撃隊だけではないことを知りました。 第二波のフランス軍が登ってきていたのです。 彼らは今まで霧に姿を隠され、こちらの砲兵からは攻撃を受けていなかったのでした。 イーグルが日光に輝き、フランス軍の前には勝利のみが待っているようでした。 シャープは悲惨な光景を見ることになったのです。
by richard_sharpe
| 2007-02-10 15:31
| Sharpe's Escape
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