カテゴリ
三冬のシャープ・サイト
以前の記事
2009年 06月 2009年 04月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
1811年、ブサコ作戦。
第1部 第1章- 3 シャープは彼らが姿を消すのを見届けてから、スリングスビーに合流しました。 その背後でテレグラフの塔は燃え盛り、時折火花を散らしていました。 「カエルどもはどうしている?」 「谷にいる。馬を降りた」 と、スリングスビーは指差しました。 「こちらを攻撃しようとしているんだ」 「生きるのがイヤになっているんならそうかもな」 とシャープは答えました。 竜騎兵たちはテレグラフの塔の白い旗を目印にしていたのではないか? それがなくなり、煙が上がったのでどうしていいかわからなくなっているのかもしれない。 川の南岸に望遠鏡を向けると、大砲の煙がまだ漂っていました。 殿軍はそこで食い止められているだろうが、ここを早く立ち退いたほうが利口だ。 そこはポルトガルの中央部で、英軍の勢力圏の外なのでした。 マッセーナ元帥はいずれここに踏み込み、ついにはトレス・ヴェドラス防衛線にぶつかることになるはずでした。 「シャープ、何か見えるか?」 スリングスビーが望遠鏡を借りたがっているのはわかっていました。 「あんた、ラムを飲んでいるのか?」 匂いが漂っていました。 スリングスビーはあわてたようでしたが、こう答えました。 「皮膚に塗っているんだ。虫除けになる。島で教わったんだ」 「なんてこった」 と、シャープは望遠鏡をたたみ、ポケットにしまいながらつぶやきました。 「あっちにもカエルどもがいるぞ」 南東にも、数千のフランス軍の姿がありました。 シャープは遠方の敵軍を見つめているスリングスビー中尉を後に残し、兵士たちのところに戻りました。 彼らはバケツ・リレー方式で寺院から袋を運び出しており、彼らの足元はまるで雪のような小麦粉に、足首まで埋もれていました。 あと数時間はかかりそうだ。 シャープはライフルマンのうちの10人に、袋を運び出す手伝いをするように命じると、レッド・コートの10人をスリングスビーの歩哨に回しました。 シャープもまた、袋を運ぶ列に入りました。その背後でテレグラフは炎を上げて崩れ、灰が黒く小麦粉の上に降りました。 「竜騎兵たちはいってしまったぞ、シャープ。こちらに気づいたようだ」 と、スリングスビーがやってきました。 「よし」 シャープは答え、ハーパーを振り返りました。 「連中は俺たちと遊びたくなかったらしいな、パット」 「例のでかいポルトガル人よりは賢かったってことですかね。奴さんはあなたのせいで頭痛でもしていたようですが」 「俺を買収しようとしたんだぜ」 「おやまあ」 と、ハーパーは答えました。 「俺なんか、誰かが買収してくれないかなあって、いつも思っているんですがね。で、あの連中は何をしようとしていたんです?」 「悪さをしようとしてたのさ。ミスター・フェラグスは小麦粉をカエルどもに売るつもりだったんだ。それでパット、あのポルトガル少佐もケツを突っ込んでいたらしい。そうはいっていなかったがな。白い旗がなくならず、俺たちもここにいなかったら、連中はカエルに売りつけていたろうさ」 「カエルどもが遊びに来てくれなくて残念でしたね」 「残念?どうして」 「馬を一頭、奴らから貰えたじゃないですか。ミスター・スリングスビーはロウフォード中佐から貰うそうです」 「俺には関係ない」 とシャープはいいましたが、スリングスビー中尉が馬に乗っている姿を想像すると気が滅入りました。 シャープにしてみれば馬はどうでもよかったのですが、それはステータス・シンボルでした。 「帰るぞ」 と、シャープはいいました。 「イエス・サー」 ハーパーはミスター・シャープがまた不機嫌になったことが判りましたが、彼は何も言うつもりはありませんでした。 将校たちは兄弟のようであるべきで、敵同士ではないというのに。 夕暮れの中を彼らは丘を下り、フランス軍を背に、友軍目指して帰途につきました。 ミス・セイラ・フライは片手でテーブルを叩いていました。 「英語で」 8歳のトマスと7歳のマリアは母語であるポルトガル語を英語に言いなおそうとしていました。 「ロバートは輪を持っている。見てごらん、その輪は赤い」 と、トマスは読み上げました。 「いつフランス軍は来るの?」 と、マリアは尋ねました。 「フランス軍は来ません。ウェリントン公が来させません。マリア、輪の色は何色?」 「ルージュ」 と、マリアはフランス語で答えました。 「フランス軍が来ないのなら、どうして馬車に乗っていかなくちゃいけないの?」 「フランス語は火曜日と木曜日に勉強するんでしょう。今日は何曜日?」 「水曜日」 と、トマスが答えました。 「続けて」 とセイラは言い、窓の外を眺めました。 馬車に家具を運び込んでいました。 フランス軍は接近しつつあり、コインブラを離れて南方のリスボンへ向かうようにという命令が出されていました。 セイラは何を信じていいのかわかりませんでした。ただ、驚くべき事態を歓迎している自分にびっくりしていました。 セイラはフェレイラ家の家庭教師になって3週間で、フランス軍の侵入がこの地位を奪うことを心配していました。 トマスが、そのロバは青い と読んだのでマリアが笑い出したとき、セイラは自分の将来を憂えていたのでした。 彼女はげんこつでトマスの頭を小突きました。 「カデーラ」 とトマスはわざと聞こえるようにつぶやき、それは英語の「ビッチ」という言葉でした。 「そういう言葉は嫌いです。失礼な態度も嫌いです。お行儀よくできないのなら、お父様に叩いてもらうように頼みましょう」 子供たちは静かになりました。 セイラは、なぜ子供たちがスペイン語を勉強しないのか不思議でした。彼女は二人にフランス語と英語を教えているのでした。 彼女は22歳で、青い瞳と金髪の主で、将来を案じていました。 父親は彼女が10歳の時に他界し、母も1年後に後を追ったので、彼女は叔父によって寄宿学校に入れられました。 18歳になったとき、結婚市場でのチャンスを見限った彼女は、リスボン在住の英国外交官の家庭に保母として雇われ、その外交官が彼女をフェレイラ少佐に紹介したのです。 そういうわけでセイラはコインブラにいて、なぜフェレイラは最後まで残ることに下のかと考えているのでした。 上等の家具の荷造りだけは済ませましたが、彼はコインブラを去ることを渋っていました。 セイラはフェレイラが北へ向かう前に尋ねたのですが、心配しないようにという答えを得ただけでした。 しかし彼女はフェレイラのことを心配していました。 彼は良い雇い主でしたが、コインブラの上流階級の生まれではありませんでした。 彼の父親は思いがけない遺産を引き継いだ哲学教授で、フェレイラはそこそこの養育を受けることができました。 しかしこの大学都市では、彼は十分なステイタスを持っておらず、社会的尊敬も得ていませんでした。 そしてその弟! セイラはフェラグスを恐れていました。 少佐以外の全ての人々が、フェラグスを恐れていました。 彼は悪事に手を染めているという噂もありました。 しかしセイラはこの一家から逃れるすべはなく、英国に帰ることもできないまま、フランス軍の侵攻を待つことになったのでした。 そして時計が鳴り、授業は終わりました。
by richard_sharpe
| 2006-12-22 18:03
| Sharpe's Escape
|
ファン申請 |
||