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1811年、ブサコ作戦。
第1部 第3章- 2 フランス軍の33連隊が4縦列に隊列を組み、流れを渡り、濃い霧の中を斜面に寄せてこようとしていました。 これはまだ手始めでした。 次の攻撃隊がまだ控えており、その22連隊はさらに2列の縦隊を組み、尾根の端の登りやすい道に攻めてこようとしていました。 そしてその間に、第3の寄せ手がやや小さな集団ながら、前方の援護のために控えていました。 最初の攻撃がいちばん効果的で激しく、尾根の頂上を攻め取ったのちに北へ道を変じ、第2弾に叩かせることになっていました。 マッセーナ元帥は第2弾の攻撃隊を率いることになっており、彼は英国・ポルトガル同盟軍のパニックを想像していました。 英軍・ポルトガル軍が荷物や武器を捨てて逃げ出す様子が目に見えるようでした。 彼は鞍頭を軽くたたきながら、南側に流れてくるドラムのリズムを数えていました。 「何時だ?」 と、彼は傍らの副官に尋ねました。 「6時15分前です」 「霧が晴れてきたと思わないか?」 マッセーナは隻眼を見張るようにして言いました。皇帝との狩りの際の事故で傷を負って以来、彼は眼帯を着用していました。 「いくらか晴れてきたようです」 今夜はこの尾根の向こう側で眠るのだ。と、マッセーナは思いました。彼はアンリエッタを竜騎兵の一団に守らせ、トンデラから呼び寄せることにしていました。彼女の白い腕が彼に向かって伸びる様子を思い出し、彼は微笑しました。 マッセーナはほんの1,2時間だけ兵士たちと共に眠り、この冷たい霧の中に現れたのでした。 しかしこの霧はフランス軍に味方する。 マッセーナはそう読んでいました。英国・ポルトガル同盟軍がこちらを発見する前にイーグルを押し立てて進み、速やかに頂上を奪取する。 正午までには勝利だ。マッセーナはパリに勝利を告げる鐘の音が鳴り響く様子を思い描いていました。 彼は既にエスリング公でしたが、次にはどういう称号を得られるのか、それは1ダース以上ものタイトルであるに違いない、と彼は思っていました。それは今夜だ。 皇帝はそういう準備は怠りなく、そして多くをマッセーナに期待しているはずでした。 ヨーロッパのほとんどの部分がフランス軍の元で平和を得、そしてナポレオンは馬首をスペインにめぐらせ、ポルトガル人により編成された、この新しい部隊をマッセーナに授け、枯葉が落ち始める前にリスボンを陥落させることを期待しているのでした。 勝利は正午までに。 マッセーナはそう思っていました。そして敵軍を追って、リスボンへ向かう。 「今夜は尾根の上で眠ることになるだろう」 と、マッセーナは副官に告げ、もう一人に目を向けました。 「騎兵2個中隊にマドモワゼル・ルベルトンをトンデラから護衛してお連れする用意をしておけ」 元帥は馬を霧の中に進め始めました。 砲声が一発、それは進軍の合図でした。こだまが消えぬうちに、歩兵の太鼓の音が斜面を登っていくのがマッセーナに聞こえました。英軍との戦闘に向かい始めたのでした。 4縦隊を作ってから、2時間がたっていました。兵士たちは暗いうちから起き、音もなく隊列を組み、馬鹿なイギリス人たちを驚かせようとしていました。 霧が寝ぼけマナコの兵士たちを混乱させ、軍曹たちを手間取らせました。自分の隊列ではないところに紛れ込む兵士もいて、押し出され、罵られ、そうしているうちに何とか33個連隊の兵士たちは流れの横まで達しました。 1万8千人の兵士たちでした。きっちりと4列に並び、先制攻撃をかけたのち、すかさず第二波を送れるように編成されていました。先頭からほぼ2マイルの長さにわたり、歩兵たちが攻撃態勢を整えようとしているのでした。 軍曹の号令に合わせ、まるで機械仕掛けのように兵士たちは歩を進めていました。後衛は前衛を敵の砲撃の中に押し出し、前衛はその中でおそらく斃れ、その屍を乗り越えて次から次へと兵士たちが繰り出されるのです。 まもなく虐殺が始まろうとしていました。 「ヴィヴ・ランパルール!(皇帝万歳)」 の叫びを兵士たちは繰り返しながら、少年太鼓手のたたき出すリズムに合わせ、兵士たちは進んでゆきました。 やがて上り坂に息を切らせ、叫び声も途切れがちになりました。険しい斜面にあえぎ、兵士たちは疲労を見せ始めました。落伍するものも出るようになりました。彼らは頂上に何があるのか、知りませんでした。 将校たちは剣を引き抜き、兵士たちを叱咤しながら各部隊を率いていきました。 いちばん先頭には、霧の晴れ間に向かって突撃隊が進んでいました。名高いフランス突撃隊でした。 彼らは敵の攻撃隊を蹴散らし、追い立て、防衛線を突破するのが任務でした。そしてその後に、本格的な攻撃が始まるのです。 霧の中、イーグルが突き進んでいました。ナポレオンのイーグル。それはフランスの旗印であり、鷲の彫像が天辺に輝いていました。 「イーグルの元へ!」 一人の将校が叫び、バラバラになりかけていた兵士たちが隊列を組みなおし、そして攻撃が始まりました。 砲声が轟き、そしてもう一つ聞こえ、その中を彼らは頂上を目指すのでした。 「なんということだ!」 斜面を見下ろしていたロウフォード中佐は叫びました。フランス軍が霧の中に姿を現したのです。 圧倒的な数の敵軍でした。 先に発砲したのは英軍側でした。 フランス兵たちは膝を突き、マスケットを構えました。 射撃によりさらに霧が濃くなるなか、2人の英軍兵士とポルトガル兵が1人倒れるのがシャープから見えました。 銃撃に、味方は押されているようでした。 スリングスビー中尉とサウス・エセックス軽歩兵隊は、自分たちがフランス軍の攻撃にさらされようとしていることに気づいたところでした。 「さがれ」 と、シャープはつぶやきました。 彼はスリングスビーの馬にまたがり、その高みから前方の戦闘を見下ろすことができました。 「後退だ!」 と、彼はやや大きな声を出し、中佐は苛立った視線を彼に向けました。 スリングスビーはさすがに危険を察知し、兵士たちは左翼へと撤退を始めました。正しい判断でした。 しかしスリングスビーは頭に血が上ったのか、離れた場所に速やかに移動することを望まず、フランス軍への突撃を怒鳴りたてました。そして斜面を横切ろうとしました。 兵士たちは戸惑い、スリングスビーは射撃を命じました。 ハーグマンがサウス・エセックスへの攻撃をかけようとしていたフランス将校を一人倒し、ハリスは軍曹を仕留めました。 しかしフランス兵たちは前進を続け、スリングスビーもゆっくりとさがり始め、しかし彼は敵軍の正面に向きあうことになりました。 サウス・エセックスは脇になだれ込むと計算していたフランス将校は、そのままサウス・エセックスに向けてまっすぐに突っ込むように突撃隊に命令を下しました。 尾根の頂上の大砲が発射され、突撃隊の背後の左翼を狙いました。 「目にもの見せてやれ」 と、ロウフォードはライトニングの首を軽くたたきながら言いました。 「太鼓の音が聞こえるか?」 「聞こえます」 と、シャープは答えました。聞きなれた音色でした。イーグルが攻撃をかけてくるときの、「パ・ドゥ・シャージ(突撃へ)」という曲でした。 「聞かせてくれるか?」 「俺は歌えないんです」 ロウフォードは微笑し、帽子を取ると髪をかきあげました。 「本隊が近づいてきているな」 突撃隊による攻撃は終わり、後方部隊の到着前に、射撃により弱体化されているようでした。 シャープはスリングスビーを見ていました。 スリングスビーはフランス軍が攻撃の矛先をそらせることに気づいていました。 彼はなかなかよくやっていました。部下たちは一人も失われず、シャープに剣を返しにきたときには真っ青になっていたイリッフ少尉も生きていました。 兵士たちが敵に向けて発砲している間、彼はしっかりと立ち(それだけが彼に求められていることだったのですが)、そしていまや敵は中隊から離れて斜面を登ろうとしていました。 スリングスビーが次にするべきことは、丘を登って兵士たちを散開させることだ。とシャープは思いましたが、霧の中に隠れて見えなくなりました。 まず影が見え、姿が浮かび上がり、最初、シャープにはそれが何かわかりませんでしたが、それは恐ろしいほどの数の兵士の群れでした。 さらに尾根から2門の大砲が砲弾を発射し、霧を血が染めました。それを見たフランス突撃隊は、軽歩兵隊に斬り込みました。 「なにをしているんだ!」 とシャープは声に出していい、今度ばかりはロウフォードも苛立った視線を向けてはきませんでした。ただ、表情が曇りました。スリングスビーは危険を見て取るとすばやく撤退を命令しました。 彼らは揉みあうようにして坂を登り、ひたすら生き延びようとしていました。一人か二人、落伍者が霧の中に消えました。しかし残りのものは尾根の頂上を目指し、スリングスビーは連隊の正面に散開するように怒鳴っていました。 「遅すぎる」 と、ロウフォードは抑えた声で言いました。 「遅すぎるぞ。フォレスト少佐!撤収させろ!」 軽歩兵隊を追ってくる突撃隊は銃撃を続け、サウス・エセックス本隊に迫ってきていました。 銃弾が一発シャープをかすめ、フランス兵たちのほとんどが隊旗の下の将校たちを狙っていました。 軍曹が集合を命じ、伍長が1人、負傷者を引きずってきました。 「軍医に連れて行け」 ロウフォードは命じ、そして、いまや数千の姿を霧の中から見せたフランス軍に目をやると兵士たちに向き直りました。 「射撃用意!」 600近くのマスケットの撃鉄が音をたてました。敵はその気配に気づき、さらに銃撃を仕掛けてきました。 シャープのまん前の二人が倒れ、一人が悲鳴を上げました。 まるで壁のように兵士たちの群れが近づいてきていました。 スリングスビーはライフルマンたちに突撃隊を狙った射撃を命じ、なおも将校や軍曹を倒そうとしましたが、今度は効果が上がりませんでした。 「低く狙え!陛下の銃弾を無駄にするな!訓練を思い出せ。低く狙うんだ!」 ロウフォードは繰り返し叫びながら、馬を右翼に進めました。 砲声が連続して響き、あちこちで血しぶきが上がりました。 コンノート・レンジャーズがサウス・エセックスに加わり、攻撃に参加しようとしていました。 突撃隊からの銃弾が一発、彼の袖をかすめました。 撃った男の顔が見えるまでになっていました。銃剣がきらめき、朝日を受けてイーグルが輝いていました。 砲撃の中、フランス軍はまっすぐに向かってきていました。 「餌食になりたいらしい」 と、ロウフォードは言いました。彼は連隊の中央に戻ってきていました。 「そろそろダンスに参加しようじゃないか、シャープ。連隊!」 彼は大きく息を吸い込みました。 「連隊、前進!」 ロウフォードはサウス・エセックスを20ヤードほど進めただけでしたが、それは突撃隊を脅かすのに十分でした。彼らは後退して本隊の隊列に合流し、サウス・エセックスに対峙しました。 「構え!」 と、ロウフォードは叫び、600丁の銃が兵士たちの肩にあてがわれました。 「撃て!」 すさまじい銃声と、腐った卵のようなにおい。 マスケットを下ろすと兵士たちはすぐに次のカートリッジを取り出し、再装填を始めるのでした。 ロウフォードは再び射撃を命じ、そして帽子を取ると額の汗を拭いました。 大西洋から吹き込む風はまだ冷たく、しかしロウフォードは暑さを感じていました。 ポルトガル軍からの射撃も聞こえました。銃声は終わることがないように思われました。 銃撃の煙で、敵の姿が見えなくなるほどでした。 シャープは隊列の右翼に馬を進め、まっすぐにスリングスビーが見えるところまで来ました。 「低く狙え!」 と、彼は叫び続けていました。経験の浅いものが射撃をすると、必ず高すぎるところを狙うのです。フランス軍はポルトガル軍とサウス・エセックスの攻撃にさらされながら、銃弾と砲弾が降る中、斜面を登ってこようとしているのでした。 コンノート・レンジャーと呼ばれて恐れられている第88連隊がフランス軍になだれ込みました。それでもフランス軍は持ちこたえました。 彼らは仲間の死体を乗り越え、死んだものには後方の兵士が成り代わり、指揮系統も乱れたまま、それでも群がって攻撃を仕掛けようとしてくるのでした。 押し返し、押し返され、坂は死体で埋め尽くされるようでした。 「苦戦だな」 フォレスト少佐がシャープの横に並びました。 「怪我をなさったんですか」 シャープは尋ねました。 「かすり傷だ」 フォレストは血に染まった右袖をちらりと見ました。 「ポルトガルはどうだ?」 「いいですね」 「中佐が、きみはどこかと探していたぞ」 「軽歩兵隊に駆け込んだと思ったんですかね」 シャープは硬い声で言いました。 「まあまあ、シャープ」 フォレストはシャープをなだめました。 シャープは馬腹をけると、ロウフォードの横に駆け戻りました。 「連中は動かんのだ」 ロウフォードは鞍頭に寄りかかるようにして前屈みになり、煙の向こうを見透かそうとしていました。 「銃剣かな。どう思う?」 と、彼はシャープに尋ねました。 「射撃をもう2回というのは?」 と、シャープは提案しました。 斜面は混乱状態で、再び撃破されたフランス軍は応援部隊が来るのを待ちながら、闇雲に上方に向けて射撃をしていました。 突撃隊は、シャープが昨夜歩哨を立てていた位置にまで回り込もうとしていました。 「連中を追い払ったほうがよさそうです」 シャープはそちらを指差しました。 「たいしたことはないだろう」 騒音の中で、ロウフォードが怒鳴りました。 「しかしあんな奴らをのさばらせるわけにはいかないな!今度はこっちの番だ」 ロウフォードは大きく息を吸い込み、 「銃剣装着!」 と叫びました。
by richard_sharpe
| 2007-02-05 20:22
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