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1811年、ブサコ作戦。
第1部 第2章- 2 シャープは午後いっぱいを小隊付き事務官のクレイトンに手伝ってもらいながら、帳簿付けに費やしました。 クレイトンは書き込みながらしゃべって周りをイライラさせるという性癖の持ち主でした。 「アイザイア・タング、抹消」 彼はつぶやき、インクを引き寄せました。 「未亡人はいるんですか?」 「たぶんいないと思う」 「4シリング6.5ペニーの受け取りがあるんですが」 「小隊の基金に回しておけ」 小隊の基金は受け取り手のない給与を蓄えておくところで、やがてはブランデーや洗濯婦たちへの支払いに消えるものでした。 彼女たちは市民たちと共に防衛線のこちら側にいて、尾根からフランス軍を見下ろしていました。 市民は全員トレス・ヴェドラス防衛線の南に非難するようにとの指示が出されていましたが、実際には多くのものが侵略者たちと通じていました。 市民たちに混じって裸足の僧侶たちの姿がありました。 「修道院の祭壇には、木でできたおっぱいがあるんですよ」 「なんだって?」 「木のおっぱいです。本物そっくりに塗ってありますよ。乳首から何からそのままです。坊さんの一人が見せてくれたんです。信じられませんでしたよ!坊さんたちは本物に触らせてもらえないから、できることは全てやるんでしょうね。次、罰則表に行きますか?」 「お茶のほうがいいな」 と、シャープは答えました。 彼は峰の頂でお茶を飲みました。フランス軍はこの日は攻撃の予定は無いようで、村の近くに野営地を設置していました。 もし攻撃があるとしたら、位置関係から見てサウス・エセックスは左翼に当たり、フランス軍を尾根線の方角にひきつける役割になる。 シャープは、これまでと同様、フランス軍の今度の攻撃も耐えることができるだろうと思っていました。 彼の左手では、ポルトガル軍も敵を見下ろしていました。 彼らは持ちこたえるだろうか? ポルトガル軍はこの数ヶ月間に再建されたばかりでしたが、3年にわたる侵略戦争の中、3度目の戦闘を耐え抜いたところでした。 なんとか勝利に達するにちがいない。 午後も遅くなり、シャープは城壁に沿って北に向かって歩いていました。 鉄のかんぬきが渡された扉の前に立ち、そして中に入ると、素焼きの彫像がありました。 等身大で何人かの女たちが半裸の男を取り囲んでいるもので、その中央にいるのがイエス・キリストだということがシャープにもわかりました。 堂内は多くの彫像に飾られ、きれいな少女の像の前ではポルトガル将校がそれに見惚れて立ち尽くしていました。 レッドコートの守衛が立っているドアがあり、その一つは開かれていて、軍医がメスを研いでいました。 「営業中だよ」 「今日は結構です。ホーガン少佐はどちらですか?」 「突き当たりの右側のドアだ」 夕食はうんざりするようなものでした。 防寒用に床にコルクを敷き詰めた部屋で、彼らは山羊のシチューと豆の煮込み、粗挽き麦のパンとチーズと、これだけは十分なワインを摂りました。 ホーガンは会話を続けるための努力を続け、テレグラフでの出来事に触れようとしないフェレイラに、シャープはあまり話しかけませんでした。 フェレイラはポルトガル軍の砦をブラジルで指揮していたときのことを話していました。 「女は、それは美しかった。世界でも一番きれいな女たちだ」 「奴隷も含めて?」 とシャープは尋ね、ホーガンにはシャープが少佐の兄のことに話を転じようとしていることに気づき、目配せをしました。 「奴隷もすばらしい。実に忠実だ」 「あんたの兄さんは彼らを誰かに取り次いだりはしなかったんですよね?」 と、シャープは乾いた声で切り出しました。 とりなそうとしたホーガンをさえぎり、フェレイラは 「私の弟とは?ミスター・シャープ」 「奴隷商人だったんじゃないですか?」 「私の兄はいろいろな経験をしている。子供の頃は坊さんにずいぶん殴られた。信心深くなかったのでね。父も彼が勉強しようとしなかったので殴ったし、かと言って効き目はなかった。召使の子供たちと走り回っているときが一番幸せそうだった。尼さんたちの元に送り込まれたが、彼は逃げ出したのだ。13歳の時だ。16年後に金持ちになって戻ってきた。ミスター・シャープ、だから誰一人として彼を殴るものはいなくなったのだ」 「俺はやりましたがね」 と、シャープは言いました。 「リチャード!」 とホーガンはたしなめましたが、フェレイラはシャープをロウソク越しにまっすぐに見つめ、静かに言いました。 「彼は決して忘れない」 「しかし済んだことです。事故だ。謝罪も終わっています。さあ、もう少しチーズをどうぞ」 と、ホーガンは皿を押しやりました。 「リチャード、フェレイラ少佐と私は、今日の午後脱走兵の尋問をしていたのだ」 「フランス兵ですか?」 「いや、ポルトガル兵だ」 フランス軍の侵攻でそちらに組みしたポルトガル人たちが、友軍の近くまで来ると脱走して合流することがあるのです。 「彼らによれば、明日の明け方攻撃があるらしい」 「信用できるんですか?」 「知っていることを話したと思うよ。攻撃準備の命令が下っているそうだ。彼らが知らないことと言えば、マッセーナが気を変えるかどうかということだ」 「ムッシュー・マッセーナは、ご婦人とのことがお忙しいようですからな」 「マドモワゼル・アンリエッタ・ルベルトンはまだ18歳で、ムッシュー・マッセーナは51歳だったかな?52歳だ。マドモワゼルはある意味でわれわれの友軍とも言える。国王陛下はいくらか払わなくちゃいけないな。一晩1ギニーとか」 フェレイラの言葉を引き取って、ホーガンがシャープに可笑しそうに説明しました。 食事が終わるとフェレイラは寺院の中をホーガンとシャープに案内しました。 ろうそくの明かりがきらめく中、祭壇には木でかたどった乳房が置かれていました。 「女性たちが病気平癒を祈りに来る。婦人病に利益がある」 彼はあくびをし、ポケットから時計を取り出しました。 「まだ早いが、戻らなければ。たぶん夜明けには敵が来るので」 「そうなるといいんだが」 と、ホーガンはいいました。 フェレイラは祭壇に向かって十字を切り、会釈をすると去って行きました。 「なんて茶番だったんでしょうね」 と、シャープは言いました。 「茶番?リチャード、何が?」 「あの夕食ですよ」 「彼は友好的に振舞おうとしていたのだ。悪意はないということを示そうとしていた」 「しかし、彼は決してあのことを忘れないと言っていましたよ」 「そりゃ、忘れんだろうな。だがほかに意味はなかろう。きみも忘れていないじゃないか」 「俺はあんなやつを信用しない」 とシャープが言った時、背後の扉が開きました。 英軍将校の一団がにぎやかに姿を現し、その中で一人だけが軍服ではなく、紺のコートを着て白のタイツをはいていました。 ウェリントン公でした。 彼はチラッとシャープを見、しかし何の表情も示しませんでした。しかしホーガンにはうなずきました。 「礼拝かね?」 「ミスター・シャープに見せたかったので」 「ミスター・シャープにはニセモノは必要ないのではないかね?いつもわれわれよりもずっと頻繁に本物を見ているのではないかと思うが?」 そしてウェリントン公はシャープに視線を向けました。 「3日前、任務を遂行したそうだな」 シャープは混乱していました。 「そうだといいのですが」 と、彼は注意深く答えました。 「フランス軍に食料を渡すわけには行かない。徹底的に撤去するべきだ」 ウェリントンは厳しい声になり、周りの将校たちは黙り込みました。 そして将軍は微笑し、胸の木像を示しました。 「こんなものがセント・ポール寺院にあったらということを想像できるか?ホーガン」 「大繁盛でしょうな」 「そうだろうな」 ウェリントンは馬のいななきのような笑い声をたて、そしてホーガンに視線を戻しました。 「トラントから知らせは?」 「ありません」 「良い知らせが来るといいが」 ウェリントンはうなずくとシャープを無視したまま夕食の席へと向かいました。 「トラント?」 と、シャープは尋ねました。 「防衛線を回りこむ道があるのだ」 と、ホーガンは答えました。 「トラント大佐がポルトガル軍を指揮して駐屯している。敵の気配があったら連絡があるはずなのだ。連絡がない場合、マッセーナはそのルートに向かわないということだ。彼がリスボンへの道がこちらしかないと思っているとしたら、こちらに攻撃を仕掛けてくるだろう」 「たぶん明け方に?」 とシャープは言い、かすかに笑いました。 「じゃあ、俺は帰って寝ますよ。全く、フェレイラもあなたも悪い奴らだ」 ホーガンも微笑を返しました。 「それを言っちゃあお終いだよ、リチャード」 「どうしてウェリントン将軍はご存知だったんでしょうね」 「フェレイラ少佐が言ったのではないかな。言っていないといっていたんだが・・・」 「ポルトガル人は信用できませんよ。ロクデナシの喉は切り裂いてやらないと」 「私が知っているロクデナシは、きみ一人だよ、リチャード。もう良い子は寝る時間だ。お休み、リチャード」 まだ9時を回ったかどうかという時間でしたが、外は既に真っ暗でした。 遠くの海から漂ってきた霧の中、シャープは素焼きの彫像のそばを通り過ぎようとしていました。 道に人影はなく、尾根の篝火がシャープの影を大きく浮かび上がらせていました。 坂を登るにつれ、灯りは見えなくなりました。 ウェリントンはフランス軍の目印にならないように、灯火統制を発していました。 霧が濃くなり、遠くのキャンプから兵士たちの歌声がかすかに聞こえていましたが、それを彼の足音がかき消しました。 寺院の脇では、祈りを捧げてうずくまる姿がありました。 シャープが通り過ぎようとしたそのとき。 その男はいきなりとびかかり、シャープの左ひざを後ろから抱え込みました。そしてさらに二人の男が寺院の陰から飛び出してきました。一人は棍棒をシャープの腹部に打ち込み、シャープはしたたかに地面に打ち付けられました。 身をよじり、剣を抜こうとしましたが、二人の男が彼の腕を取り、建物の中に引っ張り込みました。 シャープの剣は抜き取られ、外に放り投げられました。 ひざまずいていた男が、そのときフードを後ろに押しやりました。 フェラグスでした。
by richard_sharpe
| 2007-01-10 15:03
| Sharpe's Escape
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