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1811年、ブサコ作戦。
第1部 第3章 - 3 第88連隊指揮官ウォレス大佐は同じことを考えたにちがいなく、このアイルランド人将校が銃撃をやめさせたことにシャープは気づきました。兵士たちは17インチの銃剣をマスケットに装着することに専念しようとしていました。 サウス・エセックスの隊列では銃剣をはめ込む音が響きました。 フランス軍は再び銃撃と突撃を始めました。兵士たちは負傷した戦友や死者を乗り越え、将校たちが叫び、イーグルは再び前進を始めました。 「サウス・エセックス!」 と、ロウフォードは叫びました。 「突撃!」 砲弾がフランス軍の隊列の中に着弾し、負傷者の叫び声がシャープの耳にも届きました。 フランス軍は右翼から射撃を続けていましたが、サウス・エセックスとコンノートは銃剣をきらめかせながら前進を続けました。 シャープは馬を一蹴りして前に進み、連隊の後方につきました。ポルトガル軍もまた、それに合流しようとしていました。 突撃は効果的でした。フランス軍の列は乱れており、マスケットは装填されていませんでした。英軍は敵を周囲から押し包もうとしていました。 フランス軍は押し戻そうとし、シャープにもマスケット同士がぶつかる音が聞こえました。 「隊列を維持しろ!」 軍曹たちは怒鳴り、フランス兵たちが固まりになって突っ込んできたところでは味方の列が乱れており、それを突破して二人のフランス兵が丘の頂上を目指そうとするのが見えました。 シャープは馬を返して彼らを追い、剣を引き抜きました。 その気配に気づいた二人の兵士は振り返り、マスケットを捨てて両手を挙げました。 シャープは剣を丘の上方に向け、二人を捕虜としてサウス・エセックスの本部に連行しようとしました。 一人は従順でしたが、もう一人はいきなりマスケットをつかむと斜面を駆け下り始めました。シャープは彼をそのままにし、多くのイーグルが急ぎ坂を下っていくのに気づきました。フランス兵たちのほとんどが撤退しようとしていました。しかしフランスの大砲はさらに霧をついて砲撃を続け、後方には最初の一団よりも多いかと思われる軍勢が姿を現しました。 最初のフランス軍の攻撃は押し戻されました。 英軍とポルトガル軍の兵士たちは、それを追って斜面を駆け下りていきました。 イーグルが描かれた太鼓が転がり、砲弾に腕を吹き飛ばされた少年太鼓手が、低い繁みの傍らにうずくまっていました。 「戻れ!」 ロウフォードはいらだたしげに叫びました。しかし兵士たちは気にも留めずに殺戮へと向かっていました。 ロウフォードはシャープを探しました。 「連中を引き返させろ、シャープ!つかまえて来い!」 あの混乱した追撃者たちをどうやったら引き返させることができるだろうか、とシャープはげんなりしましたが、下り坂に馬を乗り入れ、そしてシャープはすぐそばを銃弾がかすめていった音を聞きました。明らかにフランス突撃隊の兵士が彼を狙ったものでした。 馬はパニックを起こして駆け出し、シャープは体が放り出されるのを感じました。 ありがたいことに鐙から足は外れ、彼は思い切り斜面に叩きつけられ、何ヤードか転がり落ちました。 少なくとも1ダースの骨が折れた。 と彼は思いましたが、立ち上がってみると打ち身だけでした。フェラグスにやられたところがさらに痛んだ、ということでした。 馬が撃たれたのかと気になりましたが、剣が飛ばされた方向を見てみると、その先でその牝馬は冷静に早足で駆けていました。 シャープは馬を罵り、それはそのままにしておいて剣とライフルを拾うと、丘を降りていきました。 彼は尾根線に戻るように兵士たちを怒鳴りつけましたが、第88連隊の何人かは死体からお宝を剥ぎ取るのに忙しく、シャープを将校と思っていない様子で無視していました。シャープは彼らをほうっておきました。 そして怒鳴りながら斜面を半分ほど降り、霧が消えかけたあたりで、シャープはフランスの2師団以上の軍勢が谷から登ってくるのを見たのでした。 「サウス・エセックス!」 シャープは叫びました。彼はまだ、軍曹だった時の通りのいい声を持っており、その声で息を一杯に吸い込んで叫びました。 「サウス・エセックス!戻れ!戻れ!」 榴弾が丘に着弾して破裂しました。二つの破片がシャープの頬をかすめました。 フランス軍の大砲は丘の麓に到着し、兵士たちは新たに突撃をかけようとしているのでした。 「サウス・エセックス!」 シャープの声は怒りでかすれ、ようやく兵士たちは戻り始めました。 サーベルを手にして敵の軍勢を見つめていたスリングスビーはシャープの声で我に帰り、兵士たちを方向転換させ、尾根の上に向けて後退させ始めました。 ハーパーもその中にいましたがシャープに気づき、斜面を横切ってきました。彼は7連発銃は肩にかけたまま、23インチの銃剣を血に染めていました。 残りの兵士たちも気づいて、ハーパーの後に急いでついてきました。 シャープはレッドコートとグリーンジャケットの兵士たち全員が気づいて引き返すまで待っていました。 その間にも砲弾が斜面に落ち、ハーパーは脇に避けながらシャープに笑いかけました。 「一発くれたら連中は正気に返りますよ」 「上から動いちゃいけなかったんだ」 「すごい上り坂ですね」 ハーパーは見上げ、驚いたようでした。彼はシャープの脇に立ち、彼らは並んで坂を登っていました。 「ミスター・スリングビーなんですが」 「ミスター・スリングビーがどうした」 「あなたの具合がよくないといっていました。だから彼が指揮を取るんだと」 「嘘つきだな」 そういう言い方は、他の将校について話す場合は不適切な表現でした。 「そうなんですか?」 と、ハーパーはそっけなく言いました。 「中佐は俺に、譲れと言ったんだ。ミスター・スリングスビーにチャンスを与えたいんだそうだ」 「まあ、権利はありますね」 「俺が指揮を取るべきだった」 「そりゃそうでしたけど。でもみんな生きていますし。ドッドを除いてですが」 「マシュー?死んだのか?」 「わからないんです。でもどこにもいないんですよ。俺は連中に目を光らせていたんですが、マシューはいないんです。先に戻ったのかもしれませんが」 「俺も見なかった」 と、シャープは言いました。二人は振り返り、兵士たちの数を数え、そしてやはりドッド伍長の姿がないことがわかりました 「登りながら探そう」 といったシャープの言葉は、死体を捜すことを指していました。 スリングスビー中尉が赤い顔をし、サーベルを下げたまま走ってシャープに追いついてきました。 「命令があるのか、シャープ」 「命令は、できるかぎり急いで丘の頂上にもどれということだ」 「急げ!」 とスリングスビーは怒鳴り、シャープに向き直りました。 「みんなよくやってくれた」 「そうか?」 「圧倒的に敵が優勢だったんだ、シャープ。圧倒的にだ。われわれは連中を押し返した!」 「そうか」 「見せられなくて気の毒だよ」 スリングスビーは興奮して、誇らしげでした。 ハーパーは銃剣をはずしてフランス兵の死体のジャケットで血を拭い、そしてすばやくポケットとポーチを探りました。そしてソーセージを見つけ出すとシャープに差し出しました。 「カエルのソーセージ、お好きでしたよね」 シャープはそれをポーチにしまいました。時折銃弾がかすめるようにして飛んできました。 「馬は無事かな」 と、スリングスビーはシャープに尋ねました。 「どこかにいるだろう」 シャープは答え、ハーパーが横を向いて咳払いをしました。 「軍曹、何か言いたいことが?」 「煙を吸ったんです。苦しいですよ。子供の時病弱で、家の中の煙がだめだったんです。お袋が俺を外に寝かしていたんですが、狼が来ましてね」 「狼?」 と、スリングスビーは驚いた様子でした。 「3頭いましたよ。あなたぐらいの大きさです。舌が真っ赤でね。それからは中で寝るようになったんですが、毎晩咳が止まりませんでした。煙がだめなんです」 「煙突をつけるべきだ」 と、スリングスビーが言いました。 「本当に、どうしてそれに気づかなかったんでしょうね」 ハーパーはうそぶき、シャープは声を上げて笑いました。 イリッフ少尉も登ってきました。そのサーベルの先が赤く染まっているのを見て、シャープはうなずきました。 「よくやった、ミスター・イリッフ」 「彼が向かってきたんです。大きなヤツでした」 彼はやっと声を出せたようでした。 「軍曹でしたよ。ミスター・イリッフが串刺しにしました」 と、ハリスが口を添えました。イリッフは興奮し、頬が上気していました。 シャープは自分が初めて剣を交えて闘った時のことを思い出そうとしましたが、たぶんそれは故郷のロンドンの路地のことでした。 しかしエセックスの郷士の息子のイリッフ少尉は、彼を殺しにきた巨大なフランス兵を倒し、そのことにショックを受けているのでした。シャープは戦いの前に緊張して気分が悪くなっていた少年を思い出し、よくやったものだ、と思いました。 「カエル一匹だけか?」 「一人だけです」 「あんたは将校だろう?ええ?一日に二人は殺さなくちゃな!」 兵士たちは笑い、イリッフは嬉しそうでした。 「おしゃべりはここまで!いそげ!」 スリングスビーがせきたてました。 サウス・エセックスの隊旗は尾根の頂上に移動し、フランス軍の砲撃はそこを狙うようになっていました。 第二波の進軍の音はいよいよ大きく迫ってきていました。
by richard_sharpe
| 2007-02-09 19:29
| Sharpe's Escape
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