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1811年、ブサコ作戦。
第1部 第1章- 2 「中尉、兵士を丘から動かすな。命令だ」 シャープは寺院に向かって行きました。その古びた壁に射撃のための穴を開けることができるかどうか。 しかしその壁は古く、壁土ははげていました。 驚いたことに、彼はフェレイラ少佐とポルトガル人のうちの一人に行く手を阻まれました。 「扉には鍵がかかっている」 「では壊すことにしますよ」 「これは寺院だぞ」 「それじゃあ、こいつをぶっ壊してから許しを願って祈ることにします」 シャープはそう答えて少佐の傍らを通り過ぎようとしました。 「少佐、50人ほどのフランス竜騎兵が向かってきています。この寺院を守備に使いたい」 「仕事を済ませろ」 と、フェレイラは乱暴な口調でシャープに答えました。 「そして早く立ち去ったほうがいいぞ。大尉、きみに命令する。早くここを発て」 フェレイラの脇に立っていた民間人が、コートを脱いでシャツの袖を捲り上げました。その太い両腕には、錨の刺青が彫り込まれていました。ごつい体つきで、粗暴な顔には傷があり、がっしりした顎と横に広がった鼻、獣のような目を持っていました。争いを好む人間の表情でした。 彼は、シャープが一歩下がった時に、失望したような色を浮かべました。 「ハーパー軍曹!」 とシャープは叫び、大柄なアイルランド人が姿を現しました。 刺青の民間人は、ハーパーよりも大きい男でしたが、獲物を待つブルドッグのように身構えました。そしてハーパーは、ブルドッグをどう扱えばいいか、わきまえていました。 彼は肩から7連発銃を下ろしました。 海軍で海戦時に用いられる、狙撃兵を一掃するための銃で、7つの弾倉から一度に弾丸が発射され、その反動の大きさに、射撃したものの肩が砕けるほどの威力を持つ武器でした。 パトリック・ハーパーはそれに耐える体格の男でした。 彼はさりげなくその照準を合わせ、シャープの前方に狙いをつけました。 「何かトラブルですか?」 と、彼は軽い調子で尋ねました。 周囲の民間人たちはいっせいにピストルを構えましたが、フェレイラ少佐はその銃を下ろさせました。 しかし彼らは、ごつい男がしゃがれ声で言いつけてからようやく銃を下ろし、その男を恐れるような目で見つめました。 シャープが見たところ、その男はストリート・ファイターでした。鼻は潰れ、額と頬に傷がありました。 そして、その上彼は裕福でもあるようでした。身につけているものは上等のものばかりでした。 40歳前後と思われるその男はハーパーにちらりと目をやり、にやっと笑うとコートを拾い上げました。 「この寺院の中のものは、俺の所有物だ」 と、彼は訛りのある英語でシャープに向かって言いました。 「で、あんたは?」 「フェラグスだ」 フェレイラ少佐はフェラグスをもてあましているようでした。 フェラグスはシャープに覆いかぶさるようにして呼びかけました。 「シャープ大尉、あんたの用はもう済んだ。帰れ」 シャープは大男の落とす影を回りこむようにして寺院に向かい、背後でハーパーが銃の撃鉄を起こす音を聞きました。 「気をつけてくださいよ。シャツにいっぱい穴が開きますから」 フェラグスはシャープを引きとめようとしたのですが、銃口が彼を狙っていたのでした。 寺院の扉に鍵はかかっていませんでした。 シャープは扉を押し開け、暗さに慣れるまで間がありましたが、中にあるものが何かわかると、思わず罵りの言葉を吐きました。 そこには袋が山のように積み上げられていました。中を縫って細い通路が通っているだけで、ぎっしりと積み重ねられた袋の一つをシャープは切り裂いてみました。 小麦粉でした。 「この小麦粉はポルトガル政府の管轄のものだ」 と、フェレイラが寺院に入ってきながら言いました。 「証明できますかね?書類を見せてもらえますか?」 「ポルトガル政府のものだ。きみには関係ない。帰りたまえ」 フェレイラの口調は荒っぽくなりました。 「俺は命令を受けています。われわれ全員が、命令を受けている。フランス軍に何一つ食糧を残さないことだ」 シャープはもう一つの袋を突き刺し、フェラグスが寺院にはいってくる姿に振り返りました。 フェラグスはシャープに手を突き出しました。そこには10枚あまりの英国ギニー金貨がありました。それはシャープの3年分の年俸に相当するかと思われました。 「話し合おうじゃないか」 と、フェラグスは言いました。 「ハーパー軍曹!カエルどもはどうしてる?」 「動きません」 シャープはフェラグスを見上げました。 「あんたたちはフランス軍が来ていることに驚かなかったな。待っていたんだろう?」 「出発してくれるように頼んでいるんだ」 と、フェラグスはさらにシャープに近づきながら言いました。 「丁寧に頼んでいるんだぞ、大尉」 「傷つくよな。もし俺が出発しなかったら。俺が上からの命令に従って、この食糧をばらまいたら?」 フェラグスは身震いしました。 「あんたのちっぽけな軍勢なんかちょろいんだ、大尉。すぐにわかる。今日のことを後悔するぞ」 「脅してるのか?」 と、シャープは驚いたように尋ねました。フェレイラが何か言おうとしていましたが、二人はそれを無視していました。 「金を取れ、大尉」 シャープは咳き込み、身体をまげて後ずさるようなフリをしながらライフルを肩からはずし、撃鉄を起こしました。 彼は耳の脇にそれを構え、引き鉄を引きました。弾丸は寺院の天井に当たり、その音で一瞬耳が聞こえなくなるようでした。 そしてシャープは右ひざを大男の股間に蹴りいれ、さらに左手を伸ばしてフェラグスの目を指で突き、右手のこぶしで喉仏を殴りつけました。 シャープは正面きっての戦いに勝てるとは思っていませんでした。フェラグスのような男に、フェアな戦いをするのはバカのやることでした。 大男が立ち上がれないほどのダメージを受けているのを見て取ると、シャープはフェレイラに向き直りました。 「何かおっしゃっていましたか、少佐?」 フェレイラは首を振り、シャープは扉を出ました。 「スリングスビー中尉!竜騎兵はどうしている?」 「動かない。シャープ、あの銃声は何だ?」 「ポルトガルの連中に、ライフルの威力を見せてやったんだ」 と、シャープは答えました。 「距離は?」 「半マイルだ。谷底にいる」 「見張っていろ。それから、30人よこしてくれ。ミスター・イッフル!マクガヴァーン軍曹!」 イッフル少尉の指揮下、30人の兵士たちにシャープは袋を運び出させました。 フェラグスはよろよろと寺院から出てきて、彼の部下たちは混乱しているようでした。 フェラグスは何とか息をつけるほどに回復し、フェレイラにいらだたしげに何か言っており、それを少佐は押しとどめていました。 やがてちらりとシャープに目をやると、彼は西に向かう道に下りていきました。
by richard_sharpe
| 2006-12-06 19:17
| Sharpe's Escape
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